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第5層「迷宮公道」

「あ~、おしいよ~!......もう少しでG1制覇できたのにぃ~」


 レティのゲーム風景を見ながら、ポリポリとアイスの試食を行う俺は可愛げに頬を膨らませるその姿に癒されていた。


 アイスの試食というのはもちろん、これからの季節に向けてのものである。


 酒場に入ってくる果物を凍らせてシャーベット状にしてカクテルグラスのような容器に入れて提供するシャーベットアイス。


 個人的には、それよりも果物シロップを真っ白なカキ氷にかけてしゃくしゃくと食べるほうが好みなので、迷宮主権限で強引に食堂メニューに付け加えさせてもらった。おかげで、気温も序々に上がってきたあちらの世界であれば梅雨時の6月後半――乙女月後半にあって理想的な休憩時間を過ごしていた。


 そんな時、突然通信が入った。


("父さん、昼休憩中に悪いけどいいかい?")


 羽織の通信機能を通して聞こえてきたのは、サラリーの声だった。


("......お?どうしたんだ?")


("迷宮公道の手伝いをお願いしたいんだ")


 確かそれってインフラ整備だとサラリーが昨日のシスターとの会議で提案したことだった。


 なんだったっけと思い出す。



 * * * * *



「主よ、以上が報告となります」


 あの後、サラリー、シスターの2人と一旦別れたが、サラリーとの打ち合わせが終わったことによって報告のためにと魔動自販機を設置し終えて中休みを取っていた俺の部屋へとその2人が訪れていた。


「そうか、ご苦労さん。しかし国交は結ばないけど貿易は行いましょうってそんな外交があるのか?」


 報告は主に今後のエウレシア側とのやり取りについてだった。


 普通は国交を締結させてから、交易しましょう的な流れなのに今回の場合はその国交すら結んでいないようだった。


 俺の疑問はまさにそんな歪とも言える外交のあり方なんだけど......。


「あるんじゃないかな? 主に、周りからの"迷宮の捉え方"次第ではね」


「捉え方?」


「この迷宮はまだできてそこまで経ってはいないし、何より知名度が圧倒的に少ない。よってその知名度を伸ばすには国とのやり取りを行う必要があるけど、未だ"1施設"といってもいい知名度の今の迷宮だとなんでそんなところが国と?という疑問が生まれてしまう。疑問は邪推を生み、それが疑念――ひいては、小康状態にある各々の国の外交バランスさえも崩しかねないことになる。これは、何もこの大陸のみを指している言葉じゃないのは言っておくよ」


「そうなのか......それで、交易のみにしたってのか」


 まだできて3ヶ月も経っていないのにいきなり仲良しで国交なんて結んだら確かに周りの小康状態の国がうるさくなり、その上で侵入者に対する締め付けも厳しくなりそうだと理解した。


「基盤というのは、足元に作るものだからその足場がフラフラじゃだめだよ。外から中へ、そして再び中から外へという循環を行うことで自然と迷宮の甘みを知ったものが外へ向かって声高に叫んでくれるだろう」


「なんて?」


「迷宮に価値あり......ってね」


「そ、そうなのか......」


「......迷宮っていうのは父さんも知っての通り、一種の罠を仕掛けた総合冒険施設だよ。侵入者は価値がありそうなアイテムを求め、商人や国はそれらを創造できる父さんという利権を求めるってね。......ま、父さんは父さんのままでいいよ。周りは僕たちがサポートするから父さんは好きなだけ迷宮を創造すればいい」


「主よ、私も同じ気持ちです」


「......サラリーたちの話がうまく噛み砕けないのは情けないことだが、その一言があればありがたい。よろしく頼む」


「まかせて」


「ああ、主よ。お礼に感謝の祈りを」


 なんだよ、お礼に感謝の祈りをと思わなくもないが、彼女はいつもこんな感じながらもやるべきことはきちんとやると知っているので見過ごすことにした。


「それで今後はどう動くんだ?」


「そうだね。迷宮前の道を改装して、ここを訪れやすくする――僕としては途中途中にセキュリティ用に詰め所を用意したいところだ」


「......あー、前の森林火災予防向けにか?」


「それもあるし、侵入者の血の気もあるよ。迷宮内というのは一種の隔絶した場所で、襲撃しても旨みがないのは誰もが経験や見てきたことで知っているから大人しくしてるけど、本来の彼らはそうじゃない。じゃあ本来の彼らが発揮するその血の気とはどこか?と考えれば分かるだろう」


