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第13層「樽の少女と到着」

 船旅は順調に続く。

 中央大陸を出て6日目の航路は、太陽と星の位置や海図と照らし合わせた東大陸―中央大陸間における記憶を持つリリィの計算によれば、明日くらいにはいよいよ着くかと考えながらすっかりおなじみとなった魚料理による昼食を取っている時のことだった。


 連絡管ではなく直接義兄弟級による念話でジャックスから報告が入った。


("タクト、ちょっと甲板にきてくれ")


("どうした?")


("......妙なものが入った樽を釣り上げちまった")


 という言葉にせっかく用意した連絡管を使わないとは風情がないなとか考えながらも俺は、昼飯を急いで平らげると慌てて船上へと向かった。


 そこには、鍛錬部屋での鍛錬以外に見張りを願い出たことで、見張り役に出ていたらしいデンたちもいた。


「ジャックス、妙な樽ってなんだ?」


 聞いた俺にジャックスは、これを見てくれと釣り上げたらしい樽を指した。

 そこには人が1人入りそうなほどの大きさの樽があったのだが、その中を指していたので、言われた通りに樽の中を見るとそこにはなんだろうか......。


 まるでザリガニのコスプレをしているかのような奇妙な姿の何かがいたのだ。


 呆然とする俺だったが、ジャックスが移動して奥で布に包まれたあるものをデンに手伝ってもらいながら、こちらへと持ってきて船上に置いた。


 その布を外すと中には樽の中にいたものと同様にザリガニのような――こちらはコスプレなんかじゃない生々しさのあるザリガニが擬人化したかのようなある種の種族的何かが横たわっていた。


「樽をな、守るようにしてそこにいる奴がくっ付いてたから剥がしたんだが......さっき確認した限りじゃもうそいつは死んでた」


「......そうか。で、何者かは分かるのか?」


 俺の言葉に、頭を横に振るジャックスとデンの2人だったのだが、


「迷宮主殿、これを見てくれ」


 そう言って遺体の腕をあげると、甲殻の継ぎ目と思われる脇から流れた青っぽい液体が流れていた。


 その血と思われるものにピンときた俺は、まさかとデンとジャックスのほうを見た。


「おめぇが想像したとおりだと思うぜ。こいつぁ~水棲族だ」


「これが水棲族......」


 たしかに見た目は青の血に見えないこともない液体。


 それに容姿というか、体の作りは人族ならざるものだというのがはっきりと示されている。殻というか体皮は赤いが硬そうだし、尾びれがエビっぽくて手は、ハサミだし、足だけは人族と変わらずに二足歩行ができるのか2本だったけど。


「樽の中の奴に死の匂いを感じねぇし、呼吸もちゃんとしているから、生きてるぜ。何やら状況から考えるにこの水棲族が守り通している感じだったからさぞや血統のありそうな奴だと思うがよ」


 と、聞いていたところへううんと樽の中にいたザリガニのコスプレっぽい感じの生き物が動きを見せた。どうやら気がついたようだ。


「ん~~~。あれ?暗いのだ。ここはどこなのだ?」


 その声とともに動いた時に見えたものに俺はおや?と思ってしまう。

 高い声の種族かなと思ったのだが、それはいいとして手が動いた時に素肌が見えたのだ。俺は気になったためにおもいっきって樽から出そうと、脇となる部分を掴みあげようとした矢先――


 ――むにょん


 とてつもない柔らかさであり、どこかで毎日揉みしだいているあるモノにとても似ている......というか、実物と言えそうなもの掴んだ感触が俺の手に襲い掛かった。


「ひゃん!な、なにをするのだ!エッチなのだ!」


 俺は手元がくるって彼女?の胸を思いっきり掴んでしまったかと慌てて謝りながら手を引っ込めて今度は間違いなく脇に手を挟んで持ち上げると、予想よりもかなり軽い体を引っ張って甲板に置いた。


 そしてそれをきちんと見ると、そこにいたのはザリガニの格好をしたかのような魚のヒレを持つ、いわゆるザリガニ人魚という感じの女の子だった。


「人魚?......いや、てかなんでザリガニのようなものを?」


 混乱する俺らに対して、その女の子は何かに気付くとそちらへとあわててヒレを必死に動かしては移動していった。


 先ほどの水棲族のほうに。


「ロブタフ!......なぜ......こんな......。お前達がやったのだっ!?」


 と俺達が殺したのかと勘違いしたのか、女の子はやる気満々といった感じで被り物から見えるソバージュという感じのウェービーな髪の後ろ――背中から長い一本の槍を取り出して構えてきた。


