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第9層「因果応報」

「兄上!」


「......!」


 そう言って駆け寄り、介抱するデニアとティニに俺は視線を移す。

 呻き声からどうやら生きているらしいことを確認した俺だが、腕のほうは無事じゃなさそうだった。


 片腕――おそらく利き腕らしき右腕が乱暴を受けた際にやられたのか千切れるかのような状態だったからだ。


 いわゆるこれが雇い主からの仕返しっていうことかと思った俺は、ジャックスのほうを向く。


「......影狼って言われてたけど、知り合いか? ジャックス」


 俺の言葉にジャックスはいいやと言いつつも武器である短剣を取り出した。


「だが、奴の耳に下がるピアスは見覚えがある、なんせあれは――」


「そうだよ、影狼さん。俺らは亡国の亡者共アン・レジスタンスだぜ?」


 こいつらが、か。


 なんというか、亡国を取り戻すためにという雰囲気をまるで感じないからただの荒くね者だと思っていたが......まぁどうでもいい。


「それで? 亡国を取り戻すために集まったらしい名前から判断するに帝国側にいて帝国の邪魔をすることを最も得意とする組織のお前らが、同じ組織に属するこいつらへ行なったこと......は、俺には関係ないからいいが」


「どういうことよ!」


 俺は耳を片一方塞ぐと、続けてやつらに詰問をする。


「俺達の前に立ち塞がるってことは、おそらく――関係者らしいという一存からこいつらを見せしめとして暴行をして挑発しようとしたけど、あれ?なんか別に全然きいてねぇんじゃねぇ?と疑心暗鬼に陥りそうな現状の中、一体何の用だ?」


「......おめぇってやつは、本当にひどいよな。色々」


 ジャックスの呟きは耳を通りぬかせる勢いでポイだ。


「影狼の話じゃないが......本当に挑発のし甲斐がない奴だな。まぁいい。俺らの雇い主からの殺害命令を実行させるために来ただけだからな」


「ガウ?」


「いや、いきなり殺す?はまだいいよ。まだ、ね」


「......すでに殺す気まんまん」


 当たり前だ。

 あちらが殺気を持って武力行使しようというのに、それをまぁまぁなんていうのは平和に現を抜かすどこかの国じゃあるまいしここじゃこれが日常なんだ。


 そんなことを考えていると、あちらは準備万端と言った感じで各々武器を持って戦闘状態に入ったようである。そしてこちら側からも、戦闘する気まんまんなのが2人。


 もちろん牛娘’sである。


「......兄上の仇、いいわよね」


「......!......!」


 はいはい。


「俺らには関係がないからな。手は出さないでおくよ。それよりも、あいつらにはお前がいった奴隷紋が効いちゃいないみたいだが?」


「......!」


「あいつらは帝国側でもおそらくかなり下っ端に属する人族ですの。だから知らなくても無理はないと思いますの、って言ってるわ」


「そっか」


 どうやら帝国側じゃ知っている知らないが明確に分かれるところがあるようだと納得した。


 てか、デニアはどうしてティニのこんな小さい声をそんなに正確に聞き取れるんだ?と疑問が浮かぶが今はいいかと忘れることにする。


「おいおい、牛人族――それも、てめぇの兄よりも弱そうな妹が相手かよ。そんでお前ら男どもは高みの見物か......情けねぇな、男が後ろで隠れるようによ~?」


「だろ?この情けなさが俺の自慢なんだ~」


「情けなさに自慢なんてあんのか?」


といったおちょくりをジャックスと返して、相手を挑発し返すともう我慢ができないとばかりにデニアが先手を取るかのように駆け出して攻撃を仕掛け始めた。

 

 デニアはハルベルトみたいな長い柄のついた戦斧で、それを器用に振り回して相手方をなぎ払っていた。だが、敵もそれなりの実力者だからだろうか衝撃が一番小さくなる範囲に来た時にタイミングよく攻撃を受け止めては、はじき返すといったことで対処しているようだ。


 1人だけで結構な手合いに大丈夫かと俺はふと駆け出さなかったほう――ティニを見るとその光景に軽く絶句することになる。


 なにせ、ティニがやっているのは......自分の胸を両手で揉んでいたからだ。


「......おいおい、お嬢ちゃんのサービスにしてはやりすぎじゃねぇか?」


 どうやらジャックスは、ロリコンじゃないらしい。


「どうやらってどういうことだ、こら!」


「なんだよ、なんで分かった?」


「............口に出てた」


「おっと」


「おっと、じゃねーよ!」


 そんなやり取りの間も、デニアは戦斧を器用に振り回しては、手練らしきものとは距離を置いて実力が弱いほうから切り刻んでいくといううまいやり方で見事に対応をしていた。


 そんな時動きがティニによってもたらされた。

 彼女はそのとても柔らかそうな自らの豊かな胸からじわっと抽出させた白い――あれは牛乳......違うな、母乳? を手のひらで器用に固形化のようにさせると、デニアの名を叫んでそれをおもむろに投げつけた。


