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第51層「序章エピローグ~チュートリアルの迷宮、開放~」

 4月――蟹月となり暖かさが増した迷宮の森へとやってくる3人がいた。


 ゲート前でスタンバっている俺はやってきた3人に声をかけた。


「おかえり、無事に帰ってこられたようで何より」


 その言葉に帰ってきた3人は、三者三様の態度を取る。


 虚無僧の被り物を外して礼をしている男――真っ白なローブの淵に沿うように銀の刺繍がされ、俺と思われる意匠がされた顔を胸に裁縫がされた法衣を着る男――ソウリョは手を組んで答えた。


「仏も息災そうで、拙僧は安心しておる」


 その横にいる白とは逆の真っ黒な定番のシスター服に身を包み、やはり胸に裁縫された俺の意匠をまるで守るように手を組んだ女――シスターが膝を着いて答える。


「ああ、主よ。再会を感謝いたします」


 ソウリョの思慮深そうな重いバスのような声と、シスターのまるで小鳥が歌っているかのような綺麗なソプラノボイスがラウンジ内に響く。


 仏様と主とは俺のことらしい。


 生まれてから"仏"、"主よ"という語感に嫌な予感はしていたが、父は父でも、俺は神の父になったようだった。無論全然そんな気はないのでスルーしているけど。


 まぁ、俺から言わせれば俺の女神はレティーナ様になるし。

 後々こいつらもレティーナ教への入信を進めてみようかなと思っている。


 割とマジで。


 と、そんなことはどうでもいい。

 その神(俺)に感謝するという意味不明なやり取りをしつつも、そうかと最後の1人へと視線を向けた。


「......何やらこちらでも合った様子ですが、ご無事そうで何より」


「ああ、まぁ全部が全部無事......とは言わないけどな。それより、チャシブも無事でなによりだよ」


「ありがたき幸せ」


 そうして一連のやり取りを終えると、まずは酒場に移動して飲み食いしながら報告を受けることにした。


「いらっしゃっせ~、あ~シスネェとソウニィじゃん?超元気~?」


「......相変わらずの不良染みた言葉遣いを......拙僧が鍛えてやるか?」


「まぁまぁ、ソウリョ。主はそんな彼女もお認めになっているのですから」


 認めてなかったらどうなるんだって話だが、鍛えるというキーワードで青い顔をするギャルコが不憫だったので、これ以上は俺から何も言わない優しさを見せてあげるべきだろう。


 要するに容認である......負けるな、ギャルコ。


「適当に何かつまむものをくれ」


 そうして、迷宮攻略時に獲得した立派な稼ぎの銀貨をギャルコに指でピンっと飛ばして渡した。パシッと受け取ったギャルコは毎度~と青い顔をしたまま去っていき厨房へと消えていく。


 酒場のメニューもあの蛾との戦いより数日経って、色々と進化を見せていた。

 

 揚げ物、焼き物、炒め物、野菜スティック系、それプラス俺の部屋にあった調味料同士を混ぜ合わせて作られたドレッシングなども充実している。果物系はまださすがにあと2ヶ月くらいかかるらしいので、楽しみだ。


 オフクロメインで行われるそれらの料理は、どれもうちのお袋が親父に酒の肴に出していたものだと思いついた時に俺の記憶も参考にしているのかなとか色々考えた。


 合うのかなとかそんなのだが、こちらの住人代表の試食役・ジャックスによれば、どれもはずれはないそうなのでおそらく侵入者たちにもウケることだろうということでさほど気にしなくてもいいか。


 そして、ここ数日の自然なお客様のおかげで接客のほうにも現れている。


 開放日まではここで3氏族たちも客として訪れるのを許可しているので、仕事後に彼らも飲みに来るのだが、それが功を奏した為か、以前に比べれば店員たちの客へ対するやり取りもなんだか、慣れてきた感じがする。


 俺としては、密かに練習していたコイントス渡しによる銀貨払いも板についてきたのは嬉しい事だった。


 そうして一通りの飲み物、つまむものが出てきたので話を振ってみる。


「それじゃ報告を聞こうかな。ああ、飲みながら食べながらでいいぞ」


「うむ」


「はい」


「はっ」


 三者三様の頷きとともに、まずは帝国側の報告を聞く。


 飲み物を勧めたためか、ソウリョは一息にグイっと飲むと話し始める。


「拙僧らが赴いたのは、東部に位置する帝国領の男爵領にある街から西へと向かい、そこからこちらへと戻るために南進後、こちらへ戻るために通過した領の計5領は跨いだであるな」


