第7層「ドラゴン爺さん」
「んぐんぐんぐ............っぷはぁ~~~~酒はうまいのぅ~」
俺が差し入れた酒を飲むじいさんは、そんなことを言いながらまた酒を煽った。
出会ったばかりのあの時の緊張感を返して欲しいものである。
あの後、睥睨する眼差しから戦闘かと思われた空気は一気に弛緩して、巨大土色のドラゴンはペッと自ら加えていた巨大なリスを放ち、甘噛みをされていたらしいそのリスの獣はキュッキュッといってそのドラゴンに傅いた。
ドラゴンはドラゴンで、いきなり光ったかと思うと人の――それも老人のような姿となってお前さん酒は持っておらんか?と話しかけてくる始末だった。
俺はさすがにドラゴンに失礼な態度は取れないし、俺がゲームで一番好きなものということもあったので、羽織の通信を使ってギャルコに酒を持ってこさせることにしたのだ。
そして、今の光景である。
「今、目の前にいるのがあのカッコいいドラゴンだとは思えないよな」
「......お前はバカか!?何をそんな暢気にやり取りしてやがるんだ!」
といって、ジャックスは憤慨する姿を見せていた。
なんだろう、獣頭族とドラゴンは仲が悪いのかと疑問に思った。
「い、1色系純土色――それも竜族に属する相手だぞ......敬意を持ってこそ接するべき相手なお方にお前ってやつは......ハァ~......」
「ほう、お前さんまだまだ若いと見受けるに"色位"を知っておるとはのぅ~」
色位?
ここにきてまたなんか新たな単語を知った気分だ。
「その色位ってのはなんなんだ?じいさん」
「ほっほっほ~。お前さんは逆に知らなさ過ぎじゃし、態度も若いのぅ。ま、"黒と白の方"はいつでもそんな風じゃったがのぅ」
そうしてある種の区切りとも言える酒を煽ると、ぷはぁ~と酒の気を飛ばしつつも話し始めた。
「色位とはな、この世界を作りし"あのお方"が定めた色による潜在的な支配格というものじゃ」
「あのお方?」
「この世界の創造主じゃよ」
「創造主......」
そうして語られるものは想像以上に、俺に衝撃を与えた。
金・銀・銅の最上位種、三原色である赤、黄、青の中位種、そして下位種はそれぞれの2色性、3色性からなるという色位のカラクリから始まるその考えは紛れもなく俺が元いた世界とまんま同じでそれもあの会議の場で聞いた1色性、2色性という等級のようなものまですでに世界の始まりにあって明確に存在した数の原点だったからである。
あっちの常識で言えば、人の歴史が始まる時はまず象形文字のような感じになるのだが、この世界じゃ最初から数えが1,2,3という俺に馴染み深い数えで統一されているということだ。
「その考えで言えば、おぬしの髪を見ればおそらくあの方と同じく、異世界から来たと言えるがのぅ」
「......やっぱりか」
と、俺はため息とともに爺さんの傍に座った。
白色は全然分からないが、黒色ということは黒人か、俺達みたいな黒髪のアジア人になる。そいつが日本人かどうかは別としてそこまで判断できれば現代人がこの世界を作った痕跡というのが分かる気がした。
この部屋は色々な宝石やらどこぞの裕福な王族が必死に財宝を作り上げたかのようにキラキラして落ち着かないので、ポーチからお手製のサングラスをかけると、俺は俺側の事情である迷宮のことを語ることにした。
「迷宮か。......金のということは、『管理者』か。なるほどのぅ~」
何やら納得した様子の爺さんに改めて聞いてみる。
「レティーナ様を知っているのか?」
「誰じゃ?それは」
「俺をこちらに連れてきてくれた俺の女神様だ」
「ほっほっほ、知らぬよ」
「し、知らないのか」
