第23層「贅沢で、残酷な悩み」
知らせを聞いて急いでやってきたジョイの診療所。
「アラーネ!」
扉を開いて飛び込んでみればそこには――
「............あ」
寝かされているアラーネの姿があった。
ここまではいいのだ、ここまでは。
だが、そこにいたのは真っ裸にされて色々と検査されているらしき何かのコードっぽい線がつけられたアラーネの姿だった。
俺は咄嗟のことだったのか、呆然としながらついその姿に見惚れてしまう。
背は低いが、出るところは出ているらしき頂点には何か桜色のものがチョンと乗っているそのボリュームは寝ていても決して形を崩すことのない壮観さで、全体的に均整が取れているモデル顔負けといったそのスタイルに俺は目を離すことができずにいた。
「......父さん。見るのはいいけど、彼女の許可はきちんと取ってあるのかしら?」
俺はその言葉にようやく硬直から開放されて、慌てて扉を閉めた。
「父さん、それは外に出て閉めるべきじゃないかしら?」
俺はあ、そうだった。すまんと言って急いで扉を開けて部屋の外に出ると急いで閉めた。
先ほど、性に対してもう少し寛容にという会話があったからか、心臓の鼓動がバックンバックンしているのを抑えることにする。
落ち着いたところでもういいわよという声に、俺はなぜかノックをして一応の確認をしてみると、ため息とともにどうぞと言う答えが返ってきたために改めて入りなおした。
まだ平常心じゃないなと思った俺は部屋に入ると、深呼吸して落ち着くことにした。寝かされているアラーネは今度はきちんとシーツらしきものに覆われていたので、ほっとなるがやはりコードの類が全身に繋がれているせいか痛々しかった。
「......悪かったな」
「それは、彼女が目覚めた時にでも言ってあげて」
確かにそうだなと俺は分かったと頷いた上で聞いてみる。
「そ、それで、どうなんだ?......命に別状があるとかじゃないんだよな?」
「安心して、すぐにどうこうなるものじゃないわ」
「そうか......ふぅ~」
俺はその言葉に安心する。しかし、今の状況を見ればジョイは何をするでもなくただじっとアラーネを見るばかりだ。
「なぁ、一体何しているんだ?」
俺は持て余した時間を埋めるように、現在の状態を聞くことにした。
そうしてジョイは、こちらを見て答えてきた。
「そうね。今は、魔力を計測しているわ。それを、転送先のエロナの下へと送ってる最中よ」
「魔力を計測?」
「ええ」
どういうことかと聞くと運ばれた際に、レティへ頼んで共感遠隔感知という力を使ってもらって体の状態を知らせてもらったそうだ。
それによれば、どうやらアラーネの魔力の乱れとある部分が妙に活性化しているためにという理由で魔力暴走を起こしかけている状態だということだった。
現在は、ジョイの技"錯覚眼"と"鎮静眼"という見診の力をかけていて、症状の進行をごまかしつつも食い止めている状態なので傍目にはただ眠っているだけのように見える。
にしても、魔力暴走って......一体どういうことなんだと俺は思った。
初めてとも言えるその症状に俺も思いつくことはないかとアラーネの顔を見ながらも頭を悩ませつつ、ここは大人しくエロナ側の結果を待つことにした。
魔力と言えばその力を用いて道具を作ったり、研究する分野エロナの領分だ。
そんな俺の考えをよそに、しばらくするとやがて、扉が開いてエロナが入ってきた。
「おまたせ~......って、あれ~?お父さん~?」
「お疲れさん。それで、調べてくれてたんだろ?結果は......」
「う、うん」
そうして、何かを書いたらしきレポートのようなものを見ながらもチラチラとこちらを伺うようにしてジョイの近くにやってきた。
なんだ?