「どんな感じだった?」


「帝都はだいぶ北に位置するために帝国の全体を知るには至らなかったが、東部、中央南部は主に亡国の亡者共アン・レジスタンスとの小競り合いや商人同士の血の争いといったものが見て取れた。仏が揉めた商家は何やら分裂しておったな。......また各地の状況として、明確な支配者層、隷属層とに分かれており、隷属層はとても見れたものではないほどの家畜か愛玩扱いをされておった」


 まぁ、蛾の親分はこちらでやっちまったからな。

 残された財産がどんだけか知らないけど、おそらくは逃れた誰かが話しを伝えたかで遺産相続みたいな状態になったのだろうと思った。


 人族も人間もそこらへんは変わらないか。

 

 そして、支配層と隷属層との格差もあるだろうな。

 バーレンや蛾を思い浮かべると、なんとなく納得できるものだった。


「亡国の亡者共アン・レジスタンスが主導する形での先導などで、何やら経済もそれなりにうまくいってはおらんところもあるな。魔物狩り、傭兵、闘賊たちもみな一様に飢えた狼のように至る所へ襲撃しておったし、この衣服に目をつけたのか、我らも襲われたであるな」


「そうか」


 てことは、充分そいつらのエサにはなりそうだな。


「ま、そやつらは生かせておいた上で拙僧の持つ魔法具であえて戦っておいて場所を明確に伝えておいた。そこで、力をつけたと喧伝して伝えた由である。拙僧の見立てでは、早くても1週間後には、この迷宮へとたどり着くであろうと予想しておる。......あとはサラリーの勘とモジョの姉による理論の検証も必要ではあるが」


「それなら2人にも聞いているさ」


 事前に戻ってくる2人の到着予測を聞いていたがために、あそこで待っていたし大体の噂の広がり予測の推移も2人に出してもらっていた。野性的な勘、冷静な分析による理論を組み合わせた2人の"脳"としての力はこういう時にこそ役立つから安心できた。


「......であれば、開かれるのは1週間後と申されるか?」


「ああ。そのつもりだ」


「それならば、ちょうどよいのであるな。帝国領から東の大陸への販路を利用して、帝国側で一般的な物資を現在偽装したあのハウエルとかいう者たちを護衛に付けて途中で買った"ある一団"に運ばせておる。到着はおそらく2日後になるであろうな」


「お~そっか、じゃあ丁度いいな。ありがと......で、どんなものがあった?」


「ふむ......西側には時間的にも難しかったから向かうことはできなかったが、南東部は農村が多かったためにそこで取れる作物を手持ちの金で買えるだけの量を購入したのである。それらを拙僧らで運び、途中で会った奴隷商とやらから奴隷を買って『明示法』を使って、こちらへと赴くようにしたのである」


 明示法というのは、ソウリョの使うソウリョ流の生命契約(ライフプロミシズ)みたいなものだ。


「中央南部は芸術品の類、そして衣類に明るかったこともあり、襲い掛かってきた者らが身につけていたものを売り払っては金にして、購入して同様の方法で運ばせておる。また、そこから南へと下って南部の川で取れるという少量の宝石類も少々仕入れておいた。なお人材を用いておるので、到着の折にはよしなにするとよいであろうな」


「そこはちゃんとするさ。......その奴隷の中に怪しい連中はいないんだろ?」


「神経を支配して聞き出したがみな亡国の難民らであった。ゆえに、そこは問題はないであろう」


 あらゆる神経から生まれたホムンクルスであるソウリョは相手を支配することやらが得意な息子(?)であるため、今回、そういうことをお願いしたのだが成果を挙げてくれたようでありがたかった。


 後で夜間飛行などで分かったことだが、今俺達のいる大陸と帝国のいる大陸は大きな橋でしか繋がっておらずその規模もこちらに比べればあちらのほうが大きい。そんなことから、規模としてもとても広大なようで、さすがに全部とはいかなかったが、短い期間でも充分すぎるほどの収穫に俺はソウリョへ感謝して今度はエウレシア側へと向かったシスターのほうを見た。


