第43層「迷宮"チュートリアル"ロールプレイ~10階層ボス~」
これまでの死に戻りの経験と先日の監獄でのお誕生会のおかげか、再び攻略する迷宮はあの後、順調に階層を下ることができた。そんな中で今の階層は9階層にいて目の前には下るための下階段である。
ちなみに、今回は死に戻ってはいない。
それほどまでに色々と努力もしたし、レティのダメ出しの効果もあると思う。
彼女は言った。
『パパ、迷宮攻略楽しむのもいいけど、パパの"役割"忘れてないよね?』
『はい』
と、いう"穢れ持ちに多くいる欲深い侵入者を間引きし、人族の間に広がる穢れを減らす"というレティーナ様との約束は忘れたことはない。
いや、最近は少し忘れていたかもしれない。
そんな慎重ながらもどんどん先を進んだ。
絶対に無理はしないをモットーに限界は相談して決めるし、キップもいつも手に入るわけじゃないのでまず狙うはキップ探しから始めて分かったことだが最低でも1階層内には2個くらい宝箱に入っていた。
そこらへんを考慮して常に2枚は保持することでゆとりを持って判断攻略ができたおかげである。罠にかかりそうになることもあるけれど、時にはうまくいってレアっぽい魔道具を宝箱から手に入れたりもした。
それが下の階層に降りる前に宝箱に入っていた今見ている"これ"である。
【アイテム情報】
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アイテム名 :Doのつるぎ+(Rank:S20)
効果 :形状記憶動作(3つの動作まで可能)
アイテム説明:事前に剣へとドゥと声をかけて行いたい動作を登録しておくと
剣がそのように動きながら剣を振るう銅製の剣。
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これまでとは違い、鑑定が事前にされている状態で発見される武器に不審を抱くもおそらくネタ的な意味でのレアな装備品だからと結論付けた。
なんせ銘と素材が、あの有名な剣のパロディだろうと最初に思った。
それにしては、英語の"Do"と"銅"を置き換えるそれに若干考えたであろう自分自身を恥ずかしく思ってしまうのはなぜなんだろう。
「ま、おめぇも剣くらい装備してたほうがいいだろうからお前がもってろよ」
と、押し付けようとしたそれを嫌がりながら適当な言い訳をして装備させようとするジャックスに思うところはあるも、まぁ自分の生み出したものだろうしと諦めてご丁寧な鞘付きのそれを装備することにした。
刃渡り50cmほどの刀身は、そのパロディ通りに銅製でできているようだ。
考えられる銅製でいえば、もう使うことのない財布の中にあるあちらの日本硬貨の10円玉とかだがあんなのを増殖したのだろうか。あちらじゃ捕まる行為だがこちらでは関係ないので、そこはどうでもいいけどそこまで数があるはずじゃなかったはずなのにと考え、何か涙が出るような努力を感じるような気がした。
「ま、とりあえず保険として持っておくことにするか」
こういう場合、この場面で手に入るものほど重要な局面で役立つはずだ。
そんなことを考えながら、気を取り直して階段を下りた。
10階層へと入った時、他の階層とは違う感じだとまず気づいた。
下に下りればすぐ通路が見えるが、10階層は階段を下りた先に小部屋があって、先のほうには扉がついているだけというものだった。
「ボス部屋か?」
「......どういう意味だ?」
まぁ、知らないだろうなと思った俺はジャックスへ説明をした。
日本のいわゆるお約束には、こうやって切のいい数――10階層なんかだと大きい部屋があってそこにはその階層での中ボスがいるというものがある。創作系にはまず特徴的にあるこれを懇切丁寧に説明すると、ジャックスはよくわからんと切って捨てることにしたようだ。
まぁ、こちらのポピュラーがいきなり通じるほうがおかしいしと思った俺は、各自に念のためにと武器や防具などを点検するように指示をした。
この階層まで集めた薬品――黄緑、桃色などのポーションは保険に3本ずつ渡しておき、装備換えも鑑定の書というもので鑑定した迷宮に入る前に比べれば結構いい装備品へと変えて準備が整った。
「よし、行くか!」
「おう」
「頑張るヨ?」
「............コクン」
と、気合を入れて俺達は部屋の中へと扉を開けて入った。
ギギーっといういかにもな音がする扉の先には、広い――それは、体育館ほどの広さの部屋だった。俺は、緊張からか息を飲みながらもゆっくり先へと進む。
中央まで進むと、そこには赤黒い肌をしてゴツゴツとした岩のような全身の筋肉の塊のような体躯を持つ体長6mほどの大鬼族の2倍くらいの奴がいた。
あの"赤黒級"かと思ったところで、ん?なんかどっかで見たような......と思った俺の目にまるで、アイテム情報を見るかのような情報が現れた。
【ボス情報】
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ボス名 :ガンツ=オーガ
戦闘力 :C+
備考 :元・大鬼族の戦士。このボスを倒せば、11階層への階段が
開かれるので力を合わせて倒すのだ!
