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第4層「迷宮硬貨と飛躍」

「お父さん~、迷宮硬貨の造幣装置はどんな感じ~?」


「ああ、なんとか形にはなった......けどな~」


「どうしたの~?」


「いや、俺としては"ここまで"は考えていた通りだったんだよ。俺が今作っているもの、そしてお前が作っているものもな」


「......サラリーお兄さんなりにここを良くしようとしてのことだし、私も考えればなるほど確かにって部分があるからね~」


「......経済は、いまいちわからん」


 愚痴る俺に苦笑するエロナ。


 俺達2人は今、ウルグルフの魔石結晶を加工できるということで、それの有効活用法の一つとして迷宮内専用で使える貨幣・迷宮硬貨造幣装置とその迷宮硬貨で使用できる魔動自販機を作っていた。


 その装置製作の着手前にエロナと作ったブラシ型魔道具『マギブラッシュ』は、すでに厩舎に配布されており、今は厩舎に勤める奴隷達によって使い心地を試している段階だったが現在までに特に問題があるわけではなく、寧ろ心地よいと魔獣には評判的だと同様に毛皮を持つジャックスから聞いた。


 採取に問題がないとして現在の工程にある。


 魔動自販機はファンタジーっぽくはないけど、あれば便利だし何より、3氏族達や奴隷達といった面々のうち、警備に属する者たちはシフトの関係上でその業務時間が明確に昼とは異なるために、店が閉まっている時間終わりがあったりする。そこをカバーするためにという理由で作る決心をしたのだが......


じゃあなんで俺が愚痴っているのかと言うと、おそらくレティ経由でサラリーに伝わった結果にやってきたサラリーからの提案である『迷宮内で独自の経済を作ろう』という話へと発展したことだった。


 彼が言うには、しばらく流通関係は迷宮内で事足りるが今後のことを考えれば外部とは価値の異なる経済基盤を確立しておくことで利点が大いに生まれるらしいとのことだった。


 俺は経済なんてのには興味がないので、話半分で聞いた限りで言えばこうだ。


 俺も最初ジャックスから仕入れた異世界情報の貨幣に関することだが、金貨は一般に出回っていないらしいので、それを引き出すためにという目的とそれを手に入れて金貨をどれだけ保有するかということで迷宮というモノの価値と格を上げる目的もあるということだった。


 基本的に価値というのは生み出した者が決めたものを、周りが評価してその価値で合っているかどうかを判断して決められると言う。


 その流れから考えると魔法の使える武器というものは、魔素が消えた今のこの世界じゃまずお目にかかれないものなので、充分に価値のあるものだし金貨を引き出す力があると言えると説明された。


 かといって、魔法武具を安易に一般で出回らせるとかでは希少性も損なわれ、価値が著しく落ちるというのもあるので、入手法は変わらず迷宮探索によって手に入れるという手段に限らせる。ではどうするのかと言うと、それらの基盤を生み出すという創造力の大きさを相手側に意識付けを行うことで対外にも宣伝となるし、欲に忠実な甘い汁を吸いたいがためにと群がる商人すらも招くことができるらしい。

 

 そうして群がる商人を外部から迎え入れて、外との商業圏を繋いだ上でサラリーの勘とモジョの理論で、うまい具合に調整していき最終的には先のような迷宮独自の経済基盤を作っていくそうだ。


 なんというか、本当に俺からできたのかと思えるほど深い考えだと驚きとともに話がでかくなったな~というのが正直な感想であった。不満はないけど、なんか迷宮運営のジャンルがあまりに大きくなってきて戸惑いみたいなのは感じる。


 ま、一番の了承の決め手は――


"外に出なくても商品が手に入るようになれば、引き篭もりの父さんとしても嬉しいんじゃないかい?"


