第3層「守り神の呪い《プラニティアン・カーズ》」
――なるほど
そんな一言では決して収まらない話が次々と聞かされたために、纏め切れない俺は手元に取り出したノートに聞いた話を書き留めて頭の中で纏めてみた。
人形族やそのほかの希少族における一連のこと――つまり、愛玩用や見世物という目的のために、人族によって狩られては奴隷として売られることが東の大陸では起こっているという。
元々彼女たちは、大きな湖のある森の山側に開かれた中で暮らしていたらしい。
大きな湖には種族は違うが、ある湖の中に住まうという種族と少々風変わりなリリィの親友が暮らしていて、リリィが若くして長を務める人形族の一族との間で交流を深めていたそうだ。
しかし彼等の生活は、希少狩りと呼ばれるものたちによって脅かされて、リリィたちは全員を引き連れての逃亡の途にあったという。
結果的に奴らに捕まり、売り飛ばされることとなったそうだが同大陸では忌避される希少族の売り買いに困った奴らは別の大陸でと考え付いたことで、海を越えて帝国までの道中の間に再び逃亡し、現在に至るという事情を聞いた。
それに付随するようにお茶を持ってきた妹フェニャから、母親から聞いたという話を聞くことができた。
それは、希少族にのみ作用されるという東のとある伝説――
守り神の祟り《プラティニアンズ・カース》と呼ばれるものだ。
希少種族に危害を加える者は、その制裁ともいうべき力を受けて滅殺されるという伝説を聞いたそうだ。母親は続けてそれによって、実際に見たという人族の証言とそれを聞いた者たちの噂による拡散された情報のおかげで、次第にそういうことは行なわれなくなってきたということだった。
それが先ほどの同大陸ではという件にかかる部分なのだが、そんな中であってもまるで空気を読まずに行なおうとする連中が先の奴らということらしい。
現実の世界で言えば、巨大な台風が迫っている海岸線は危険だからと色々な情報媒体が告げているにも関わらずに、なぜか行っては海上自衛隊のお世話になる奴の如く、自分には関係ないとばかりに、今回のリリィたちの一族のように密猟に近いことをする連中もいるようだった。
そいつらにかかる祟りが守り神の祟り《プラティニアンズ・カース》。
フェニャに聞いた話ではそれが発動した瞬間――まるで全身が締め付けられるかのような現象が起こり、それとともに血を全身から噴出してはやがて死に至るという恐ろしいものということで商人の間でも決して手を出してはいけないというのが広まっているそうだった。
俺がそれを聞いた段階では、そんな恐ろしいことが起こるにも拘らず金のためにとやってしまうからには理由でもあるのかと陰謀説を考えてしまうのだが、そこまで考えずとも別の大陸に住む者がその話を聞かずにただ実行に移すと考えれば辻褄も合っているかのように映った。
「......わたくしも、依然別の一族からその話をお聞きしたことがありますわ。しかし――」
東の大陸にいた人形族の彼女達が今この場にいるのが何よりも証拠となっている通りだ。
「今じゃ、そういう祟りもないってことか......なんか都市伝説モノだな」
「と、しでんせつ......とは?」
「あ、いや。気にしないでくれ」
都市伝説なんていう概念はこちらじゃもちろんないだろうから、あえて説明しないことにした。
「わたくしたちの事情は以上となります。救っていただいた上で厚かましい願いとは重々承知しおりますわ。ただそれでも、我々は生きたいと願う者。"宵闇様"の望むことであれば何でも叶えたいと思っております。ですので、どうぞ庇護下にお加えくださいますよう......この通りに」
そうして頭をゆっくりと下げるリリィだった。
俺はその姿に礼儀正しく、見た目がままの可愛らしさとは別次元での高潔な種族なんだなと再び関心する思いでいた。
で、宵闇様ってなんだろう。
呼び方は人それぞれだし......ま、いいか。
「頭を上げてくれ。......事情は把握したし、一族の代表というあんたのその姿勢に俺は懐かしさえ思う」
