第19層「2つの結末」
10000字近くなってしまいました。
ガラケーの方本当、すいません。
ある意味、暴力的で残酷な描写がありますので
ご注意ください。
――ガキン!
「くっ、あの風がうっとおしいことこの上ないが......新たに取り出した......ありゃあ、なんだぁ?」
「あれ、面倒だヨ?」
飛んできたあるものを反らすために体を捻りつつも、短剣を振り払うようにしたジャックスの愚痴とオーリエの言葉が耳に入る。
フェニャの母親を救出にとやってきた帝国の砦で、そこの最高権力者となる東南司令ラーレンと戦闘が開始してからどれほどの時間が経ったのか知れない。
ただ俺達は、色々な制約もあって竜爺の時とは違う劣勢に立たされていた。
ラーレンは、剣以外に過去の錬金術で作られたとされる防具も携行していた。
それをまるでじゃんけんの3すくみのようにそれらを使いこなすゆえの苦戦も一因に挙げられるだろう。動きを見るに、奴自身は大したことのない実力でありながらも、あの風を生み出す武器などを効率的に扱う鍛錬をしていたからだろうか、右手にはいわゆる"風の魔剣"を、その逆の手には虎と思える意匠を凝らしたこちらもやはり奇妙といっても差支えがない小盾を持っていた。
この小盾からは、クナイほどの大きさである投擲具が飛び出してくる効果を持っていてそれによって接近戦に持ち込みたい俺達の接近を阻んでいた。
こちら側の遠距離攻撃となる折紙技は、もちろんあの風の魔剣で切り裂かれて終わりなので意味をなさない。同じ風であっても、まさか俺が今のところ生み出せる最大の風すらも切り裂かれるのだから現代の錬金術師でもある自分の腕とはまだまだ過去には及ばないのかと若干凹んでしまうのは仕方がないことだった。
それも、指揮棒による効果アップが上乗せされてそれである。
そんな膠着的な中にあってさらに、隙があればといつの間にか傍にいるアベさんと戦闘中であるはずの隷従族という介入も制約の一つであった。速度的に、アベさんの相手を殺すための戦闘にすらもついていける実力ながらもさらに奴の命令なのか時より、こちらにも伸びる攻撃を繰り出してくるから厄介だった。
あの石で組み上げられたかのような腕は、どうやら伸び縮みの攻撃が可能というのと消えるような速度ではないことだけが幸いだった。
さらに俺達の難易度をあげる要因としては、騒ぎによってか何かしらの錬金術の道具でか駆けつけた俺の支配の及んでいない砦に駐留をしている帝国軍の横槍も挙げられた。
俺が支配した帝国兵は、なんとか隙を作って脱出をさせた小人忍のチャシブとともに現在、フェニャの母親を捜索させているために収拾させることができないことが悔やまれるばかりだ。
「過去の遺物......あいつは、過去の錬金術の歴史とも言える過去の遺産を用いての攻撃しかしてこない。つまりそれしか頼る術がないってことだから......そこを突ければいいんだけどな......っと!」
文字通りに横槍を入れる帝国兵の長槍が頬を掠める。
そして、狙ったとしか思えないタイミングでラーレンから繰り出される斬風もギリギリで回避すると、どちらの攻撃によってか分からない傷を頬に作って血がすーっと流れていくのを感じた。
斬風はもちろん止まることはしないので、俺を攻撃した帝国兵をバラバラに刻みながらも巻き込んでは、さらにその奥へと進んでは死の絶叫などを量産させて
自らの味方という犠牲を拡大させていくのが腹立たしいことだ。
「野郎ぅ......味方であるはずの兵士を何だと思ってやがる!」
「......全くもって同意だ。だが、今は突破口を開かないとこのままじゃ挟撃食らってあの世になっちまう」
ジャックスの怒りの声に同調する形で俺も声に出すが、なんとか挟撃から脱出できる手段がないかを考えながらそれも自然と口に出た。
親指で頬の血を拭うと、そこに疲労による汗が染みこみヒリヒリとする。
俺の心とリンクするかのようなそのヒリヒリは、敵ながらも味方にやられる帝国兵には同情をするしかないものだった。
