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第6層「港町到着とお約束?」

 旅を続けること4日が経ち、その間にも中継陣を3つほど構築して旅は順調に行なわれているかのように思われた。しかし――


「あの、宵闇様......あの方達まだ着いてきていらっしゃいますわ?」


「......」


 御者台で、勉学の気分転換にと俺の隣にちょこんと座る人形族のリリィが不安げに聞いてくることに俺としても何も言うことができない。


 あの後、じゃあなと別れた俺の後ろについてくる形で奴らは後ろに並ぶように、陣を構築する際はそこから一定離れるようにと完全に俺の旅に着いてくる気まんまんの姿勢だったからだ。


 ま、どうせ港町で別れることになるだろうし、特に問題はないので放置しておくことにした......のだが――




 昼となり、昼食を取るために馬車を止めて車座で食事をしているとどこから仕入れたのか牛乳の入った小樽を手に、ここんとこ繰り返される交易のために牛人族が接触してきた。


「......すまないが、またこれと――」


 その問いかけに、俺はポーチから畑で作られたとある野菜を布袋ごと取り出してほらと渡した。


「重ね重ねすまないな、お前達も礼を」


 そうして各々が当初の頃は睨んでいた頃とは違って、粛々とした様子で礼を告げて行く。だが、中には素直に礼をしないものもいた。それは――


「......ふん!」


 この牛人族のパーティリーダーらしい青年にいつも付き従うかのような立ち位置にいるツンっと横を向く牛人族の少女だ。話を聞くに彼女は青年の妹らしくてここに来るまでの間もずっと兄に従って動いていたようだった。


 なんていうか、主体性がないなという思いがするものの、仲よさげに見える2人を見ると例え獲物という認識であったにしても、俺も同様に妹という存在に支えられたこともあるせいか、見ていて楽しいものだった。


 そんな俺の笑顔が気に入らなかったのか、牛人族の少女はこちらを見て睨むと


「......何見てるの?そんなに見ても、体を許してあげないんだからね!」


 おおう。

 まさかまさかのちょいツンデレっぽい口調と、多分オタクが聞けば喜びそうなフレーズに俺も口が綻んでしまっていた。


 再度何かを言おうかとする少女に俺は、


「ま、兄が好きで大事な家族だって気持ちは理解できるからな。お前は可愛い奴だよ」


 と、ある意味兄目線で見てしまったことでより一層相手を刺激したのか脇に抱える彼女の背丈――150に満たないほどの戦斧を構えるがそれは実の兄によって制された。


「アルデニア。......お前がそうやって武器を構える相手が誰かそれを周りから感じる殺気から学ぶことも重要なことだとお前の幼馴染のホルスティニにも言われているだろ?」


「......ティニは、兄上のようなお小言をイチイチ言ったりはしません!」


 そう言ってまたプイっとあらぬ方に首を動かす様子に俺は苦笑いを浮かべる。


「兄貴というのも大変そうだな」


「......理解者がいるとは思わなかった。苦労をしているよ」


 俺も、妹がいて一方は元気で活発な、もう一方は大人しくて泣き虫だがそこが可愛くて共に苦労しているのでいわんとしていることは理解していた。


「と、すまない。......迷宮主と言う立場ある方に不躾なことを」


 そう言って彼等なりの謝罪方法か、右手を胸に当てて屈んだ。

 俺は気にしないでくれと残りの食事をモグモグと食べ終えてズボンからレティに持たされたハンカチを使って口を拭った。その様子に不思議に思ったのか、

 牛人族の青年は疑問的な顔ではあるが、気軽に聞いてもよいのか悪いのかといった表情を向けてくる。


 なんていうか、こいつは義理堅いというか真っ直ぐなところがあるんだなと思ってハンカチが気になるのか?と聞いてみた。その問いに、コクンと頷くと牛人族の青年は問いかけて返してきた。


