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第2層「小さき者の逃亡」

 ――ハァ......ハァ......ハァ......。


 暗闇の中、月に照らされる複数の小さな人影、大きな人影たちは息を乱しながらも懸命に森を走り抜けていた。


 彼らに逃げる場所などはない。

 

 なにせ彼らは奴隷。

 行くあてなどはじめからないのだ。


 それもただの奴隷ではなく、決して普段は見かけることのない希少種族。

 よって、人族による逃亡奴隷達とは違ってヘタなところへ逃げ込めばそこは争いの場となるということを逃亡者である彼らもなんとなく気付いていた。


 また彼らはとても非力だった。

 それゆえに再度捕まったリスクを考えれば逃亡などするものではないと常々考えられているのは当然といえるだろう。だが、しかし――


 ある情報が彼らを決断させた。


 絶滅に近い彼ら希少種族にとって、また奴隷である身分であるがゆえに自身の住んでいた大陸で捕らえられてから中央大陸にやってきたことで生まれた最大のチャンスとなりうるそんな場所を。


 それは中央大陸の東側、森の中にあるという迷宮なる場所。

 

 彼ら奴隷たちにとって、そこはまさに理想の楽園だというのを馬車に乗せられ移動中の最中に聞いたことによりそれに関わる情報を種族同士で探った。彼らを捕らえた者たちが立ち寄るあらゆる場所で。


 そして、あるやり取りを聞いたことにより、今回の逃亡に繋がっているのは言うまでもないことだった。


『そういやここらへんだよな、迷宮とかいう命懸けの魔法が使えるっていう武器とかが手に入れられるとかいうよくわからねぇ洞窟があるってのはよ』


『お宝......ねぇ。俺らはせっかく手に入れた奴隷を帝国に売り払うだけで巨万の富だぜ。そんな命を賭けるよりもこっちのほうが確実だってんだ』


 そして逃亡計画は、同胞や人族の奴隷たちとともに実行された。

 一丸となってのことが功を奏したおかげで捕らえた者たちから逃亡するという作戦はうまくいった。


 だが、予想以上に気付かれる時間までがすぐだったこともあって非力なものたちを中心に次々と脱落をしていった。希少種族はおそらく殺されることはない。被害者となるのはおそらく人族だろうと共に逃げ出した彼らに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


 しかし希望がある限り、例え犠牲がでようとも彼らは希望を選ぶ。

 それはともに囚われの身でいた人族の奴隷たちも同様に。


 戦争に、借金に、あらゆる絶望に苛まれたモノが再起をかけるというのは世界が違っても決して至る思考は変わらずだった。


 犠牲者と逃亡者。


 その2つの結果を生み出しながらも、互いに自由をと望むことを力に変えた者たちは暗闇の中をただただひたすらに駆け抜けていた。


 希望となる迷宮なる場所を求めて。


 後ろから聞こえるのは、"逃亡者から犠牲者"へとなったモノの絶叫。

 それは逃亡者へと迫る恐怖という形で、更なる絶望が脳裏を過ぎる。


 だが、今はただ逃亡しその彼らにとっての楽園郷エル・ドラドへと至るために懸命に逃げることにした。


 その中にあって、人一倍小さく――タクトが見ればこれは小人族かとでもいえそうなそんな小さい体を駆使して走る者たちがいた。


 彼らは見た目が人族でありながらその小ささを月の光に照らされてみれば、まるで人形が走っているかのようなほどの印象を与える者たちだった。


「リリィ!は、走るんだ!もうすこ――」


 ――ザシュッ!


「ぎゃあああ!」


「あ、あ......」


「......だめっ!リリィ......今は走って、こ、この大きな道を駆け抜ければ――」


 だが、声を張り上げる小さき人形のような少女の呼びかけは無駄とも言える絶叫によって覆い隠されるかのようにして遮る結果となっていた。


「み、みんな......っ、い、生きないと......生きて私たちの希望の光を!」


 しかし、そんな彼女にあっても後ろから迫る短剣によって、その足を止められてしまうこととなった。


 勢いのついた足を急に止められる結果となった小さき少女は、前のめりに転び所々へと傷と足に深い傷を作った。動けぬようにとまるで器用に狙ったそれは、彼女のアキレス腱を深く切り裂いていた。


 絶叫を上げそうになるのを小さな手で堪えながらも、森のほうへと転がるように移動しながら移動していった。しかし――


「だめじゃねぇか......人形族ドールの亜人どもが。てめぇらは、これから帝国へと見世物、愛玩として売られるんだぜ?......全く、わざわざ東の大陸へとやってきた俺らの金のなる木がこれ以上減ったら......商売上がったりだ」


 そうして顔を歪ませほくそ笑む笑顔で近寄る男に、人形族ドールと呼ばれた小さき少女は後ずさりながらも決して抗うことができない絶望的な状況でも決して諦めないといった表情で迫る男を睨んだ。


 月の光に照らされたまるで精巧に作られた綺麗な顔が精一杯の強がりとして表したその表情に、男はゾクゾクっとした表情を浮かべて舌なめずりをする。


「......そういや、人形族ドールの亜人ってのはあそこの具合がすげーいいって話だな......へへへ、ま、一発くれぇはばれねぇだろうな。モノは試しってやつで――」


