第8層「ティニとの賭け」
間違えて18日分をちょっと早く予約投稿してしまったので、このままで。
第9層はきちんと19日0時に投稿することにします。
「ほらほら、さっさと走らねぇと置いて行くぞ」
「ちょ、ハァ......ハァ......待ちなさいよ!」
「......!......!」
「ティニ、大丈夫?......たく、あれから10分は全力で走ってるってのにどんな体力してるのよ!」
「............鍛錬の賜物」
そんなやり取りをしながらも、夜の港町を駆ける俺達。
方針が決まればすぐに行動は基本ということからでもある。
それは、デニアが言及する10分前のことだった。
「はぁ~......。やっと動けるようになったわ」
ため息が漏れながらも体に異常はないかを確認するデニア。
そして、1人虚空を見るようにして俺が出したどうするという答えを必死で考えるティニという2人の牛人族が俺と同じ小屋にいた。
しかしこちらはそちらに構うことはなく、どうするかを考えながらも俺の目はティニの首筋へと自然に移っていた。
あんなことを言ったはいいが、見ていて良い気分になるものじゃない。
あれがこの世界での戦争――いや、戦争に世界も国もないな。
戦い自体が、ああやって綺麗な首筋に傷を作り、声を代償にさせたりを容易くできるんだなとこれまでにも奴隷の中にもいた片腕を失ったもの、歩きに難があるものといった光景を見ていたはずの俺にしてもなぜか考えさせられるものを感じた。
「............タクト、惚れた?」
「違うよ。なんていうか、改めて戦争ってのはあれだなって思っただけだ」
「......?」
俺の言葉の意味が分からなかったのだろうアラーネは疑問的な無表情という独特な表情を作っていたが、改めて俺に問いかける。
「......それで、どうするの?タクトの力なら、砦に来るときに使ったっていう迷宮化したここへと敵を引き込んで味方化していくってのも有効だと思うけど」
「......それはカンベンしてもらいたい」
あの砦に向かい馬車で待ち構えてっていうのも、それなりに負担がでかかった。
出来る限りそういった負担での方法は俺としても避けたいという思いだ。
それに――
「便利な力に頼りすぎて、いざそれがなくなった時の"苦い経験"は2度とごめんだし。何よりも、奥の手っていうのは何重にも持っておくに越した事はない」
「............タクトにとってこれも、"しゅみれーしょん"ってこと?」
「シミュレーションな。ま、そういうことだ」
そんなやり取りをしながらも、どうするかを考えているとふと俺の前まで来て跪く人影が設置された魔動型松明によって映し出された。
俺が視線を上げると、そこにはティニがいて真摯にとも言える感じで頭を下げていた。
「......跪いて頭を下げて頼むとかだったら――」
{違います}
ティニは俺の言葉を遮るように、言葉を表示させると続けて伝えたいことを文字として俺の前に表示させた。
{私の身を、迷宮主様へ委ねさせていただきたいと}
「その代わりに喉をってことか?」
「ティニ!」
と叫びながらもデニアがやってきて彼女を庇うようにしようとするが、それを振り切って再び俺の前で傅く。
{体を許す......つまり、性的な求めを必要とされていないと判断いたしましたの。しかしながら、委ねるというのは何も1つじゃございませんの}
「......もしかして?」
アラーネの言葉に頷くが、俺には意味が分からないやり取りだった。
だがそこに見えた彼女の覚悟は頷いた後の言葉によって明らかにされた。
{東の大陸の大部分というのは身分が明確に分かれているそうですの。そして、あちらでの風習として男性は女性の、女性は男性の奴隷を多く持つことでその権威を示すというものがあるのを帝国領で東の大陸出身というレジスタンスに属する方に聞いたことがありますの}
「カースト制度......とか聞いたことがあるな」
たしかどこかの宗教における身分制度。
地理の授業――通信だからテキストだったがそれで教わったし、日本でも過去に大名をてっぺん、農民を最下層というものがあったというのも習った。
江戸時代に"士農工商穢多非人"とかいうのに変わったと聞いたが、それは今はいい。
そういうカースト制度というので明確にという情報がもたらされたうえで、ティニが提案した委ねるとはつまりはそういうことか。
{通常、中央大陸では奴隷は金の取引だけで特に何も施すことはしません。しかし、それはあくまで通常ですの。......東の大陸では一般的になっているようですが、あちらでは奴隷をするために持ち物という証明で顔、もしくは一目見るだけで分かる位置へと刺青を施すことによって、一生消えることのない所持の権利を主張いたしますの。聞いた話によればそれは奴隷紋と言うそうですの}
「奴隷紋......。で、それを提案するからには利点があるってことか?」
俺の言葉に再び頷くと、自らの外套を脱ぎ去ってその身を晒した。
そこには――
分厚い革で作られたらしい外套の底に眠るのはとんでもない代物だった。
ユグドラシルの樹になったかのような2つのとても豊かな果物が生っていて、造形も素晴らしくビキニの水着のようなインナーにぎりぎりで支えられているかのようなそれは、とても柔らかそうでいて芳醇な......