 チラっと監視モニターをサラリーが見るのにあわせて俺もそちらを見る。


 まー......そりゃ、そうだな。


 監視眼イービル・アイから送られてくるラウンジの――それも、中央付近で自然とできた"仲間集めの場"でも傭兵、魔物狩り、闘賊とそれぞれ睨み合ってはいるがこちら側のこれまでの対応を知っているせいか、大人しくしているのが見て取れる。


 迷宮本丸内では、結構待ち伏せをしてアイテムを強奪するとかいうことも行われているらしいが本丸内はそういう面もあるのはこちらも承知しているので、たまにいる女の侵入者への襲撃と強姦さえなければ目を瞑っている。


「話は分かった。人員はどうするんだ?ダイクたちに頼むのか?」


「念のために羽織を使って話しかけたら、ダイクはもちろんオーリエさんも参加してくれるらしいよ」


「......オーリエも?」


「うん。誰かさんが、きちんと構ってあげないから暇なんだろうね?」


 そうして、意地悪な目線でこちらを見るサラリー。


 そんなことを言われて考えてみると、そういえば最近はオーリエと絡むことはなかったなと思った。トレーニングに誘ってもらったり、食事を一緒に取ったりなど以外は俺は貨幣装置やらの物作りという仕事があるため、基本的に護衛が不要な場所にいるからというのもあった。


「......仕方ないだろ、仕事なんだからな」


「どこぞの子の参観日問題の言う父親然とした言い訳だよ、それ」


「うぐっ」


 そういえばうちの父親もそうだったなと痛いところを突かれた気分になった。


「ま、父さんは父さんのやりたいようにやるといいよ。オーリエさんもそうだけど、アベさん、ジャックスさんだってそこらへんは理解していると思うし」


「ほんと、感謝に絶えないな」


「主よ、今後もお導きください。私たちは主とともに在ります!」


 手を組んで何やらハイっているシスターに分かったと告げて頭を一撫でした。


「あぁ~~......」


 そうしてシスターは鼻血を噴出しながら後方へと倒れ伏す。


「......このコもそうだけど、どうして俺のホムンクルスたちはどれもこれもここまではっちゃけてるんだろう」


「父さんの素質じゃないかな」


 そんな素質は嫌だとしながらも、今後のことを再び話し出すことにした。




 * * * * *




 なんだろう、印象がシスターの鼻血というものが強烈に残っている気がする。


 歩きつつシャーベットを頬張るという行儀の悪いことをしながらも、前日のことを思い出してため息をついた俺に再びサラリーから声をかけられる。


("予想以上に、迷宮内での鬱憤が溜まっているみたいでね。そこかしこで、侵入者が暴れているらしいんだ")


("ああ、モニター見たらなんとなく理解できるよ")


 扉を開いて、パパの部屋までやってきた俺はシャーベットの器をテーブルに置くと腕を組んで森側に設置されている監視眼イービル・アイからの映像を見て頷いた。


 そこかしこに映った彼らが移動している様子、襲撃をして返り討ちに遭っている様子など色々な場所でヤンキー、レディースらの警備隊との攻防が繰り広げられている。


 中には不意打ちによって、負傷するこちら側の警備隊もいるが各々ポーションを持参していることもあるので大した被害を出していないのは僥倖と言えた。


 俺は分かったと一言了承すると、一旦羽織を外してトレーニング用のジャージに着替えて迷宮の外へと向かった。


 その入り口に差し掛かったあたりで、どこからともなくアベさんとジャックスが現れた。


「暑ちぃな~、この季節から冬になるまでが俺の一番苦手な季節だぜ......」


「ガウゥ~~......」


 毛皮持ちの2人は俺よりも暑そうだな。


 もうすぐ夏とも言える時期なんだから当たり前だし、ここから見る分でも工程の最初期にあたる木の切り倒し作業をしている力自慢の奴隷達やダイクの配下魔獣なんかも汗を噴出している光景が見えた。


「アベさんとジャックスは周りの護衛を頼むよ。今回はオーリエも作業に従事しているそうだし」


「おう」


「ガウ」


 そうして迷宮公道の改装工事へと参加をすることにした。


 作業場は主に、迷宮前の横に設置されている移動型のリヤカー式テントである。

 昨日の説明ではこれが転々と置かれていて、襲撃を受けても守れる位置へと移動するためにとダイクが考案して作ったようだが、そのテント内は何やら薄い膜のようなものが見える。


 一番大きなテントに向かう間に、奴隷達やダイクの配下魔獣やらに声をかけられるので労を労い歩いた。


 俺が担当するのは、主に迷宮公道に敷き詰めるタイル作りやら作業道具作りで彼らの扱う斧などを作ったり、補修したりまた肉体労働用に栄養満点のポーションをというスタミナポーションの作成までも行う。


