第42層「監獄の宴」
「ぐぅぅ............うぶ、ごぼごぼ~......ぶふぁ~!
......あ、あべ?ごんばばづばっだが?(あれ、こんな罰あったか?)」
ミシミシとする自分の重み10倍が俺へと加重されつつも、なぜか罰には含まないはずのいい匂いのする水をこれでもかっと浴びせられた俺はこうなってどれくらいになるだろうか、やがて全身が引き裂かれるかのようなそれはふいに緩んで終わりを迎えた。
「はい、重罰10G2H執行終了! ......お水はパパが臭いからだよ!」
あー、そういうことね。
そう言ってレティが監獄の檻を開けて中へと入ってくると、手に持ったタオルで丁寧に体を擦ってくれた。
「しかし、自重罰は経験すると想像以上にきついものだな」
「そうなの?」
「ああ」
大鬼族へと与えたものから始った単純な発想から生まれた罰は、一応先ほどの従業員への絡みを行った罪によって、自重罰10G2Hの刑――自重10倍2時間の刑を受けた感想はそんな感じだった。
経験して分かるが、自分くらいの体重の人が10人分乗って潰されるのはそれなりの効果があると、俺は充分罰になると納得した。
そんな体験もロールプレイの一環だとする俺の考えは、あの酒場で多少の混乱を起こして接客してくれたあの魔獣にも悪いことをしたと思ってしまうのだが、あれの埋め合わせは今後ちゃんとしようと思う。
また事前に俺と行動を共にする3人には、そういうことが起こると伝えてあったので、俺を守るために動きそうなオーリエを筆頭に混乱が起こらずにいた。
だが、本来ああいう場面では取り押さえなきゃいけないところだったのに、結果的にはビビるだけである。
想像よりも俺は彼ら魔獣たちに畏怖されているのかと悩ましい結果と思えた。
「娘達や息子達には徹底的に周知しといてくれよ。おそらく俺以外にはないと思いたいが、こういうのはちゃんとしときたいからさ」
「もちろんだよ!ただ、パパの時の反応はあれだったけど......外からの人だと多分問題ないと思うよ!でも一応注意してみておくね!」
そんな可愛いことを言ってくれる娘の頭を動き辛くとも撫でた。
気持ちよさそうに目を細めるそれを見ていると、ブシドウとプーが入り口からやってきた。
「父上!お体、大事無いか!?」
――プ~~~~パンッ!
「......はぁ~」
心配そうにやってくるブシドウとどこか呆れたようなガムを膨らませ割った後に呆れたようにため息をつくプーという極端な2人にお前らもお疲れと声をかける。
そして、やがて回復した体を起こしてその場に座った。
「で、いつまでいるつもり?」
傍に座って体育座りしながらも、ついっと目をそらして聞いてくるプーに、
「今夜いっぱいだな、罪は罪だし」
と、事前に決めておいた答えをプーからの問いに俺はそう答えた。
「あ、っそ......」
そう言ってコテンとフードを被った頭を横に倒してきて甘える姿は、本当に猫のような娘だと思った。撫でようとすると手でやめろという感じなんかもまさにそれだ。
逃げられたプーに苦笑いをしていると、おいしそうな匂いをさせた料理を手にオフクロも監獄へとやってくるのが見えた。
「あらあら~お父様ったら、無理するんだから~これでも食べて~」
「おいおい、まだ俺は罪――「パパ!」わ、わかったって......」
本当にこのヒエラルキーをどうにかしたい感じである。
もしかして誕生してレティーナ様に説明されて危機感を覚えた正体はこれだったのかとさえ思えるこの気持ちはいかんともしがたかった。
そんな中、メイドたちが何やら甘い匂いのする白いものを持ってくるのが見えた。そして、周囲には俺やエロナが作った異次元バックからテーブルと椅子、何やら飾りなどを取り出していくと恐ろしい速度で設置していく。
呆然と見ている中準備ができたようで、いつの間にか周囲には全員――ホムンクルスの娘、息子達とその配下の子たちそれから3氏族からも長を含めて何十人も集まった。アラクネちゃん、ピョルナもいる。
「お、おい。これは......」
「だははは!だからいったじゃねぇか。俺の勝ちだぜ、旦那!」
「ガウ~......」
「タクト、おめでとウ」
「............ぱちぱちぱち(拍手)」
え?と思う俺にレティは、何やら意地悪そうな顔で近づいてきて俺の手をそっと持ち上げるとダメージが残っていた体がすっとひいていったと同時に俺を白い何やら昔見たことがあるものの前に立たせてこう言った。
「パパー!18歳の誕生日~おめでと~~!!」
そうしてせーのと、みんなで一斉にあのお決まりの歌を歌ってくれる。
まだ混乱から立ち直れない俺はえっとと考えようとするも、気持ちがついていけなかった。
「パパー!ぼーっとしてないで、ケーキにふぅ~ってして~ふぅ~って!」
俺は言われるままに息を吹きかける。
そして、やっとそういえば今は3月――子月の後半......つまりは俺の誕生日付近だと分かった。思い思いにおめでとーというそれについていけなかったが、次第に溢れる気持ちがなぜか目から溢れてしまったのは仕方がないことだろう。
年齢は......比喩はするが、もうあまり考えていなかった。
だからこそあちらの世界でやったような祝い事は無関係だと思っていたのに。 それなのに、こんな不意打ちはズルいだろう。
「......ズ、ズルいだろ? そ、それになんだよ。監獄で誕生祝いって」
「えへへ!パパがいれば、どこでもいいんだよ!」
そんな可愛いことを言うレティにまたドッと何かが溢れてきた。
その姿は昔にもサプライズをした妹が浮かべたままの姿だったから。
嬉しさを表現するために抱きしめる俺に耳元で、レティはボソッと呟いてきた。
「本当は、帰ってきて落ち着いた頃合にと思ってたんだけど......ジャックスのおじさんが私からそういう誕生会とサプライズがあるよってのを伝えたら、それじゃあ驚かせようってことになったんだよ! ......驚いた?」
狼野郎、てめぇこの野郎!
