第7層「四面楚歌内のできごと」
四面楚歌――それは周囲の全てが敵で回りに味方や助けがないことを指すだったと思う。あの後、騒動の場を辞した俺達に待っていたのはそんな状況下に陥った現状だった。
あの身なりのよさそうな男の仲間だろうか、港町の至る所からまるで湧き出す泉のように次々と襲い掛かってくる奴らに俺達は数の暴力という意味でとても面倒な事態に逃亡をしていた。
リリィの護衛を優先したことで現状で俺は仲間と散り散りになった。
オーリエとかジャックス、アベさんという目立つ存在との行動を避けることで、現在ではアラーネが護衛代わりとして着いてきてくれていた。
そして、とある条件に合いそうな小屋でひとまずは休憩と作戦会議ということで臨時の迷宮空間を作っている時、同じく逃亡中に散り散りとなったのか牛人族一行の紅一点?のなんとかというツンデレ牛娘と外套のフードを深めに被る印象に残りにくい同族らしき2人が小屋へと入ってきた。
「どうしてここにあんたが!」
「黙れ、小娘」
「こ、こ、こむ......殺すわ!こいつ殺すわ!」
そうして斧を構える牛娘に俺は、動くな喋るなと言霊令で行動を縛った。おかげでやかましい牛娘は動くことも話すこともなくただ口をパクパクとさせるにとどまる。それに驚愕の表情を浮かべながらも俺を睨む目は辞めないらしいその強気な性格に俺は内心でため息を吐く。
地球に生きる友よ、実物ツン娘というのはどうやら俺らが考えている以上に非面倒だぞと言う思いからだ。
「............タクト、飲み物」
「キュ~~」
アラーネの気遣いと、アラクネちゃんの頭を撫でる癒し効果に俺は吹き出る汗と震える体が癒される思いで一息つけた。割と多い人数に囲まれ、脱出してきたせいかうっとおしい俺の禁断症状が出てきて多少イライラしていたから落ち着ける場ができて今はほっとしている。
「......」
そんな俺達に何やら外套のフードから目線を感じた俺はそちらを向くと、外套のフードを遮るかのように摘んで何やらもじもじとしていた。
そういやいつも牛人族でも外套のフードを取らずにいて、何やらコソコソしている人族がいたなと思った俺だが特に興味はないので視線を外すとアラーネと話すことにした。
「さて、これからどうするかだが......俺の予想じゃどこでも俺ら探し、俺ら処刑に躍起になっているところを見れば――」
「......コクン。タクト、腕飛ばしたあの男はここでは相当な身分?」
「キュ~」
「そうだな」
よいしょと俺の膝に座るアラクネちゃんを撫でながら気持ちよさそうな鳴き声をあげる中で、俺とアラーネの意見は一致しているようだ。
「............」
「ん?なんか言ったか?アラーネ」
今何かが聞こえた気がしたので、アラーネに聞いてみるが特に何もと言うので気のせいかと言うと今度は小屋の床を叩く音のあとにものすごいか細い音が聞こえた。
「......?」
俺がそちらを向くと、先ほど特に気にも留めなかった外套のフードを深く被った人族が立てていた音だったことに気付く。
「なんだ?......逃げるなら、勝手に逃げるといい」
俺の突き放すような言葉に、外套の人族は手を振って違うということを告げる仕草をした。一体なんだと思った矢先、何やら一度ドンドンと自分の胸を叩いたフードの人族は思いっきりバサっとしてフードを外して素顔を晒した。
そこに居たのは、これまで見た牛人族独自の黄土色という髪色や耳とは違って、その少女は黒と白によって彩られたかのような髪色と肩まで伸びたストレートな髪型で黒と白のマーブルに彩られた牛耳の後ろに短く結わえた短いツインテールという独特な髪型をした牛人族?だった。
表情は自信なさげにも、儚げにも見えるがその顔はツン牛娘と同じで整っていて穏やかな眼差しでいて相当可愛いという部類に入る容姿をしていた。
ただその行動に驚いたのは俺達だけじゃなくて、傍にいたツン牛娘もだった。驚愕の顔をしたその後は、何やらもがくかのような感じであたふたとした様子が感じられたので、俺は状況を知りたいためにツン牛娘の口だけを開放させることにする。
「~~!......ちょっと!ティニ!......って、あれ、あたし口が......ってそうじゃないわ!ティニー!なんで姿を晒しちゃうの!今すぐここから逃げなさい!くそ!なんで動けないの!?」
相当切羽詰った状況らしいというのは理解できた。
それに、ツン牛娘とその兄とのやり取りででてきた幼馴染らしいティニというのと同一人物かと俺は納得した。
「......」
