第25章「第1章エピローグ~決断の先のさらに1歩先へ~」
第1章終了時に、
ラウンジ内地図(1章終了時点Ver)と、迷宮外地図を挿絵挿入しておきます。
参考までに(※迷宮外地図は見づらいかもしれませんのでご注意を)
「黄色の石に、青い石......か」
アラーネの魔力暴走以外にも俺にはやるべきこと、そして考えるべきことが多数あった。その1つが回収されたらしい青い石のことだ。
「その2つの石の関連性で言えば、黄色い石が琥珀、青い石がサファイヤ?っていう宝石だってことだけど」
俺の呟きにレティが答える。
「砦で再会したソウリョからの情報じゃ、どうやら3原色――黄、青、赤の宝石は軒並み売り切れというのがあっちで頻発しているということだ」
「てことはつまり――」
レティは俺の呟きに頷く。
赤い宝石もあるってことだった。
「正体は掴めないんだよな」
「......ここまで不完全な石じゃ、さすがに......ね」
レティの能力である迷宮共感でさえも把握ができないそうだ。一度完全な状態で手に入れたいところなので、俺はソウリョになんとかそれに繋がる手がかりを探ってもらっている。
「ひとまず、石に関してはここまでだな」
「そうだね~......あ......」
何やら驚いたレティは、そうして声を出してこちらを見た。
俺は疑問に思ったその視線に――
「どうしたんだ?」
と、聞くが何か......いつも純粋そうな笑顔が意地悪い顔に変わって言い放ったのだ。
「うっふっふ......パパも罪な男の子だよね!」
「......急に何を言ってるんだ?レティ」
突然のそんな呟きに俺は疑問的な視線を送る。
「......あ~、気にしないで。パパもようやく長い1歩を踏めたことだしね」
俺の先ほどの行為を盗み見ていたことか、それともこの短い期間ながらも起こったあらゆることを想起させる出来事によるものかそんな言葉に俺は......
「......確かに、な」
「うん!」
商会受け入れによる経済基盤、竜爺との出会い、迷宮公道改装、迷宮水路工事、そして......砦への進撃とアラクネちゃんを救い、フェニャの母親を救えなかったこと。
迷宮解放後のそうした運営と言えるものとはかけ離れた出来事の数々は、アラーネによる魔力暴走で俺の長いトラウマ人生を1歩進めるに至った。
それならもう1つを解決するか。
「ちょっと出てくる」
そうしてレティへと伝えると、俺はパパの部屋を出てあるところへと向かう。
そこは亜空間内に設えた亡き者になった迷宮側の"永遠"ともいうべき安置施設
通称――霊安殿。
時が保存され、決して腐敗しない特性を利用したそんな霊安施設には今、欠かさずに肉親へと対面をする少女がいた。
「......フェニャ」
俺がそう呼びかけると、狐耳の少女――フェニャは俺のほうへ振り向いた。
「......タクト様......」
そうして俺の名を呼ぶと、頭を下げる。
「......乗り越え......られたのか?」
下げたままの頭は、勢い良く振り上げられると俺を真っ直ぐに見つめた。
「はい!......タクト様の配慮のおかげでここでいつでもお母さんと会えますし、お母さんは......お母さんは今も笑顔で眠っています!だから、あたしは......」
「......」
「あたし、そんな笑顔に答えるためにも......これから頑張って、お世話になっているみなさんに......タクト様にお仕えします!」
『お兄ちゃん!』
俺の耳には、なぜかそんな笑顔の妹を浮かべて俺を呼ぶ声と混ざるかのような......そんな幻影が見えた気がした。
俺はその幻影に唖然とするも、あの地獄のような仕打ちの時に思い出した絶望的な顔じゃなかったことに勇気を持って伝えたいことをフェニャに打ち明けた。
「フェニャ......こう言ってはなんだが......」
俺は、さらに一歩先にとなるその言葉を伝えたのだった。
それから時が過ぎ、今は9月――射手月の中盤となった。
迷宮公道、迷宮水路は、あの後順調に進められてこの度無事完成した。
ここへ来る侵入者――いや、今は挑戦者だったかそいつらの助けにもなっていることだろう。
たまに新規で訪れた結果、ここのルールを知らないバカによって起こる争いやらは、警備兵にと志願したファナや彼女に同意する形で自らが立ち上げたいとした"乙女の騎士団"という女奴隷たちによる自警団的な一団によってほぼ制圧される形となった。
こちらに協力的な彼女たちにはもちろん、こちらでできることをするという有言実行をするために彼女たち用の武器から鎧まで用意すると同時に、場所も提供させてもらった。
場所は、迷宮銀行の南側辺り。
居住区の東側に作られて地下には、宿舎から食堂と鍛錬の場ということでトレーニングルームスペースも用意した。
なぜここまで手厚くするのか。
それは彼女たちの活動においてこちらにも利点があるからだ。
現状、彼女達と俺達の間には現在奴隷と雇い主という関係性がある。
もっとも、設立してからの活躍を見ていれば、おそらくは早々に自分を買い戻すことも容易なのだが、彼女らはそれを固辞して救ってくれたというこの迷宮のためできる限りのことをしたいという訴えに対して、礼を尽くす意味でも応える意味でもといった流れからというのが背景にあった。
見目に富んでいることもあり、華やかさも持ち合わせる元戦闘に長けた女性というのは、側目に見るととても魅力的に映るらしくあの後すぐに立ち上がった"乙女の騎士"たちの活動は訪れる者たちを惹きつける存在にまで押し上げている一種の客引きともいうべき存在までのし上がっていた。
