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第16層「会見と対面」

 度重なる襲撃は、予想以上にこちらへと疲弊をもたらしたかに見えた。

 だが現実は大したことはない。


「影狼――"ダブル・ファング"!」


 そうして突き出されたジャックスの拳は、両方の頭をまるで噛み砕くかのようにして捻られ後に残るのは血を噴出しながら倒れる2人の帝国兵の姿だった。


「これで、ここらへんも終わりか。オーリエちゃんのほうはどうだ?」


 そうしてみると、技を放った後か回りにはところどころに石つぶてを食らって四散する死体の中央でふぅ~と息を吐くオーリエの姿があった。


「終わったヨ?......あ、タクト」


 俺は馬車から一連の攻防を見届けて終わったことを確認すると、近寄って2人にタオルを投げ渡した。なおアベさんは先行する形で先に言っては伏兵相手に恐らく無双しているものと思う。


 生命契約(ライフプロミシズ)によっての特典で位置が把握できることもあってここからだいたい500m先で元気に暴れているのがなんとなく確認できた。


「先行しているアベさんを追うためにも、急がないとな。しかし、延べ2日でもうどれくらいだ?この襲撃劇は」


 迷宮を出てすでに2日が経って、街道を進む毎にエンカウントをする帝国兵たちに辟易とした気持ちが沸いてきた。だが、最初の頃に比べればそれも楽になってくるものだった。


 なんせ、その襲撃してくる帝国兵をこちら側で逆に支配をする形で襲撃させているからに他ならないからだ。

 全員がとはいかないが、相手は有り余るほどとも言えるくらいに沸いて出るので、オーリエたち以外に俺自身へと襲撃をかけてくる者を中心にそうしている。


 迷宮"馬車"内へとおびき寄せて中で、強制的な生命契約(ライフプロミシズ)をかけさえすればあっという間に自分の駒となるのだから楽である。

 俺の場合、初日からまさかのトラウマが発動して汗が滝のように流れたりといった具合だったのであの時は必要以上に苦戦したものだが、あとは問題なくだんだんと慣れていくことができた。


 トラウマというものは、やはり簡単には治らないものだと改めて理解ができた。


 それによって、俺がしていることは自分の襲撃以外はオーリエたちのサポートみたいな感じになっていた。


 夜にも当然襲撃をかけられるが、夜は寝る時間なので基本営業外だと馬車の扉は馬を収容してから閉める。翌朝、不思議にも馬車を破壊できない帝国兵に奇襲する形で逆襲撃をかけたり、彼らの元仲間で俺の駒となった帝国兵をけしかけたりして追っ払うというサイクルができつつもあったので、こちらにとっては大した疲弊を促すようなものではなかった。


 逆に相手はなぜとばかりに違和感を抱えたままの戦闘という状況になるようで、初期の襲撃に比べて今の戦闘には勢いがない状態だ。


 そんな2日ばかりの旅路は、国境前でアベさんと合流して国境の橋をソウリョの裏支配によって順調に通過し、いよいよといっても過言じゃないくらいにあっけなく終局を迎えた。


