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第3層「ウルグルフの魔石結晶」

 運営はそれぞれの役割がきちんとなされなければ意味はない。


 現状で、それがきちんと守られているのはおそらく16人中14人だろうと思う。では残りの2人は?


「ま、お前らが悪いってことだ」


「「お、親父ぃ~~」」


 そうして泣き言を言っているのは、D.C施設内の診療室である1室に入院中のヤンキーとレディースの2人である。


 3日前に、酒を飲みすぎて業務が滞ったという罰をプーから制裁という裁きを受けたことによって現在でもまだいたるところに切り傷が目立つほどの傷を負っていた。


 ジョイもわざと治す期間を明けていて、それが彼女なりの罰であるかのように鼻歌を歌いながらピョルナちゃんを愛でるといったことをしているのだ。


「見た目には治ってきてるみたいだからな。ま、父の見舞いを受け取って素直に罰を受けてろ」


 シューンとなった2人は、俺が差し入れた治療に効果のありそうな緑草入りのまずーいジュースを受け取ってさらに落ち込んでいた。


 そんなやり取り中、突然エロナから呼びかけがあった。


("お父さん~、今大丈夫~?")


("エロナか、どうしたんだ?")


 俺の問いに、あの石について調査をしていたエロナが調査完了だよ~という報告のためらしかった。俺はすぐに行くよと伝えると転移テレポートで彼女がいるらしき厩舎のほうへと転移した。


「あ、お父さん。ここだよ~」


 そうして、エロナが待っているといっていたウルグルフの魔獣房へとやってきた。


 1人かと思ったエロナの横には、3m前後のウルグルフがエロナに鼻を寄せてすぴすぴと鼻を鳴らしていたので不思議に思った俺は聞いてみる。


「ウルグルフなんて連れて......何か実験でもするのか?」


「ううん~。ただ、説明しやすいように連れてきただけだよ~」


 ウルグルフの鼻の頭を撫でながらエロナはそう答えてきた。

 説明ね、と納得して俺は聞く姿勢となる。


「じゃ、調査で分かったことを説明しながら報告するね~」


 そうしてまずは、指一本立ててこちらに質問するかのように聞いてくる。


「じゃあ、まずは......ねぇ、お口開けて~?」


そうして、エロナはウルグルフを撫でながらその口を大きく開けさせた。

鋭い犬歯がずらりと見える中、ごめんね~と言いながらその口の中に手を入れて舌を見せてくる。


 これを見て~という言葉に俺は、その舌を見ると表面がザラザラしててまるで猫のような感じだと思った。


「お父さん、唐突だけど"猫の毛玉吐き"って知っているかな~?」


 ありがとう~という言葉とともに、ウルグルフの口を閉じて撫でるとそう問いかけてきた。


「猫の毛玉吐き......」


 確か、猫は身奇麗にするために自分の舌で毛繕いをするが、その時に舌に引っかかった状態の毛を飲み込んでそれを後に吐くとかそんな感じだったよな。


 俺の大体の説明にそうそうと頷いて肯定するエロナが、つまりはと前置きをした上で伝えてきた。


「今回のこの石はつまりは、そういうこと~」


「......ん?え、えっと......どういうことだ?」


 ピンとこなかった俺に、ん~と指をアゴに当てて問いかけてきた。


「お父さんってレティーナ様に魔物の成り立ちを聞いたこと、レティお姉ちゃんに聞いたんだけど......違うの~?」


 魔物の成り立ち?

 俺はそれを思い出すことにする。


 確か、魔力を過剰に吸収することで魔物化することだったよな。


 本来20年前の喪失がなかった場合、あの小人族たちも大鬼族たちもそれぞれゴブリン、オーガという魔物化した可能性もあったと聞いたけどと思ったところで待てよと思いついた。


 猫の毛玉吐き、魔力を過剰に吸収する、今回の黒曜石っぽい石がウルグルフの厩舎にのみに集中していたことと関連付けていくとまさかと思ってエロナに問い返した。


「もしかして、魔力を過剰に吸収するのをウルグルフが反応して毛繕いをしてわざと体内で固形化させて吐き出すとかそういうことか?」


 俺の答えにおしいと言ってビシっと指一本を立てて可愛くウインクする。


「ウルグルフの毛繕いとかは合ってるけど、それ自体は自然なことで意識はしてないはずだよ~」


 そう言って、答えは~とウルグルフを一撫ですると――


「パパの魔力の性質か、この世界で生み出される魔力の性質かはまだ分からないけど、とにかく魔力自体は生物に付着する特性があってね......それが、毛皮に着いた場合にのみこの子たちは毛繕いする習性で自然に体内へと毛と一緒に飲み込んじゃうの~」


「それで体内で消化されずに固形化して蓄積して――」


「ある程度溜まって違和感を感じたウルグルフが吐き出して出たのがこれってこと~」


 なるほど......。


 そうか、そういうことか。


 思えば、これまでの3色草やら土竜頭族の住処周りに群生していた睡紫花や酔精草なんかもそういう結果で生まれたというものなら納得ができる。

 効果に関しては、環境によるものかと考えれば理解できた。


「じゃあこれは純粋に俺の魔力が結晶化したものってことなんだな」


「うん。完全無属性の魔石だよ~」


 完全無属性??