そんな後ろの備えには相性のいい2人が当たっている。
「......綾吊――四段糸梯子」
「法術――神経結合」
アラーネが四段梯子のように編み上げた凧糸ほどの糸は、ばらけていた数十人の帝国兵たちを巻き込むと強制的に一括りになるかのように纏められ、ソウリョによってその纏められた帝国兵は神経を強制支配されると、まるで連結するかのようにして防衛させるような陣形を取らせては後方を支えていた。
......改めて不憫と感じる帝国兵たちの扱いだが、アラーネとソウリョの支援に感謝して俺は折り紙を取り出すと、牽制と隙を作るためにとぶつぶつと考えながらも炎折鶴を3羽、発動させた。
「いくらやっても無駄だと理解できんか?」
炎を纏いながらも飛ぶ折鶴たちを容易く切り裂いたラーレンは、剣と盾を構えてニヤっと笑った。
「......そろそろ観念したらどうだ?結局、貴様たちでは何もできぬのだ。過去の遺産――貴様以上の力を持つこの剣と盾の前ではな」
その言葉にピクっとした俺は、答えた。
「......過去の遺産に縋るばかりで偉そうに......」
俺の言葉に反応をすることもなく、ラーレンは剣を振り上げる。
「俺は収集家であり、"使用者"......収集したものを使用する......使われて当然のこの武器も盾も、そしてそいつら兵士たちすらも道具として使って何が悪い?......貴様など及びもつかぬほどの価値しかないそいつらなど俺にとっては使い潰してこその価値はある意味、見出しているが、な?」
平然とそう言い切るラーレンに俺はイラっとしてしまう。
結局のところは、こいつと俺はなんら変わることはないはずなのにだ。
「お前......!」
だがそんな思いを抱きながらも俺は、俺が知るある有名なマンガの一冊で主人公が人を道具として扱う異種族の男の発言に対する主人公の気持ちが分かる気がした。
そしてこんな奴の下でしか働けないいわば生贄のような関係性を持っている歪んだこいつの思想は全く俺とは合うことはないともだ。
現状取れる方策は、腕の一本でも犠牲にして奴に食らいつくかという考えに達しラーレンが得意げに風の魔剣を振り下ろそうとしたその瞬間だった。
「キューーーーーーーーーーー!」
という声とともに、いつからいたのかアラクネちゃんが不出来とも言えるよれよれの糸を纏わせながら天井からラーレンへ向けて飛び掛った。
それは攻撃のために意識を移していた奴の反応を鈍らせ、アラーネほどの繊細さがない糸だったそれがラーレンの頭に着くとベチャ~と伸びて転びながら着地したアラクネちゃんの手が偶然伸びる形でラーレンの顔中に張り付く格好でさらに被害を拡大させることとなった。
どこに隠れていたのかと心配はしていたが、まさか天井で張り付いていたとはと思った俺は、今はチャンスとなったこの出来事に感謝をした。
そして、ジャックスとともに近づくための姿勢へと映った時奴は叫び声を上げた。奇しくも、ある有名な一節をだ。
「目......目がぁぁぁぁ!」
粘着性の糸が目の中に入ったようで、自然と瞬きすることでさらに入り込んだのだろうか激痛に苦しむラーレンは何を考えているのか手に持った剣と盾をむちゃくちゃに振り回した。
咄嗟に指揮棒を振り上げて、サラリーの力を拝借して避けるための"勘"を発動させた。
至るところへと切り裂く風――斬風は飛んでいきもはや部屋の中はめちゃくちゃな状態となっていた。
天井、高級そうな棚や机などは元より戦闘中にありながらもこちらへと介入してくる隷従族、帝国兵なども巻き込むというほどに被害は拡大していく。
着地に失敗したためか、転んで目を回して頭をゴシゴシと可愛く擦るアラクネちゃんのほうにも飛んでいく姿が首筋に走る嫌な予感という勘によって察知した俺は、ドクンっという自らの心臓の鼓動とあの時のことが頭を過ぎった。
救えなかったあの時のアラクネちゃんのようなことは2度とさせない。
そんな思いで俺は、アラクネちゃんのほうへと駆け寄っては抱き抱えて咄嗟に横へと回避した。
しかし、その回避が甘かったのか――
――ザシュ!