 そうして動けぬ小さき少女の前でズボンを下ろした男は、下品に膨張して黒光りするそれを晒しながら、近づいていく。そんな男にやがて自分の運命を悟ったかのような小さき少女は、あまりの絶望的な考えに青い顔を浮かべる結果となった。


 そして――


 ――ドン


 やがて、加速するかのような絶望的な状況を知らせる背中に当たる木という障害物に小さき少女は、襲い来る絶望に向けてただそれ以上何をすることもなく、歯をカタカタ鳴らしながら全身を震わせることしかできなかった。

 

 心の中で、もう2度と会うことはないだろう親友へ申し訳ないと謝罪の言葉を呟く。そして、せめて一思いにと小さき少女は舌を歯にかけると力を込めようとした――まさにその瞬間だった。


 ――ドサッ


「あ、あ、あ......」


 目を閉じた小さき少女の耳に届いた音に少女は目を開ける。


 月明かりという限られた中にあっても、自分へ襲いかかろうとした男が何かに驚き戸惑いの声を上げていた。

 

 それは自分が背中を当てた木のほうを見ていたことが窺い知れた。


 小さき少女はそちらをそっと振り返る。


 そこにいたのは人族くらいの人影でまだ年若そうな容姿に見える少女は見たこともない衣装と見たことのない色づかいの羽織を身につけていた。

 そして、同様の白から黒といったグラデーションといってもいい何かを羽織って自分を襲おうとしていた男を睥睨する男。


 髪は見たことがない真っ黒な色をしておりそれは少し雑に伸びていて、小さき少女から見れば身なりが整っていない印象に映る。


 羽織らしき中に来た服も見たこともない素材で、見たことない上下に分かれた衣装に見えたのが特徴的だった。


 そんな男は、自分を襲おうとした男を先ほどよりなおも瞳に力を加えると――


「......おい、クズ。てめぇ、こんな"子供"に何してんだ?」


「ま、まさか......お、おま......いや、あんたは......迷宮......創造主っ」


 迷宮創造主というのはなんだろうか。

 まず小さき少女が思ったのはそんなことだった。

 しかし、迷宮というフレーズは聞いたことがある。

 なんせそれは彼女が求めていた希望だ。


 創造主とは......絶望下にある小さき少女は頭の中で疑問を浮かべることしかできない。だが、身なりがあまりよろしくないそんな男の放つ存在感は小さき少女にとって奇妙な印象を与えることとなった。


 暗闇の中の月灯りしかない現状であったその印象は......一切闇の中で地平線に見えた日の光のような......


 そう、それは――


「よ、宵闇......?」


 日が落ち、夜が訪れる間際の中にあるそんな光景を小さき少女はその男を見てイメージした。


「......そっちのお嬢ちゃんは無事か?」


 迷宮創造主という存在、そして自分が宵闇と形容した男が近づいてくる。

 不思議と彼から襲い掛かろうとした男のような恐れなどを感じないこともあって頷くことで応えた。


 それを見てそうかと、この場面にあっても笑顔となった男を見つめることしかできない。しかしその笑顔はやがて一変する。


 迷宮創造主とする男は、傍にいる少女にボソッと呟く。


「......プー」


「......」


 その言葉が聞こえた瞬間――


 襲い掛かってきた男の首は一瞬にして消失をした。


 いや、首だけではない......体その物が消し飛んだといってもいいだろう。

 圧倒的な力によるそれをまるでなんでもないかのように振るえるこの男は何だと思いながらも、決して敵意のないその男に小さき少女は緊張から来るストレスと逃亡者となる仲間を失ってまで得た自らの幸運に気が抜けたかのような表情の後にふっと暗闇が訪れ、やがて意識を失うのだった。




 * * * * *




「――っと、大丈夫か?」


 俺は、報告を受けた迷宮公道における逃亡者の情報に眠い目を擦って直接出向き、男を始末すると気が抜けたのかそこで出会った逃亡者らしき人形みたいな少女を抱き寄せた。


 抱き寄せてみた感じは、小人族よりもさらに小さく60cmほどしかない。

 まるであちらの世界にあった西洋のお人形さんのようなそれに俺は、こんな種族までいるのかと思った。


 さてと、それよりもまずは確認だ。


「......プー、これで全員か?」


「......ま、今のところ」


("オヤジィ~!こっちにいた奴らぁ俺らがやってやったぜ!助けられたのはちっちぇ奴らと普通の人族のやつらだぜ!")