 俺にとっての"キラーパス"で止めを刺され、進められることが決定したのだ。


 所詮、創造屋な俺としては適材適所ということもあるので、そこらへんは全て任せることにするが、このなんともいえない気持ちの正体はなんなんだろう。


 まぁそんなわけで、俺は俺のやれることというわけで3種の造幣装置を作成中というわけだ。


 主に、迷宮貨幣には3種類ある。


 赤銅貨、青銀貨、黄金貨というそれぞれの3原色を混ぜる意味で使用されるものらしい。


 日本で使っていた硬貨サイズのうち500円玉、100円玉、10円玉という価値が高い順で逆に小さくなっていって、俺の魔石結晶を加工して作られたものが基盤となる。


 その基盤となる硬貨の周囲を包むかのようにそれぞれの色――赤い月とも言えるような神秘的な赤銅、銀色に青がかったかのようなシルバーブルーの青銀、光の人材精霊を使って夕焼けの中に佇む海の波紋のような綺麗な"こがね色"とでもいう色を、その魔石結晶の基盤を囲むように加工したものが迷宮硬貨となる。


 表面のデザインなどは主にチャイムやらにまかせて、デザインよりも物作りな俺はその基盤となる装置を作り、サラリーとモジョは自分達の管理下にある

D.C施設内の部屋"さーばーるーむ"内の"でーたべーす"を使って一元管理するそうだ。


 さーばーとかでーたべーすって言葉を聴くと、そこだけまるで外人と話している感じがする。技名は辞書で調べて違和感なく名づけができるのに。


 そういえばあっちのオタクもなんとなくそんな感じの言葉でベラベラ喋っていた時も同様のことを思った気がする。


 ま、パソコンとか初心者級な俺には考えるだけ無駄か。


 造幣装置の仕組みとしては、後々上がってくるデザインは基本的に紙媒体で、再生のオーブのように吸収して記憶させるという形を取る。そのため、いちいち型にはめて流し込んでプレスして固形化させてベルトコンベアーというライン作業化とはならない。


 デザイン通りに設定された造幣装置に後は投入口へと原材料を入れることで、俺の魔力を原動力として自動的に生産できるようにして、それを担当の作業者(これはサラリーの配下が行うらしい)が回収して状況次第で迷宮内に流通させるという流れになるようだ。


 確か最初は、3氏族、奴隷達の給与として使われるとか言ってたっけ。


 そうして浸透させていって最終的には迷宮硬貨のみでのやり取りへと切り替えていって外貨は外部用にという使われ方をされると言ってた。


 なお、欠点としては装置自体が俺の魔力が動力源になるので、製造毎に直接魔力を付与させなければいけないことくらいだけど、防犯と言う意味でも俺の魔力でなければ、作動できないようにしてあるので面倒ではあるがこれくらいは請け負うことにしようと思う。


 その硬貨の原材料となる、三つの鉱石は俺のあちらの世界での財布から増殖しまくって鋳潰したものと現状ソウリョが外部から仕入れてきたものの内、銅、銀、金(すごい品質が悪かったものを光の人材精霊で質を上げたもの)で賄われるが後々鉱脈を探り当てれば、そこから採掘して造幣していく流れとなる。


 そういや、鉱脈探索は大丈夫だろうか。

 一応ガスとかを考えて、マスクとか落盤から身を守れるようにと収納機能付の盾を渡してはいるけれど。


 ま、初めて削岩するわけじゃないらしいのでそこは信用しておこう。


 そんな感じで俺のほうは造幣装置を作っていた。


 それと魔動自販機というここで俺の純度100%魔力結晶を加工した迷宮硬貨の出番となる装置だが、これも造幣装置と稼動方法は同じだ。


 稼動に必要な資源――基本的にあちらの世界じゃそういうものは電気といったもので動く。


 しかしこちらには電気的な資源はないので、それじゃあ代わりに俺の魔力で作られた迷宮硬貨を投入することで動作するという仕組みにしたのだ。


 造幣装置のみだったら大したことはないけど自販機の場合は数が数なので、迷宮硬貨を入れて作動させその商品の価値ごとにボタンが点灯して購入できるように設定をした。


 一連の動作としてはまず間違いなく必要になる赤銅貨を入れると、魔動自販機は動く。


 それで赤銅貨1枚分で買えるものであればそのままボタンが点灯して、それを押すことでその商品が買える。足りなければ、その分の迷宮硬貨を入れることで同じく購入ができるというモノである。


