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第15層「迷宮内外の襲撃戦」

 

「じゃ、いってくる」


 その一言を呟いて、アベさん、ジャックス、オーリエを伴い馬車に乗って砦を目指した3時間後くらい経った頃、どこに隠れていたのか街道を塞ぐ形で唐突に現れたのは、軍勢とも言えるきちんと装備をした集団だった。


「......いってきますからの展開が異常に早いな、おい」


「あの"野郎"だったら考えられたことだぜ、だからこそ俺も少しは人員を費やしたほうがいいと提案したんだ」


「......ああ、知り合いなのか?」


「まぁな」


 どうやら相手の親玉――東南司令らしい男とジャックスは知り合いらしい。


「奴はとにかく、めちゃくちゃだからな。俺が仲良くしていたとある傭兵団の元団長も誘いに乗らなかったからってんで、裏で暗殺をしたってくらいだ」


 俺は、その言葉にふとジャックスのほうを見る。


「もしかして......」


 ジャックスはその言葉に、ため息とともにああそうだと呟くと、


「......あのファナとかいうちみっこい娘は知ってたぜ。よくあいつの周りをうろうろしてたからな」


 そんなことを言ってどこか遠く――いや、今囲まれている帝国軍たちを見据えた。そして、目の色を変えると俺のほうに振り返った。


「......そんなわけでよ、俺も久々に"影狼"復活だ」


 薄紫の毛皮はどこかゆらりと揺れるかのような感じに見えた今のジャックスは、俺が安易に脛を蹴ることも、ましてやいじることも出来ぬ雰囲気をかもし出していた。


 自らの一族に伝わるという俺達の改良式牙闘具・所虎羅を握り締め、自分の尻尾の仕込みを確かめたジャックスは先に出ると告げる。


「ここは、俺の好きにさせてもらうぜ。お前らが作ってくれたこのジャケットのおかげで、体が羽のように軽いしよ......これで帝国への個人的な復讐の一部を果たせらぁ」


「ま、あんまり無理すんなよ。あの時に決めた"俺達のスタンス"を守ってくれ」


「ああ」


 そうして続くように2人が外に出る。


「ガウ」


「......タクト、迷宮馬車内なら大丈夫だよネ?」


「こっちはな。......見たところ、数千人という規模でソウリョから聞いた砦の収容人数から考えれば序盤戦とも言える闘いだ。あんまり飛ばさないようにな」


 俺の言葉に3人はそれぞれ頷いて外に駆け出していった。


 やがて轟くのは、見た目が立派な装備に身を固めた者たちの一方的な蹂躙による阿鼻叫喚といった叫び声と悲鳴などであった。


「さて、俺は中で待たせてもらうか」


 馬車の扉は、もちろんわざと開けておく。

 こうしなければ罠とは言えないからだ。


 始まった序盤戦に俺は、そういえばとあることを思い出すが今は闘いに集中だとして扉のほうから入ってくる気配に集中することにした。




 * * * * *




 一方、その頃。


「オラァ!今なら、迷宮主もいねぇんだ!帝国からは、強奪した財貨は俺達の物になるってお墨付きがある!ラウンジ内のものを根こそぎ奪え~!」


 と、言う掛け声とともにある傭兵たちの合図とともにラウンジ内では傭兵による襲撃が起きていた。ところどころから響く悲鳴の数々に、ラウンジ内という閉鎖的な場所で抑圧をされた傭兵――にしてはとても高品質な装備に身を包む一団とそれに連携するように集まっていた者たちが暴れていた。


 水路工事をしていたもの――奴隷たちを背中から斬りつける者、女の奴隷であれば押し倒して犯そうとする者などとその人族たちの本性ともいうべきものは形となって現れた。


 ――ザシュ!


 そんな女の奴隷に跨った男に生えた剣の刃は、胸を貫通させるとまるで回すように抉られて抜き取られた。力を失い絶命しながら倒れる男に一瞥するのは、奴隷の中でも元傭兵によって鍛えられたためか決して年には合わない武芸を披露するファナの怒りの目だった。


「大丈夫?」


「ファ、ファナちゃん......ありがとう」


「早く、避難先に向かって!ここは私が抑えとくから」


 そうして不意打ちだろうか、後ろから襲ってきた男たちの剣を読んだかのようにファナは受けるのではなく、受け流すように体を捻りながらも空中で腰に差した短剣を左手で持つと、体勢を整えて隙となっていた鎧の継ぎ目に当たる脇腹へと正確に刺し貫いた。


 ぐわ~と激痛に襲われる男を一瞥することなく、前回りをした後に右手の剣で首を掻っ切ると、動きで阻害されて攻撃ができなかった男へ向けて続けて短剣を投げつけた。


 相手の目へと正確に吸い込まれた短剣は、脳へと到達して一瞬痙攣をした男はそのまま後ろへと倒れた。


 早業というのもおこがましいその動きに、鍛錬だけではない彼女の才能すらも感じさせる何かが垣間見えていた。


「ぐわ!」


 背中を一刀両断されて左右に分かれて倒れる男の気配に気付き、その後ろからそれ以上の気配を持つ男が話しかけてきた。


「......さすが、父上にその腕を認められ剣を贈られた奴隷の戦士・ファナ殿だな、それがし感服仕った」


 そうして近づいてきたのは、この迷宮というよりも全警備歩兵、全歩兵軍の責任者ともいうべきブシドウというタクトの子供だった。


「......ブシドウ様、一体これは......?」


「......おそらくだが、帝国側からの襲撃であろう。それも、これほど隠匿しての行動ということは相当な計画が裏で動いていたフシにあると見える」


 そうですかとファナは言うと、改めてタクトから送られた剣を握り締めて――


「私はタクト様に全てを捧げた奴隷です。ブシドウ様、ここは私にまかせてあなた様は他のところをお願いします!」


「うむ、ではここはそこもとにまかせる。......そこもとの、父上の忠義は後ほど父上自身に報告をいたそう!」


 そして、ブシドウはやがてそれなりの速度でその場を去ると居住区のほうへと向かっていった。


 周囲には、斬られた奴隷の姿などが点在していてファナの心境的にも辛いものが宿り、そういえばアルムは?と周りを振り返るが、そういえば今日は非番で休みだったと今頃はきっと避難所にいるだろうとあたりをつけて、今はラウンジを防衛するためと今一度心を鬼にして、周囲にいる傭兵と言うにはどこか違和感のある者たちへと闘いを挑んでいくのだった。