("父上、こちらブシドウ。それがしが救出したのは5名、3名が人族と思われる者たちで残る2名はカラクリ人形の如く、小さき人族でございまする")


 その後も続々と羽織経由で知らされる報告によって、全体的に20人ほどが救い出され残り15人は迷宮公道から外れていたこともあってその全てが絶命してしまったということだった。なお、襲撃していた者は1人を残してそのほとんどは始末したということだった。


 ヤンキーやら、ブシドウを中心とした救出?は大よそ結構な被害を出しながらも報告にあるのはいずれも小さい人族と普通の人族という人種だということだった。奴隷のようなみすぼらしい格好から、相当辛い目にあったか何かで逃亡したのだろうと察した。


("各々、お疲れ様。まだ日が明けるには早い、戻って一眠りしてくれ")


 俺の呼びかけに思い思いの了承の知らせが答えとなって返ってきた。

 まだ日が昇る時刻には遠いとして眠たげな声で伝える。


「ふぁ~~あ。......それじゃあ、俺達も引き上げるぞ」


 あくびをしながらまだまだ眠たい目を擦り、迷宮へと戻ると保護をした小さな少女を診療室へと預けて俺は改めて一眠りすることにした。


 翌日――


 目覚めた俺は"朝の行事"等一通りを終えると、先に目覚めて活動していたレティにより迷宮主邸へと来てくれと伝えられたので転移して迷宮主邸の謁見室へとやってきた。


 扉を開け、中に入るとテーブルを挟んだ向こう側にちょこんといった感じで60cmほどの人形が座っていた。いや、人形じゃなくて人形のように小さい人族の少女――先の迷宮公道で保護したあの少女だ。


 チャイム作の......いわゆるゴシックロリータ風の衣装に身を包むその姿は本当に一見すると人形という表現にぴったりだった。髪も内巻きといった感じでくるくると巻かれていて一目見れば西洋のお人形さんだといわれても違和感がないほどに綺麗な印象を受けた。


「おはよう、どうだ。眠れたか?」


 俺の言葉に合わせるかのように、小さな体躯には大きすぎるらしいソファから飛び降りると少女は横へとちょこちょこ移動して跪いた。


「......この度は......同胞とともに助けていただいたようで感謝に絶えないですわ。私の名はスモゥ=リリィ――リリィとお呼びくださいませ」


 俺はその礼儀正しさに感銘を受けるとともに、楽にしてソファ座ってくれとだけ伝えると自分もソファへ腰を下ろした。


「......」


 少し戸惑う中でもリリィは言われたとおりに、また可愛くソファへと座り直した。


「で、何やら見たことない風貌の傭兵っぽいヤツラに追いかけられていたようだけど......いきさつと言うか理由を教えてくれ」


 俺の言葉にリリィは頷くと、ゆっくりと説明をした。


「まずわたくしたちは、人形族ドールと人族に呼ばれる亜人族です。我々は、この見た目にもわかるとおりにとても小さき者たち......ですわ」


 そして俯くと、話を続ける。


「我ら小さき者は元々東の大陸に住んでいたのですわ。しかし、昔からの希少族として人族の間では、珍しさから"希少狩り"と呼ばれる存在が現れる所以となるほどに囚われ続けることに。......今ではわたくしの一族のみと、絶滅の憂き目に合っていたところでございますわ」


 希少族と希少狩り......か。

 魔物における魔物狩りみたいなものか?


「相当な高値で取引をされるという我々は、愛玩用にという理由からその筋にはとても人気らしく、我ら一族が最後の生き残りというべき者として命を繋ぐ目的で逃亡をしておりました......しかし――」


「......捕まって、売られようとしていたってことか」


「はいですわ」


 頷いて辛そうな顔をすると、リリィは俯くようにした。


「それじゃ、逃亡していたのは......」


「迷宮なる場所を求めて......そこは奴隷にとって最後の楽園であると東の大陸で聞き及んだことと、あの方達が我らを売ろうとしていた大陸がこの中央大陸だとわかったので......生き繋ぐ目的を持ち逃亡を図りましたわ。まさか、幸運にもここがその迷宮とは思いもしませんでしたが......」


「そうか」


 犠牲者となる者たちの中で生存率でいえば、この少女のような人形族たちは全員生存していて、人族たちが犠牲者となっていることに胸が痛くなる思いを抱くのだが、せっかく拾った命であると俺は思った。


 そうして沈黙が訪れる中で、沈黙を破るかの如くやがて扉をノックする音が聞こえた。


 俺の応答で入ってきたのは、お盆を手に持ち、狐耳をぴょこぴょこと動かしてふわふわの尻尾を揺らす狐人族の少女――新たな妹となったフェニャだった。手に持ったお盆に飲み物を俺の手元に置き、向かいのソファに置こうとした矢先にリリィの存在に気付いたフェニャは驚いた顔で呟いた。


「お、お兄ちゃん、この子......」


 提案をして了承後となる初期は、慣れないような呼び方だったそれも最近になりようやく板についてきた。俺はその呼び名にトラウマを刺激されることもなく真っ直ぐに受け入れられている自分の成長に嬉しく思いつつも、フェニャに聞いてみることにした。


「お前、彼女を知っているのか?」


 俺の言葉に、改めて飲み物をリリィの下へ置くとお盆を胸の前で抱きしめるように抱えるフェニャは、口を開いた。


「お母さんがね、"希少族には決して手を出してはいけないよ"って教えられたから......だからあたし......」


 希少族には決して手を出してはいけない......ってどういうことだ?


 俺は、まだまだこの件には謎が含まれているのを感じ取りしばらくお茶に舌鼓を打ちながらもどう話を聞こうかということを考えるのだった。

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