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第1層「プロローグ~1年後~」

 秋口の中旬の頃――競馬場を作り初めて1年。


 この世界にやってきて丸2年の時が過ぎた。

 満2歳の年を取った俺は、19歳秋である現在――


 なぜか歓声に包まれる中で魔獣馬の上に跨っていた。


「パパー!ガンバレー!これに勝てれば"G1"だよー!」


 歓声を受ける中で俺が作ったゲート内でレースが始まるのをため息をつきながら待っていた。こうなった経緯であることについて考えるとつまりはレースを勝ち抜いてということだったのだが、当初は野球で言うところの始球式的な役割だったはずだ。


 それなのになぜこうなったのか。


 答えは、俺が試験的に育てた馬『タクティアハート』が謎の強さを発揮したことに痰を発した。強いといっても開花したのは、ここ3戦目からなんだけど。



 ちなみに新たに作られた競馬場は、ラウンジ内の居住区の東側で騎士団詰所の更に東側――そこにいわゆる娯楽エリアとしてスペースを設けてある。その下に地下空間が作られていてそこに『迷宮"競馬場"』として創造がされた。


 実際の競馬場の規模など知らない俺たちが1からやったことはとんでもなく面倒な作業だったのはいうまでもない。


 試行錯誤の末、それぞれのコースの基盤となる最大4000mという規模の面積を広げられた後に芝の調達と砂の調達をした。


 砂はもちろん亜空間のお砂場から調達したが、芝についてはそんな都合のいいものはなく思いついたのが亜空間内にて亜空間レイアウトソフト『アレ』でコスト消費の上に設置した地面タイプ『芝』を人材精霊の珠を使って生育して必要分を用意することで賄った。


 あとはそれをそれぞれのコースに敷き詰める作業を任せている間に俺はゲート作成に取り掛かる。


 敷き詰め終わるのと前後して、試験を繰り返して完成したゲートキーパーという魔道具を設置した。魔道具っていうか、魔器具というべきか。


 その効果はコースを自動的に1000m、1200m、1600m、2000m、2200m、2400m、2600m、3000mと仕切りを利用することで調整が可能になるものだった。


 コース長の種類は主に競馬ゲームからの受け売りである。


 そして設置が終わると、観戦席から馬主席と外観の工事に入った。

 俺は俺で、競馬関連はやることがなくなったので、今度は自分のためにと色々なことに注力をしていく。


 完成までは食堂やパパの部屋で報告を聞くのみだったのだが、順調だということを聞きながら俺の作業を続け、1週間前にようやく競馬場が完成した。


 落成式みたいなので俺が馬に乗って走ることとなったのだが......どういうわけか今はその6戦目に当たるG3の競争前となっているのだ。


 なおレース名は、G3がジャックスステークス、G2がオーリエ杯、そして――


「なんで、G1が......"迷宮創造主記念"なのか......未だに納得できない」


 年末最後のドリームレースと掛けているのかと邪推したのは言うまでもない。


 ちなみに現状ではまだ競馬場が完成したばかりということもあって、細かいことは競馬主催組織『D.R.G(ダンジョン競馬ギルド)』というギルド総長ホステス配下のキャバ嬢とモジョ配下によるフジョ(ケイリ)によって運営されている組織で協議が行なわれているらしい。


 業務としては主に、賭ける魔獣馬番号が書かれた札、それらの配当の払い戻しなどトータルな部分が彼らによって行なわれているとサラリーからの報告にあった。


 閑話休題


 さて、そんな競馬における現レースは、『ジャックスステークス(距離1200m)』というゲームで言えば、スプリントレースだ。


 8頭立てで行なわれるこれの後には、スプリントレース最強戦『G1』が行なわれる予定であるそうだ。


 俺とタクティアハートの戦績は5戦2勝という負け越しといった感じだったが、

 3戦目から覚醒したのか、G3馬級の魔獣馬を後半から追い上げて抜き去るという所謂『追い込み』の勝ち方で抜き去ると言うことをやらかしたことで、その後のG3も制して今回のレースG2出場権を得て今に至るといったところだった。


 何度も言うが、俺は始球式的なレースに出場して終わるだけだったのだが、勝ち残ってしまったことで今レースのゲートで待機している。


「にしても......迷宮創造主自らレースに出て、不正とか疑われるんじゃないか?」


("パパには賞金は出ないし、何より斥量の負担は結構あるはずだよ?")


