第8層「vsドラゴン爺さん」
――ドパン!
戦いを始めた俺達の下に、公道のために全員じゃない迷宮軍の羽織をつけた子供たちがやってきた。
その中の機動隊にあたるプーの水鉄砲の音が空洞内に響き渡る。
しかし――
「ほっほっほ、効かぬな」
一応俺のゲーム知識に当てはめた『土属性は水属性に弱い』を参考にした攻撃もむなしくその硬い土色の鱗に阻まれた。
見上げるほどに大きいドラゴンは、それらの攻撃を受けつつも自らの大きな口にてまたあの息吹を繰り出してきた。
「"ギュウ"ホルモン――腸包」
俺の前で赤い特攻服を着たレディースがそう言うと、手から溢れたピンクのホルモンが俺達の前にまるで肉壁のように包み込むとそれらの弾力性に富んだ物なのか、はじくようにブヨンブヨンと大小の石を弾き飛ばしていた。
「あ~し(私)に飛んで来た"球"は超意味ないしぃ――とっ!」
単体じゃ攻撃に向かないギャルコは、息吹によって飛んできた石をまるでサッカーボールのように胸元でトラップしては、ふとももを使ってリフティングをしては逆に蹴り返すことによって被害はそれなりに軽微といった感じだった。
「テメェ~~~~オヤジに手ぇあげやがって~~~~!」
そんな中でも、先ほどからひたすら突進を繰り返しつつ血をわざと流血させながら、相手に吸収させることをしていた羽織と白いサラシのヤンキーが木刀片手にまた突撃を行っていた。だが――
「ほっほっほ~。竜の鱗を舐めるんじゃないのぅ~......お前さんらの肌と違う鱗はこうも使えるんじゃよ」
そうして土色から深い茶色へと変質した右腕の大きな前足は、土くれを生み出すとドラゴン爺さんの呟きに反応した。
「竜脈――土竜召喚」
みるみる姿を変えたその土くれは、体長50cmほどの竜の姿へと変わってはヤンキーへと襲い掛かった。
「ぐわあ!く、くそ~~~~土の分際でぇ~!」
生み出された竜の鉤爪によって攻撃を繰り出されて悔しそうに憤るヤンキーの様子に俺は、なんでもありだなと思う反面――子供の中でも武闘派でいの一番に駆けつけたプー、ヤンキー、レディースに最初からいるブシドウ、護衛役のジャックスやオーリエを足してもまだ互角には及ばないドラゴン爺さんの実力に戦々恐々とした思いを宿していた。
ヤンキーとは、対をなす形のホルモンを操るレディースも先のヤンキーと同様に吸収されずにいるため、俺の指示によって下がって防衛に徹している。
前衛にあたる者たち――オーリエとジャックスは間髪いれずに、様々な攻撃をしてくるドラゴン爺さんを相手にオーリエは盾で凌いでは大剣で攻撃を加えるが、カキンと乾いた音を響かせる硬い鱗はその攻撃を通じさせない。ジャックスはジャックスで、目などいくらドラゴンでも弱点になりうるであろう柔らかい部分を中心にヒットアンドアウェイを繰り返していたが、目立った効果はあげられていない。
その間にも、俺のほうでは折り紙であらゆる支援攻撃などを行っているにも関わらず全然効いていなかった。
これがドラゴンかとこれまで迷宮空間外であっても、比較的相手を一方的に仕留められていた俺達の優位性を崩壊させるかのような状態に陥っているのが現状であった。
そして今やっている最終手段も、である。
("お、おい!......迷宮化させて動き封じるとかできねぇのかよ!")
("さっきから試しちゃいるが、あの爺さん......俺が発動させようというタイミングに限ってこっちへ攻撃を仕掛けてくるんだ!")
ずるい気もするが、ここは迷宮創造の条件にも合っているからと発動させようとするが、待ってましたとばかりにあの石の息吹がくるので、防衛の中にあっても集中をすることが出来ずにいた。
狙ったタイミングというか、発動をさせようとするちょうどいい感覚に疑問が残る。
俺の力を知っているのじゃないかと。
色々と切羽詰る状況にある中、唯一救われているのは爺さんのほうが殺す気できていないことだ。
なぜそれに気づいたかと言えば、恐らくこれが殺す気の攻撃などであれば、今頃ヤンキーなどの配下魔獣たちはその姿すら消し去ってしまうほどだろうと予想できるくらいの軽傷で済んでいるからに他ならない。
戦いには死人が必ず出る――出ないにしても、重傷者くらいはでてもいいのに軽傷なのだ。
これで本気じゃないと気づかないというのはありえないだろう。
手を抜かれてながらもこの失態は、今後の迷宮運営の防衛における考えの見直しに一石を投じることになるとは思わなかった。
だが、今はそんなことを考えているときじゃないとまた再度試そうとするが、
――ヒュヒュヒュヒュ!
