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第49層「後味悪い結末」

 見上げた俺は唖然としていた。


 光景にじゃない、まぁあの蛾ならこうなってもっていうある種の悟りはあったので、今見ている巨大な蛾の姿になったことに驚くことはない。


 じゃあ何に唖然としているのか。


 もしかしたら、アラーネもこうなってしまうという恐怖に怯えていたのではということからである。多くを語ることはない彼女だからこそ奥底ではそんなことを思ってても仕方ないと俺は先ほどまでのやり取りを思い出す。



 それは俺が蛾と発言して奴が真っ赤になった時のことだ。




 * * * * *




「げ、げひょ~~~!!き、キサマァ~~~~~ボ、ボ、ボクを蛾だとぉぉ」


「うるせえな、蛾の分際で。蝶だから、童心に返って綺麗な羽でも拝めると思ったのに......よく電灯にたかってはたまに襲い掛かってきやがって!口に入った時必死に吐き出す苦労がてめぇにはわかんないだろ!」


「......言ってる意味がさっぱりだが、ここでいうべきことじゃねぇくれぇはわかるぜ?」


「あ、しまった。ついあの時の"苦い"思い出が」


「......苦かったんだな。そこはわかるぜ」


 というやり取りをするものだから、相手もますます真っ赤になった。

 そして、その巨体を揺らして地団駄を踏み出した。


「げひょ~~~!な、な、舐めやがってぇぇ!!ボ、ボクを蛾扱いする貴様らをボクは絶対許さないぞぉ!」


 そんな一連のやり取りをしている俺達の下へ、娘と息子達そして血で真っ赤に染まった綺麗な銀毛が真っ赤になっているアベさんが合流した。


 そういやさっきまでの争いの声が収まっているな。終わったか?


「ガウ!」


「あ、アベさんお疲れ様。お前らもよくやってくれた。体とか大丈夫か?」


「あれくらいの戦力では大した被害を受けるでもなく......父上もご無事で」


「ジャックスとオーリエが傍にいるからな。俺だって働いたし」


 てか、やっぱり少しは被害出しているんだな。

 俺ら確か200人未満のはずだけど、1000超えの相手に軽微な被害でどんだけ成果を挙げているんだろう。


 でも、それだけ魔道具とか各々の力が優れているんだって話だなと思った。


「げひょひょひょひょ。こ、こここんなことが............」


 俺が相手にしていた商人モッスリーノか何かが先ほどまでの赤い顔から一転、青い顔をしはじめた。そりゃあんだけの戦力揃えたのにじゃな。


「お察ししたいが、お前が敵に回したのがそういう連中だと思ってさ――」


 そうして区切ると、おそらくアラーネが捕まっているであろう馬車のほうを見て一言呟いた。


「死んでくれ」


 そうして俺の傍にいるジャックスとオーリエを手で制して、エロナお手製の指揮棒を振り上げた。


「げ、げひょげひょひょひょ~~~異能の血を持つボクを舐めるな~~~!」


 そうして手元から取り出した黄色い何かの昆虫が入った――あれは琥珀か?


 確か琥珀って虫とかが長い時間をかけてできた化石化した宝石だって聞いたことがあるけど。そうしてよく見るとそこには蛾のような結構大きめの石があった。


 それをモスリーノが口を開けて飲み込んだ。


 すると、不気味な顔で笑ったモ――もう蛾を意味するモスでいいや。

 モスが自らの体をブチブチと打ち破って、まるでヤゴがトンボへと脱皮するかのように背中から何かが這い出てきた。


 そうして羽を広げると、空へと飛び出す。


 見上げたそこにいたのは、全長でおおよそ6mほどの目のような羽と2mを超える体躯を持つ巨大な蛾――ジャイアントモスが現れた。

 魔物化か?とも思うが、こいつならいつ魔物になってもありえるかとそうして

 思い当たったもしかしてアラーネもどこかで知ったのか、人里を離れるようにこちらに逃れてきたのかもしれないと勝手ながら思ってしまう。


 そこで冒頭のように俺は見上げていたが、まぁこういうのがゲームでいうところのボス戦かと手に持った指揮棒を構えて片手に折り紙を取り出した......が、


「ブワボオオオ」


 ――ブォオ~~~~~~~


 その巨体から放たれる羽による見えない突風が俺達へと向かってくる。

 そんな中、ジャックスが後ろへ下がれと言うので俺も危機感を持って、手持ちの折り紙を駆使して風車を逆噴射するかのようにしては追い風を起こして後ろへ下がった。


「が、あが......お、おれ、わす......」


 そんな中声を荒げたジャックスが俺達の前で何やら非難的な目で俺に語りかけていたが、なぜか言語的な意味合いで言っていることが分からない。


「ガウ!」


 と、アベさんが何やら俺の服を指している。

 そこには結構な粉がかけられていて、それでピンときた。


「ああ、鱗粉か!」


 たしか、あいつはそれらを用いてアラーネを連れ去ったんだった。

 しかし、それが分かっているのならば、対策をしておけば問題はないが――


「あ、そういえば......ジャックスにはあれを服用させてなかった。すまん」


「お、ま、え、な、ぁ......」


 そんなやり取りをしている間にも、ジャイアントモスは俺達へとブワボォと怒っているかのような泣き声を発して襲い掛かってきた。巨体から繰り出される風圧でよろけそうになるも、鍛えた足の力で懸命に耐えて俺は折り紙を折った。