「知らんでも、金の言葉で大体分かるのが色位というものじゃよ。金は管理者、銀は次にあたるモノ、銅は――わしも見たことはないが、恐らくそれに類するほどの力は持っておるじゃろう」
銀というフレーズにチラっとアベさんのほうを見ると、語らずといった具合で黙って爺さんを見つめている。そんな視線に爺さんも気づいたのだろう、ほっほっほと笑うとアベさんに向けてこう言った。
「安心せい。......語らぬよ」
その短い一言にアベさんは何やらふぅっと息を抜くかのようにして、俺に向けて熊手を上げて危険はなさそうだから戻って作業を手伝ってくるとその場を去っていった。
銀毛を持つアベさんに俺は、声を出して引き止めてあらゆることを聞きたい気分だが爺さんの語らぬよという一言によって口を噤んでしまう。
味方であるならば、ベラベラと語らせるよりも自ら望んで語るまでは置いたほうがいいと自然に思えてしまったのだ。
「うむ。良き者と"番った"のう、で......なんじゃったかのう~ああ、色位か」
そうして酒を煽ってまたぷはぁ~と酒の息をこちらに届かせる。
「3色人族について知っておって、お前さんが異世界から来たというのであれば、あのお方の同郷と考えてお前さんの常識を当てはめればあらゆることに納得するはずじゃよ」
俺のいた世界に当てはめて......か。
授業で習った昔の日本で『冠位十二階』っていうランク付けをしていたと聞いたことがある。聖徳太子が定めたとか曽我馬子が定めたとかっていう話だ。
そういえば、俺達が授業で習った"乙巳の変"は、親父の世代じゃ大化の改新と一括りに教えられたってショックを受けてたっけ。
ま、今はそれはどうでもいい。
そんな冠位十二階のような色分けすらも明確な数字と同じように歴史の始まりから決められたとするならば、ますます現代の考えであることは明白だった。
「レティーナ様が言うには、もう創造主はいないってことだけど......」
「あぁ、気配を感じぬからおらんじゃろうな。ま、あの方はとにかく人見知りだったお方じゃから、どこぞでまた引き篭もっておられるかもしれんがの」
人見知りで、引き篭もりか。
俺は人見知りではないが、引き篭もりという点では同じだとなんとなく類似性を感じた。
「ほっほっほ。ま、お前さんが会う事はないじゃろうから気にせんでもええわい。それよりも、迷宮創造を生業とするお前さんらがここに来た理由は一体何じゃのう?」
「あ、そうか」
目的をまだ話していなかった。
どうも俺は気になることができると、そちらを優先したがるな。
「目的は鉱脈探索をして鉄を産出することだよ。迷宮ってのはいわば、罠みたいなものだから間引くための餌を作るのに必要だからね。鉄とかは」
「ほっほっほ。なんとも、同じ血を持っておるのに残酷なことじゃのぅ」
残酷なことか。
「血は関係ないよ。......俺にとっては俺にとっての味方以外は全て獲物だからな」
「......"獲物"か」
その一言を呟くと、酒の入ったグラスを巨大なリスの獣に渡して離れさせた。
そして――
「あのお方よりも随分過激な考えをする異世界のモノじゃな」
ゴキゴキと肩を馴らして立ち上がると、ほっほっほと笑いかけてその姿をいきなりドラゴンの姿へと変化させた。
「ならば、おぬしの言う"獲物"がわしの縄張りに入ってきたと今のわしの視点ではいえるのぅ」
そんな突然のことに対処が遅れて、するどい前足の爪の一撃を受けそうになるも咄嗟に羽織に紙装甲をつけていたことが幸いして切り裂かれることなく後ろへと吹き飛ばされるに留まった。
だが、その衝撃は相当なもので象がサッカーボールを蹴る"鈍足さ"とはうらはらに感じる速度の違和感と衝撃の恐ろしさの別をまざまざと見せ付けるかのような思いを感じることとなった。