「ありがとう、エロナ」
エロナから渡されたレポートを見て、ジョイはふむふむと言った具合で顎に手を当てて何かに納得したように頷くと、俺を見て説明を始めた。
「......まずは、そうね。父さんは人族の体の構造というものは知っているかしら?」
「体の構造?」
俺はその問いに、考えるが特に思いつくことがない。
「その様子じゃ知らないらしいわね。それじゃ――」
「あ、まってぇ~ジョイお姉ちゃん」
「......エロナ?」
何やら説明を遮るかのようにエロナがジョイを止めて、私が~という感じで説明を始めた。
「お父さん、ウルグルフの時に説明したことを覚えてる?100%魔石」
「ああ、それなら――」
確か、俺の魔力は属性前提となっているこの世界じゃ異端で完全なる無だということを聞いた。どうやらそれに関連しているので一応俺は理解していることだけ伝えると――
「うんうん。つまりは、その体内で出来上がる魔石っていうのにも関連しているんだけどね~。お父さん、唐突だけどとある人からこちらに来る時~体を作り変えられてからって言ってたよね?」
「ある人......レティーナ様のことか?」
「そうだよ~。で、その時にお父さんはその時に作り変えられた時にあるものが追加されてるんだよ~」
あるものが追加?
俺は迷宮創造主になり、こちらの世界に来る前に必要だということで構成体をレティーナ様によって作り変えてもらった経緯がある。
「......ああ、そういうことね。......そうね、父さんも作り変えられた時に追加された"あるもの"。それで父さんは、父さん独自の魔力しか生み出すことと魔素がではなく、食料やら水といったものまたは皮膚呼吸からそのあるものを通じて魔力を生成するんだけどね......その仕組まれたあるものを私達は魔力のための臓器――"魔臓"と呼ぶことにしているわ」
「魔臓?」
「息を吐いたり吸ったりという用途の臓器は肺だと知ってると思うけれど、魔力もそれ用の臓器がこちらの人族にはあるの。もちろん、魔臓を持つ父さんから生み出された私達もよ?」
血液を送る臓器やら、血液を作る臓器、体の仕組みはそれぞれ独自の臓器で動かしていることを考えれば魔力のための臓器――魔臓っていうのは言い得て妙だった。
「その魔臓が今回のアラーネに原因を与えているってことでいいのか?」
「ええ、そういうことよ。奴隷の人たちの同意を得て体の構造を知るためにと、スキャンでデータを取った上で父さんが生まれた世界基準の身体データを調査した結果にその魔臓が発見されたわけだけどね......実際、その魔臓というのはどれもが退化して一切使えない死臓とでもいうべきものになるはずだったのよ」
「実際に調べてみた限りではね~10人中9人の奴隷さんの魔臓が死臓化してたことが調査結果で分かったの~多分だけど~20年前に魔素が消えて魔法が使えなくなったことがきっかけだというのが今のところ考えられることかな~?」
魔素が消えて、か。
魔素を取り込んで、魔力を生み出して魔法を行使――だったはずの臓器が使わなくなるとそれは当然そうなるだろうと俺も思う。
そして、話を聞いた限りでは、それじゃアラーネは違うんだよという答えが見えた気がする。
「......父さんのその目を見て理解してくれているとは思うけど、つまりは彼女はその死臓した奴隷の人々とは違っていてね、死臓とはなっていなくて今も脈々と活性している状態なのよ」
「......それで、魔力暴走......ってことか」
「そう。本来はね、彼女の臓器も廃れるはずだったんだけど......でもそうはならずにただ冬眠をする熊のように臓器は眠っているだけだったみたいよ」
「そんなことがあるのか......」
俺の言葉に、エロナが話し出した。
「先祖返りの力――糸を生み出す力は血の記憶が何かのきっかけで蘇るというのが私の見解なんだけどね~それ自体はお父さんも知っての通り、お腹が減るっていう魔力消耗じゃなく~体力消耗という代償で使用してるよね~?」