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今まで敵の情報が見れたことはないが、どうやらボスは情報が出るようだ。
戦闘力C+ってどれくらいの強さなのか分からないが、あのカードにおいてのFからの流れで言えばだがおそらくこれもそれに準じていそうだった。
......というか、名前から思い出した。
オーリエの息を飲む音が聞こえたし、こいつはあの集落にいてオーリエを迫害した張本人とも呼べる長の孫で、俺が直接罰を執行した最初の罪人である。
まさかこんなところで再会するとは思ってなかったが、どうやら俺達のことは覚えてないようで死した後でも自分がこのように利用されていることを感じさせない初めて対面するかのようで、その目は知性を持ち、じっと見下ろしていた。
あの時は3mほどだったが倍くらいはあるそれは俺とジャックス、アラーネにはとても巨大に見えたが、オーリエでも大きなものを見るように見上げている。
手に持つ武器だろう大柄な鉄製のハンマーを片手で持って構える姿に俺達は覚悟を決めてそれぞれが構える。
「まずは様子見だ。相手がどれだけ動けるか探らせてもらうぜ!」
そうしてジャックスの言うことに同意した俺達が後ろへと下がるように動くと、驚くことにガンツ=オーガが全身して素早くそのハンマーを横へと振り払った。
「ぐっ......!」
前衛でオーリエは体を回転させるように盾をしならせて交わし、俺とアラーネは距離的にも余裕があったためそれぞれの武器で余裕を持って交わすことができた。
しかし、前衛で牽制のためにと動こうとしたジャックスは避け損ねたのかジャケットの一部が無残に千切れ飛んだが、どうやらそこまでで体のほうは無事だったようだ。
......いや、そうでもないか。
薄紫の毛皮から流れる血に俺は、呼びかけるが大丈夫だとして先ほど分けていた黄緑のポーションをガンツ=オーガの攻撃を避けながらも使っているようだった。
「折炎鶴!」
そう言って折鶴に折られた炎の鶴による攻撃はガンツ=オーガの意識をそらすことに成功したようだが、当てるついでに燃やすつもりだった攻撃はまるで効果がないように見えた。
「だめか!」
「いやぁ~助かったぜ!」
と、隙を突いてこちらへと戻ってこれたジャックスが礼を言って感想を述べてきた。
「奴は、あの集落でお前に絡んでた奴だろ?......あの時との実力は、3倍も4倍もありやがらぁ。俺からすりゃあんときはなんとか勝てると踏んでたが」
「今は無理か」
「力はまるで違うし......まさか、速度で匹敵されそうになるとは思わなかったぜ」
ジャックスの見立てでは、どうやらそういうことらしい。
力も速度もなんて鈍足をイメージしていたオーガじゃないが、ここまでに倒してきた魔物に比べたら赤黒い不気味な肌色で理知を感じさせる目を持つこいつはそれだけ違いがあるというものなんだと思った。
「おい!オーリエちゃん!何ボーっとしてんだ!」
と、考えていたところで何やらまだ比較的前線にいてこちらに退避するものと思われたいつものオーリエはそこにはいなくて、あのガンツを見て震えてさえいる彼女は立ちすくんでいる様子だった。
それを見逃す相手じゃないようで、大槌を持ったガンツはそんなオーリエへと襲い掛かろうとすごい速度で接近していた。
まずい!