 そんな仕組みを持つ魔動自販機は今のところ、3段の8列で主に生活用品となる消耗品の類――ろうそく、料理用の牛脂、水場の拭き物用タオルなどというものを中心に3氏族のそれぞれの居住区や奴隷居住区、ギルド前、商業スペース前などいたるところで試運転を行う予定である。


 迷宮本丸内には基本、置かない。


 命をかける場にあって暢気に自販機で買い物する図はなんとなくあれだし。


 商品のラインナップなんかは後々に増やしていく予定だ。


 無人野菜販売所とか、お袋の田舎で里帰りした時にすげー治安と驚いたものだけどそういうものもありかもしれないと思う。


 


――キーンコーンカーンコーン


 


 造幣装置、魔動自販機を作業部屋で作っている俺達の耳にそんな懐かしいとすら思える授業終了の音が聞こえてきた。


 頭の中に直接響くので最初は驚いたものだが、レティの能力による"アラーム"は作業終了時間になると頭の中に鳴る仕掛けとなっている。


 これらはそれぞれの迷宮内で作業している毎に違うのは言うまでもない。



「お疲れ。......よし! こっちもこれくらいだな。とりあえず俺のほうはあと1週間はかかるけど、そっちはどうだ?」


「お父さんのそれに比べれば楽なほうだから、3日くらいで自販機は出来ると思うけどその後はひたすら検証していくよ~」


「そっか。とりあえず、今日はこれくらいにして飯食いにいくか」


「お腹ペコペコだよ~」


 そうして切のいいところで作業を切り上げると、俺達は夕飯を取りに食堂へと向かった。


 その後は亜空間部屋へと帰ってきて、レティと風呂に入ってまったりと過ごす時間となる。風呂上がりの麦茶はなんでこんなにうまいのだろうと思っていると、レティが何やらゲームを始めた。


 たしか、2年前にやり込み終えた馬主シミュレーションゲームだ。


 国内、海外と全てのレースで勝ち鞍を制したりはもちろん、同年中にある条件下の3大レースだとか5大レース制覇だとかそれが馬の外国産、国内産、自己生産ごとにとまさに競馬のやり込みゲーと称されたものだったので夢中にプレイしたな。


 そのおかげで、現実の実際のレース名や開かれる月なども詳しくなったり、俺達ステークスなんてのを作って親友のオタクとのオンラインプレイも白熱したな。


 4頭ずつで馬を出し合って、合計で決める8頭立ての最強馬決定戦である。


 懐かしいなと思いながら見ていると、レティが白い目で――


「パパ!私が初見でプレイしているのに、繋がっているパパが"そういう"こと考えちゃうと一気に白けるからやめて!」


「あ、はい」


 レティの言葉に何も言えずそれはそうだよなと意識を変えるためにパソコンのほうへと移動した。


 と、その前にレティに聞きたいことを聞いてみた。


「レティ、サラリーがシスターにあることを頼みたいとお前に何か話していたみたいだけどなんなんだ?」


「ん~。経済における基盤作りのための一つだって言ってたよ~!パパと同じで私もあまり頭がよくないからわからないけどね!」


 俺を引き合いにして頭が悪いとは何事か。


 しかし、そうか。

 もしかしてエウレシアと国交でも結ぶつもりか?


 かの国も間引きする対象ではあるのにと思うが、サラリーのことだ何か考えがあるのかもしれないと、改めてパソコンの前に座った。


 久々にレイアウトソフト"アレ"を起動するためにだ。


 気になるコスト最大数の増加やら、種類が増えたものがあるかをチェックするためにこうして気が付いたときにたまにチェックしているのだが――


「ん~、なんか10ずつ増えている気がする」


 思い当たって俺は、ここ最近の変化である迷宮内についてまとめてある資料をベッドにかけてあるポーチに手を伸ばして取り出した。


 侵入者総来場数、侵入者現来場数、外部帰還数という項目に目を通しつつもパソコンの画面に目をやると100人侵入し、90人間引きし、10人外部に帰還という条件で10増えていることが分かった。


 それが2週間ずつごとに減少しているから、リピーターが少ないことも分かったけど。

 サラリーはここも懸念してのあの提案だったのかなとも思えたが今はそれはいい。


 コストの最大数増加は、奴隷に関しても何やら増えているらしかった。


 奴隷――ま、この場合戦争の被害者という位置づけの意味だがこちらも20人ごとに1ptずつ増加しているようである。


 ということは、奴隷購入は今後も進めたほうがいいかもしれないなと思った。


「食べるものは......迷宮"集落"の分と大岩の迷宮をも合わせればまだまだ間に合うか......いや、それでも今後足りるかは分からないな」


ん?