 斥量とは、魔獣馬に科す重量のことで、重量が鍵になるというレースにおいては調整のために馬の性別、種族、年齢を考慮して魔獣馬に科すものらしい。


 らしいというのは、俺は競馬ゲームの知識しかなく、迷宮に関係のないこと以外ノータッチであるところが基本な俺にはいちいち知らされることなく、レティやらサラリーによって策定されているモノだということもある。


 そしてレティのいう斥量という負担はいわばハンデとなるわけだが、俺の魔獣馬はどうやらそれですらも生温い覚醒状態だということもあってほかとは違う斥量――だいたい3倍ほどの重力がかかっているらしい。


 トレーニングルームの重力システムはこんなところでも、地味に活躍しているのは皮肉なのかなんなのか。


("ま、いいさ。G1は辞退するしな")


("えー、もったいないよー")


("俺は観戦してる方が性に合ってるから、タクティアハートはほかの騎手にまかせるよ")


 そんなわけで始まったレースは、結果的に俺が3着となり優勝したのは、サラリー馬主の持ち魔獣馬『リーマンショック』号だった。




 終わった後に俺は、馬主に提供される部屋に入ると増設した羽織の通信機能である者を呼び出した。


 元は迷宮へとやってきた挑戦者ビギニーだったが、同業者のだまし討ちにあったところで無一文という経緯の現奴隷の人族である。


 乙女の騎士団団長となったファナの何の琴線に触れたのか彼女によって、戦闘ができるという理由から奴隷として召抱えられたファーニーという少女だった。


「お、お呼びですか!」


 ファーニーは緊張した様子で俺の下にやってきた。

 年の頃は、14歳くらいで背は167cmと年齢にしてはなかなかのたっぱがあり、またスタイルもモデルのようにスラーっとしていた。


「うん。実は君に頼みたいことがあるんだ」


 そうして話を切り出す。

 もちろん、俺の乗り馬に関することだ。


「とりあえず、始球式みたく付き合いでレースには出ていたんだけどそろそろ迷宮創造主としての業務もやらなきゃってことで、俺の馬を君に頼みたいんだ。騎手としてまかせたいんだけど......いいか?」


 俺の言葉に、は~~っとしながらもファーニーは戸惑いながらもはっきりした返事で伝えた。


「ファナちゃんに聞いてますけど、それで嫁ポイントはどれくらいいただけるのですか!?」


 ......え?


「な、なんだその嫁ポイントってのは」


「え?いや、あの......迷宮創造主様に貢献した性別が女性と分類される人族は、嫁ポイントが蓄積してそれが条件に合うとお子を仕込んでいただけるって聞きましたけど......」


「............なんだそりゃ」


("レティよ、確かに俺は1歩前進......最近じゃ、やばいなって思いながらも日課をやってはいるがさすがに跳躍しすぎだぞ")


 元凶だと思えるレティへとそうして通信を入れる。


("あ~ばれちゃった~!......ま、パパはもう次の段階にステップアップしてもいいと思うんだけど~ね~")


 確かに1年前に比べれば、へその下へと口を当てて魔力暴走を抑える治療は慣れたせいか、震えることも緊張することもなくなった。だがな――


("問題は、俺のそういう欲を抑える結果に生まれた新たな子供たちが、な")


("あの子たちみたいなのを生み出さないためにも、ここはきちんとした女の子に――")


("あーとりあえず、その話は後回しだ。とにかく、お前から発信されたその嫁ポイントとやらは誤報とでも伝えといてくれ")


 レティは俺の言葉にブータレながらも、了承して通信を切ってファーニーに伝えた。つまりこれは何かの間違いでそもそもそういうのはないから、黙って報酬だけを受け取ると言う選択にしてほしいことも伝えておいたのは言うまでもないことだった。