そしてポソポソと全く聞こえないような声で話すティニと呼ばれた牛娘はツン牛娘に何やら語っている。
「何言ってるの!?人族なのよ!......同じ希少族であの子を大事にしているってのは理解できるけど、それとこれとは別なの!」
何やら言い争いをしている状況の中で俺は腕を組んでそれが収まるのを待つことにするよりも先にこちらはこちらでどうするかを話し合うことにした。
「......タクト、本当にわが道を行くね」
と言いながら、俺の腕に糸をつけて読むんじゃないと俺は糸を切った。
「......それよりも、だ。合流してからどうやって東の大陸に向かうかだが......ひとまずこの辺りとはあえて逆のほうに逃亡してもらっているアベさんやジャックス、リリィを護衛してもらっているオーリエが今は砂浜のほうにいるのが確認できるが......ヘタに外に出るよりもここで待機して夜を待つほうが理想的だと思えるけど、アラーネはどう思う?」
「......私も、そのほうがいいと思う」
「キュ~?」
「お、2人とも――」
「ちょっとおおおお!」
「なんだよ、牛娘野郎......」
「牛娘野郎って、あたし男じゃないわよ!」
こちらは相談中にもかかわらず割り込むように話しかけてきた牛娘をうっとおしく、煩わしく対応すると余計にキーキーと何やら言ってきた。
また封じようかと思った矢先に、行動を封じていないほうの無口というか声がとてつもなく小さいティニと呼ばれている少女のほうがこちらへとやってくると頭を下げてきた。
「ティニー!だからそいつに頭を――」
「......!」
「!......そ、そんなに怒らなくても」
なんていうか、全然分からないやり取りに俺は辟易としながらも、ティニという名の牛娘にどういうことかを聞くことにした。その時に声が異常に小さい原因ともいうべき首筋についた、とある古傷を発見する。
帝国の誰かにやられたのか、刃物によって傷つけられたかのようなそれによって声が小さいのかと判断した俺は、ため息をついてある迷宮魔法を発動させる。
「言霊存在令」
すると、光が彼女を包みやがて消えた。
驚くティニと呼ばれた少女とツン牛娘だったが、焦った表情でツン牛娘は再び声を荒げてきた。
「な......ティニに何したの!?ちょっと......何で動かないの!!」
「喉の傷が原因で声が聞き取れないくらいに小さいんだろ?だから、魔法でティニとやらの話すことがこの場に表示されるようにしただけだ。いいから話してみろ」
俺のそんな言葉に、魔法!?と驚くツン牛娘に追随するかのように俺の前に魔法!と表示された。
{あーあー、どうですか?}
そうしてティニの言葉が空間に表示されると、喜びを表すかのような表情とともに俺の手を握ってすごいですのすごいですのという言葉が表示されては迫ってきた。
「わ、わかったから......」
その現象に、ツン牛娘も驚き顔のままにそのうるさい口をあげることもなく絶句した。
「俺が迷宮創造主で、迷宮創造と魔法の道具を作っているってのは俺のことを探っている時にでも理解しているだろ?ここはいわばその創造の力で作られた俺の迷宮だ。で、お前にかけた迷宮魔法は俺の迷宮内限定だが、今のように言いたいことを表示させるくらいのことは造作もなくできる......さて、現象の理由は分かったな?それじゃ、次はこっちが聞く番だ。ティニとやらに聞くが、お前は何を言いたかったんだ?」
俺の言葉にはいと表示させると、ティニは距離を取ってまずは礼を述べた。
その上で次々と文字として表示されていく。
{私はホルスティニ=レッドと申します。レッド主族ホルステン種の1......でしたの}
ホルステン種か。
それにでしたというのはどうやら理由があるらしい。
タウロ種とは違うというのに納得した俺は話を続けてくれと伝えた。
{はい。......私の種族は私を残し、帝国によって滅ぼされる形となりました。私も殺されそうになりましたが、危ういところでうちと付き合いのあったタウロ種の一族の長であるデン兄様......アールデン様とデニアちゃんたちに助けられて今ここに在りますの}
アールデンってどっかで聞いたことがあるな。
「アラーネ、アールデンって誰だ?」
「............あの牛人族のリーダーのお兄さんだよ」
ああ、あの生真面目そうなツン娘のイケメン兄だったか。
リア充は俺とオタクによる紳士協定『爆発しろ』で自然とフィルターが外れていたから聞いてても頭に入ってなかったようだ。