 どこから取り出してるんだというつっこみは今はなしとして俺は、待てと手で制して話しかけた。


「勘違いするな。俺達はたまたま東の大陸へと向かってるこの船で食料のための釣りをしていて、お前が入ったあの樽とそこにいる水棲族がしがみついた状態のままに釣り上げたってだけだ。ジャックスから聞いた話じゃもうすでに死んでいたみたいだがな」


 その言葉を訝しげに見るも、未だ納得が出来ないといった感じでいたのでひとまず抵抗するようなら行動を封じるかとしていたその時――


「シーア!」


 という声とともに、船内扉からリリィが駆け寄ってきた。


「あれ!リリィなのだ!?......どうしてここにいるのだ?」


「あなたこそ!......あの湖に住んでいたあなたがなぜ?」


 どうやら事情を知る人がいたようで俺はほっと息をついたのは言うまでもなかった。



 あれから色々なことがあって現在は、夜の帳が訪れる時間となっていた。


 あの後樽に入っていた少女に、あの水棲族――ロブスタン族というらしい――の死を改めて受け入れらずにショックを受けた様子だったので、リリィの提言もあり部屋を用意してそこで落ち着かせることにした。


 その間にジャックスへロブスタン族の詳細な検死をまかせて、俺は迷宮"馬車"同様に安置室の作成を行ない、検死が終わった後にそこへと安置された。夕方くらいになると樽の少女が落ち着いたというリリィからの連絡を受けて、部屋へ向かうと樽の少女が死を弔いたいというので安置室に連れて行くと樽の少女としばらく2人きりにさせることにした。


 そして、現在に至るということになる。


 居間にいるのは、俺とジャックスとデンとティニ、そして事情を知ってそうなリリィと質問相手である樽の少女だった。


 他は、舵や船内作業や夜番に向けての睡眠中という感じである。


「それじゃあ落ち着いたところで、リリィ」


「はいですわ。宵闇様」


 俺の言葉に頷くとリリィは、話し始めた。


「こちらにいるのは、わたくしの親友にしてわたくしの一族が住んでいた森の南に広がる大きな湖に住まうロブスタン族によって保護されていた人魚族のシーアですわ」


 今はあのザリガニ――ロブスタン族そっくりの全身甲冑らしきものは外していてその素の姿でソファに腰掛けていた。


 じっくり見るのもアレかと思い部分的にだが、髪は頭頂が真っ白でソバージュの波の様な肩まで伸びて切り揃えられた毛先に至るまで段々と青の色が濃くなるような白から青へのグラデーション的な髪色をしている。


 体型自体は小柄で140に満たないほどであったが、先ほどの樽から引き上げる時に間違って鷲掴んでしまった胸のボリュームは相当なものなので、いわゆるロリ巨乳とでもいうべきものであるが、寸胴というわけでもなく引っ込むところは引っ込み、出るところは出るみたいなスタイルのよさをしていた。


 それよりも気になったのが、貝殻のビキニであり、昔父親の書斎に忍び込んだ時に見たお姉さんが身につけていたのと同じようなホタテなのも共通しているところが俺には謎だった。


 下のほうは、完全に魚の胴体といった形になっていて美しいと表現できるほどに綺麗な鱗を持っていて尾びれも形が整っているので人魚姫と言われればその通りだろうと言えるかのような気品さも醸し出していた。


 鱗はそれこそ七色に見えなくもないように、光源の変化で時々そんな感じに見えるのは不思議だったけれど、あまりじろじろ見るのも悪いかと俺は視線を鱗から外して真っ直ぐに相手を見ることにした。


「コホン、それでは宵闇様の品定めがおわ――」


「まてまて、品定めなんてしてない!」


「宵闇様、そこまでじっくりとご覧になってその言い逃れはよろしくありませんわよ」


 え、俺ってそんなにじっくり見ていたのか?


 俺は違うよなという視線を向けるも、誰一人としてそれは違うという擁護がないままに話が続けられることとなってしまった。


「シーア、あなたの肢体を嘗め回すかのようにご覧になった目の前の方がわたくしの救い主であり現在お仕えしているお方で迷宮創造主のタクト様ですわ」


 リリィの嫌がらせのような紹介は無視することにして俺はよろしくとだけ伝えることにした。


「うん!あたしの体くらいで満足するのならば、いくらでも見るのだ!」


 ......あれほどまで落ち込んでいた様子が微塵も感じさせられないようなその態度に思うところもあるが、まぁいいかとひとまずは事情を聞くことにした。


「それで、シーア......なぜロブスタン族の――ボスタフ様とあなたが住んでいた大湖から離れ、樽に入れられていたのか説明をするのですわ」


「それが気付いたらああなってたからあたしにも分からないのだ......」


「気付いたら?」


「そうなのだ」


 俺はリリィのどういたしましょうと言った視線にんーと腕を組んで考えた。

 この場合はつまり、彼女が気付かない間にああいうことになっていたことになるわけだが、現状を知る限りじゃ樽の少女――シーアは、知らない間に樽の中に入れられてその樽をまるで守るかのようにしてしがみついていたとジャックスに聞いた。