 デニアはそれを器用に片手で受け止めると、口に入れて噛み砕いてしまう。

 "噛み砕く"のかと思った俺は次の瞬間驚きの光景を目撃した。

 


 女の子らしく華奢だった姿からメキメキメキと音を立てていくデニアの体がだんだんとなんていうか......ボディビルダ女子とでもいう感じに膨れ上がったのだ。


 あらゆる部位の筋肉は膨れ上がり、頭には先ほどまではなかった立派な2本の角が生えていて、あえて名をつけるならばそれは"ミノタウロスモード"という形態へと移行したかに見えた。


 形態が変わることで力も、速度も随分と違うらしい。


 ミノタウロスモードへと変化したデニアは、なんていうか無双を繰り広げていた。


 戦斧を振り回すたびに風圧がここまでくるほどで、当たれば相手は砕け散るしかないようなその威力は、こちらや色々なところへ破片というべきものが飛び散る光景を作り出していた。先ほどまで手練だと思っていた者たちも、見た目から何から変わったことへの戸惑いゆえかその圧倒的な暴力によって、民家やら周辺へと次々に自らの体の一部や命を撒き散らす結果となっていく。


 最初は余裕を持って、俺達へと話しかけてきたピアスの男もさすがのそれに対応しきれないかのように手持ちの剣を半ば叩き折られたり、時には足の骨を砕かれたりして......デニア自身はどうやら只で殺す気はないというかのようにいたぶりながらの攻撃を加えているかのようだった。


「最初にも思ったけど、色々物騒なやつだよな」


「......おめぇもああなりたくなかったら、今後はもう少し優しくしてやるこった」


「お断りだ」


 俺の言葉にため息をつくジャックスはほっておいて、何やら横で自分も戦いたさげに戦況を見守るティニが目に映った。様子が変わったさっきの母乳を固形化ささえてまるでミルクキャンディのようにしたそれがこのこなりの戦略で、この子自体には戦闘方法とかないのかなと思っていると、やがて終わりを迎えたようだ。


 最初からいた人数だけじゃなくて、規模的には30人近い数の集団だったそれらは1人が虫の息であとはもうすでに即死状態となって辺りに散らばるといった結果に終わったようだ。


 気が済んだのか、元のツン牛娘の姿に戻りこちらへと引き返す中、何やらティニが慰めの言葉を投げかけられたデニアは大丈夫よと声をかけてボロボロの兄を抱き寄せて涙を浮かべていた。


「はぁ~~~~~~~~」


 俺は、そんな光景を見たことを後悔しながらも、ポーチからあるものを取り出した。その瞬間――


「てめぇ!よくも頭を!」


 という不意をついた攻撃がどこに隠れていたのか分からない中で、なぜか俺のほうへとやってきた。


 俺は助太刀しようとする仲間を手で制して、軽い気持ちでそれを自分の腕で受け止めた。ジャックスに視線を飛ばして始末しろと伝えた瞬間にジャックスは軽く短剣で首筋を切り裂き襲撃者を絶命させるのだった。


「驚いたな~、まさかこっちにくるなんて」


「それだけで済むほどお前はいつから丈夫な腕になったんだ?」


 俺の腕を見てそう告げるジャックスは短剣を鞘に戻しながらいってくるので、袖を幕って見せると腕の皮膚がもにょもにょとしてその威力が浮き彫りとなるくらいにボロボロになっていた。


 ま、これくらい大丈夫だ。

 ちょうどいいし。


 そうして俺は近寄って、デニアに声をかける。


「......いいか?これはあくまでサービスだ。傷は癒せるし、皮膚もなんとかなるが、......ただそれだけだからな?」


 何のことだといわんばかりの視線に構わずに俺は手に持った黄色のポーションを兄とその仲間たちに振りかけて傷を癒すことにした。


 驚く速度で治癒されていく傷口とかそういうのを、牛人族の娘たちは驚きながら見守っている間に俺は指揮棒を振りかざしてある力を拝借させてもらう。


「ジョイ・スコープ」


 ジョイの一部の力を使って、どこらへんから外部を治して行くかを順番に見ていった俺はよしと力を解除する。そして――


「......もういいぞ、でてきて」


「あ、もういいんか?だる......んじゃま、"脱皮"」


 その呼びかけに、とてもだるそうな声が辺りに響くと俺の全身の皮膚に纏わり付く形でへばり付いた皮膚が違う肌色へと変色をしていく。やがてそれは分離していき、次第に人の形へと姿を変えていった。