「あ、そうか。外部からの利点って、"これ"も含まれているのか」


 サラリーの利点というものに話半分に聞いていたがためにふわふわとした理解が明確に見えた瞬間だった。


 勉強をしててたまにあるこういう真の理解ってのは、こういう時にでもあるものだな。


「......ここにきて色々と勉強になることがあるな。ま、それでも経済には関与しないけどな」


 そんなことを呟いて、現状あの池の種類のように追加されたものがないことを確認すると俺は先に寝ることをレティに告げてあくびと共に寝入ることにした。



 それから1週間が経ったある日、造幣装置が完成したと同時にエロナ側で試運転を行っていた魔動自販機が試験的にそれぞれ設置されて操業されることとなった。


 まずは、造幣装置のほうを3種類ともに稼動させる。


 出てきたものは、チャイムがデザインしたという獣の横顔チックな――これはジャックスか?――そんな赤銅貨と同じくまるでアベさんだとでも言いそうな熊の横顔だとでもいう感じの青銀貨、そして当初は俺だったが、猛烈な拒否をした結果にレティの横顔になった黄金貨の3枚の迷宮硬貨だった。


 それぞれ円に沿って、D.Cとスペルを崩した感じに刻印されている。


「パパの金貨ほしかったなぁ~!」


「本当に残念無念よ~ん!横顔の提供者・モジョちゃ――モゴモゴ......」


「ヘブッ!......あぁ、父の愛はいつだって刺激的~!」


「はぁ~......。まぁ、いい感じにできたよな?」


「そうだね。これなら、価値も高そうだと言えるよ」


 立ち会った4人――レティ、チャイム、モジョ、サラリーにも好評な形でできた迷宮硬貨に俺もある意味本当に良かったと胸を撫で下ろす勢いだ。


 俺がデザインされた硬貨じゃなくて、だ。


 そんなやり取りの後は、早速2人の規定枚数を造幣していった。


 そして、プーの制裁から復活したヤンキーとレディースの警備隊に囲まれる形で魔動自販機の設置をしていくことにした。


 周囲でなんだ?と不思議そうに見る侵入者たちに構わず、あらゆるところで設置を終えると今度はそれぞれの説明へと移る。


 侵入者側には迷宮ギルド証を通じてのお知らせ、俺から事前に説明を受けた3氏族の長たちは各々の種族へ直接説明して、俺達は奴隷居住区にやってきて現在作業で抜けられない者以外を集めた。


「タクト様? これは何でしょうか?」


 代表するように俺を好きだと堂々と言ってくる奴隷ファナとその弟アルムが傍で珍しそうに魔動自販機を見上げていた。


「これは魔動自販機ってやつで、この硬貨を入れてからボタンに灯りがついたらここにあるボタンを押してくれ」


 そうして俺は、手元に持っている迷宮硬貨を手渡す。


 押させるのは、赤銅貨1枚で買えるろうそくのボタンだ。


「わ、わかりました。それをすれば、結婚――」


「......しないから早くやれ」


 シューンと擬音表現するめんどくさいファナに促すと、彼女は迷宮硬貨を投入口に入れてボタンを適当に押した。


 すると、ウゥーンという魔動販売機が動く音とともに3秒ほどで迷宮硬貨から流れた魔力によって魔動販売機のろうそくのボタンや他の赤銅貨1枚分で買えるボタンが次々に点灯していった。