「こちらは特に問題もなく......ハウエルさんらが子分衆にした元・闘賊さんたちのおかげもあって品物の仕入れ等も問題なく行えました。主に感謝します」


「後でそれらの目録をくれ」


「主よ、賜りました」


 いちいちまどろっこしいシスターとの問答は疲れるが、仕事をきちんとこなしている手前何も言わずによろしくとだけ伝える。


 エウレシア側では特に何事もないようで、あの王女のような平和そうな状態が続いているようで一時関わったこともあるだけに少し、ほっとした。


 それじゃあと俺は、ギャルコが持ってきた麦茶を飲み干すと2人へと今度の諜報活動において調べて欲しいことを伝える。


「3日ほどはゆっくりしていってくれ。で、だ――次にお願いしたいのはソウリョが仕入れてくれたその宝石に関連するものなんだけど......」


 そう言って俺は今回のジャイアントモス戦の琥珀による弊害か判断がつかない謎のモンスター化のことを噛み砕いて説明した。


「......ふむ。それはどうにも不気味であるな」


「主にお怪我は?」


「ああ、俺もオーリエも嫌な予感がしたから双方ともに現・最高の技で消滅させたから大丈夫だ。それでな、今後はその琥珀やらについて探って欲しいんだ」


「......琥珀というのは、あの虫が化石化した石だったであるな?」


 俺はああそうかと手元のポーチから、見て覚えて参考になるかと作ってみたあの時と同様の琥珀もどきを取り出した。


「......こんな奴だ。もってっていいよ。ま、本物じゃないからあれだけど......俺が見た限りじゃこういう奴が琥珀というらしいから、もし違ったらそこらへんは各々で頼むよ」


 宝石なんて学生だった俺が持っていたわけでもないので、だいたいの想像でしか伝えられないことが心苦しいのだが、優秀な彼らであればこれの糸口からなんらかを掴んでくれると期待しておこう。


「うむ、了解した」


「かしこまりました」


「......御意」


 そういえばもう一つ聞きたいことがあった。


「えと、北の山脈を越えたところにあるっていう宗教国家ってどういけるかは分かっているのか?」


 その問いにソウリョが答える。


「うむ。人づてながらも聞くところによれば、宗教国家には帝国を迂回する形でしか入れないということだったであるな。それも、特別な認証がなければということもあるので現段階ではそちらへ向かえても入れるかは分からぬのである」


 なるほど、迂回してか。

 まぁ今のところは特に必要はないけど、後々を考えれば視野に入れといたほうがいいかとは思っていたけど......今のところは、特に気にせずにまずは帝国の内情などを探ったほうがいいかと俺は分かったありがとうと言って話を終えた。




 アラーネが去り、そして、ソウリョたちが帰還して再び出発していくという中でやがてソウリョの言っていた一団が迷宮へと着いた。


 みな一様にボロボロの姿だが、見た目にはあの時のボロを着た女とは違ってタオルか何かで洗ったのか垢もそれほどついている訳じゃなく、髪は伸ばしっぱなしでカピカピしていたが、血色もいい健康的とも言える奴隷たちという......よく見る意味で始めてみる人族たちを俺は迎え入れた。


 ソウリョの責任は俺の責任なので、ひとまず彼ら、彼女らにはギャルコたちの元で給仕として働いてもらうことにする。また、男で力がありそうな人族の奴隷たちは小人族と、後々に鉱脈が見つかった時用の人材として色々と覚えてもらいつつも力仕事を主として働いてもらうことにした。


「君たちの頑張り次第では君たちは君たち自身を買い取り、そのあとはどこへ行こうがここで引き続き働こうが自由になることは保証する。もちろん、無駄に強制的な労働はさせないし、病気にかかれば治せるものは治すし、食事も与えるし、寝床もこちらで用意する。だから自分で買い取れるほど、しばらくは自分達で生活ができるくらいまで労働して稼いで頑張ってほしい」


 そして、飴の後の鞭も当然言って聞かせる。


「......で、ここまでしてあげるからには、それを裏切るような行為をした場合は命を保証しない。ここにはここのルールがあるから、それを破れば当然その罪の重さに応じて君たちは決して味わうことのできない罰を受けることになる。もちろん、それは罪を犯した場合だ。日頃、きちんとした生活をして今の自分の現状というものを認識した上で普段通りの生活をしていれば、まず引っかかることはないルールだから、これは一種の注意事項だと頭に入れておくといいよ。侵入者がやってきていやな目にある場合もあるけど、そんな時でも君たちがちゃんとしてくれるのなら、必ず俺達が守ってあげるからな」


 そうして、説明を終えてみてみると不安そうな半分、何やら熱いまなざし半分、そして何かを企むような経験からくるそういう空気を持つもの少数という感じで分かれていた。熱いまなざしの意味が分からんけど。