 目の前に見える大きな砦によって。


 馬車の御者台から見上げるその砦の大きさは、ソウリョによる前情報で得たとおりの20万人くらいは収容できるほどであるという規模の大砦だった。


 ここにかのフェニャの母親がいるのかと俺は、改めて作戦を打ち合わせた。


「さて、じゃあ......出発前の打ち合わせ通りにいくとしますか」


「おう。俺もアレだけ暴れたらもうおかわりはいらないくらいだぜ」


「ガウガウ!」


「......タクト、単身でいくノ?」


 その言葉に俺は、ため息をついて心配そうな目で見下ろすオーリエに言った。


「俺のことなら安心しろって。......おそらく、奴の狙いは俺だろうし、そのために帝国兵も支配してるんだ。3人は何かあった時のために隠れておいてくれよ」


 そうして俺は、支配した帝国兵を先頭に前後を挟む形で砦の門へと歩き出した。


 後ろからは同じ帝国兵が馬車の馬を引き連れる形で自然と付いてきた。


「止まれ!お前達の所属と目的を言え」


 その言葉に先導していた帝国兵は自らの所属と俺と乗っていた馬車を捕らえたと報告をする。


 敬礼とかそんなのはないのかと思っていると、門の前にいた兵がこちらに近寄ってきた。そして――


「......小僧。帝国人の前で頭が高いぞ!」


 そんな言葉を言いながら殴りかかろうとしたので、俺はわざと殴られに行く。

 そうすることでダメージが最小限で済むことを習っていることもあったために対して効かない攻撃を受けながら倒れると帝国兵は頭を蹴ろうと足を振り上げる。


 さすがにそこまでは許容しないぞとこいつも支配するかと思った矢先に、蹴ろうとした帝国兵が下がって跪いた。


 なんだ?と思った瞬間――


 ――ザシュ!


 と、いう音とともに俺の目に蹴ろうとした男が槍のようなもので頭を刺し貫く様子が見えてしまった。


 そして、声が聞こえてくる。


「......下郎は貴様だ。価値を見極めぬものは死んで詫びろ」


 俺を先導していたらしき帝国兵たちも慌てるように跪いたことにピンと着た俺はなるほどと見上げると、そこにはどこか似た感じの顔があった。


 あの時の誘拐事件で俺へと一方的な暴力を加えて愉悦を含んだ表情をしていたバーレンという諜報の男と似ていたのだ。


「あんたが......東南司令とかいう奴か?」


 俺の言葉に気を悪くすることもなく、男はニヤッと笑うと答えた。


「ああ、初めまして。偉大な力を持ちし迷宮主のタクト殿?」


 そういうと、手を出してくるが俺はこんなのと握手をする義理も何もないので、さらっとスルーした。東南司令の男はその態度に気を悪くすることもなく、寧ろ興味深いという目で見つめると話があるのだろうと砦の中へ案内するように手を向けた。


 俺はそれに着いて行くことにする。


 見た目にも大きい砦だと思った中も広大といってもいいほどで、頑丈さのためか厚みのある壁の中は広く空間を持たせており、日本の家屋のようなコンパクトさではない外国の部屋のようにオーバーサイズ的な広さだった。


 この分じゃ、帝国の城なんかどれだけ広いんだろうと思ってしまうのだが、今はそれどころじゃないと不意を突かれぬために周囲に気を配りながらも東南司令の男に着いていった。やがて、一つの大きな扉がある部屋の前に通される。


 広さは、俺が迷宮で使っているパパの部屋とは比べ物にならないほどの広さで

 例えるなら俺の部屋であればテニスコート1面ほどに比べ、この部屋の広さは

 36面くらいはありそうなほどである。もはや、王の謁見の間と呼んでもおかしくはないだろう。それに、置かれているものもゴテゴテと高級品っぽいものなどが置かれていて絨毯に至っては、何かの魔獣の敷物かが敷かれていたのだ。


 その中央に置かれた向かい合わせとなるテーブルとソファへと手で案内されると俺はそこへ腰掛けた。


「飲み物は、何がいい?」


 といわれたので、別になんでもいいと言うと東南司令は書類用の机の上に置かれた小さなベルのようなものを鳴らして侍女を呼ぶと飲み物を持ってくるようにとだけ伝えてこちらに戻って俺の前のソファに腰をかけた。


「......元来、敵だと思っている相手にここまでの接待はありえないんじゃないか?」


「どういうことだ?」


 東南司令は、ここまで襲ってきた帝国兵についてまるで知らぬ存ぜぬとでも言うかのような態度を見せたため、ここで話を続けても無意味だと話を切り替えることにした。


「ま、それはいい。連行されてきたのにこんな風にここのトップの部屋に通されたことを不思議に思っただけだ......それで、俺に何の用だ?」


 その言葉を待っていたかのように、身を前に寄せると語りだした。


「タクト殿、貴様があの森の奥に迷宮を作り、失われて久しい魔法のような力の武器などを生み出しているというのは、こちらの情報でも知っていることだからまず伝えておこう。それで、だ......」