来店した際の"いらっしゃいませ"の精神、出て行く際の"ありがとうございました。またのおこしを"精神は俺が過ごした国では当たり前となってはいるが、世界に誇れるであろう美徳の1つであるそれを言葉にした通り、懐かしさ......そして、親愛すらも感じることができた。
("サラリー、受け入れの準備を頼む")
("父さん?......ああ、彼らへの対応だね。了解だよ")
俺の言葉を勘でなんとなく受け取ったらしいサラリーはきっと、彼らを丁重に持て成してくれるだろう。それが礼儀に対する礼儀の返し方というものだ。
「手を......今後は、東の大陸の......その交流あった種族に代わり、俺達が君達の隣人となる。これはそのための儀式ってやつだよ」
俺の言葉に感激したのか、リリィは涙ぐみつつもおそらくここにくるまでの辛かった日々やなくした仲間を思ってのことで震えながらもやがてその小さい手を取り、握手をすると感謝しますと呟くのだった。
リリィの口から一族の者たちに伝えると言うことで一旦別れることにした俺は、フェニャとともに部屋を出るとパパの部屋へと向かった。
「お兄ちゃん、いい人でよかったね」
「そうだな......ジョイが喜び狂いそうな見た目が心配の種だけど」
見た目が同じな人族ではなく、どちらかというと亜人と呼ばれる者たちのほうが俺に合っているというのはこれ以上にないくらいの皮肉ではある。
「さ、準備してやらないとな。お前にも手伝ってもらうぞ」
そう言ってフェニャの頭を撫でると、撫で触りのいい耳がピクピク動くのを楽しみながらも移動することにした。
あの後パパの部屋に戻って、居住区作成についてのやり取りをサラリーとした後で外に出てちょっとしたことがあり、改めて評価できる種族だとして今の俺はすこぶる機嫌がいいものだった。
こちらにとって最上級のおもてなしとなる居住区の策定は、兎頭族の上の階層に新たな階層を作った上でそこを彼らの住みやすい環境に作り変えることにする。その前にまずは、こちらの庇護下にあって先輩種族となる小人族、兎頭族、土竜頭族と面会してもらって交流を図ってもらうことにした。
その上で彼等にもできることをしてもらう――つまり労働力と引き換えにということだったが、果たして彼等は何ができるんだろうか。
小さい身体から考えれば、小人族と同じく手先が器用そうだけど。
おそらくだが、その礼儀正しさから言えば接客業とかそういうことに向いてそうだけど......さすがに酒場で働かせるわけにはいかないよな。なんたって、希少族と呼ばれる彼等なんだし、人目につくところは避けたほうがいいだろうと俺は考えた。
先の話でのちょっとしたこと――
それは、リリィの一族とする者たち全員が先ほど俺の下で全員が跪いての感謝をしてくれたという嬉しくも困った出来事が合ったことに起因する理由だ。
それにしても、東の大陸かと俺は以前にも自分が考えた新たな迷宮創造地に懸かったことにどこか運命的なものを感じたが、今はそれよりも彼等のためにといつの間にか止まっていた足を動かして歩み始めた。
それから数日経ったある日。
人形族たちも、先の種族の間でも相当受け入れられた様子だった。
何かやりたいことはないかと聞いた俺に、リリィは自らの種族特性とも呼べるものを語ってきた。
彼等は小人族のように非力で、なおかつ動くのも相当に遅いということだった。そのための力なのか彼等は知恵を身につけて効率的に運用することに非常に長けているということらしかった。また、頭の中でまるで図を描くようにイメージ構築も行なえるというからデザインという概念を教えればチャイムの作る服飾といった分野も伸びそうな予感がした。
その知恵の使い方は主に、先生とか教授とかそういった存在になり得る特性を身につけていると判断した俺は、これまであえて行なわなかった教育という分野を彼等にまかせてみようかと思った。
俺が知る限りの知識を人形族に与えて、それを奴隷達に教授するという教育機関――学校の建設を。
最終的に学校を卒業する前にこちらに来たために教育不十分となってしまったがゆえの後悔からくるものか、そんなことを考えたのはそこらへんではまだ未練があったからなのかもしれない。
そんな構想の中で、学校を作るなら思った俺は早速行動に移した。