「ああ」
「今まではそれでよかったんだけどね~どうやらお父さんと......っていうか、お父さんの迷宮輪、そしてお父さんの魔力が漏れなく溢れている迷宮空間にいたことでアラーネちゃんの魔臓が反応して適性しちゃったみたいなの~」
俺は、これまでの行動を思い浮かべる。
そういえば初めて会った時は迷宮輪にて擬似の迷宮空間という俺の魔力100%な場にいてその後も迷宮ラウンジ内に設置していたジャックスの犬小屋で暮らしていたし、俺と比較的一緒にいることは多かった。
魔力を司る臓器がそんな魔力の固まりとも言える俺の魔力に反応しないわけはないのだと俺はそこまで考えた。
「じゃ、なんで今頃によってそんな暴走みたいなのを......?」
「原因は、彼女の旅よ。父さんの魔力が――ま、言ってみれば食料になりえるといった認識を持った魔臓によって蓄積された魔力はしばらくの間それで賄えることができたせいで無事だったみたいだけど――」
「もしかして、あの再会時点じゃもうすでに枯渇気味になっていたとか?」
とした俺の言葉にジョイはそうねと言って、エロナのほうに顔を向ける。
「う~ん、再会時のデータがないからなんとも言えないけどね~今の現状から推察して一言で言うとね~......え~っと、"久々のお食事だ~わーいわーい"って状態かな?」
食事だわーいわーいって......。
それじゃあれか、今のアラーネの魔臓ってのは俺の食事を暴飲暴食気味というかそういう状態で活発化していることが理由で魔力暴走なんて状態になりそうだってことか?
「エ、エロナの独特の説明は置いておいて、状態は説明通りよ」
「それで、治療はできるのか?......俺の魔力が所以となっているんであれば協力できそうではあるんだけど」
俺の言葉に2人はようやくかという感じで、俺を見ながらもやや戸惑っているかのような感じが伝わってきた。なぜ、そんな感じになるのか不思議だったが真っ赤になっているエロナへ私が言うわというと、ジョイは伝えてきた。
「父さんがそういうのであれば、あるわよ。父さんが――それこそ読んで字の如く"1発"でできる解決方法が、ね」
ん?
なんだ、このぞわぞわする嫌な予感みたいなものは......。
そんな俺をよそにジョイは簡潔に告げた。
「それはね、彼女とエッチをして、中に父さんの子種を注げばいいのよ」
......え?
「......え、えっと......お前は一体何を言った?」
子、子種を注ぐ?
「......父さんはいつ、娘に2度も恥ずかしいことを言わせる趣味を得ていたのかしら?」
「い、いや......そうじゃないんだ!お、お前のその方法が――」
「......魔臓っていうのはね、ちょうどヘソの下辺りにあるの。父さんの魔臓もね、たしか――丹田と呼ばれる場所と同じ位置らへんかしら?そしてそのさらに下には女性しか持ち得ないあるものもあるというのは、思春期の父さんでも理解できるわよね?」
し、子宮ってことか。
「その2つにはね、ある共通点があるの。魔臓は魔素を取り込み、魔力を生み出す。そして――」
子宮は子種を取り込み、子を生み出すって......そういうことか。
あの入ってきた時の戸惑いともとれる視線やら、言いにくそうな空気は恥ずかしさもあるが......俺のトラウマともいうべきものを言い出す恐怖のようなものがあったのかと考えた。
なんせ言い出したエロナはおろか、ジョイも少し青い顔をしているのだから。
手近な椅子に座って俺は考え出す。
まさか、レティとの話からこんなことにまで発展するとは思ってなかった。
魔力暴走を起こそうとしているアラーネの状態を救うためには、俺の......俺のトラウマともいうべき行為をしなければいけないのかというおそらくはあちらの世界で同世代の奴らが聞いた童貞仲間が聞いた途端、包丁とか持って追いかけてきそうなほどの贅沢な悩みを俺は、真剣に考えることにするのだった。