「ぐっ!」
俺の右肩をザックリと切り裂いて地面を貫いた斬風はやはり威力を殺すことなく絨毯を切り裂くとそれはやがて下の階へと進んでいった。
切り裂かれた下の階からは、悲鳴やら絶叫する声が聞こえる。
激痛を堪えながら目頭を上げた俺の周囲には、ポーチが切り裂かれまた咄嗟に扱えるようにと腰にくくっておいたポーション類が割れたり切り裂かれたりとめちゃくちゃになっていた。
しかし、今度こそアラクネちゃんを救えたという喜びに俺はどうでもいいともうこれ以上被害を拡大させないために奴を抑えるようジャックスへと指示を出すためにそちらへ視線を向けた。
「ジャックス!オーリエ!......奴を止め――......どうした?」
叫ぼうとした俺はジャックスとオーリエの様子に疑問を感じて問いかけた。
だが、2人は動くことなく......唖然としたようにある方向をじっと見て立ち尽くしていたからだ。
なんだ?と俺も、アラクネちゃんを開放して激痛の走る右肩を庇うようにして左手で支えながら立ち上がると、ジャックスの見るほうへ視線を向けた。
そこには、信じられない光景が映っていた。
そこには暴れるラーレンを諌めようとしたのか、アベさんと戦闘中だったらしき隷従族がラーレンの傍で手を前に向けて立ち尽くす光景があった。
それだけならまだいい。なんせ、敵側なのだからアベさんの負担を考えれば、あの斬風でまとめて始末できたと考えられただろう。だが――
......兜に覆われた頭が斜めに半分消し飛んだ隷従族は、その頭の側頭部からはどこかで見た髪色の長髪と"狐耳"が飛び出していたのだ。
その光景を見て咄嗟にフェニャの顔が思い浮かぶほどの似た髪色と独特の耳。
先ほどアラクネちゃんを救ったことで喜んだことから一気に落ちる嫌な予感にバクバクとした心臓の鼓動だけが感じられた。
まさか......そんな......
俺は顔に手を当てて足腰の力が抜ける感覚となる。
そんな中で、崩れるように仰向けで倒れた隷従族――涙を片目からツーっと流してポソっと聞こえた『フェニャ......』と言う言葉が耳に届く中。
ようやく落ち着いて目に入った糸も取り除けたのか苛立ち気味のラーレンは、俺にとっての残酷なことを行った。
「ぐっ......おのれぇ!よくも俺の視界を......!......なんだ?何しておるのだ、貴様!立て!立って戦わぬか!!道具は――」
今叫ぶ者を、自我がなかったらしきままに守ったフェニャの母親。
それを守ったら守ったで、見た目からでも分かるほどの致命傷で崩れた者に対するラーレンの暴力は、無残にも体の至るところをつま先で蹴って死に体にある者への残酷な風景を作り出していた。
俺は、そんな光景に目の前が真っ赤になったかのようになった。
だが落ち着けと冷静に耐えるようにし、咄嗟にポーションをと取り出そうとするも、先ほど見たポーチと腰につけていた光景を思い出してさらに絶望的な心境になった。
そんな俺の視界に映るのは、今なお続く虫の息とも言える相手への暴力だ。
それはどこかフラッシュバックするかのように、かつて妹を前に何もできなかった光景が頭を過ぎった。絶望な表情で死んだまま目を合わせる妹と重なるかの光景に――
頭の中で何かが切れる音がした。
俺は、俺が走れる最大の速度でラーレンへと向かって走りだした。
それに気付いたラーレンがあの風の魔剣を使ってこちらへと攻撃することなど気にすることもなく、俺はただただ奴へ向けて、犯人のあの開き直ったかのような"遺族が最も求める反省"など微塵もしなかった嫌らしい笑みと被るかのようなラーレンへ向けて走っていった。
俺の先ほどまでの空気とは異なることを察知したのか、風など気にしないという鬼気迫るものを察知してか奴は何やら顔を青くしてガタガタと表情を恐怖の色に染めてさらにむちゃくちゃな剣の振り方をした。
あらゆるところが負傷して平常状態であれば速攻で倒れているだろう俺は、先ほどの右肩など関係がないように右腕を振り上げると思いっきり殴りつけた。
「......貴様は......貴様は貴様は貴様はぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
激しく燃える炎のように溢れる怒りにまかせて俺は、殴り倒した後も構わずに馬乗りになって何度も、何度も何度も何度もラーレンの顔面に拳を浴びせた。
八つ当たりをするラーレンの愚劣さ、卑劣さ、外道な部分にあの時の妹を殺した犯人への気持ち以上のモノが再燃するかのようなドス黒いものが込み上げてくるのを俺は、抑えられずにいた。
なんだこいつは!