居住区に転移すると、奴隷達が何やら集団で移動していた。
「あれ、どこいくんだ?」
気になった俺がそう聞くと、先頭にいたこの集団の長っぽい爺さん奴隷がため息とともに応えてきた。
「迷宮主様......我らのために村のしゅみれいしょんとかいうのを迷宮主様の世界で行なわせていただけると聞いたのですが、違いましたかのう?」
「あ」
そういえば、そうだったと俺は頭を掻きながら悪い悪いと爺さんに謝った。
亜空間に村構築シミュレーション目的にと疑似体験する日が今日からだったようだ。
「まぁ、その~頑張ってくれ!」
「......ごまかしたね」
「ごまかしたな」
「めいきゅうしゅさま~ごまかしぃ~」
俺はそんな言葉を受けながら、彼等の言うように手を振ってごまかすようにその場を去った。
言い訳をすれば、やることとかに熱中する癖があるといいたいがそんなこと言っても仕方ないという気持ちがあるので俺はそのやることを済ませるために詰所――の東の10畳ほどのスペース中央にやってきた。
詰所から何しに来たんだとでも言うかのように、足軽がやってきたが手を振ってなんでもないと伝えて帰すと俺は競馬場を作るかのように地下空間の手始めとなる階段を作ることにした。
ポーチから砂触手付与のツルハシを取り出して、せっせと掘っては砂をかき出して、いずれ地下1階にちょうどいい深さまで掘り終えると、ポーチから木材を取り出して、羽織にかけられている『子供達の能力の一部』の1つダイクの力を借り受ける形で指揮棒を振り、力を発動した。
「モッコウ・ダイク!」
すると、木材は俺の考えるとおりに階段の形へと組み上げられていき地上と繋がる階段へと変化した。迷宮魔法――馬力を発動してそれを抱えて設置して完了させた。
「さて、あとは......迷宮創造」
地に手を当てて久々に発動する力で、それをだいたい5階層分ほどになるだろう規模で発動させる。迷宮管理、錬金術式練成、生命契約とは違ってあきらかに熟練度上げしずらい創造の力でも現在ではこういうコントロールもできるようになった。
「ふぅ~......これであとはかき出せばいいな」
俺の仕事はこれで終わりだ。
あとはチャビンたちに知らせてまかせることにしよう。
("レティ、チャビンたちに業務連絡頼む")
("迷宮"学校"の作成だね~!")
というやり取りを終えて俺は、先に今回と同様の作業をした人形族の居住区へと様子を見るために転移した。
転移先は階段の手前だったがそこから見る分には、割り振られた奴隷や小人族、土竜頭族などが作業をしている最中で中には人形族も自ら手伝いをしている様子だった。
その中心とも言えるところで、一族の長らしいリリィも額に汗してチャイムが作ったらしいちっちゃい作業服を着て、一生懸命に木を切る様子に礼儀正しく、働き者なんてどこの"海外の反応"に出てくる人間だという思いもしたが、それは決して悪い印象じゃなかった。
仮の住まいとなるテントが設置されているために居住区ができるまではそこで暮らしてもらうが、この分ではそれも早めに終わりそうだと全体の進捗から考えた俺は労いのためにそこへ赴くと声をかける。
「リリィ、お疲れさん」
「あ、これは......宵闇様」
そうして跪こうとするのを阻止して俺は、声をかける。
「どうだ?他の種族とは」
「ええ。宵闇様が我らにとっての救世主であることが正しかったと、わたくしは選択を誤ってなかったとここに住まう方々のお心からも伺えましたわ。こんな非力な我々にもよくしてもらい、ただただ感謝に絶えませんわ」
「そっか。ま、長を含めても彼等は気のいい種族だからな。そんな彼等に君らができることすることで......その恩義を返してもらえばいいさ」
「......先生――教授する者でございますわね? サラリー様からお聞きしましたわ」
レティか、もしくはサラリーに聞いたのだろう。
俺の計画を聞いたらしいリリィはそう呟いた。
「まずは俺から――ていうか、血の繋がりを持つレティを通して知識を得てもらってからそれを奴隷たちや3色氏族たちにも伝えてもらうことが君たちにやってもらうことになるから最初は慣れない事だろうけど、期待しているよ」