「我らにはない習慣だろうか?......そう思ってしまった。帝国にも、我らが属していた国にももちろんないものだが......それは貴殿の国独自というものか?」


 ハンカチ1枚にそんなことがあるのかと思ったのだが、そういえば昔は手ぬぐいやらで洗った顔を拭いていたって考えれば、外国からもたらされたハンカチというのも手ぬぐいという前例があったからだろうか受け入れられやすかったのだろうかと考えた。だからと言うわけではないけど、この世界でも食事後にハンカチで口を拭うみたいな習慣が受け入れられるのかは分からないし、今のところ広めるつもりもないけれど。


 しかし、そうか。

 文化の違いとかもあるのかと彼との会話からなんとなく頭に残すことにしておいて、教育にも取り入れてみるかと休憩中考えることとなった。




 昼食を終えて出発し、またさらに6日が経った頃――


 ようやく懐かしさを覚える海風の匂いが鼻を通り抜けるかのような場所へと辿りついた。一般的な砂浜と言える場所のその上に洋上用に加工されたらしき木組みで作られた足場と停泊上の簡易的な港と言う感じで作られており、そこをまるで囲うかのような木造の町並みと港に停泊されているらしい船に俺や初めて見るらしいうちの連中のオーリエ、アラーネは関心するかのように見渡していた。


 まぁ、俺も関心する思いではあったけど、さすがにオーリエたちほどとは行かなかった。今考えているのは、果たしてどうやって俺の手製である手作りの船を人目につかずに浮かべて、大陸から脱出するかだけである。


 移動中にジャックスに聞いた話では、現状でこういうところは別に国の許しが必要というわけではないそうだがそれが原因でひっきりなしにこの港が賑わうということらしい。


 こうして歩いていても、イカレた格好と魔道具のタトゥのせいで敬遠されているのだがそんな中であまり堂々と船をポーチから出して浮かべるのもあれかなという考えがあった。


「ま、妥当なところを言えば......夜だろうぜ」


「やっぱそうか」


 この世界でも訪れる夜の闇に紛れる形で出航するというのがベストなようだ。


 ようだが......


「なぁ、聞いていいか?」


 そう聞いて、御者台から後ろを振り返る。

 そこには最初の陣構築の時からなぜか着いてくる牛人族の姿があった。


「あの分じゃ、東の大陸までとなりそうではあるなぁ」


 ジャックスはそう言うと、くわーっと大きな口であくびをして鼻の頭をぽりぽりと指の爪で擦ると後ろに両手をやって御者台に設えてある椅子に寄りかかった。


 その様子に、やっぱりかという思いとともにため息を吐いてひとまずこんなでかい馬車で町の中を歩き回るのもあれかなとして厩舎へと馬を進めることにするのだった。




 一通りの手続きと料金を支払うと、俺達につき従うかのように牛人族の連中もご丁寧にも隣へと並べるようにして馬車を繋ぎ止める。


 俺は本当にいつまで着いてくるつもりだと思いつつも、ひとまず休憩兼どういう港町かを見るために仲間全員を引き連れてプラプラ散策をすることにした。


 標準的にも珍しい部類の希少族であるリリィにイカレのタトゥーから、東じゃ標準らしい色が派手めな上下に分かれた服の俺と、その服装とは別にやはりオーリエの容姿やらアベさん、ジャックスといった獣頭族と、ここの連中にとっては珍しいだろうアラクネちゃんと手を繋いだアラーネというよく分からない組み合わせとあってか、ハンパないくらいのチラチラ率を誇っていた。


 なので、俺は堂々とチラチラすることにした。


「お前、女にそんなに顔を近づけて............ようやく"どっち"かと一発ヤれた――」


 ――グサッ!