そんな思いとともに、折り紙で意識をそらせようとするがとても間に合う様子はなかった。だが、いつの間にか後ろに接近していたアラーネが糸を使って自分の倍以上はあるオーリエを強引に後ろへと引き寄せた。
そして――
――パシンッ!
「......!」
オーリエの頬を平手打ちしたのだ。
「......目、覚めた?」
俺達は退避した彼女達の元へと向かい、不穏な空気を感じたが俺にはオーリエが立ちすくむ理由が分かるのだ。なんせ迫害した張本人だし、一種のトラウマの種でもある。
俺が今、大勢の人間の中にいたら同様の反応になるだろう。
だが今は戦闘中というのもあるので、ジャックスと2人でガンツの前に2人を守るように立ち塞がって、振り上げようとした大槌を前に俺は自分の最高硬度となるあるものを発動させた。
「紙防具"紙剛兜"《ペーパーガード:ストロングヘルム》!」
4cmほどの折り紙の束を掴んで発動したそれは、その厚みを持たせつつも、ダンボールのように組み合わせたそれはオーリエすらも覆うほどの兜へと変化して俺達を覆うように完成した。
"紙装甲"も甚だしいが、衝撃力を前提にしている構造で作った折り紙で耐えられるならと考えたが、衝撃が上回ったようだった。
ゴウンとすごい風圧と衝撃が襲い、ある程度は受け止められたようだが、横へと振り被った状態からの振り抜きではさすがにあまり意味をなさなかったようだ。
「ちっ!」
「うわ!」
バットを振る野球選手のようなその攻撃に俺達はなすすべもなく、その兜とともに俺は横へとなぎ払われ、ジャックスも短剣を使いつつも自分の体をわざと回転させて勢いを殺すので精一杯だった。
幸いにも、芯となる当たりじゃなかったので反れたこともあり、大怪我は免れたがところどころが大槌の影響で皮膚が裂けてそこから血が出ていた。
手元のビンは最悪なことに数本が割れていた。
悪いことは重なることだと思いながらも、折鶴で牽制しつつ自分の治癒をしながらも後ろからの彼女達のやり取りを聞き耳を立てていた。
すると、アラーネのボソボソとした声が聞こえてくる。
「......オーリエさん。やる気ないなら帰って」
「......」
「......私はあの商人への復讐のために今師匠――タクトの力になってる。だけど、邪魔な人のせいでタクトとあの狼男がピンチ。だから、立ってるだけの邪魔な人は、帰って」
彼女にしては、長台詞であろうそれに俺もつい仕方ないことだと声をかけようとするが、オーリエは一度自分の頬を両手でバシンっという音がするほどに叩いた。
「......アラーネちゃん、ありがト」
「......?」
そうして、後ろから近寄る気配を感じた俺は隙を見て振り返るとそこには吊り上がった目が特徴的だった彼女の目がまるで本来の目の特徴を活かしたかのような目つきとなり、逆にこちらを守るように俺とジャックスの前に立ち塞がった。
「助けてもらったのニ、また助けられたらダメだよネ?それに――」
そうしてオーリエは大剣を大地に突き立てると、両手をパンっと叩くとまるで相撲の試合をよるかのように腰を落としてボソっと呟いた。
「......もう、タクトにあんな目にあってほしくないかラ......今度ハ!」
そして、彼女は初めて見せる"無手"の突撃技を発動した。
「八卦宵――"打鎌指"《ぶちかまし》!!」
グっと引き絞った弓の弦のように力を貯めたそれは、全身のバネを使ったからかとつてもない速度で前へと突撃していった。