「......ええ、もちろんですわ。わたくしたちにできることがあればなんなりとお申し付けを......お、お体も――」
「体はいい!」
俺は遮るかのようにして申し出を断わる。
年を聞くに、こんなに小さくても19才ということだから同い年なリリィだけど、トラウマは俄然残っているわ見た目が完全に子供だわで到底受け入れられることじゃないのは言うまでもない。
俺は一連の理由を話してから断わった上でそれを聞き、それは失礼をと丁寧に頭を下げるリリィに、俺は頷いてそれじゃあ頑張ってくれと声をかけてその場を去った。
そして――
俺なりに他の作業を終えた夜のことだ。
竜爺に酒の差し入れをするために絢爛豪華とも言える部屋へと久々にやってきていた。
話の肴にという感じで語った一連の話を聞いた竜爺は、俺の話にほうほうといつもの様子だったのだが、なぜか遠い目をしていた。
「......これはまた懐かしい名を聞いたのう。プラティニアか、奴は今頃何をしているじゃろうのう」
「――ブフッ!」
俺は、語り終えたとばかりに酒を飲もうとしていたのを中断させる一言に衝撃を受けて思わず吐き出してしまった。
「......し、知り合いかよ!爺さん!」
「ほっほっほ。知り合いも何も、ワシらは同じ方に生まれを許された同胞ともいうべき"8竜の同胞"じゃからのう」
「り、竜なのか......!? そ、そのプラティニアって」
俺の中に衝撃が巻き起こるかのようだった。
これからその守り神の祟り《プラティニアン・カーズ》という情報から、直にと思っていた情報がポロっと出てしまったが故の衝撃だ。
それにそれ以外にも衝撃があった。
竜が大好きな俺にとっては、聞き逃すことのできないものなのだから当然だと言えるだろう。
「うむ。あらゆる荒ぶりをその水の力で癒し、水の加護を与えることができるという水の司竜じゃのう」
水の司竜か。
「爺さんは地の司竜ってやつか?」
「ほっほっほ。そういうことじゃ」
それにしてもあらゆる荒ぶりや、水の加護か。
と思った俺は、先ほど受けた衝撃よりは随分マシとなってはいたが、また聞き流せない情報を頭に浮かべるとピンと来て荒ぶりから暴走を連想した。
そう――暴走というキーワードから思い浮かんだのは、魔力暴走だった。
「......な、なぁ。その......荒ぶりを癒すってのは――まさかとは思うが、魔力暴走を癒すことも可能とか言わないよな......さすが――」
俺の言葉にほっほっほと笑うと、竜爺は簡潔に答えた。
「そんなもの、容易いことじゃと思うがのう」
「なるのかよ!」
あちらで昔流行ったらしい"かよ!口調"で突っ込みをいれた俺はその言葉を聞いた瞬間、立ち上がった。
そして、竜爺の人型の小さい手を両手で握り締めると、ブンブンと上下に揺さぶって感謝を伝えることにした。
「......竜に合えて魔力暴走もなんとかできるとくれば、これでいかないほうがバカだな......それに迷宮創造の候補地もこれで確定だ......竜爺、ありがとう!」
「......ほうほう新たな迷宮を創造するのかのう?」
俺はその答えににんまりして、短く答える。
「そうだ!」
俺はそう答えると、自分の飲みかけの酒も全て竜爺へと押し付けて走って部屋を出て行くことにした。目的が出来れば動くのが早いと言われる俺の行動力は舐められたくないと突飛な考えを抱きながら。
* * * * *
去っていったタクトを見つめる竜爺は、ほっほっほと笑いながら呟いた。
「どこにいるのかもわからぬというのに......ほんに真っ直ぐじゃのう。タク坊は」
そうして長い髭を撫でながら更に続けた。
「プラティニアは気難しき"白銀"の水竜――人族が犯した"大罪"を許しておらぬ中で果たして、髪色以外は見た目が同じタク坊と対面できるか......ほっほっほ、楽しみじゃのう」
そうして自分の酒をクイっと傾けると目を閉じて考えにふける。
あやつはわしとは違い、おそらく本気で殺す気で向かってくると予想されるそれを果たしてかのタク坊はどう回避するのかと竜爺はそう考えていた。
それらのことは、タクトへと伝わることもないことだった。