「まぁ、デニアちゃんはどうでもいいと――「あたしをどうでもいいってどういうことよ!それに、ちゃんづけであたしを呼ばないでよ!」――......そうやってピーチクパーチク言ってくるからだ。そんなことも分からんのか、牛娘野郎」
「野郎じゃないって言ってるでしょ!」
{デニアちゃん、静かにですの}
ジャッジ――いや、なんでもない。
デニアちゃんはティニのその言葉の表示に、でもと言いながら渋々口を閉じた。
俺へ睨みつけるのを忘れないのはさすがだと言える。
{デン兄様が亡国の亡者共に組しているのは、もちろん帝国への復讐というのもありますが......それ以外にも理由がありますの。それが私の声を取り戻せるという帝国が持つとされるある秘宝を求めて......ですの}
「もしかして、俺と接触して魔法の武器を求めたのは――」
俺のその問いにコクンと頷いた。
「......タクトの魔法の力で、声が癒せる道具があるかもしれないとわざわざ迷宮まで来たということ?」
「さすがだな、アラーネ」
そう。
つまり、魔法の武器というのはきっかけであの牛人族の男が求めたのは、このティニの声を大きくさせられるかもしれないという目的もあってのことだと理解した。
「......」
悔しそうな顔をする妹のデニアちゃんは、顔を俯かせて辛そうな表情を作っていたことと裏で仕掛けた本意を探るための結果からも本当のことだと俺は納得をした。
{私は......私もリリィ様と同じように希少族とされる牛人族ですの}
「ああ、つまり愛玩用とかそういうこと用にと帝国側に狩られたってクチか」
はいですのと告げて、再び口を開くティニ。
{狩られる存在である私がわざわざこうして姿を現したのは、私が信を感じ入った上で迷宮主様に誠意を示した上でのお願いをするためですの}
お願いかというその言葉に俺は納得をする。
「俺の力でどうにか声を戻すことはできないかとか、そういうことか?」
俺の言葉にはいですのと表示させるティニであるが、俺としてはどうするかと思ってしまう。ここではいと気軽に答えることができないのは、先の拒否でもある通りに彼らは組織に属している状態で、そこの人を助けた場合俺が目指す永久中立的な立場が前提から崩れる。
リリィを受け入れた理由はそこから来ているということもあるし、何よりも彼等の示す態度に感じ入ったことが理由であるというのも大きいがつまりは組織に属さないからこその受け入れであるのは言うまでもない。
3氏族も同様に。
その上で俺はそれを伝えることにした。
「ここで俺が頷いて治したとする。それをお前達が口を漏らさずにとしても、いずれは知れ渡ることになるだろ?......するとどうだ、お前らのおかげで俺の中立的にという思想は一気に崩れて、そのレジスタンス組織に一方的に加担したとかって話になる。 ......それを大儀名分として帝国はここぞとばかりに攻め寄せて、結果迷宮はぐちゃぐちゃになる。帝国側という訪れる"お客様"も激減し、迷宮の存在価値は低下していくことになってしまうだろう。一例としてあげさせてもらったが......君は、そこまで考えた上でその頼みを願うかどうか、俺は聞きたいところだ」
{それは}
俺の言葉にそこまで考え至らなかったのか、ティニは黙り込んでしまった。
そして、当然のように反発する声が別の方から聞こえる。
「この小屋をそのなんとかって力で迷宮化できるんであれば、迷宮なんてそれこそどこでも開けるじゃない!この大陸だけじゃないし、他の大陸のどこでも開けるわ!......でも、ティニはティニという人はこうして1人しかいないのよ!?それなのに、何をそんなケチケチとした言い訳で――」
俺はその言葉を遮るようにして一言呟く。
「黙ってればいい気になっているが......いい加減にしろよ、小娘」
そうして俺は、俺なりにこれまで経験したものを目に宿らせて精一杯デニアを睨みつけた。その甲斐あってかデニアは青い顔をして口を噤む。
「お前が取引しているのは、迷宮創造主という迷宮という組織で一番偉い存在と責任を持っているというのを忘れないことだ。お前にかけた迷宮魔法とは違うある魔法で簡単に押し潰したりも、燃やし尽くしたりも、感電させるなんてこともできるってことを......覚えておけ」
と、言い含めた後に俺はティニへと視線を投げかけて言う。
「とにかく、......俺はここを動かない。夜までじっくりと自分がどうすればいいのかを考えることだ。体でってのは却下でな」
俺はそう言うと、小屋の脇に腰掛けてポーチから飲み物を出して飲みながらも、さてさてどうやってここから脱出をして港から出るかを考えるのだった。