この世界の、こいつらは一体なんなんだ!
あまりにも......あまりにも残酷じゃないか!
騙されて借金のカタでと監禁ならばまだ分かる。
だが......だがこいつは!
あの時見た限りには、フェニャのようなのが一般的な狐人族なのだろうと思う。だが接見した今のフェニャの母親はところどころがまるで人体改造を受けたかのように異様な姿となっていたのだ。
その所業にも油が注がれた思いで俺は殴り続けた。
こいつは許さん、絶対許さん、死んでも許さん。
俺の頭には、そんなことしか思い浮かばなかった。
妹を失った直後の静かな怒りなどではない。
俺が、人生で初めて抱いた激しい怒りだった。
怒りと言う感情の中にありながらもアベさんが躊躇していたのは、こういうことだったのかと気付いた。
それによってさらに怒りが湧き起こる。
あの時止めずにどういうことなんだの一言をいえなかった俺はなんだ!?
最初に攻めていたラーレンへの怒りは、だんだんとラーレンよりもむしろ自分自身への未熟さが招いたという怒りの方向へと向かっていった。
だが、それはやがて終わりを迎える。
――オーリエの抱擁によって。
あの時、会議の場から逃げるように去った俺をまるで包むように抱きしめてくれた時のようにただ何も言わずに後ろから抱き留めるそれは、一度経験した俺にとっては不器用な彼女の優しさに触れる形となり、初めての激情すらもすーっと抜けるかのようにやがて自分を取り戻した。
殴りつけていたラーレンを見ると、すでに顔の原型がとどめていないほどであらゆるところが変形をし、ビクビクと痙攣を起こしていた。俺は、はっとなりせめてという思いでフェニャの母親の下へと駆け寄ることにした。
もうすでに、死に体にある母親は涙を流しながらもなぜかこちらのほうを片方となってしまった目を向けて笑顔になっていた
その笑顔が崩れぬようにと、俺は両手で彼女の手を握ると彼女がせめて安らかであるように......安心して逝けるように祈りながらあることを伝える。
「......あ、あんたの娘なら俺達で保護している!だから、心配ない。お......グズッ......お、俺がぁ......ごれがら......俺があんだの娘を立派に......立派に育でるがらぉ......ヒッグッ......だから、だからっ......!」
涙の止まらない声での俺の言葉に彼女はそのまま手の力が自然と抜けるかのようにして首をこちらに向けると何かを悟ったようにして震える口を開いた。
「よ、よろ............しく......おね......がいし――」
と、最期まで伝えることができないままに、フェニャの母親はそのまま目を瞑ると笑顔とともに息を引き取った。
そんな中にあって俺は伝える間も止まらない涙を堪えることができずにいた。
さぞや無念だっただろうと、立場はまるで違うが被害者視点で同じような経験をしたと勝手に思ってしまったがゆえに俺は、"最初"のアラクネちゃんを失ったときとは違って情けなくも泣き崩れるのだった。
しばらくして、俺は無事な左腕の裾で涙を拭うともうすでに力の入っていない手を両方で握ると、ちゃんと届いたよな?と思いながら、未だ溢れる涙を堪えさせることもないままにして立ち上がり思いのたけをぶつけるかのように叫んだ。
「砦にいる全ての兵士!並びにここで働く帝国の民よ!迷宮創造主タクトがこの戦いを制した!戦いはお前らの頭を崩したことで雌雄を決し終わった!お前らには慈悲をくれてやる!!......投降する者は武器を捨て、俺の眼前にその汚い首を並べろ~~~~~~!」