 おーという周りの驚きの声にファナはちらっとこちらを見たので、頷いて促すと彼女はボタンを押した。そして、ガタンという音とともに商品が取り出し口へと落ちてきた。


「な、何かでてきたわ!?」


「取り出して見てくれ」


「は、はい!」


 そうしてファナが取り出し口から商品を取り出すと、手にはきちんとろうそくが握られていた。


「これは......灯り用のろうそくですか?」


「ああ。じゃあ説明させてもらうぞ。この魔動自販機は――」


 そうして俺は説明をしていく。

 みな聞き逃さないようにと真剣な目でこちらを見てくる中、一通り魔動自販機についてと使用方法を説明し終えて最後に言い含める。


「それから今後は働いた分の支給は、この迷宮硬貨で払われる。ああ、安心してくれ自分を買い戻した後で、外へと出るために外貨が必要だというのであれば、換金もできるようにちゃんとそれ用の施設も作ってあるから」


 もちろん、銀行のことである。

 これも居住区の北東に作っておいた。

 ま、掘っ立て小屋の銀行だけど。


「タ、タクト様......それって放逐という意味でございますか?」


 ん?


「わ、我ら迷宮主様にきちんとお仕えしますだ。見捨てないでけれ!」


 そうして跪いていく姿に、何か勘違いしていると思った俺はため息をついた。


「......ああ、そういうことか。いやそうじゃなくてだな――」





「......そういうことではありません。主はおっしゃっております。あなたがたが現状の奴隷と言う身分を脱出した後のことを――主に感謝を」


 そうして俺の言葉を美しいとすら思える声で遮ったのは、俺を主とかいう娘の1人で迷宮外交長という役職につくシスターだった。


「お、そういや帰還予定だっけか。......おかえり」


「ああ、そのお言葉だけで私は無類の喜びを感じております。主よ」


 め、めんどくさい。


「そ、そっか。それで、何かサラリーに頼まれてたんだろ?」


「はい。貿易に関しての締結をエウレシアと結んでまいりました。我が迷宮は、独立された組織体として迷宮創造主・タクト=ヨイズミを主として統治するいわば迷宮都市だということも併せて」


「と、都市?」


 なんか、さらに話がでかくなっているような気がする。


「主の名前を出すまでは不審がられましたが、王女に伝えるように"言い聞かせた"結果、王女自らがおいでになり『よしなに』と色よい返事がございました」


「そ、そうか......」


 エウレシア王女とは、あの拉致事件の折に知り合ってから一切の連絡をしていなかったが、ここにきてサラリーの考える迷宮の経済基盤というものに必要なカードだとして利用されたようだ。別にあの国が王女で動いているわけじゃないだろうに。



「これでようやくスタートを切れたことになるよ。父さん」


 その言葉に振り返ると、メガネをクイっとあげて歩いてくるサラリーの姿があった。


「......どういう意味だ?」


「独自の経済基盤の第一歩ってところだよ――ああ、そうそう」


 そうして奴隷達のほうへと向くと、一言告げた。


「父さんはね、君達をお払い箱にするつもりはないが、バカはキライだって言うことを言いたいんだ。バカになりたくなければ、日々のルーチンワークに現を抜かすだけでなく、自らを買い取った後の"自分達の今後"というものを持って欲しいという"親心"からきているものとして受け捉えてほしい」


 さすがにバカはキライだとかは思ってはないけど、言いたい意味としては大体合っている。自立云々についてもだ。


「この迷宮から出て、各々自立した生活を送ることがすなわち――父さんへの恩返しにもなるということもよく覚えておいて欲しい」


 集まっていた奴隷達はぽかーんとしていたが、やがて何か思い至ることでもあったのか各々にキラキラとした目でこちらを見ていた。


「それじゃ、僕は失礼するよ。シスター姉さん」


「ええ。主よ、また後ほど」


「あ、ああ」


 そうして去っていく背中を見て、俺はさすがは我が息子だなと驚きとも喜びとも取れない微妙な気持ちになった。



 こうして、迷宮に経済が生まれることとなる。

 

 ウルグルフの魔石結晶から始まり、迷宮硬貨を経て経済へと移り変わるこの一連の出来事に、俺はまるで中世ヨーロッパのリアルストラテジーゲームをやっているかのような印象を受けたのだった。

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