第14層「マーチャン商国」
東の大陸――半島のような沿岸の陸に入りくんだ湾型の港町。
そこへ無事に入港を果たし下船していた俺達を待ち受けていたのは、南西部に属するという立派な服を着た査察部隊と呼ばれるものだった。
何らかの事情によってこの港町にて停泊された船の内部を捜索し、その船に乗船した者たちの取調べを行なうといった役目につくといった奴ら査察部隊とやらによって連行される形で俺とジャックスとオーリエの3人に、迷宮"馬車"を引き連れ歩いていた。
迷宮"船"と迷宮"馬車"は、許可した者以外が開けても通常の状態が維持されている空間にしか繋がっていないので中を調査されようが何されようが問題はない。そのため、馬車も検めさせられたが、仲間はそのほとんどが船内ですでに馬車に移っているので、護衛名目でジャックスとオーリエの2人を引き連れてといった具合である。
そんな俺達だったが、こうして町を移動している間にも四方から常時槍を突きつけられるというのは不快なものだなと思う。そればかりか、こっちは"まだ"何もしていないというのに通り過ぎる町人らしき者たちがまるで犯罪者的な視線を投げかけてくるのだから適わない。
まぁ、それは俺とジャックスへだけであって、オーリエに送られる視線はそれだけではなくその強烈にスリットのきいたチャイナ服っぽい衣装による下品な視線も加味されてといったものだった。
とにかく、俺はこんなところで時間を潰している暇はない。
迷宮創造をしなければいけないし、ドラゴンのことも気になる。
なので、手を打つことにした。
それは、単純なことである。
先頭を歩くこの中では一番上級っぽい男にあることを話しかけた。
「あ、すいません。肩にゴミがついてるっすよ」
普段絶対言うことのない口調で、ありもしないものを持つようにして肩に触れた瞬間こそっと発動させる。
「(生命契約レベル1)」
そうして発動させた俺に後ろから無礼なという言葉とともに取り押さえようと男達が動こうとした矢先だった。
「お前達......やめろ」
隷属化させた男への指示が間に合ったこともあって取り押さえられることもなく、槍も収めるように指示をしたためにさっきよりは歩きやすくなった。
隷属していない他の男たちは突然のことに驚きを隠せないようだったが。
("縛ったのか?")
("時間がないからな")
("タクトの指示間に合わなかったら、潰してたヨ?")
("オーリエちゃん、そりゃ物騒だぜ")
そんな風に念話でのやり取りで時間を潰しながらもひたすら歩いていった。
やがて、この町の警備施設らしき場所に着いた俺たち3人は小部屋へ通されるのだがさすがにオーリエには手狭だと言うことで監視付でオーリエだけ外にいてもらうことになった。
隷属した男に後は俺が取り調べるという指示をしてもらい、部屋には俺とジャックスそして、隷属化した査察部隊の男だけとなった。
「馬車はどうした?」
「馬車は改めた後に、処分するつもりです」
俺の問いに男は人形のような目であっさりとそんなことを言うので、処分せずにそのまま保存させておくように指示をした。
てか、ただで返す気はなかったんだなと思った。
なので俺は、この施設にいる全ての人員を隷属化させることにする。
そっちのほうが余計なことをさせないためにベストだし。
そんなわけで、新規奴隷達へ毎回開催をする恒例の迷宮主握手会が開幕した。
むさいオッサンや男、たまにお姉さんと色々なジャンルの人族に握手をしては隷属化させていく。だが――
「......アラーネ、なんでお前まで並んでいるんだ?」
「............タクトファンクラブの握手会と聴いて」
「モジョに影響されるな!頼むから!」
完全に余談で口に出すのもおこがましいが、モジョの奴は最近そんなのを立ち上げたらしいと聞いていた。帰ったら絶対に解散させるつもりだ。
「............(シュン)」
「......いいから馬車に戻ってろ」
「......この施設にいる人族全部隷属化するなら、情報収集私も手伝う」
と言って糸を生み出したアラーネに、そういうことかと納得した俺はじゃあ頼むと伝えた。無言で頷き、部屋を出て行ったアラーネに変わりまだ隷属化してない男達が、あれはどなたです?と査察部隊の長の男に聞くが、それを無視して握手をすることで人形のように黙り込む。