軽い音とともに先ほどとは違って拳大の石がこちらへと襲い掛かってくる。
ギャルコの力"トラップ"や、レディースのホルモン壁、俺の事前に折っておいた兜によって凌いではいるが、細かくできた隙間から石の破片などが食い破ってくるので、石の息吹は地味にこちらへと被害を与えてくるから困ったものだった。
「......やっぱりか。だけど、どうして分かったんだ?」
ドラゴンにおける特殊能力なのか分からないが、試す他はないなと俺はやろうとするフリをしてみる。
すると、やはり石の息吹による攻撃がこちらへとやってきた。
「発動に反応をしていない......か。――つまりは、動作のみで何をするかをみているわけか?」
発動の際に出る光は、現在じゃ不可視も可能な上にドラゴンにはそんなのは通じないと言う懸念もあるが......やろうというフリだけでこちらへと攻撃がくるというのであれば対処もできるというものである。
俺としては、その後が怖いところだが......こればっかりは仕方ない。
そうして俺はこそっとポーチから指輪を取り出して、指に嵌めた。
これには反応はしなかった。
それならば――
("迷宮輪を使うぞ")
("タクト、......それは危ないんジャ?")
("オーリエちゃんの言うとおりだぜ。さすがに、リスクが高いんじゃねぇか?")
アラーネを救う時と、迷宮軍の遠征における距離短縮のために迷宮"馬車"から力を借りる形で発動させた集団転移など俺への負担を考えれば懸念も分かるが、それどころじゃない現状ではやるしかないだろう。
「......ま、こういう時くらい責任者としては自分の命を削ってでも守らなきゃな」
念話じゃない、呟きをするとジャックスたちに念話で伝える。
("いいか?タイミングを合わせろ。発動したら――")
そうして俺は、自分の作戦を伝えた。
("おめぇってやつは、相当な罰当たりだぜ")
("タクトのために頑張るヨ?")
各々の返しに苦笑いを浮かべながらも、相手に一矢報いるにはこうしたほうがいいとして改めて相手を見つめた。
子供たちが戦っている中にあっても、余裕すら感じさせるドラゴン爺さんに一泡を吹かせるには言いと思える自信が俺にはあった。
ただ、俺はこれからのことに耐えればいいだけなのだから。
そうして羽織の通信を使ってジャックスたちへの作戦とは別の指示をした。
("ほっほっほ~、何か考えておるようじゃのぅ~")
("......テメェ、オヤジを舐めすぎだぜ!")
そんなやり取りをしているのを羽織越しに聞いた俺は、ヤンキーにしてはいいセリフを知っているなと関心するとともに集中をした。
この空間内の全てを自身に認識させられるように、その一点で......。
やがて視認以外の感覚が額のほうに寄り集まるかのようにしてイメージを膨らませていった。そして――
「迷宮空間 "ゾーンバインド"!」
俺の発動キーに嵌めた指輪から光が漏れる。
それは5m、10m、100mと一瞬にして広がりを見せた。
爺さんもまさかそんなものがあるとは思ってなかったのか、慌ててこちらへと息吹を吹きかけようとするがあらかじめ決められていたタイミングによってレディースのホルモン壁にヤンキーの血液で目一杯補強させたそれのおかげで、こちらに届く時にはそのほとんどが大したことのない威力に軽減されるのみだった。
俺の中から膨大な魔力が減る感覚とともに、力が抜ける感覚という独特の酩酊感に襲われながらも視認し認識をした範囲へと赤い煙のもやが指輪から飛び出るように噴出していった。
それはドラゴン爺さんをも飲み込む勢いで広がりを見せるとやがて、固定化されるかのようにその場に停滞を見せた。俺はやりきった思いとともに体を倒れさせる。意識を保つのに精一杯で体の自重は支えられなかった。
("な、なんじゃこのもやは......聞いておらなんだが")
という呟きがヤンキーの羽織を通じて聞こえてくるが、今はそれどころではないと集中するのみで次のタイミングを待つ。
やがて、こちらへと向かってきたプーがじっと一瞥した後に
「......ホントにいいの?乗って」
「ああ、構わない」
足技だけじゃない力――乗り物と認識すればたとえ人だろうと、乗って"操作"ができるプーの力はこういう時に役に立つ。