その思いを迷宮魔法――感電を発動させた手で頭を殴った。
いや、なんでだ!よという捨て台詞とともに気絶したジャックスを見下ろしながらも、そっとジャックスの頭に拳を当てて俺なりの謝意を示した。
ニヤニヤする奴らを後ろに振り返ることで誤魔化すと、俺はみんなの前に出て俺の気持ちを伝えた。
「正直言って......こんなサプライズは苦手だ。監獄って柄じゃない場所なのも最低だし、お前達はお前達でからかう気満々っていうその顔も憎らしく思うでも――」
そうして腕で目を拭うと、自分にできる目一杯の笑顔で一言言った。
「いいか?俺がこの格好の時は侵入者だ。みんな、それを心得ろよ!」
と言った瞬間、なぜかシーンっとしたその空間に俺はやっと分かってくれたのかと言う思いでうんうん頷いていると何やら集まって囁く様子が見て取れた。
(いやいや、あの場面普通はありがとうでしょ)
(さすがパパ!よっぽどさっきの失敗きにしてたんだねー!)
(KYをリアルで見るとか、てんちょーマジぶっとんでんじゃん)
というのが聞こえるので何かやっちまったと思うが、そんな中でも今度は何かを誤魔化すようにおめでとー!という言葉が監獄という場所的にもありえない空間に広がり、やがて微妙な空気のまま宴が始まった。
..................俺が悪いのか?
始まりはそんな感じだったがしばらくすると思い思いに話す光景を見ながらも、俺は折り紙を応用して作った紙皿に、オフクロ特製の料理を入れて口へ運び舌包みを打つことにした。
途中途中で、抱きつこうとするホストを押しのけながら迫ってくるモジョにチョップをダブルで入れて抵抗した後に撫でることで返してあげたり、
プーの素直じゃない背中への猫パンチっぽい攻撃で祝福を受けたり、
ホステスとギャルコと巻き込まれたオフクロの祝福らしき口キスを避けたり、
エロナがお手製のピンクのリボンに包まれたプレゼントをくれたり、
メガネをクイっとし『おめでとう父さん』とサラリーが一言で祝ってくれたり、
アラクネちゃんとピョルナというダブル抱き枕状態でいて、なんか視線を感じると思った俺に彼女らしく視線でジョイが祝ってくれたり、
手製の手芸品をくれてバンバンと肩を叩かれてダイクに祝われたり、
どこで習ったのか演武を披露してくれたブシドウとか、
マジスゲーマジおめぇ~とマジが若干多いギャルオとか、
本当に、様々な娘息子達の祝福を受けた。
「おめぇは愛されてるぜ、守らないとな~こいつらをよ」
「よう、やっと目が覚めたのか」
「......悪びれないお前のそれに、慣れたくても慣れてしまう自身が怖ぇよ」
「タクト、おめでとウ」
そういって覆いかぶさるようにして、不意打ちで抱きすくめられた俺は頬に感じる暖かいものにギョっとオーリエを見た。きょとんとしたその顔がうっすら赤かったので、まさかとは思ったが次の言葉でほっとした。
「レティが、これすると嬉しいよっテ......うれしイ?」
「お、おう」
や、柔らかかった。その、あれだ......うん。
そんな色々気まずい中でやがて、3氏族の長たちもやってきた。
「何やら宴会を開催するって、レティちゃんに聞いてね!オイラ驚いたけど宴は大好きさ!」
それとなくそんな雰囲気をしっかり理解していたチャビンの言葉に俺は、
「はは、俺は俺ですごい驚いたけどな。まぁ本来は俺の罰のはずなんだけどこうなってしまったからには、楽しんでってくれ」
と返すと、わかったよ!とチャビンは離れてオーリエの傍に言って何やら話しかけている様子を見ると、なんとなく父親っぽいその様子に久々の再会でもあって、親代わりのためか過保護っぷりを遺憾なく発揮して会話を始めた。
「迷宮主殿はよき臣下――いや、"ご子息様方や仲間の方をお持ちだピョン」
容姿に似合わない渋い朝○ソーラじゃけんとでもいいそうな声のあとの語尾に危うく吹きそうになるのを抑えて、ピョゴンにも言葉を返す。
「本当にな。俺には本当にもったいないけど、彼らに見合うためにも努力は引き続き行うつもりだよ。俺なりの方法でね」
「さすがだピョン。我ら兎頭族はどこまでもそんな主殿を支えますピョン」
「ありがとう。これからよろしくな」
