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第44層「突然の"中断"」

 10階層のボス部屋で、ガンツ=オーガという大鬼族の集落でオーリエに迫害した張本人の変異体とも呼べるボスを倒した俺達は一旦11階層への下り階段横に併設されている帰還陣から帰ってきた。


 オーリエの剣も折れてしまったし、宿屋の部屋にあるボックスの鑑定書でドロップした大剣を鑑定したいのもあった。


 帰還先の中央ゲートへと戻ってきた俺達は早速換金のためにギルドカウンターを訪れた。そして、色々な換金を行い、返してもらったカードを受け取って、一瞥した俺は何やらギルド証の欄の下側に追加されている項目が見えたために、まるで芸人のように二度見してしまった。


【迷宮ギルド証】

 --------------------------------------------------------------------


 (顔写真)  名前 :タクト=ヨイズミ   性別:男


        出身 :???      D-rank:D     


        貢献度:-          賞罰:なし    


 洞:1

 --------------------------------------------------------------------


 この洞1というのはなんだろうか、それを聞くと未だ緊張した様子で今回担当したキャバ嬢Aが答えた。


「あ、あの。その追記は侵入者がその迷宮の"階層ボス"を倒した時に追記されるものでして......それが分かれば一目でその後の迷宮攻略の際に、侵入者同士のレベル判断が容易になるという理由から付けられたものらしいです」


「ああ、そう」


 ぎこちない返しで説明された俺は、ゲームでいうところのレベル制の代わりみたいなものかなと思った。


 このゲーム的発想から考えれば、考案者は俺だろうなと納得した。



 換金後に俺達はお腹が空いたこともあり、食事をすることにした。そんなの中、あれから比較的無言だったオーリエが気になった俺は話しかけた。


「オーリエ、平気か?」


「......どうしたノ?」


「あ、いや......」


 あのボスを倒し、戻ってくるまでアラーネとの会話はおろか、俺達とも言葉を交わすことなく単純な受け答えはするが、終始無言だったのだ。


 元から穏やかな性格で、口数もそこまで多いわけじゃないけど、どこか緊張感を持った雰囲気だったので、気になった俺はこの時と思って聞いてみたが......どうやって聞き出すかで悩んでいた。


 そんな、葛藤の末に出たさっきの問いなんだけど――


「はぁ~......。なぁ、オーリエちゃん。おそらく、タクトはな、君の心配をしているんだと思うぜ?さっきのアラーネちゃんとのやり取りを――」


 ――ガシッ!


 俺は真っ正直に聞くジャックスを包むように押さえつけた。


 この野郎は、なんでそうもベラベラと......狼だからか?狼男だから舌が軽いのか?長い舌しやがって!


「......おい。なんとなくだが、しれっと種族への陰口から人の部位の悪口へと変わっていって色々解せん感じがするんだが、気のせいか?」


「ギク......き、気のせいだろう。ほら、飲めよ!酒が足りないんだよ、長い舌野郎」


「今言ったよな?悪口言ったよな?なんだよ!長い舌野郎って!」


 今のは失言だったな、うん。

 こいつへの失言はどうでもいいが、種族の特徴をバカにしたのは申し訳ないと俺はジャックス以外の狼頭族に対して心の中で謝罪した。


 そんなやり取りの中で、オーリエがクスっと笑うと、口を開いた。


「あれは......あの時はアラーネの言うとおりだヨ。まだ弱いためにあんなところで止まった私が臆病なだけだヨ?だからずっと、あれくらいのことに負けないように強くなるにはどうすればいいか考えていただけ......ただそれだけで、それ以外にはないヨ?だから、大丈夫だヨ。タクト」


「............」


 その言葉にアラーネは、何やら思うところがありそうな表情になるが、またいつもの表情へと戻ると頷いて――


「......今のオーリエさんなら大丈夫。あの時とは"違う"」


 オーリエと2人の間でもどうやら何か決着しているようだった。


 図らずも、とどめを刺させるということになったことでの変化かはわからなかったが、そのおかげも一因となってくれたなら俺としては、オーリエが過去を乗り越える助けになれたかなと胸を撫で下ろせるものだった。