――っと、やばいやばい。
俺は顔をパンパンと叩き、気を取り直してティニの顔のほうを見る。
{迷宮主様にも充分通用するようで光栄ですの。ご覧の通り、首筋の古傷以外は人族にとってとても魅力的な体型をしておりますの}
その言葉に改めて体全体を見ると確かに首筋以外はとても綺麗な体をしていてムチムチとするその体形は、とても男受けするかの妖艶的なスタイルをしていた。
希少族って定義するのはこういう造形からくるものなのかと俺自身も含め、男ってやつはとため息をつきたくなる心境である。
{私のような希少族を奴隷として連れ歩くこと、それは並の人族には決してありえないことにございますの。なので、これを利点として東の大陸へと向かった際は他の方よりも相当な優位性を持つことができると提案しますの}
「優位性?......例えばなんだ?」
{帝国内は元より数少ない他国でもそうでしたが、通常に比べてこういった特殊な奴隷を引き連れる人族はその目に見える価値という証明もあって、取引や交渉事などもそうですし、人族のその人の"格"としても周囲から見る影響力は段違いということですの。聞く所によれば、東の大陸では商いが盛んだと言うことです。商いというのは、先にもあげた取引や交渉事といったことが主ですので......迷宮主様には都合がよろしいかと思いますの}
「......ん~、たしかになー」
迷宮には一切関係ない話だ。
しかし彼女の言葉を信用するのであれば、俺からみてもこれほどの上玉なティニを連れることで今起こっているような面倒なことを移動中も避けることができそうだと判断ができる。
――が、それは完全に信用すればの話だ。
しばらく考えた俺は、これを現状の解決手段にしてみるかと考え出してひとまず分かったと答えて話を持ちかけた。
「それじゃあ、こうしよう。今からお前は仮の奴隷として俺とともにあるところへと乗り込むことにする。刺青うんぬんはある方法で簡単に消すこともできるからそこは安心してくれ。で......お前の話が本当であれば、おそらくは俺が考えるとおりになるだろう。なったら、お前のことを信頼する。ならなかった場合は、取引はなしで......お前達を改めて"獲物として判断する、だ」
{......なるほどですの。これはそのための前提とした賭け......というわけですのね}
「......そういうことだ」
「そういうこと、......じゃないわよ!」
黙って話を聞いていたらしきデニアがさすがに許容できないと口を挟もうと声を荒げて近寄ろうとするが、ティニがそれを文字で封じた。
{デニアちゃん。これは、信頼を勝ち取るための取引ですの。私が決めて、私が実行する――そこに例え恩人だとしても介在する余地はありませんの}
「......ティニ」
なんていうか、この子はおどおどしてそうな雰囲気だが芯の部分は相当強くて、頑固なところがありそうだと今のやり取りから判断できた。物事を決める判断力を考えればこの子は人の上に立つ資格の一辺を感じさせた。
「決まりだな、お前は――」
「あたしも当然ついていくわよ。それにあたしにも奴隷の刺青を施しなさい!ティニだけにそういった役をやらせるわけにはいかないわ!」
決意を込めた目で、睨みつけるのとは違う意思の強そうな視線で俺を見つめた。
なんていうか、この2人というのは本当に絆を感じさせられるなと改めて思うのだった。
刺青を入れる際に必要なのは、ナイフと炎百樹と呼ばれる樹液を水で薄めたものが必要らしい。だったら――
("話は聞いていたか?3人とも")
("ガウ")
("......そうきたか。すげーことをおもいつきやがるな、その嬢ちゃんは")
("タクト、......リリィも聞いててリリィの知識に心当たりがあるって言ってるヨ?")
と、念話越しに帰ってきた3人の応答の中でどうやらオーリエが護衛していたリリィから何か知恵があるらしいというのを聞いた俺は、手に入れる場所とかを一通り聞くことができた。
現状では小屋から出られない俺に代わって、現在は港町から西側の付近にいるというアベさんとジャックスが動いてくれるとのことだったので、まかせることにした。ここらへんでも取れるという炎百樹とはどうやら森林火災で生き残り、百年が経過して変異した樹であるという条件で過去、ここらへんというか陣を最初に築いた辺りに群生している樹をたまたま見ていたリリィが炎百樹と覚えていたそうだ。
こういう時、4日も5日もかかる距離をゲートで戻ることができる現状に面倒ながらもやっててよかったと思った。
そんなわけでアベさんとジャックスに任せた後、夜になるちょっと前に2人が到着した。
そこから彼女らの言うとおりに奴隷紋の刺青を、ティニは右肩、デニアは左肩という感じでそれぞれ彫らせてもらうのだがデザインは自由だというので、牛から連想して俺はとある星座のマークである円に自転車のハンドルを乗せたかのようなものにした。
そして現在――
一連のことを終えると、この港町で一番大きな家らしきところへと向かっている冒頭へと戻ることとなる。
時間がないので走って移動しているが、Gという重力付加付きの部屋で鍛錬をしていた俺達4人に比べ、さすがに彼女らには相当辛いらしくてたった10分全力で駆けたくらいで根を挙げるほどによろよろとしていた。
「......タクト、無理いいやがるなって。俺らはあの地獄の鍛錬繰り返してきたからなんともないがそれを経験してない奴は当然だと思うぜ」
「ガウガウ」
「............タクトも最初、同じだったってオーリエさんに聞いた」
「そういえばそうだな」
と言う呟きを残して移動する傍らで突然遮る人影によって足を止めることとなった。
「おいおい、影狼がいるとは聞いちゃいたが......マジかよ」
その声にいきなりジャックスが立ち止まった。
続くように俺達は立ち止まると、塞ぐ形で現れた人影たちの両側にいた者たちが何やら人っぽいものをこちらへと投げてどさっと音を立て、転がされた。
息を飲む声が俺の耳に届く。
改めて見た俺達もその状態に自然と無言になってしまう。
なんせそこにいたのは、バラバラに散らばって行動していたはずのティニとデニアと同じ牛人族のデンと、その仲間達だったのだから。