倒れた俺の背に跨るようにプーは乗ると、足を使って発動させた。
「騎乗"タクト"」
すると、足からぼんやりと光が漏れると俺を包むように纏わりついた。
俺の体は自動的に四つんばいとなってプーに操作されて進みだした。
「ピンポン玉を口にくわえたら間違いなく変態の域だな、これは」
そんな屈辱的な感じのままに、俺自身は動かせない体をプーによって操作させるとあちらも何か自分への狙いがあるのかと近寄らせないように石の息吹、土くれでできた土竜などを集中的にこちらへと仕掛けてきた。
だが、それもこちらの狙いだ。
分散されればおのおの対処せねばならないが、一点集中をさせれば負荷はかかるが対処は分散よりも対処しやすい。
「オーリエの姐さん!イクよ!」
と言い放ったレディースは、目一杯自身に貯めていたホルモンをオーリエの盾に向かって解き放つ。成長の要素を持つホルモンは次第に増殖をしては盾にコケのように張り付かせた。
「こっちもいくぜぇぇぇ!」
土くれ土竜によって、ギリギリな血液量しか持ってないヤンキーも根性を見せて自分の血をオーリエの盾へと流していった。
それが次第に循環するように合わさると、事前に準備していたオーリエの持つ大盾が成長してやがて10cmほどの厚みを誇る面ではない点防御に特化した大盾へと変わった。
それを苦もなく持ち上げて走るオーリエは、俺へとやってくる爺さんの総攻撃を受け流したり、受け止めたりとしながら護衛をしてくれていた。
普段であれば、俺はおそらくステーキの脂身シールドとでもいいそうなそれはホルモンの柔軟性によって衝撃に強く、また鉤爪なども埋まらせるだけ埋まらせて取れないような仕組みになっているようだった。
オーリエの護衛も受けて接近に成功した俺は、ジャックスが待ち受ける地点でプーから操作を解除させられるとともにプーの絶妙な蹴り出しで先へと飛んで行った。尻に襲いくる激痛は今は気にしないで置こう。
ジャックスに何かあるのかと爺さんのほうは自らの足元にいるジャックスを自分の前足で攻撃しようとするが、さすがに素早さじゃ叶うはずもなく軽々と回避していた。そして、ジャックスが動かない俺を担ぎ上げると素早く爺さんの後方へと移動していった。
「......まったく、こんなになるまでやらんでも降参すりゃいいのによぉ」
「うるさい。たとえ、好きなドラゴンであっても勝負を挑まれたら知恵を使って攻略するのが礼儀だ」
「......攻略、ねぇ」
そんなやり取りの中も懐で地を踏み鳴らしたり、前足や土くれ土竜の襲撃を受けるが素早さを生かした対処、動き、現在一時的な迷宮空間下にあるここではそれらも意味はないことだった。だが、これも時間制限がある。
もうすでに意識の大半がないも同然なのだ。
だからこそ、ジャックスは俺が意識を飛ばさないようにとくだらない話を振り続けているのだろうと思えた。
そしてジャックスは俺の体を、目的地である絶対に動かない後ろ足に密着させるように横たえた。
「着いたぞ。おい、大丈夫か?」
「......あ、ああ......やべ、一瞬危なかった......。よし、いくぞ......意識飛んだ後は頼むぞ......」
「この場にいる者たち全員、そして羽織越しに外で聞いているやつもいるからな。これ以上にない恥辱だぜ......あ、なんか俺まで悲しくなってきた」
そういえば、ジャックスは第一号だったっけなと一瞬思ったが気を取り直して俺は発動させた。
「生命契約"レベル1"――命令する!爺さんのどうしても隠したい恥ずかしい過去をこの場で大声で伝えろ!」
残りかすともいえる魔力を全てつぎ込んで生命契約を発動させるとともに一瞬にして、効果のあったそれは結果として大音量の爺さんの声とともに部屋ともいえる空洞内へと響き渡った。
物理的に攻撃が効かないのならば、精神的にという俺の作戦はこうして実行され、後に残るのは静寂とその後の"全員"からの白い目と爺さんの恥を意味する咆哮のみだったのは言うまでもない。
「じ、爺さん.....さすがにそれは......」
そんな呟きは響くことなく、やがて俺の意識は遠く遠くなっていく。
勝負に負けて、結果に勝った俺達と爺さんの戦いはこうして幕を閉じたのだ。