「風には風で対抗だ。折"強疾風"フレシュゲイル・カッター!」


 疾風よりも強い風を巻き起こしながら進むそれは、その風の効果か当たりに何かしらを切り裂くような音を立てながらジャイアントモスへと向かっていった。

 その風は、羽はおろか胴体すらもザクザクと切り裂くようにすると、その体から黄色いが濁った血を撒き散らし本体からも叫び声のようなものを発した。


 あっさりと終わりかと思われた矢先――その血から、何か蠢くものが現れる。


 それは5cm、10cm、20cmと大きさはバラバラなものだったが、なぜか切り裂かれたジャイアントモスへと集まり続け、やがてその体躯を食べ始めたのだ。


 グロい光景に思わず俺は違うほうを見てしまう。


 だが、それが狙いかどうかは知らないがそんな無防備な俺へとその蛾と形容もできない不気味なモンスターとも言える空飛ぶ触手的な何かからぬめっとしたものがすごい速度で襲い掛かってきた。


 そんな俺の前に立ち、俺が作って幸運にもドロップした黒い大剣グラビティック・グレートソードを構えたオーリエに両断されて事なきを得る。


「ありがとな、オーリエ」


「うん。あれ、なんか不気味......ドレスに着替えてイイ?」


「ああ、一応念のためな」


 そう言うと、オーリエは頷いて久々の白騎士ドレスモードへ変わった。

 白銀の鎧を身に纏い、右手には白い大剣、左手には黒い大剣と彼女でしかできない大剣の二刀流となったオーリエはそれらを横へと水平に構えて、俺にこう言った。


「あれはなんとなく嫌な感じがするから、殲滅させるヨ?」


「......なんとなく俺もそんな感じだから、構うことなくやっちまえ」


 その言葉に頷くと、大剣二刀流の技を発動させた。



「丈蜻蛉"大絶回り"!」


 すると、その技名からもあるように竹蜻蛉のように自身を中心として回りだし、やがてすごい風圧によって自らの体を浮き上がらせると、地を思いっきり蹴ってその体勢から振りぬくように不気味なモンスターのジャイアントモスを切り刻んでいった。回転は止むことなくしばしそれを続けると、勢いを失ったのか

 オーリエはズシンッと響くような着地を決めてこちらへと戻ってきた。


 なんていうか、とてもダイナミックな技だなと思ってしまう。


 そんな中、もはや原型を留めていない"それ"は所々が動いていた。


「寄宿生物っぽいイメージだし、何かに取り付いてああなるのも、それはそれで嫌だから......さくっとやっちゃうか」


 そうして水色の折り紙を取り出した俺は、指揮棒を折り紙に乗せてイメージを固めるとある技を発動させた。


「――檻鶴"寒極蝶"《ヒュノアイス・バタフライ》」


 すると、光とともに数十枚が折られた折り紙は蝶のように羽を広げてその鱗粉にも似たものはキラキラと輝いて、それらが周囲へと広がりを見せた。1匹が2匹、2匹が4匹と増えていくほどに周囲が凍えるくらいの冷気を放ちながら増殖をした寒色の蝶はやがてヒラヒラと舞いながらも、やがてモンスターの元に辿り着き周囲を囲み始めた。


 触手っぽいものがそれに反応して捕まえようとするが、それは一瞬で凍りつきを見せてバラバラに砕け散った。やがて、全身を包むように舞う寒色の蝶は、

 全身へと至ると自らくっついて凍りつかせた後その体をバラバラに砕け散らせていった。


 後に残るものは、粉のようにサラサラとしたもののみで、それも風に吹かれるとあっという間に消え去った。


「......すごいな、この指揮棒は。練習よりもホントに強い折り紙になっている」


 練習時では200羽くらいだったものが、数十羽増えていた。

 指揮棒の効果10%向上でいえば、20羽くらい増加かと思えるそれに改めて感謝をした。


 そうして、この件のボスとなるジャイアントモスとそこから進化というか、劣化したかのようなモンスターを倒し終えたと胸を撫で下ろした。


 どうやら、周囲も片付いたようでアベさんがガウっといっているほうを見ると、

 憔悴しきったアラーネの姿が見えた。その顔はあまりにひどかったので、何かひどいことをされたのかと思ったが俺よりも心配していたという感じで、馬車にいたアラクネちゃんがキュキュウ~~!と飛び出したのが見えた。