戦闘の場で俺の怒りによるラーレンへの攻撃からか、手を止めて立ち竦んでいたらしき帝国兵も、扉からやってきた侍女風の人族やそれに類する人族、そして......下から攻撃をしようとしていた狙撃手的な兵士も全てが俺の言葉を受けると各々手にもった武器から何かを落として降伏を示すかのように両手を挙げるのだった。
そこで俺は改めて伝える。
「......感謝しろ、クソ帝国兵どもが!......本当のことを言えば、俺はお前たちを許したくはない!殺し尽くしてしまいたいとすら思う。......だけどな、操られながらもきちんとその任を全うして主を庇い、奴の呪縛が解けた後は娘を思って虫の息ながらに子供を思いながら死んだこの母の愛に胸を打たれてその思いも霧散した!だから......だから、お前らは......今あるその命に感謝しろ!」
そうして俺は、フェニャの母親を両手で抱え、ジャックスに声をかけて降参した砦の全兵、仕えていた者ををまとめさせて戦後処理へと移って行った。
俺にとって、これが2度目となる後味悪い戦いはこうして終わりを告げた。
* * * * *
一方その頃――
迷宮ラウンジに建設されている宿屋のとある1室。
そこには、驚愕の顔を浮かべたアルムとローブの男の姿があった。
それはなぜか?......答えは、止めを差そうとしたはずのアルムの細い手を受け止める別の細い手の正体にあった。
薄い金色といった髪を腰まで流して、黄色に近い金眼と髪の色と同様の金眼というオッドアイの白いワンピースの少女――レティシアが止めたのだ。
「......残念だけど、この子はやらせないよ」
普通の者が見れば、見惚れるゴージャスさを持つ少女の通る美しいとすら言える声は、制される形となったその普通の者に該当するアルムはもちろんぽーっと見惚れてしまうこととなった。
「き、君は......?」
レティはそんな見惚れるアルムの問いかけに答えることもなく、ボソっと呟いた。
「......変な薬で成長を止めて、子供のフリして......それもレティが可愛いからって見惚れるなんてまるで変態ロリコンだね」
そしてレティはなんでもないかのようにアルムの手を掴み直すと、ローブの男の方へと投げつけた。そうして転倒したアルムは彼女の尋常じゃない力に戦々恐々とする思いで問いかけた。
「......イタタ。何をするんだ?それに、な、何を言っているのか分からないな。ボクは――」
「あー証拠が欲しいんだね。じゃあ――共感搾取!」
レティがそう言うと、アルムの体から何かの青い色の石が次々に皮膚を突き破る形で飛び出してきた。透過してではなく強制的という表現が当てはまるそれは直接、胃などの吸収された臓器を突き破ってのものだったためその転げまわるほどの激痛に堪えることはできずに叫び声を上げながら、アルムは転がるようにして痛みを表していた。
そんな中で変化が訪れる。
体積がまるで青色のキャンディーを食べた少女のように増してきたかと思えば、やがてそれは子供とは似ても似つかないほどの背となって見た目が青年の姿になった。
「ん~......。さすがに全部は復元できないな~。でも、あの"琥珀"と共通性があるかも?」
レティはそうして手にコロコロと転がせながら思案に耽っていた。
まだ敵が目の前にいながらにしてその態度にローブの男は、隠し持っている小剣を手に持って襲撃をしようとしていた。だが――
「ああ、おじさんの相手はレティじゃないよ?......入ってきていいよ~」
そんなレティの呼びかけに部屋の中に現れたのは、ローブの男が騙し討ちの末に虫の息とした踏破者の5人の男女だった。
「......礼を言うよ、お嬢さん。あ、あんたがまさかあの迷宮主の娘だったなんて......」