「じゃ、これにサインをして指定された場所へと移ってくれ。荷物などは、購買部に届け出てくれれば出来る限り早く用意するからね」


 奴隷といっても、一口に男女のみならず老いもいれば若きもあるので、色々とそれぞれに必要なものがあるだろうと購買部の存在を伝えた。


 購買部というのはもちろん、こちら側の商会の隠語である。


 元・学生としては響きに馴染みがあるし、ゲームからそういう表現の店もあったよなという思いつきからきているのは言うまでもない。


 そうして説明を終えた奴隷達は、彼らの居住区となるエリア――北西部へ向けて送り出した。何人かは隙を伺うような感じで行動をしていたので、マークをさせてもらう。その上でこう言い放つ。


「何を企むのも自由だが、バレないようにな」


 俺の言葉にマークした奴隷はギョっとなるが、それは半分で残りは冷静なものだった。


 ("ネズミが紛れ込んでいるから頼むよ")


 ("はーい!パパ!")


 そうしてレティに声をかけておけば、何をしようが構わない。

 行動を起こした瞬間に彼らは他の奴隷の知らぬ間に消えることになるのだし。


 そんな奴隷たちは、ソウリョの言葉によって大体何人くらいかは知れたので、事前にラウンジ西側の一角に仮設住宅くらいの家々は建てておいた。

 "長屋"と名づけたそのエリアには基本その住人しか立ち入れないような設定が施されている。


 そのため、解放後においてもここに侵入してくる侵入者の中のバカも容易に入れないだろう。


 そんな感じで迷宮の本丸、そしてラウンジ側の準備と様々なことの準備を終えた一週間後――


「パパ!初めてのお客さんが来たよ!」


「そっか。じゃあ、出迎えてあげないとな?」


初来店と言えばいいのか、分からないけど俺は第一号となる侵入者を出迎えるために、俺は背伸びを一度すると迷宮の入り口へと向かった。


 外の森のほうを見上げれば、すっかり春といった蟹月の暖かさを感じる。

 あっちじゃもう桜が散るところもあるだろうな。そんなことを思いながらもポーチから取り出した表にOpen、裏にCloseと明記された木製の看板を見る。


【アイテム情報】

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 アイテム名 :開閉の看板(タクト専用)

 効果    :迷宮入り口の開閉   【自動発動】

 アイテム説明:Openと書かれたほうを像にかけると、登録外の者への道が開か        れ、逆のCloseでかけると登録外の者への通路を阻む不思議な        看板。

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 それは現実世界で言えば、喫茶店とかのお店みたいだなと思いながらもちょうどいいと作った門の代わりであるアイテムだ。登録についてはレティが許可、拒否をしてくれるので俺の許可したあの奴隷達はもちろん入ってくることができたが、今後はこれのおかげで侵入できるものとできないものとに分かれるだろうその看板を俺は両方の像へとOpen側にしてかけた。


 この瞬間――俺の迷宮運営における第一歩となる迷宮"チュートリアル"は始まりを告げる。そして、振り返ると割りと団体客となる20人くらいの初のお客様が迷宮前で佇む俺に問いかけてきた。


「てめぇもこの迷宮とやらにあるっていう宝を狙ってんのか?」


「いや、どっちかっていうと――」


 そうして一旦区切ると、まるで見下したように、


「ようこそ 哀れな侵入者 俺はこの迷宮を創造した迷宮創造主。当迷宮"チュートリアル"は、君たちの侵入を快く歓迎しよう」


 と、伝えた。


 さ。それじゃ始めるか!

 そうして俺は罵声を浴びせながら剣を手に襲い掛かってくる侵入者たちを前にやっぱりかと笑いを浮かべながらこれからのことに思いを馳せるのだった。



 

 

 序章 ~ 迷宮創造編 完 ~

ここまでお読みいただきありがとうございました。

1時頃にこの章で登場した人物設定のやつを続けて投稿します。

ご参考までに。


そして、活動報告にも書かれている通り、章の区切りとなるので、

今章の修正や次章の書き貯めを行うため、10日まで更新を停止します。


再開は以前と同じく4月10日(木)からになります。


次章である1章は、迷宮運営編となりそれが終われば、

そのまま2章の新天地編へと続きます。


1章は序章に比べて説明する部分がなくなるために、

そこまで深く階層を重ねることはありません。(予定では)


内容的にはだいたい11~12章仕立てと先が結構長いために、

完結まで大分かかると思いますが、先の活動報告にも乗せましたように

頑張って完結させていきますのでお暇があれば引き続き、お読みくだされば

幸いです。それではまた。

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