「先を譲らないと、な?」


「あの子もすごく心配していたヨ?」


 と、アベさんが気を利かせてかこちらにやってくるので手を上げて答えた

 その時――






 俺の目には、信じられないものがスローモーションのように見えた。







 死角となっていたあたりから飛び出したボロを着た女が手にナイフを持って、それをアラーネに突き立てようとしたのだ。だが――


「アラクネちゃん!!」


 自分の身を挺して、呆然としていたアラーネの前に立ち塞がったのはアラクネちゃんだった。ドンという音とともに、ボロを着た女からの攻撃を両手を広げて身代わりに刺される場面が俺の目には映った。その全てがまるでスローリーに流れる光景に俺はアラクネちゃんへと彼女の名を呼びながら、駆け出した。


 なぜだ、なんでこういうことが起こってしまうと悪態をつきながら。


 ボロを着た女は何事か喚いて、刺され様としていたアラーネも突然のことに驚きを隠せないかのようにその場で座り込んでアラクネちゃんの手を握ることしか出来なかったようだった。


 そうしてアラクネちゃんの下まで行くと、か細い呼吸で胸の辺りを刺されたらしい血を止め処なく流しながらも涙ながらに弱弱しくもキュウキュウとアラーネに声をかける姿に俺はなんとも言えない気持ちになった。


 だが、まだ助かるはずだと俺は手元のポーチからポーションを取り出して、その傷を癒そうとした。


 だが――


「な、なんだよ......なんで......」


 きかねぇんだよ!!


 俺の手から放たれた黄色の最高のポーションはアラクネちゃんに効くことなく、無常にもやがて力を失うかのようにアラクネちゃんはニコっと笑うと、静かに目を閉じた。



 辺りがシーンと静まり返る。


 そんな中にも、誰かが泣き叫ぶような耳障りな声が俺へと聞こえてくる。


「蜘蛛女!! お、お前のせいで......わ、私がこ、こんな奴隷になってしまったのも......お、お前が!お前がぁぁぁ!」


 その声に俺は無言で立ち上がると、女の元へとやってきて胸倉を掴んだ。


 そして――


「なんだ?お前は。一体何しやがったんだ?......今さっき、息を引き取った子はな?アラーネのためにと危ないのに頑張って案内してくれたんだ。知っているか?あの子は戦う力がないんだ。それなのに、勇気を持ってただアラーネを救いたいがためにここまで必死についてきた。そして今、あの子はアラーネの犠牲になって死んだ。何がお前のせいだ、だ!? ふざけるな! てめぇが奴隷だぁ?しらねぇよ!てめぇが欲でも出したのが悪いんだろうが!!何それを他人のせいにして、それを晴らすためにと結果的に他人を死に追いやったんだ!!そうやって、何もかもを自分の欲が適わないからって他人にぶつけて結果的にそれとその周囲のものまで失わせやがる!!なんだよ、残されるものの気持ちがわかんねぇのか!?考えたことはないのか!?そんな考えすら浮かばねぇほどお前ら......欲優先の生き物の頭は沸いてるのか!?なぁ、答えろよっ!!!」


 最初は冷静だったそれも、次第に抑えきれないなんともいえないものへと変わりそれを吐き出した俺は握っていた拳を出しそうになるが、それを苦々しく思いながらも、大地へと叩きつけた。


 じんわりと広がる血は一体なにを表しているのか今の俺には考えられなかった。


 "また"救うことができなかったからなのか、あの時のことが過ぎったからなのか、それとも――


「......もういい。お前は死んでくれ」


 そうして、俺は手元から包丁を取り出すと有無を言わさずに女の心臓へと突き立てた。そして燃えろと念じた瞬間――、ぎゃあぁっと騒ぐ女は一瞬にして燃え尽きてしまいこの世から姿を消した。


 だが、そんなことすらどうでもいい。


 俺はそう思いつつも、この場においてもっとも適切であろう言葉を放心している弟子に近寄ると一言、伝えることにした。


「あの時、伝え切れなかったことが悔やんでも悔やみきれないが、言っておくぞ。......こういう"失う覚悟"がなければ復讐をしちゃだめだ。それが復讐する上での最も大事なことだから。......戻るぞ」


 自分への強がりと思いながらもそんな言葉をかけると、俺はアラクネちゃんの遺体となった軽い体を両手で包むように抱き上げて馬車へと戻っていった。


 こうしてあっさりと、後味の悪い初陣は終わりを迎えたのだった。

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