 そうして再び、ソファへと深く座り直すとその目がまるで燃えるかのようにギンギンとさせながら俺に言い放った。


「どうだ?その力、帝国――いや......俺のために使わぬか?」


「ほう......帝国を裏切ると?」


 帝国なんていうのは、みんながみんな行き過ぎた愛国心がありふれ過ぎた結果にああいった横暴が許されているのかと思った。


「別に裏切るとは言っておらん。......利用はするさ」


 利用......ね。


「それで俺も利用すると?」


「はっはっは。......まぁ、そうなるな」


 その本音は俺にとって、なるほどと納得をした。

 あえて本音を隠すことはせずに堂々と言い切るほどに自分に自信があり、また自らの役職という形で結果に反映されたことに対する自負なのだろうとも。


 そして――


「だがな、それはそちらも同じこと。お前も我らを利用すれば、作ったばかりの迷宮を世に知らしめてお前が望むままに迷宮を支配することができるだろうと俺は思う」


 明らかにこいつは、俺の利、そして己の利とを比較してこちらにも利があり自らにも利があるといったことを前提で話す強かさを持っている。


 つまりは、


「俺は迷宮を支配するために帝国を利用することで、入場者を増加させてあんたはあんたでその迷宮を利用することで魔法武器などを手に入れて自らの手にして利権を作る......ってことか?」


 俺の問いに、ふふふふと笑いかけてきた。

 なんだ?こいつが考えそうなことだと思ってのことだったのにというのが表情に出たのだろうか、東南司令は俺へと喜色に富んだ目で答えてきた。


「......利権など、興味はない。俺が欲しいのは......死だ。これからお前の迷宮において挑戦者となるものがどう苦しんで死ぬのか、そしてどういった過程で落ちていったのか......その絶望を知りたいだけだ」


 ......。


 こいつはなんていうか......予想以上の穢れ保持者だと思った。

 どこでどういうことが起こればこんな考え方に行き着くのかまるで理解ができない。人が死ぬことの過程など見て喜ぶなんて快楽殺人者も同然じゃないかとも思った。


 ま、気分良く話してくれそうだしこのまま話しを続けてみよう。


「そうなのか。変わった趣味といいたいところだが......とりあえず聞きたいことがあるんだ」


「......ああ、何でも聞くがいい。情報がなければ取捨選択はできぬだろうからな」


 ――コンコン


 そんな中でノックの音が聞こえて、東南司令が入室を促すと飲み物を持った侍女風の女性がやってきた。それなりに整った容姿ながらも見る限りでは乱暴にされている様子もないため、こいつにはそっちの趣味はないのかと判断した。


 一礼後に立ち去った後に、先立って口をつける東南司令に続く形で俺も飲み物に手を伸ばすと口をつけた。

 その行いに、東南司令はほうとまるで関心するかのように声を出す。


「......先ほどお前が形容した『敵』の出す飲み物を疑いもせずに飲むとはな......さすがだと関心するばかりだ」


 不病効果のためにそういう毒などの状態異常系は効かないからだとは、当然言わない。飲み物は、飲みやすく何やら紅茶っぽい口当たりだった。


 カップを置いて、それでと話始めると俺は聞きたいことを聞いてみた。


「......あんたが俺が知っている男に似ているんだが――」


「ああ、バーレンのことか?奴は俺の弟だ」


 俺の質問終わりを待たずに答えた問いに俺はやっぱりかと納得をした。

 その上で、自分の疑問点を次々と列挙していく。


「バーレンの兄だから、俺の情報が入ってきてそこからここまで連れてこさせるようにと派兵したってことか......。その計画ともいうべきものは、いつから考えられていたんだ?俺の情報はどこまで掴んでいる?......迷宮内に潜伏するネズミもお前の仕業か?」


 それらに東南司令であるバーレンの兄は順番に答えていった。


「ふふふ、計画......計画か。当初から俺はそうは思ってはおらんよ。単純にこれまでの情報と結果を繋げ、そこから導き出した道筋を描いたに過ぎないだけなのだからな」


 結果から?