「ぎゃんっ!......さ、さすがに足の甲にナイフはないだろ!ナイフは!」


「すまんな、ワンコロ。俺がすごい思いでこの人ごみの多さというトラウマと、一番根深い性に関するトラウマをどこぞの"狼ワンコロの介"が煽ってくるからさ、そのあまりのスパイシーな話題につい、な」


「つい、な......じゃねぇよ!しかもあだ名が増えてるじゃねぇか!」


 そんなやり取りの中であっても、やはりまだまだ簡単に癒せるものではない俺の拒否反応に額から、決して暑くはない陽気にあっても汗がぶわっとして張り付いては垂れ落ちているのを感じた。


「宵闇様、お顔色がよろしくありませんわ」


 と、俺の少し前を歩くリリィが見上げて心配そうな顔で俺を見ていたのに対して俺は大丈夫だと声をかけた。


「............ジャックスさん、タクト辛そうなのにいじめてる?」


 そうして手をくわっとして構えるアラーネにジャックスは、いや違う違うと慌てて両手を振りながら抑えるとボソっと呟いた。


「ちっ。......気付いちゃいたが、俺はなんていうかこの中じゃ圧倒的に少数派で、圧倒的にお前という仮にも"男同士のやり取り"ってやつがやりにくいのを改めて痛感させられた感じだぜ」


「ガウガウ」


 そうやって項垂れるジャックスをまるで慰めるかのように、アベさんが自身の熊手でよしよしと撫でていた。こうやって見ているとなんというか兄弟みたいに見えるから不思議だ。


 そんなやり取りをしている間に、ふとオーリエが立ち止まってボソっと呟く。


「タクト、後ろから不審な気配だヨ?」


 なんだそれ?と俺が振り返ると、俺達に無言で付き従うように着いてきていた牛人族が何やら身なりのいい服を着た者とその周辺をまるで護衛するかのようなならず者っぽい連中に囲まれていたようだった。


「......」


 俺はそちらを見やると、各々武器を手に何やら話しているのを見て一言呟いた。


「ま、俺らには関係ない。先を急ごう」


 そうして特に加勢をするでもなく、俺達は歩みを進める――「ちょっと!」......だった?


「......なんだよ、ここがいい引き時なのに」


「何よ引き時って! ......それよりも、こういう場合って加勢してくれるものじゃないの!?」


「確かに顔見知りだけど、そもそも加勢をする理由がないじゃないか。仲間じゃないんだし、お前達が勝手についてきただけだろ?」


 そんな風に大声でやり取りをしていると、牛人族の奴らに絡んでいたらしい男達がこちらへとやってきて声をかけてくる。


「......君達も彼等の知り合いというのならば――ほほう?」


 何やら身なりのいい服に身を包んだ男はジロジロと不躾な視線で見回していると何かを発見したかのようにそちらを凝視して、舌なめずりをするほどのねちっこい視線をこちらにも投げかけた。


「これは珍しい......人形族。どうだろう、君の言い値で買ってやろうじゃないか」


 ......当たり前だが、ここは奴隷やら愛玩やらなんやらが当たり前にある世界だったなと思った俺はそれじゃあと指を一本立てた。


「......ほう?銀貨1枚か。なかなか分かっているじゃないか」


 そうして手元の袋から銀貨を出そうとしている身なりのいい男に俺は待ったをかける。


「......誰が、そんな銀貨1枚で譲るといった?それに譲るとも言ってない」


 俺はそう言うと、ジャックスとオーリエに視線を送る。

 それに答えるかのようにして、2人は各々の獲物を見定めると風が通り抜けるかのような早業で周囲のならず者と俺と交渉をしようとしていたらしい身なりのよさそうな男の右腕を切り落とした。


「ぎゃあああああ!!」


 という絶叫とともにのた打ち回る奴らを気にすることなく、イライラを隠すこともなく言い放った。


「......俺が大好きな竜が守る"希少族"。とりわけ今じゃ、俺の仲間で大切な存在とも言えるリリィを、商品扱いにした罪を腕一本で収めてやるってことだ。いわゆる、これが今は休止中の守り神の呪い《プラティニアン・カーズ》ってことだから今後は気をつけることだ」


 そういうと俺は、なんとなく注目を浴びていることに気付いて恥ずかしくなってきたためにいそいそとその場を去ることにした。




* * * * *



「仲間......大切な存在......宵闇様......」


「希少族......迷宮主......様」


という一方は知り合いであり、一方は彼が聞けば誰だとでも言いそうなその呟きはタクトに聞こえることなく風の中に溶けていくのだった。


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