「ほっほっほ、避けるのはうまいのぅ。ならば――」
そうしてこちらが戦闘態勢に映る前に、ドラゴン化した爺さんは後ろ足を僅かに挙げて呟いた。
「竜地馴」
空洞の地に足を踏み込むと、それはほんの少しの衝撃とともにまるで地震かとでもいうような揺れが襲ってきたのだ。
グラグラではない、ガクンガクンとするそこへ間髪も要れずにドラゴンの爺さんは大きく口を開ける。
「く、くそ......不意打ちからのドラゴンブレスとか!」
と、言うのが早いか後か口から大きな石が断続的に吐き出されてきた。
竜の息吹――それも土色という見た目からそういった類の息吹だと思ったが、まさか石を吐き出してくるとはと横薙ぎの雨のように襲ってくる断続的なその息吹になすすべもなくあらゆるところへとそれらが当たってきた。
先ほどまでのんびりと酒を飲みながら喋っていた空気はすでになく、奇襲とも言えるそれに誰も――ジャックスでさえも対応はできずにやられていく。
たったの2撃でというその結果は、あらゆるところに激痛が走り、頭がぐわんぐわんとする中でさすがはドラゴンと捉えるべきか、これこそドラゴンかと考えるべきかと考えが分かれた。
「なんじゃ、全然だめだめじゃな?ほれ、相手は図体がでかいただの竜じゃぞ?もっと積極的に攻撃してこんかい」
と言って煽るドラゴンの爺さんだが、ただのドラゴンじゃないことは一目瞭然だ。
あの地震にも何かの効果があったのか三半規管がやられて満足に起き上がることもできないくらいだし。
だが、そんな中にあっても、褐色の肌のいたるところにあの石を受けてじっとりと血を流しているオーリエだけが立ち上がり、変衣させると俺の前に庇うかのように立ちはだかった。
「タクト......守るヨ」
「......オーリエ」
情けないと感じた俺は、懸命に頭を大地に打ちつけて額が切れて血を垂れ流しながらも強引に三半規管の機能を戻して立ち上がる。
「わ、悪い。不意打ちとはいえここまで一方的とは思わずに警戒も解かせてしまって」
「んーん。......ジャックスも、私も警戒してたヨ?」
そ、そうだったのか。
ということは俺だけが全くの無警戒状態だったのかと己の楽天さに呆れるよりも怒りが沸いてくる感じがした。
「さ、さすがに俺もあれにゃあビビるぜ......さすが竜族、しかもありゃ古株だ」
ジャックスもジャックスで、あの地震と石の息吹によってダメージを受ける中立ち上がってこちらへと合流をした。
「父上......あの竜は相当でする」
「マジ、ただ酒持ってきたってのに~こんな展開聞いてないんだけどぉ~」
じっと成り行きを見守っていたブシドウも酒を持ってきただけのギャルコも、さすがにいきなりのことに対応できずにいたせいかいたるところに傷を作っていた。
「......ま、あの爺さんなりの警告だと思えばいいさ。さすがにダメージがでかいけど、ともかく反撃だ。たしかにあの爺さんが言っている通りここはあの爺さんの縄張りとも言える場所にやってきた......迷宮でいえば侵入者だからな。すごく合理的だ」
同じく、相手の土俵で戦わずに不意打ちというやり方も卑怯だとは思わない。たとえ、どんなやり方であれ侵入者を排除するのが縄張りを持つ者の使命なのだ。
「なんていうか、色々学ばせてもらって悪いが俺達も抵抗させてもらうぞ!爺さん」
「ほっほっほ~、その意気じゃよ!さぁ、かかってくるがよい!」
そうして冒頭の暢気な茶飲み話的な流れから一変した、爺さんとの戦いが幕を開けるのだった。
今回の不意打ちは、某・最後の幻想5の初見で知らずに不意打で受けて全滅をしたアトミック的なレイの苦い経験を参考にしてます。○メガ~