 検死した限りでも彼?の傷は主に脇の甲殻の境目から突き上げるようにした刺し傷と背中側の同じような継ぎ目への刺し傷が元だということらしいので、つまりは守るようにしがみついてその際に刺されたか、刺されてからしがみついて守ったかになる。


 憶測だけで物を図るのもあれかなと思った俺はそれじゃあと聞いてみた。


「その気付いたらああなっていた以前、つまり普通に暮らしていた時に何か普段と違ったこととか......そういうちょっとしたこととか変化とかはなかったか?」


「......んー」


 思い出そうとしてかシーアも腕組をして考えている。すると――


「そういえば、ボスリブもそうだったけど......なんかとても眠くなった後に意識失って気付いたら、ああなっていたのだ」


 ボスリブというのはボスタフの奥さんらしくて、当時はそこに遊びに行く形でおじゃましていたそうだ。そこで彼女の証言する事態になったという。


 ちなみにリリィから聞いた話では彼女が住む大湖というのは、その周囲に開かれた集落ではなく湖の底に開かれたいわば、"湖底の集落"ともいうべき場所とのことだった。


 そして――


「君はリリィと同じ希少族でその話から考えると、なんか裏がありそうな感じがする」


 それこそリリィのときのような拉致みたいなそんなものだ。


「シーアは以前にも拉致されそうになったと長老よりお聞きしたことがございますわ」


「前科があるのか......。ってことは、いよいよそれが濃厚だな」


「ですわね」


 何はともあれ、目標の地であるところの大湖へと行くことがこれで確定的になった。と、それから聞きたいことがあった。


「なぁ、シーア。水の司竜・プラティニアってのは大湖に住んでいるのか?」


「みずのしりゅう?......それは分からないのだけど、プラティニア様だったら湖の中の遺跡であたしたちを加護してくださっているのだ!」


 希少族の加護をしていたのならここまで連れ去ったものには呪い以前に何かしらの行動を起こすことが考えられる。しかし、そういったことは起こらずに樽に入れられて連れ去られたのかと考えると、リリィたちが囚われて発動するはずの呪いが発動もせずというのに絡めれば、プラティニア様ってのにも何かあったのかもしれないと俺は考えた。


「そのプラティニア様ってのは、強い力を持っているんだろ?」


「100年前に不埒な人族に怒ったとき、プラティニア様の力で周囲を水没させた話は有名だと聞いたことがあるのだ!」


 周囲?


「周囲ってのは?」


「それはわたくしがお教えいたしますわ」


 その問いにリリィが説明してくれるようだった。


「現在の湖の周囲は隆起しているような状態なのですわ。......100年前、周囲は森などもあったそうですが、その地に伝わる話では謎の大洪水によって周囲の土地がその森とともに削られながら外側へ向かって押し流されて、結局その当時湖を囲うようにして栄えていた国や町や村などは一夜にして崩壊したという伝説があるのですわ」


「そ、そりゃすごいな」


 洪水ってのは天災である。

 つまりは災害級の力によって国などを滅ぼせる力を持った竜であるプラティニアに俺はさすがはドラゴンだという畏怖と、ドラゴンはそうじゃなきゃなという憧れを持つにいたった。ただそれだけにやはり何かがあって発動しなかった呪いやら何やらにいっそうの興味を引かれることとなった。


「ともかく事情を知ったことだし、ますます湖へ行く目的もできたわけだ。で、どうだ?明日には着けそうか?」


「本日も時化など遅れに影響する事態はなく順調ですので、明日中には着く予定となっておりますわ」


「そうか」


 その言葉通りの翌日――


 真昼に差し掛かったくらいの時間に東の大陸玄関口の1つである港町に到着することになった。


 しかし――


「......我らはマーチャン商国南西部に属する査察部隊だ。現在、ある事情によってこの港町にやってくる全船での取り締まりを強化しており、査察を行なっている状況だ。船を改めさせてもらうための協力と、貴殿らには当局にて取調べを願いたい」


 といいながら、槍らしきものを突きつけられながら包囲されたことに、なんとなく面倒なことになりそうだというのを感じずにはいられなかったのは言うまでもないのだった。

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