 そんなところからこんな風に順々に......まるで自動車でも作るかのようなライン工程っぽいことで道が出来上がるのかと疑問に思った。


「影狼が俺たちの追跡を逃れて森へと消えたことに始まり、バーレンが冥府の宝玉を奪い、帝国に反旗を翻す計画からそれが潰える原因となったお前の存在、お前が字を読めないこと、森に消えた影狼がお前とともに森に消えたこと、砦を抜けてお前の森のほうへと逃げたある女と、その女に固執する商人の子飼いの魔物殺しからの情報とまもなくやってきた風変わりな男と小鬼族らしき風貌の亜人、商人が連れ去ろうとしていた女をお前とお前の軍とも言える者たちによる救出......これらの情報を繋げば、どう動けばお前がやってくるか......それが道筋になるとは思えないか?」


 つまり、俺がこの世界にやってきてジャックスが来てからここまでという長い間にもこいつは、あらゆるところから情報を手に入れては俺がここにいたるようなシナリオを順次描いてきたのだろうと、こいつの知の柔軟さと行動力にはただただ関心するばかりであったのは言うまでもないことだった。


「全ては"結果"だ。結果さえ分かれば、そこから相手がどう動くかなどはあらゆる先読みの手を伸ばすことができるといえるだろう。俺はただそれをしただけに過ぎん」


「つまりお前は、おれがここになぜ来たのか分かってたってことか」


「あの狐の亜人の母親を救出するために来たのだろう?......性欲を満たすためだけのその行動は全く理解でき――」


 その言葉が言い終わらないうちに、俺はダンっとテーブルを叩いた。


「俺はあの"犯人"と同じにするな。......お前、死にたいのか?」


 突然の怒りともいうべきその行為をさすがに予想だにしてなかったのか、東南司令は目を見開くように驚くがやがて大笑いをしてきた。


「はっはっは......いや、すまんな。......今まで俺にそんな風に噛み付いた者はいなかったのだ。先の言もまぁ、許せ」


 なるほどと俺をまた興味深げに見ては頷く東南司令。

 俺も俺で、何をこんなことでテンションをあげてるんだと恥に思いながらも、ソファに座りなおして冷静さを取り戻した。


「......それで、そこまで話したからにはという感じか?」


「改めてお前には色々な意味で価値があると判断した。俺に協力すれば、お前の望む何物もくれてやってもいい」


 価値がある......か。


「価値があるってのはあれだな、人としてじゃなく物として......だろうな」


 俺の問いに何がおかしかったのか、急にその眼差しを変化させた東南司令の男は、


「ふっ。使われる自分を人だと......人であると本気で思っているのか?」


 といった言葉とともに見下すかのような目を向けてきたのだ。

 不快とも言えるそれを無視して、俺も相手を睨むようにして見つめて問い返す。


「どういう意味だ?」


 俺の問いに答えることはなく、立ち上がって窓付のガラスに立てかけられた屏風が置かれた場所へと向かうとこう告げた。


「価値はあるが、あくまでお前は人だと......あの傭兵長のクズと同じことをのたまうか。......大人しく首を縦に振ればいいものを」


 そして――建てかけてある屏風のようなものを倒すことで取り払うとそこには、俺も驚愕する光景が広がっていた。


 ある男は全身におびただしい傷を残し、ある女は服を鞭で切り裂かれたかのようにして、ある小人族の男は......半ば瀕死とも言えるほどの拷問を受けたかのような状態だったからだ。


 そこにいたのは、帝国側へと赴いて情報収集をしていたソウリョ、チャシブ......そして、故郷へと向かっていたはずのアラーネの姿だった。

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