そしていよいよ、惜しまれつつも感動のフィナーレを迎えた握手会は終わりを迎えた。
隷属化させた男を退室させた俺はポーチからノートを取り出して、こいつらがしたかっただろう聞き取りを逆に俺のほうから聞き取ることにした。
「とりあえず、この大陸の......お前達が属するまーちゃん商国とやらのことについて聞きたい」
「イントネーションが、違うぞ......それ」
ジャックスの指摘を無視して、俺は男から話しを聞く。
マーチャン商国は、王国のような城とその城下町が王の直轄地とか、残りの領土を王によって指名した貴族達に分けられて納めるといったような形態ではなく、大湖を中心として北、北西、南西、南、南東、北東といった6つの大きな町を収める商業会長が資金を出資し合って、建国された6つの町を線で結んだかのような連合国らしい。
君主と呼べる身分は、それら商業会長による議会制によって選出された"商国長"が就き、6つの大きな町とその周囲にて形成された町や村といったところとの交易、流通、関税といったものの税率を調整したり、また大きな取り決めをを決定する権利を有する立場となるようだ。
「んで、お前らは南西の町から来た査察部隊ってわけか」
「その通りです」
そこまで聞いた俺は、ノートの中央に湖を円で書いてその周囲に町と書かれたものをだいたいの大きさで囲みながら書き込むとトントンとペンでノートを叩きながら少し考えて、そういえば地図はないのか?と聞いた。
「商業圏に関わる情報によって、持つものが制限されていると聞いたことがあります」
「なるほどな」
それらの代わりに、町と町を繋ぐきちんとした街道や看板が作られていてそれに従って各々の町との交易を行なっているということらしい。
「それでだ、一番聞きたいことなんだが......お前達が調べているものとは一体なんだ?」
「それは大きな樽と人形族たちです」
......。
その答えに、俺は手慰みにとノートを叩いていたペンを思わず止めてしまう。
こんなにあっさりと尻尾がつかめるとはという思いからだ。
「それを指示したのはお前らの属する町の商業会長とやらか?」
「それは分かりません」
「分からないか......。お前らの任務は?」
「我々に下された任務は、樽と人形族たちの捕縛と北西の町への護送です」
北西の町も、どうやらこの一件に関わっているらしい。
ため息とともにそうかと俺はペンを置いて立ち上がると、外で警護に就いていたらしき隷属化した警備の男に声をかけて飲み物を頼むことにした。
しばらくして飲み物が届くとそれを口に含んだ。
「お?」
俺の言葉にどうしたとジャックスが問いかけてくるが、なんでもないと手を振って答えたが、実は飲んだお茶があちらじゃ馴染み深かった日本産の緑茶にそっくりだったため思わず声に出てしまったのだ。
まさかこんなところでお目にかかるとはという思いから、産地や販売しているところを聞き出して個人的なメモ帳に書き込んでおいた。
そんな一連の行動に疑問的なジャックスになんでもないと改めて手を振って答えると、ジャックスが声に出して聞いてきた。
「それで、......どうするつもりだ?」
俺はお茶を飲み干して、カップを置くと頭の中でまとめたことを伝えた。
「まず結果的にはそいつらは潰す。......とりあえず、これまでのことでまとめたかなり憶測の話になるが、まず予想されるこれまでの流れで重要なものは北西、南西が結託して湖に住まうプラティニアをどうにかした上で希少族となるリリィの一族と人形族のシーアを攫う計画を立案したのだとだと考えた」
「......結託してか。だったらよ、なんでわざわざ中央大陸のあんなところにいたんだ?」
「......多分だが、呪いの噂によって自分たち以外に誰も手を出さないとかそんなことを思ったんじゃないか?その結果があのリリィたちを捕まえた男たち――つまりは中央大陸から来た奴らで、そいつらが結託したか、知らずに金になるからと中央大陸に連れて行ったからだと思う」
「それを聞いたのか?」
「聞いたっていうか......あの夜に生かして捕らえた男は、結局のところあの港町で運び屋として雇った男だったってだけで何の情報も持ってなかった。だけど、リリィから事情を聞いた限りじゃ自分を襲おうとした男から俺達が助けを入れる前に自らあることを話したそうだ。"わざわざ東の大陸へとやってきた俺らの金の成る木"ってな」