「......心配してくれたノ?」


「え?あ、い、いや......」


 何やら探るような......意地悪を言う時のなんとも言えない下目使いの視線で見られると18禁OKな童貞野郎もさすがにドギマギしてしまう。

 いや、ずっとだったか。


 誰だ、オーリエにこんなのを教えたのはと俺は内心で舌打ちをした。


「と、とりあえずは問題ないならいい。......だけど、頼むから無理だけはしないでくれよ?」


 そう言ってぎこちなくも笑顔を見せてると、はっとした顔をした後にオーリエは何やら俯いて短く返事するのみになった。


 なんだ? と気になったが、まぁいいかと俺たちはしばらくの間食事を取ることに集中した。



 食事の支払いと礼を言って宿屋へとやってきた俺達は、"賃貸部屋"というまだ日本にいた頃によくお目にかかった"体"を成すシステム――俗にマンスリーマンションのような月単位の契約の宿部屋へと戻ってきた。


 最初の説明の中で聞いた話では、侵入者が一定の期間きちんと迷宮攻略をして、実績を作り、その活動がギルド側に認められると宿利用の特典として、1泊銀貨1枚が約半分ほど割引された料金での一ヶ月制の契約で宿泊することができるという"賃貸部屋"制度があるとのことだった。


 その部屋だが、4人部屋規模の広さとそれぞれの高品質のベッド、そして"ボックス"と呼ばれる盗難完全防止――まぁ、施設の至る所に見えた盗難防止用の魔道具が設置されているから気づいたことだが、そういう機能を備えた箱が置かれている広さが5LDKにもなる部屋だ。ボックスは、開ける時は開ける意思を持ちながら本人がギルドカードを当てると開く仕組みになっているもので、それ以外は誰にも開けられないようになっている。


 それは各自のベッドにそれぞれ取り付けられていて、個人個人で使用することができるという便利なものだった。


 現在そのボックスには、迷宮で取れた一連の"未鑑定品"を収納してあり、鑑定書を手に入れ次第それらを鑑定するつもりである。


 ゲーム脳から考えれば、多分そういうのを想定しているのかなという感じだ。


 ベッドの寝心地も、音の立たないが柔らかい羽毛で作られているらしい品質の布団にスプリング付というあの町で泊まった宿に比べれば、ありえないほどの王族級のものだった。


 ま、俺の場合はおそらく――迷宮創造主特権といったところなのか......気持ちはありがたいが、そうじゃなくて1侵入者として扱って欲しいのだけど。


 そう言って頼むのも頑なに拒まれたのは正直微妙なものなので、もう少しあの子供たちの魔獣ともコミュニケーションを取ろうと日記に書き込んだのは言うまでもない。


 ちなみに大剣は戻ってきて早速鑑定をしてみた。


 アイテム情報ではこうあった。


【アイテム情報】

 ----------------------------------------------------------------------

 アイテム名 :グラビティック=グレートソード(Rank:S60)

 効果    :重量操作【言霊発動】

 アイテム説明:剣自体の重量を自由に操作できる魔法の大剣。

        フェザー、ライト、ヘビーの言霊で三段階による調整可能。

 ----------------------------------------------------------------------


 ようするに、"伸びろ如意棒"の重量操作大剣バージョンってところか。


 刃渡りが1.7mほどもあるので、扱える人に限りがあると思うのだがもしかしてオーリエ用として設定したのかと疑問に思った。


 いずれ思い出すことを今考えてもしょうがないかと、結局俺は明日オーリエへと渡すことにして久々の風呂やベッドでの寝心地の良さからか、そのままその日は眠り込んでしまった。


 翌日になって迷宮に戻り早速攻略を続けると、最初の頃から考えれば比較的に順調に進んだ。また、11階層からは環境も出てくる魔物も変わっていた。


 ジメジメした部屋の空気はよりジメジメ度を増して、池というか――沼地とか湿地のようなところまで出るようになった。そこから現れるのか河馬の魔物や蛙の魔物というものも出てくるのは当然ともいえた。


 罠もそんな環境に絡めたものもあったり、あの小人族の接着剤で出来ているのか鳥もちのようにすごいベタベタするものやら、にゅるにゅるするものやらと不快度を付いたそれらは仕掛けたらしきモジョに対してある種の尊敬を持つに至った。