そして、自分の倍以上もあるガンツへと技の名のように、相手の腹へと頭から突っ込むのと同時に相手の両肩を掴んで自らの握力によってその部位をまるで鎌のように削ぎ取った。
グワアアアアという悲鳴とも、怒声ともとれる声を上げながら大槌を放り捨てオーリエを掴もうと後方へ退避した彼女に接近しようとするも、それは俺の後ろから飛んできた粘着性のありそうなワイヤーほどの糸が阻んだこともあり、オーリエはつきたてた大剣の位置まで戻ってくることができたようだった。
先ほどに比べると、落ち着いていたガンツの姿はなく元の――暴力やそのほかの様々な怒りの目をしたガンツとなっていた。奴はそのままこちらへと殴りかかるように襲い掛かってきた。
「よくやったぜ!オーリエちゃん......それでタクト、言われたとおりでいいんだよな?」
そう言ったジャックスは、隙だらけなガンツへ向けて突撃していった。
何もオーリエだけが攻略しているわけじゃない、俺達全員での攻略なので、彼女が突撃していった間に打ち合わせをしておいたのだ。
そして――ジャックスは打ち合わせどおりに第二波として突撃した。
「"影狼"――劇狼乱舞!」
利き手の短剣と、いつの間にか逆手に持った短剣でまるで踊るかのように全身を切りつけてはその素早い動きで攻撃しようとするガンツをかき乱し、また切りつけるという超速のヒットアンドアウェイ攻撃を繰り出していた。
俺は自分の番を見極めるために、そして自分ができるであろう方法を探りながら見ているとジャックスの攻撃が終わったようで殴打をかわしながら俺らの元へと戻ってきた。ならばと俺は――
「"折雷鶴"《サンダーバード》!」
バチバチとしながら折り上がったそれは炎の折鶴とは様相を変え、放電する鶴へと変化する。そして、俺が指定するガンツへと一直線に飛んでいった。
ジャックスの付けた大きな傷口を基点に飛んでいったそれは、雷の特性である伝達を全身へとバリバリバリという音とともに駆け巡らせてガンツを感電させていった。
流れる血も液体であり、水に電気を流すが如くその雷が傷口から入るそれは、岩の何倍もありそうな表面とは違う内部へと伝達するように焼いたのかところどころから破裂した血管などが浮き出て相当なダメージを与えたようだった。
「......おっそろしい威力だな」
「ああ、自分で発動しといてびっくりだよ」
そんなことを言っている間にも、オーリエが前に立ってこちらを振り向くと、
「タクト、ごめんなさイ。今、タクトの敵を倒すヨ」
そうして利き手に握った大剣をさらにもう一方の手で持ったそれを、上段の構えのように振り上げると――
「独楽"大鬼絶"《おにたいじ》!」
それを斜め下に振り下ろして、それによって生まれた大剣の遠心力で自らを前へとまるで前回りのように回転させて浮き上がらせると、自身の力と遠心力の縦反動によって生まれた力も加わったそれをガンツへと振り下ろした。
鬼退治なんて皮肉的なそれはガンツを両断させるとそれだけでは収まらないように大地へと大きく埋まるほどにめり込んで、やがてあまりの衝撃からか刃の半ばから折れてしまった。
「ガ......ガガガ......アァ......」
という声をともに、ガンツは事切れたようでそのまま横へ左右に体を分けた後に何やら大きな武器と桃色の10cm級魔石をドロップすると、10階層のボスであるガンツは消え去った。
勝利した俺達は互いに手を叩き合い、初となるボス討伐を成し遂げたことを実感することにした。
ガンツが哀れに登場です。