 その一連の出来事に、牛人族の娘達はおろか日頃から頻繁に俺の傍にいる護衛役の3人すらも驚愕といった感じで俺と現れた男を見て驚いていた。


「な、なんだ......そいつは」


 そのジャックスの問いに俺は、そういや生み出してから初めてだったなと説明をすることにした。


「こいつはホムンクルス――つまり、俺が生み出した息子で皮膚から生み出した外科医のイシャだ」


「あーんどもー、だるだるだけどおやっさんのためにま、てきとーに」


 そういってボサボサっとしただらしない格好と冴えない伸ばしっぱなしの髭顔でニコニコとしたままに軽くペコペコと頭を下げたイシャを見てまた個性的なやつがとジャックスが一言感想を述べた。


「話は後だ。とりあえず、そこで転がっている奴らの皮膚手術を頼む。で、アベさんはその護衛を頼むよ」


 俺の言葉に、イシャはあいよーと答えてアベさんもガウと返答をしてくれた。


「傷も塞いであとは腕とか、そういうのはそいつにまかせておけばいい。ひとまず今は急ぐぞ?」


「ちょ――」


「い・そ・ぐ・ぞ?」


「......わ、わかったわよ!」


 そうして無理矢理に、兄から引き剥がして心配そうな表情を浮かべるデニアを引きずるようにして俺達は本来の目的地へと向かうことにした。


 しばらく走っていると、同じようにけちらしながらこちらへと近づく人影に俺は手を挙げて答えた。


「オーリエ!」


 オーリエとその肩にちょこんと乗る護衛対象のリリィと途中で合流をしてようやくたどり着いたのは大きな丘の上に聳え立つ家だった。


 扉をわざわざノックをすることなく、俺達はまるで城に攻め入る兵士の如く扉を打ち破って中へと入っていった。


 使用人らしき者たちが青い顔をしながら逃げ出し、入れ替わりに現れたのは中で警備をしているらしき荒っぽそうな身なりの者たちだった。


「てめぇ、ここがどこだか――」


「よう、兄ちゃん。そんなやり取りは置いといてだ......ここの主はどこにいやがる?」


 いち早く動いたジャックスによって首筋に短剣を突きつけられた警備の男は、その動きを捉えられなかったことと今自分の命が危険だと判断したのか、青い顔という分かりやすい恐怖の色を浮かべて手をかろうじて動かして2階の階段のほうへと指を差した。


 ありがとよと首筋に手刀を浴びせて、気絶をさせたジャックスはだそうだぜと呟き俺はそれに頷いて了承をして早速2階へと移動を始めた。


「さすがは盗賊の鏡だな。今なら赤いずきんの女の子も、ましてや3匹の子豚ちゃんにも決して引けを取らないぜ!」


「義賊だし、意味不明な激励すんじゃねぇよ!」


 俺の折角の親指立てながらの激励に不満そうに突っ込まれるといったやり取りをしながらも、途中途中に現れる警備兵をなぎ倒すようにして進むと、警備兵とは違う雰囲気を持つならずものたちが右腕のない男とともに現れた。


「き、貴様らはあの時の!!......よくもぬけぬけと――」


「......御託はいい。お前の親はどこだ?」


「な、なにを――」


 という発言を抑えるように、奴に向かって指揮棒を振り上げて折紙を飛ばしある技を発動させた。


「......折紙――紙飛行"弾"《ペーパー・フライト "バレット"》」


 自動的に飛行機へと折られた紙は、そのまま音を立てることもなく人には見えないだろう速度へと加速させるとそのまま真っ直ぐに右腕のない男の顔の横を少量の髪を巻き込みつつ、向かいにあった石材で作られたらしい石壁へと縫い付けるようにして突き刺さった。


「お前が語れる次元のレベルじゃない。長である俺が自ら来たんだ、早く言わないと今度はお前の額に――」


 ――ドタドタドタ


 俺が喋っているのを掻き消すかのような足音を響かせて現れたのは、身なりからしてどうやらこいつの親だと判断した。


「これは一体なんの騒ぎだ!?......お前達は何者なん......!?」


 と、俺達へと怒鳴りつけようとした右腕のない男の親は俺の両側にいる2人の牛人族に気付いたらしくろうそくの頼りない光の中にあってもはっきりと刻印されている両肩の奴隷紋と、その特徴的な容姿からどういう存在かを瞬時に判断したのか体をガクガクと揺らすかのようにして震えだした。