 よくこんなにも人に対して、嫌がらせを思いつくものだというものである。


 さてそんな探索も現在は15階層までやってきた。

 お決まりのように、後方避難用のための帰還陣、この階層での安全地帯とも呼べる場所を探るための探索に動いていた。そんな中――ある時、人影が見えた。


「あれ?今って俺達しか探索してないよな?」


「......お前、あの宴でお前のガキたちが言ってたの忘れたのか?」


「え? ......なんだっけ」


 と、やがて思い出した俺はそういうことかと近づいてくる一団に向けて声をかけることにした。


「お前たちも探索か?」


「おう!はっは~、親方じゃぁねぇかい!」


 声をかけて返してきた一団は、ダイクと彼の部下と言える『ダイク組』の連中だった。そういえば経験したいってあの場でも言ってたと納得した。


 連れている魔獣はみんな捻り鉢巻をしていて、坊主頭にTシャツと七分丈という装いをしており、装備はノコギリのような武器を持った魔獣たちであった。

 思い思いに挨拶をきっちりしてくるのは、日頃のダイクの教育のおかげか何かだろうと思っていたが、そういえばと俺はボスについてクリアしてきたのか聞いてみた。


「あ~あのデカブツか!ありゃすげー速度だったし中々強かったが、まぁ俺の舎弟どもが張り切ってくれたからな。問題はなかってもんだ!」


 がはははと笑うその姿に俺達でもアレほど苦労したのをたいしたことないとか、たしかダイクは戦闘力がそんなに高くない様子だったがその下はどうやら10数人という集団戦に向いているようでその連携力で問題なく倒したようだった。


 正直4~6人の少数精鋭で攻略したほうがというゲーム脳が働くが、まぁレビューは1人よりも複数のほうがいいだろうと俺はそんな感じで受け捉えた。


「他にもいるのか?お前ら以外に」


「あー、エロナも素材が~とかでチャイム坊と潜っているらしいぜ?奴らは今、30階層くらいにいるって話だ。あとはヤンキーとレディースもだな、奴らは20層くらいで何やら骨をいじめているらしいって聞いたな」


 あの娘もか。それにもう30階層ってことはまたあの爆発で強引に進んでいるのだろうかと少々心配になる。まぁ、あれくらいじゃ崩れることもないような対策は施されているだろうけど。


 てか、20階層は骨がいるとかネタバレやめろよ、おい。


「ま、魔道具使いっての攻略だし、エロナは当然だろうな。それにヤンキーたちも武器があの木刀なら当然っていうやつか」


 俺も記憶封印解除状態の100%の状態ならば、迷宮に限りあっという間だろうと納得できた。


「そういうこったな。ああ、だがレティの姐さんの言われる通りきちんと"でばっぐ"とやらはちゃんとやってるらしいから安心するこったな!はっは~」


 俺もちゃんとやってるぜぃというダイクの言葉にまかせると言って別れた俺達は、俺達なりのペースで先を進むことにしてその後も先へ進むことにした。

 そして、順調に進んでいた探索は15階層の終わりらへんで一変するのだった。


 といっても、何か危険なことが起こったわけじゃなくそれはレティから齎された念話からだった。


("パパ~!迷宮創造主として復帰して~。今いるとこまではこっちでちゃんと"セーブ"しとくから")


("どういうことだ?")


("森近辺を哨戒していた小人忍ミニンジャーから報告あってね、ここらへんに帝国から来た連中がうろついているんだって~")


 という伝達とともに、俺の顔つきから何かあったのかと不審そうな表情でジャックスが問いかけてくる。


「おい、どうした?」


「ああ。なんか、帝国側から誰かがここらへんの森に来てるから戻って来いってレティがな」


 その答えに、ジャックスは手をアゴに当てて内情をボソッと漏らした。


「情報が早いな......それとも別の狙いか?」


 情報ってなんだと思いながらもそんなやり取りをしてても埒もなしと、俺たちは一度ラウンジへと戻ることにした。


 思えばこのときに気づかないまでも、少しくらいは気にかけることができただろう。そうじゃなかれば、この後の展開も少しは変わったものになったはずだとこの件が終わった後に俺が考えることになるある事件が起こることとなる。

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