そうして一礼をすると、ピョルナの元へ行き抱き枕となっているピョルナを優しく撫でながらジョイと何やら会話を始めた。
俺とピョゴンとの話し合いが終わったと判断したのか、今まで黙って手に持ったグラスを傾けていた土竜頭族の族長はこう切り出してきた。
「ほんに我らは、迷宮主様に救っていただいて感謝のしようもないですじゃ」
どういう意味かと尋ねると――
「いや、我らだけではこうした多種族との共生とはいかんのが本音ですじゃよ。住む地域は同じなれど習慣も違えば、住むのに適した場所もまた同じではありませんのじゃ」
なるほどな。
その点迷宮じゃ、地下だろうが洞窟だろうが森を求めるなら外であろうとも自由である。モグドー老はそういいたいのだろうと理解して思っていることを俺は答え返すことにした。
「今後もさ、有用で協力的な種族がいて自分達のところに来てくれるのであれば、囲い込みはするつもりだよ。もちろん、有用だからという理由があるからにはやってもらうことはお願いするけどね」
「それが自然の摂理ですじゃ。ただで住まわせようとするものほど危険を感じるものはないですじゃよ」
「そういうものか?」
「......ほっほ。考えもせずに自然にそんな合理的な考えをお持ちとは......ま、そういうものですじゃ」
「そっか」
「なんにせよ、今でも我らと兎頭族にて主様の求める鉱脈などの発掘調査は行っておりますじゃ」
「ああ、楽しみに待っているよ」
そうして一通り会話をした後は、モグドー老と別れて俺は1人で宴の様子を見ていたアラーネのほうへと近づいた。
「どうしたんだ? こんなところで」
「............師匠はすごい」
どういう意味だろう。
と思って、アラーネのほうを見ると眠たげな目はいつの間にか真っ直ぐ俺を見つめていた。
「............あんな過去があったのに......それに負けることなく進んでいく強さがあってそれを支えてくれる人がいるから」
「......」
「......だから、すごいと思う。私も復讐を果たして師匠みたいになりたい」
それは......。
「それはやめとけ。君のためだ」
「............復讐だめってこと?」
俺が今ここにいてこうやっているのは、そんな人に凄いと言われる過去があったからじゃない。何もかも、全て偶然の末だ。
レティーナ様が俺を見込んでくれたのも、結果的に逃げるようにこの世界にやってきて迷宮を作って人殺しの罠を作ることになったのもその全て。
そんな偶然ともいえるものは2度とやってこないことを知っている。
知らなければ、知ろうとしなければ俺はあの拉致られた時、妹と同じように絶望を浮かべて死ぬことになっただろう。
そんな思いで俺は語りかけた。
「復讐は当然するべきだ、俺はそう思っている。けど、俺みたいにはならないでくれ。君は君のまま......成長していくことがいいと俺は思うよ」
こんな壊れた人間になっちゃだめだと自覚している分俺はまだマシだが、あの世界にいた色々な犯罪者はそれすらも気づかずにいるから、ああいった事件を起こすんだとガキの思いながらにテレビの前で思ったことだった。
「............私の......まま?」
「うん、君のままだ。復讐も絶対に先走ることはするなよ?」
その問いに答えないまま、また無言状態で何やら考えるアラーネに思うところもあったが、今は悩んで自分なりの答えを見つけ出して欲しいと思った。
しかし、このとき気づくべきだったと思う。
失うものはそうやって気づかないままに消えていくのを俺はまだ知らなかった。
宴はそれぞれに盛り上がりを見せて、俺は改めて心の中でありがとうと感謝するとともに最後までこの変わった監獄宴会を楽しむことにするのだった。
「あ、パパー!」
おい、今決まったと思ったのになんでそんなに速度を上げて駆けてくるんだ。
ま、待て!その速度は......お仕置きドーンの速度だっ!
――ドーン!
ひゅ~~~~~~~......
「ぎゃあああああぁぁぁぁ~~~............」
こうして締まらない状態ながらも、息抜きができた俺は再度迷宮へと突入するのだった。
望むは、痛む体のために2日ほど時間を頂きたいことを願うばかりだ。