「よ!迷宮創造主なんてのをやっているタクトってもんだ。そちらの息子さんにはうちの仲間を購入しようとかってバカなことをされたから腕一本で許してやったのに、報復しようとしてかこちらにそちらさんの武力を送り込んできた手前、これはもう息子うんぬんじゃないだろうと親であるあんたに責任とってもらおうとわざわざ負かりこしてきた次第だ」


「なっ......」


 それらの説明を聞いた親は、そのあまりのことゆえかさらに頭を下げた。


「ち、父上!どうなされたのですか!?」


 急に雰囲気が変わった自らの親に、息子の片腕のない男は怪訝ながらも怒鳴るも親のほうは震えるばかりで何も言わずにいるかのようだった。


「お、お前達!俺の腕をこんな風にしたのはあいつらだ!さっさと――」


 回りにいた親の護衛と自分の護衛らしき者たちに命令する中でその言葉にくわっとした親がなに!?と叫ぶように声を荒げると、片腕の男をいきなり後頭部から押さえつけるようにして無理やり跪かせて、俺へ向けて言葉を放った。


「ひ、東の大陸よりの......"名高きお客人"とお見受けいたします!ど、どうかこの通りでございます!お望みのものであれば、なんでも差し上げますから......い、命ばかりは!」


 そうして必死に許しを請う姿に、さすがの俺も唖然としてしまう。

 それほどまでに通用するってことかという驚きからだ。


「......奴隷紋の奴隷――それも希少族ってのはそれほどだってことだぜ」


 知っていたぜというジャックスの顔つきにイラっとする思いだが、まぁいいかと流すことにして俺は用件だけを言った。


「これでこの子の言うことは実証されたか」


 そうして俺は少し得意げな顔をするティニに苦笑いを浮かべてると、


「どうやら賭けはお前の勝ちだ。負けたからには約束を果たさせてもらうことにする......とその前に――」


 俺は再度片腕息子の親を見てこう言い放った。


「賭けに負けたわけだしもう用はないけど......せっかくそちらさんがおっしゃってくれたんだからここはお言葉に甘えて、"望みの物"はなんでも頂いてくか」


「へっ......」


 俺は自分でもおそらくそうだろうなと思われる悪い顔で口角を上げながら微笑を浮かべ俺が望むものを全て頂戴することにした。




 ――翌日




「つくづくお前ってやつは、非道だなと......俺は思うぜ」


「ん?何の話だ?」


 そうして目の前に浮かぶ船を前に俺は手に腰をやって割と大きいなと満足げな気分となった。


「何の話って......おめぇが望むままに接収したもんだ。なんだよ、この家にある全ての現金と食料と船って......盗賊発言をてめぇに返上したいくらいな要求だぜ」


「何言ってるんだよ。あちらから提案してきたからその提案に乗ったまでだ。それに、宝石やらは取り上げていないんだからそれらを売り払えば飯くらい食えるだろ?」


「............分かった?タクト怒らせると、ああなるヨ?」


「ほ、本当に容赦ないわね、この迷宮主は......あ、ねぇ!」


「なんだ?」


「......兄上、そ、その~......治してくれたことを......か、感謝してあげてもいいわ!」


「......!......!(ペコペコ)」


「......ツンデレのよさがいまいちわからんな」


「意味不明なこといわないで!」



 そんなやり取りをしながらも俺は、予想外に得た船を早速迷宮化させると、ようやくの大陸移動に上機嫌に船へと乗り込んでいくと全員乗ったことを確認した俺は、リリィの指示の下に船を東大陸のほうへと向けて出発させるのだった。




 * * * * *




 港町の宿のある1室。

 そこには、重症ともいうべき状態のままに命を繋いだ男がベッドにその身を委ねていた。


 そんな男の目は、激しく怒りそして......すごく濁っていた。

 

 仲間を同じ組織に属するあの女に殺されたという......ある意味因果応報を受けた自分のことなどを考えるでもなく暗く深い恨みはやがて言葉となって部屋に響くこととなる。


「く、くそ......絶対......絶対に許さんぞ」


 それは誰に語りかけるでもない、ただの呟きに等しいものだったが篭った思いと気持ちは重苦しく感じさせるには充分であるだろうと言う一言だった。


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