「......金のなる木ね。いかにも帝国側にいる傭兵っぽい理屈だぜ」
そうしてジャックスはくっくっくと頷きつつも忍び笑いをする。
俺はそれを気にすることなく再度、話を続けた。
「元々、リリィたちは大きな湖の北側にある彼等の住処で住んでいたと聞いていたが、逃亡したという証言からするに希少狩り――おそらくだが今回の件に関わっている2つの北西、南西の町から依頼を受ける形で希少狩りが追い立てたんだと思う。で、あとはさっきも言ったようにそいつらから逃げる最中にその中央大陸からの奴らに捕まってという話に繋がるわけだ」
「......すげーぴったりじゃねぇか」
あくまで推測でしかない話を真剣に聞いてそう呟くジャックスに、再度推測だからなと前置きをして話を続けた。
「そもそも、呪いをどうにかしなきゃいけないわけだから拉致したやつらが中央大陸までリリィたち連れてこれたのは、呪い無効の手段を北西南西の奴らが確立できていたという証明にもなるよな」
「守り神の呪い《プラティニアン・カーズ》って奴か」
「情報発信が人づてなこの時代ならば、そんな噂は何よりも絶大でそれが効いたが故に希少族が攫われることはなくなったくらいだ......。だが、リリィもシーアも攫われたのに発動してないってことは、おそらく計画的になんらかの対策でそれが効かない状態――つまり、湖に住まう司竜プラティニアを封じた上での行動によるところが大きいだろうな。有効範囲外に誘い出すとか手段は色々考えられるけど......目と鼻の先だろう湖の北側という距離で自らが守護する希少族が被害に遭っているってのに呪いが発動されなかったってことからするに直接的に実行されてというのが濃厚なんだがな」
「直接的にやるには、100年前の大洪水伝説っていう末恐ろしい力を見せ付けたって話もあるくらいだぜ?どうにかできるとはおもわねぇが」
「......それをどうにかやったんだろ。さすがに方法はわからん」
計画というからには、まずは呪いを無効化させた上でそれじゃあ次!と、行動するだろうし流れからみればそんな推測が立てられた。
「まぁ、そうだろうな」
「以上のことを踏まえて、俺は希少族を追い掛け回す元締めを制裁する。迷宮創造主としては外れてしまう役割だけどな。ここでも中央大陸で提唱しているダンジョンライフ・ロンダリングをやりたいし、そのためだと思ってもらえばいい」
「......へっ。わかってらーな。おめぇがやりてぇことをやりゃあいいんだ」
ジャックスの言葉に頷いた俺は、それでだと口にして再度、椅子に座ると目の前でぬぼーっとつっ立っている査察部隊長の男に話しかけた。
「今の商国長とやらは、どこの町の奴だ?」
「我が南西部の商業会長です」
思いっきり君主的立場が黒じゃないかと思うが何も言うことはない。
「その南西部の商業会長とやらは奴隷取引とか裏でやってる話とかあるか?」
「......噂なら。希少族に並々ならぬ興味を持っているということは町でも有名な噂話です」
その言葉にケッっと悪態をついたジャックスに俺はため息で答える。
それ以上の情報を探ってみるが、どこまでいってもこいつに与えられた任務は2人の捕獲と護送ということらしかった。
「南西の町に行くのか?」
「......早く湖に行きたいが、行く流れというか......消す流れだしな」
「へっ、ジャックス様が今度もまた活躍しちまうぜ」
「またってお前、あの特殊武器以外は短剣でチマチマしているだけでオーリエやアベさんといった豪快さがないじゃないか。第3世界があるとしたら、絶対お前そいつらから『ぷ、影狼"ファング"とか中二乙な技を持っている癖にジャックスラッシュの技しかない短剣でちまちましてるだけなんて正直ウケる~』とか思われてるぞ?」
「......言うなよ。気にしてるんだぜ」
シュンと尻尾やら耳やらを下げる狼男に、よしよしと形だけの慰めをした。
どうやら本人としても、その偏りを気にしているようだ。
そんなくだらないやり取りをしつつも立ち上がった俺は、早速、南西部の査察部隊を全員引き連れて一路、南西の町へと乗り込むことにするのだった。