 * * * * *




 同時刻――


 迷宮の森でも、いたるところで闘いが始まっていた。


 迷宮軍の警邏隊総長のプー、そしてその下にあたる警邏隊長のレディースはその機動力を駆使して森へと外からやってきたものたちを各々の軍によって駆逐していく中、公道工事を行っていた奴隷やダイクの部下、そして竜爺にいたるまで無理やりともいうべき闘いに身を置く立場にあった。


 一見、劣勢に見えるかとも言える攻防はタクトの予想外ともいうべき作業員のおかげで事なきを得ていた。なぜなら――



「な、なぜ竜族がこんなところへ......ぎゃあああああ」


「ほっほっほ。......アホじゃのう。なぜじゃと?仕事をしていたからじゃよ。......ああ、もう聞こえなんだか」


 そうして当たり前のように巨大化した純土単色の地竜で"古株"な竜爺がいて、誰も手出しをすることはできなかったからである。


 そんな竜爺の影に隠れる形でいた奴隷たちは、


「すげー、竜爺。見直したぜ!」


「た、戦えたんですね!これで安心です!」


「お前さんらは、都合がいい時にはそうしおってからに......どれ」


 そう言うと、竜爺は息を吸い込むと――


「あのタク坊がくれた"これ"があればお前さんらでも戦えるじゃろう」


 そう呟き、石の息吹を周囲にいる傭兵やら、魔物殺しやら、見慣れぬ軍服に身を包む者たちへと向かって吹きかけた。


 飛び出した石は手当たり次第にぶつかっていき、やがて静かになった光景に奴隷達は嬉々として手に持った鍬や斧などを持って歓声を上げた。


「ほれ、とっとと"狩る"んじゃよ。わしは直接手は出さぬ」


 竜爺の呟きに奴隷達は、個々に帝国側にやられた恨みを晴らすように静かになったモノたちへと逆に襲い掛かっていった。


 そんな中で竜爺は呟く。


「しかし、わしの存在に気づかなんだとはのう......タク坊の獲物というのは相当な間抜けと見えるのう」


 呟きは風に溶けるようにやがて敵側の悲鳴などと重なるように溶けていくのだった。




 * * * * *




 森の外で街道襲撃にあったタクトたち。


 ラウンジ内、そして森の内で襲撃を受けた迷宮に属するものたちとは別に襲撃を受ける者たちがいた。


「がはっ!」


 とある傭兵――それも、迷宮攻略をして結果を帝国に報告する役についていた10層を初めて攻略し踏破者とタクトに呼ばれた一団の男の仲間が背中に、足にと同時に受けた斬撃により倒れた。


「アゼス!......貴様、ローブで素顔をずっと隠してて怪しいとは思ったが......やっぱり帝国の!」


 斬りつけたローブの男へと睨むように怒りを露にした踏破者の男は、剣を構えた。


 ローブの男は、奥に隠れた目を喜色に染めて口を開く。


「......お前たちも元はといえば帝国へと下った身だろう?なぜ、帝国のと激高をする?......忠誠を誓った帝国に、な」


 その言葉に踏破者の男は、けっ!と言って構えを解くことなく反論した。


「......あれが、俺の家族やアゼスやラミヌ、エセベル、ゲブルの家族までも人質にとったかのようなあれが!......忠誠を誓わせる行為だと!? ふざけるな!!」


 そんな怒声は通じぬとばかりに、ローブの男は嫌らしく口を曲げると――


「所詮、亡国の兵などは使われて当然の立場。戦に負けるとはそういうものだと早々に理解しておればお前達もあのお方のお傍に仕えることができたものをな」


「あ、あんな......人族を実験動物とかなんとかにしか思ってないような奴に使われるなんてまっぴらごめんだ!」


 そうして、激高したまま踏破者の男は剣を深めに持ちながらさすがはガンツ=オーガを倒したパーティの実力をと自慢ができるほどの動きでローブの男へと迫った。だが――


 ――キンッ!


「ぐわっ」


 ローブの男の暗器とも言える隠された細長い小剣にうまくいなされると、心臓のある位置へ寸分違わぬ突きを食らって倒れ伏した。


「貴様の腕は認めるところだが......残念だったな。冷静であれば良い闘いになりそうなものを今のお前ではそうならなかった。くっくっく、安心しろ。ここを制圧後にお前達の家族をお前と同じように殺してやる」


 そうして止めを刺すこともなく、もうすでに瀕死に近い5人のパーティを尻目にローブの男は去っていった。まるで、死の間際にあって地獄を見ておけとでもいうかのように。


 その場に倒れ伏した踏破者の男は、悔し涙を浮かべながらかつてタクトが放った『頑張ってくれ』という言葉をなぜか思い出して、さらに家族のことを思い出しながら込み上げる悔しさがやがて薄れていくかのようにゆっくりとまぶたを閉じ、意識を失っていくのだった。


 内外における襲撃戦は、その後も2日ほどと時間が経つにつれいずれの勢力のいずれの場所などによってそれぞれ状況が変わっていく。

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