その言葉にローブの男はギョっとなる。
今までそんな存在は聞いたことがなかったからだ。
こいつを殺せばと考え付く辺りが帝国人らしいとさえ言えるが、彼は賢いらしく先ほど見た残酷とも言える光景にその気をすぐに消したのだった。
「ああ、いいよいいよ。パパが気に入ったのなら、レティも力貸すだけだからね!」
それは暗に迷宮主に嫌われたら、この子は即自分達に先ほど発揮させたような実力を示すのかと青い顔となった踏破者たちは、言葉をそれ以上紡ぐことはできずに口を噤む。
「あっ......」
「ど、どうした?」
「......ううん。じゃあ奥のおじさんは、まかせるよ」
そうして立ち去ろうとするレティに手前で伸びている青年らしき男はと踏破者が思い問いかけると――
「......もうその"おじさん"なら殺してるから、後で回収班がくるはずだよ」
そんな力が抜けたような言葉とともに、レティは片手でファナを担ぎ上げると扉の前で待機していた足軽に渡して立ち去っていった。
殺した?という言葉に疑問が残るも、踏破者たちはまずは自分たちの復讐だとして各々剣や槍を手にするとローブの男を睨みつけた。
「帝国に利用されるのも今日で終わりだ。俺達は俺達のために生きる!お前とは短い付き合いだったが......ここまでだ!」
そうして、100%の状態らしき踏破者たちの突撃の勢いはローブの男に、何の憂慮も与えぬままにただ立ち尽くすのみで......やがて、本当にあっさりと声なき叫びとともにその命を散らすこととなったのだった。
宿を出たレティは、ため息をつく。
そこへサラリーが近づいて間に合わなかったのかいと問いかけてきた。
「んーん。ファナちゃんは救えたけど......なんとなく......なんとなくだけど」
「?」
「パパが、とても悲しんでいる......そんな感じがしたんだ」
「......」
タクトと血を通して繋がるレティは、すでに迷宮外にいてその繋がりによるタクトの心の機微が感じられない中にあっても彼女の気持ちゆえか女の勘ゆえか、何かを感じている様子だった。
辛そうに下を向くレティにサラリーは言葉をかけてあげることができなかった。
だから――
「......姉さんが羨ましいよ」
「え?」
サラリーは、自らの心境を語った。
それはまるで姉に対して甘えるかのような弟的な表情を浮かべながら。
「僕も......本当を言えば、姉さんみたく血の繋がりによって父さんの気持ちが本当の意味で理解できればいいなって思う時があるんだ。おそらく僕だけじゃないと思うよ?......勘とかそんな力じゃなくて......本当の意味での息子として、ね」
めがねをクイっと上げてそんなことを言って、違うほうへと向き直って立ち去っていくサラリーにレティはなんともいえない気持ちになった。
「そうだよね。サラリーくんも......そして他のみんなもパパのこと好きだもんね」
それなのにこうしてレティだけしか感じられないなんとなくで辛いと思ってちゃいけないと気を取り直したレティは、うん!と一度両手でギュっとするとそのままD.C施設のほうへと歩いていった。
すでにラウンジ内の戦いは、そのレティの手によって終わりを告げていた。
今まで潜伏していた理由――それはタクトとのやり取り後に2人仲良く掛け合いをした後に監視眼に映った小さな違和感。
子供が子供らしくない弧を描く独特の嫌らしい笑みから始まったことによるレティなりの作戦からだったのは決して語られることはない事実である。
こうしてタクト側の......そして、レティ側の帝国による戦いは両方が同じくらいのタイミングで終わりを告げたのだった。