 錬金術式練成(アルケミクリエイト)も慣れたもので、もうすでに1ダース換算で同時に20ダースは作れるくらいまで上達をした。


 これというのも、日々のところどころにおける微妙な調整の上での道具や、自分の武器『魔紙』を作る上でも必要な配合バランスなども参考になっていた。


 迷宮公道は、主に迷宮入り口から東西に伸びる街道へと繋がる形となっていて、

 幅が日本の公道で言えば、4車線分くらいとだいたい馬車で行き来ができるくらいにゆとりを持たせている。


 ここからあの街道までは、普通に歩けば1日かかるかかからないかくらいの距離なので、木を切り倒す役、大地を耕して小石を取り除く役、踏み固める役、俺かエロナが作る魔道タイルを敷き詰める役と分けて作業をしても今の人数でだいたい終わるのは、冬に差し掛かるくらいだろうとサラリーは予想している。


 その間の仮の道ということで、作業路の横側に馬車が2つ通れるくらいの道は一応作っているので、今後商人が出入りする分は大丈夫だとしている。


 テントは各々役割があって、俺とかが作業するテントに炊き出し役のオフクロ、作業中の事故などで怪我を負った用に簡易のベッドが付いている療養所、そして作業員たちが止まることができる5mを囲む大きな木の枠を迷宮空間化して作られた食堂、休憩所、寝室一体型のテントというものだ。


 迷宮空間化すれば、中は無限に広げることはできるので当初役割ごとのテント作成時に考えなしで作ってみたのだが、わりと好評らしい。

 なんせ、いちいち迷宮側へ戻る必要はなくテントさえあれば、そこで食事から何からまで全て事足りてしまうのだ。


 こういう時に迷宮空間能力があってよかったなと俺は思った。


 また、作業員たちが作業後の夜に退屈でヤケを起こさないようにと、日本にあったカードゲームを教えてカードを作って気分転換をさせている。

 なかなか白熱したりして、酒に酔って暴れたりすることもあるようだが、死人が出るわけではないので監獄で一夜を過ごして反省してもらうだけに留めている。


 無論それ以上の蛮行は許さないけど。

 今、俺の目の前に迫ってきたあの時追い出した奴隷達のように。


「......何か用か?」


「お、お前のせいで、我々は生きていけなくなったんだ!た、食べ物――」


「......裏切るお前たちが悪い。トトが一番キライなタイプ」


 そう言って後ろから現れたプーに容赦なく蹴られて吹き飛ばされる奴隷の姿に、他の奴隷は阿鼻叫喚と言った感じで情けなくも股間を湿らせて腰を抜かせた。


「......悪いがプーの言うとおりだよ。確かにお前達は、帝国の戦争やらに巻き込まれただけの悲惨な過去を持つ被害者たちだけなのかもしれない。だが、それと労働上での裏切りは関係ないはずだ。アレを見てみろよ、お前らと違って懸命に汗水たらして働いている姿と今のお前らと......どっちが合理的に使えると思う?」


 冷淡さを容赦なく放つようにわざと声を冷たくして言い放った俺の言葉に、奴隷たちは二の句も上げることはできないのか、顔を俯かせた。


「......先ほど、意見してきた者を連れてとっととこの場を去れ。お前らみたいに迷宮側に不満を持つ輩が森の各所で俺達の妨害をしているんだ。こんなところにいても助けてやらないし、襲われて殺されるのがオチだぞ」


 そういうと情けなく立ち上がっては先ほど蹴り倒した奴隷を連れもせずに、この場から去っていった。なんというか、人族も人間も......ここは変わらないなとため息が出る思いだった。


「......トト、あいつどうする?」


「ま、出来る限り襲撃のないエリアへと送り出してやってくれ」


「......わかった」


 そうして、警備本丸側からの助っ人として現れたプー率いる愚連隊は奴隷を連れて行くとともにその機動性を活かして周囲の援軍へと向かっていった。


「なんていうか、あいつも殺すばかりじゃないんだな」


「......へへ。そこらへんの甘さみたいなもんはお前の娘って感じがするぜ」


「誰だよお前」


「ジャックスだよ!またからかってんのか!?」


「たまにお前のそのうっとおしい呟きが別人に見えて仕方ないんだ。悪いな」


「どういう意味だよ......」


「ガウ」


 俺の冗談に一喜一憂するジャックス可愛がりは今日も絶好調だった。

 アベさんはジャックスを慰めるかのようにして、ポンポンと肩を叩いて慰めるのもなんかほのぼのする。


「さ、んじゃ作業を始めるか」


 後の歴史に、"迷宮街道"と呼ばれ世界で唯一といってもいい珍しき公道と認定されることとなる迷宮公道は未だ始まったばかりである。

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