その中で言いだしっぺであるファナは、さすがは傭兵長の娘というべき実力とカリスマで彼女達を牽引する役を担っている。なんていうか、結婚を度々主張してきたり、ジンジャエールを振舞った際に胸を俺の腕に押し付けた奴隷の女性の悪戯以外は普通に仕事もちゃんとしてくれているので俺としても不安は一切感じられない。
これらのことは、レティがいった『訓練』というものがどれだけ加味されているのだろうかと考えたこともあったのだが、まぁいいかとして俺は俺のできることで彼女らに尽くそうと思っている。
そんな彼女らが定期的に監視をして、毒などを投げ込んだりとかしないように見張る迷宮水路は、枯渇して生態系を崩さぬ範囲で調整しながらこちら側に引き込み、魚なども副産物ということで久々に川魚(アユに似た何かとか)を食べることができた。
どちらかというと、食べ物にあまり頓着しない俺でも結構感激して食べたのだが、初めてとも言える魚料理にこちらで受ける内容の煮付けやら塩焼きという典型的なオフクロの料理は、奴隷達にも......そして挑戦者にも好評を博し、一時期品切れ続出するかのような人気を得るに至ったのは喜ばしいことだ。
また、水源が確保されたことで俺への負担が減ったことが一番、俺にとっては好かったことに挙げられる。それぞれの居住区に引き込み、排水施設を作って浄化して川へとまた戻す仕組みを作った後のメンテナンスももちろん作り上げた。
川からの水路とは別に作った点検用の空洞内に各々設置されている浄化付与の水精石があるのだけど、それは誰にでも交換できるのでD.C内で持ち回りを担当させるようにすることで俺への負担は激減といった感じになっていた。
さらに迷宮と迷宮外の西から東に延びる街道に接続された迷宮公道もその機能はきちんと行なわれていた。挑戦者以外にもここへと取引や仕入れのためにやってくるエウレシア側の商人にも馬車が通りやすく、石畳のおかげで馬や馬車への震動が少ないということもありわりと好評らしいようだった。
ちなみに縦方向とも言える迷宮公道は迷宮化をしている。
それはサラリーの仕掛けた"ねっとわーく"とやらで街道内を移動する商人を狙った賊などに危険が迫ればすぐにD.Cの警備兵が動くことができる詰め所的なものが設置されているからだ。
それによって、経済に流動性ができたとしてこちらの独自硬貨――迷宮硬貨も順調に流通しているそうで経済が活動し始めたとサラリーが喜んでいた。銀行で外貨と交換できて、本格運用中の魔動自販機利用も比較的に活発化しているのも背景にある。
ここで働くもの用と外から訪れる用に分けられた魔動自販機は、もちろん商品のラインナップは違うがどちらにも好評を博しているし、俺もたまに利用する。
そんなわけで迷宮運営における活動は、比較的に順調であると俺は判断した。
外側の砦のほうも今のところは帝国側が気付くことはないようで、何やら研修というか迷宮へと挑戦者として訪れる兵士もいるとクレイオフ老にも、使者を通して聞くことが出来た。
間引きだけの迷宮じゃない。
活かすものには活かす――そんな本来の迷宮らしくない側面というのも、これはこれでありなんじゃないかなと最近では思っていた。
そんなきっかけをくれたあの踏破者たちは、あの後一月後に戻ってきてから早速挑戦しているとレティからも話を聞いている。今後、決して交じり合うことはないと思うが彼らにも有益な迷宮であり続けようと考えていることはもはやいうまでもないことである。
そして今、俺はなぜか迷宮地下――というか、ラウンジ地下にあるものが建設されていてそれを手伝わされる形の状況にあった。
それは――、
レティのある一言に端を発したものであること、そして覚えてしまったとある欲によって奴隷達の数の暴力とも言える同意による施設である。
『パパ、競馬場作って馬主になろう!』
競馬ゲームをやらせたことを俺はこのとき、後悔したのは言うまでもない。
迷宮公道、迷宮水路という2つの大工事とも言えるものを終えた後だったこともあるのに、と抵抗したのだが......レティがすっかり賭け事を覚えた奴隷達とジャックスへと具体的なやり方を教えて味方につけたことで強引なる採択で賛成多数により今まさにそれのレース場を作っている最中であるのだ。
ま、そういう娯楽はあってもいいとも思えるんだが......。
ちなみに建築大好きチームのチャマット、ダイク、すっかり地馴らしで味を占めたらしい竜爺からは特に反対することもなくむしろ進んで建築に携わっている。
そんな一連の出来事を思い出してため息を吐きながら道具を作業テントの中で作っていた俺の下に何かを手に持った少女がこう言って近づいてきた。
「お兄ちゃん!」
それは、俺にとって......1歩のさらに先へ歩むきっかけをくれた
......新たな妹であるフェニャの姿であった。
あの笑顔を見るたびに俺は元気になるのだから、本当に俺ってやつは現金な奴だと苦笑をしてしまうものだった。
「フェニャか、こっちだ!」
嬉しそうに尻尾を振りながらもこちらへと駆け寄ってくるフェニャの笑顔は、あの時失ってしまった妹がまた笑顔でいてくれているかのような錯覚を覚えた。
乗り越えられたのか、まだまだ先は長いのか......俺はそんなことを思いながらも、今はこの笑顔と俺に協力してくれる者たちのためにと、まずは手を動かしてこの競馬場を完成させるかという思いで再び作業に取り掛かるのだった。
第1章『迷宮運営編』 終
迷宮ラウンジ図
迷宮外地図
今章終了です。
1章登場人物は1時間後くらいに予約投稿できるように仕込んでおきます。
次回、第2章は1年が経過したところからのスタートとなります。
『大湖の迷宮編』というタイトルからも分かるとおり、舞台は湖へ!
第1層は、11日0時から毎日更新してまいりますので、
引き続きよろしくお願いします。