「なんだ、その完全無属性って?」


 俺の質問に、ポーチから取り出したモジャ製の黒板に足をつけたかのようなものを取り出して説明を始める。


「お父さんに生み出されてから始めた属性のことを研究して気づいたんだけどね、人にはそれぞれに生まれ持った属性ってのがあるみたいなんだ~」


 そうして3つの人らしきイラストを書きだした。


 一番右端は、俺のような人、真ん中は虫が立っているかのような人、そして最後に人魚のような人だ。


「ピョゴンさんやモグドーさんに聞いた3色人族にある3つのそれぞれの血から連想したんだけどね。お父さんはこの際除外することにして、獣頭族――まぁジャックスさんで考えれば、苗字の『レッド』っていう意味合いでも判るとおり赤を象徴する『火』との親和性を持った属性種でもあると考えられるんだよ~」


 そういや、あのおっさんの正式名称ってジャックス=レッドだったよな。


 それと、3色人族は獣や人族なんかは赤い血で、あのジャイアントモスに変身したやつは血が黄色かったし、まだ会った事はないが水棲族なんていうのは青い血らしい。ってことを当てはめると――


「黄色は判らんが、青色であれば水属性を持っているってことになるよな。水製族は」


「そういうこと。黄色は多分『地』とかだと思うよ~」


 なるほどなと思った。

 獣頭族は火、虫精族は地、水棲族は水ね。


 覚えておくか。


「人族は......どうなんだ?」


「人族の場合は、完全にランダムって感じだったよ。アラーネさんも赤い血なのに多分先祖の血のどれかにあった虫精族――それも滅びたらしい蜘蛛頭族の能力返りを起こしてたからね~」


 そうして、2ヵ月半前に旅立ったアラーネを思い出す。

 

 そういえばそうだという思いと、彼女は今元気に故郷へと戻れているかという心配の気持ちも起こったが今は関係ないと振り払う。


「で......問題は、お父さん」


 エロナはそういうと、黒板に俺らしき人を書き出した。


「お父さんの場合は、完全に無だよ~。なんで判ったかっていうと、さっきの説明の通りに考えれば、だけどね~」


 俺らしき人の横に狼のイラストを書き出すとエロナは説明を続けた。


「あらゆる生物に属性があると考えた場合――例えば、この子たちが火属性だったら~体内で火属性の状態に作り変えられて吐き出されるはずなのに、出てきたのは完全に無属性の魔石だったからだよ~」


「......完全に? ウルグルフ自身が無属性ってのは――」


「それはないね~。この世界の血ってそれくらい重要なことらしいよ」


「そうなのか」


 つまり、異邦人ともいえる異世界から来た俺はこの世界の常識に当てはまらない存在だということか。世界に意思があるかは分からないが、もしかしたらそういう意図付けをしているのかもしれないと思った。


「"血"か......」


「うん。この魔石は完全にお父さんの魔力が固形化している状態のものだから唯一無二といってもいいくらいの純度100%な魔石だったよ~!」


 興奮気味にそう語るエロナはさすがに研究者向きともいうべき娘だと思った。


「これに属性を付与とかってできるのか?」


「できるけど、お父さんの割合100%の魔力が効き過ぎてるから、きっと付与してもすぐに跳ね返すと思うよ。私の"実験"でも実証されたしね~」


 なるほどな。

 完全に俺の魔力として固定化したのならばありえるだろうなと考えた。


 だけど困ったな。

 それじゃ、魔石の利用法がないも同然となる。

 燃料になればすごい資源に生まれ変わりそうだけど。


 ん?燃料?


 と、考えたところで燃料からガソリンやら電気やらを連想する。


「......なぁ、これって加工は容易にできそうか?」


「加工?......ん~、お父さんの考えは分からないけど削ったりとかは出来ると思うよ」


「そうか」


 それならばと俺は、エロナにある考えを示した。


「ふむふむ~。それなら、簡単だね~。私も協力できるし~!」


 ニコニコと受け答えをする可愛い娘の頭を撫でてそうかそうかと納得した。


 あとはそうだな......いちいち、ウルグルフに吐き出されるのも可哀想だし自動的に採取できるようなブラッシングを魔道具で作れれば、羊の毛を刈るようにここ担当の奴隷たちにも簡単に採取ができそうだ。


 それを固形化させる魔法の固形化装置とかは、エロナの協力があれば容易にできそうだ。


「よし!思いついたら即実行だ」


「お~!」


 ノリよくエロナも腕を上げる中、ちょっとファンタジーらしくはないもののあれば便利だというある装置作りを始めるため動き出すことにした。


 そうして始まった装置作りから、思いもよらないところへと発展していくとはまだこのとき思うことはなかった。

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