 馬主部屋から、転移テレポートでパパの部屋を経由し、亜空間の部屋へと戻った俺は"アレ"を立ち上げて1年前からの古株用にある目的のために作られたエリアを閲覧した。


 そこは、俗に言う村建設用シミュレート空間とも言える場所。


 迷宮外から出たとあるところを丸写ししてその条件に重なるようにと編集をした森である。明日から、ここに買取額が達成しそうな者たちを送り込んで実際に村を建築してもらうつもりである。


 現実の世界とは違って、あらゆることが加速的に進むようにそのエリアは設定されており、どう作ればいいのかどう運用すればいいのか、などを実地で学んでもらい理解してもらったところで写し取った元々の森へと送り出すという流れになり、そこはまさに"村を作るための学校"とでもいうものであった。


 亜空間自体、霊安殿とか土砂置き場的な使い方しかされてなかったから都合がいいといえば都合がいいものだったのは言うまでもない。


 エロナの配下魔獣である《錬金術師団》によって作られた魔道具なども数は揃っていて、資材は直接森を切り開くから問題ないと。水は、水源がありそうなところを事前に兎頭族、そして土竜頭族による調査で把握しているのであとは村を切り開く彼らの努力次第となる。


 一つ一つ確認をして問題ないと、俺はモジョから受け取った書類にサインをしてここと繋がっているらしきモジョたちの部屋へスキャナプリンターにその紙を挟んで転送した。


「よ~し、終わった~」


 昼飯まではまだ微妙な時間だったので、俺はある程度を確認したいために全迷宮情報と書かれたファイルをクリックして開いた。


 全迷宮表

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 1.迷宮"チュートリアル"     間引きのための本営迷宮


 1-1.迷宮"集落"      穀物、野菜類を生育、酪農における魔獣                 たちの放牧地として活用させる穀倉地帯                 的な迷宮


 1-2.迷宮"精肉"      半径5m大岩の迷宮。食肉用の魔獣を管                 理、また米などの特殊な魔獣も管理して                 いる食用加工肉用、特殊魔獣管理の迷宮


 1-3.迷宮"馬車"      移動型迷宮で、現状は陸上の移動にのみ                 使用される目的で開かれた迷宮


 1-4. 迷宮"競馬場"     娯楽スペース地下に生成された迷宮

 ----------------------------------------------------------------------


 それを見ると、現状では5つとなる。


 現在でそのどれもが定期的な奴隷という労働力によって安定がなされているとサラリーからの報告にもあった。挑戦者ビギニーも間引きする者、せずともいい者とに明確に分けた結果に以前に比べれば難易度も比較的易しくなったらしいことがきっかけで増加傾向にあるとのことだ。


 今のところ、最大で30F踏破者サーティンが3組で俺が気に入っており最初に初の踏破者となったあの連中もその中の1組に数えられている。

 1年でこのペースであるならば、いよいよ次の新天地も作っておかないとというのが俺の頭に描かれた次の目標となる。


「ま、もちろん。別の大陸となるわけだけど......さて......次はどこがいいかな......」


 中央以外には、4つの大きな大陸がある。


 ギルド証による情報と実際の人物における照らし合わせで、ジャックスの話が真実であることが理解できた。北の大陸から来たものは白い肌をしていて、逆の南はオーリエのように褐色の肌、西から来る連中は今のところ確認できていないが、予想する上でおそらく中東とかそういう感じだと思う。


 黒人も捨てきれないけど、今のところそういう肌色は確認できていないので、今はその考えは置いておく。東は......俺と同じ黄色人種なのか、髪の色も比較的黒っぽいものが混じっているかのようなのが1組、2組来ていたらしい。


 俺としては、歴史シミュレーションで興味を持ち、独自に調べてまで学んだ侍とか戦国時代とかにものすごくそそられるのでもし極東に島国があるのならばと思うのだが......。


「東か?」


 いや、砦前に聞いた西の大陸における帝国の動きとやらも気になる。


 そこまで考えた俺だったが、そういえばと思いなおす。


「そもそも......渡る船がない、な」


 ため息とともに俺は、アラームによって昼飯だとそれ以上はまた今度だとしてそのまま食堂へと向かうことにする。


 その僅か数日後に、新たな迷宮を創造する大陸選定のヒントとそのきっかけとなる"ある事件"が起こることなど今の俺が知る由もなく。

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