第40層「迷宮"チュートリアル"ロールプレイ②」
す、すいません、また長めです。
ガラケーの方、ホントすいません。
迷宮"チュートリアル"へ足を踏み入れて、"正"の字が一つ完成した頃――
ようするに、5日が経過していた。
現在は4階層であると思う。
3階下に下りたので、それが罠とかじゃなければ4階層だと思うしかない。
ここまで来てわかったことがある。
それは、外と中は日の入り日の出が同調しているらしいということ。
まず真っ先に気づいたからこそ検証したいと俺の攻略癖に火がついた結果、腹時計やら睡眠時の見張り中以外にも、自分だったらこうするという記憶封印前のイメージも加味しての判断である。
ま、答え合わせは帰還してからだな。
あとは、どこかで見たことがあるような魔物と罠の嫌らしさと豊富さである。
魔物に関しては先のムカデ、ヤスデ、コウモリ、ツバメ型なんてのもいた。
俺ならば、全部洞窟を意味するケイブというのを接頭につけて魔物名として名付けそうだと考えている。
罠の度合いは、戻り次第モジョにグッジョブのチョップを見舞うほどだった。
中にはモジョらしくない感じのものあって、なぜか記憶にないものもあるが、おそらく自分が設置したのだろうと解釈をした。
今の俺には、折り紙くらいしか対抗する術がないので、そういう罠とかも自力と仲間との協力とで打破していかないといけない。
それが楽しいと思う反面、環境もあって結構辛いことこの上ないことだった。
次に、攻略法の目安となる最初にするべき行動手段だ。
まず後方への退避手段をという目的で、帰還陣を探すことから始まり、休息とそこからの防衛に適合する場所なども同時に探るようにしている。その後全体を探索していくスタイルをとるようになった。
最初の頃はこれをしなかったこともあり、休憩中に迫りくる魔物にもうあと少しで接近されてやられそうになるなどがあって、次の日は満足に休息も取れない中で探索をすることになるという結果から考えられた方策でもある。
逆に楽なこともある。
それはマッピングだった。
レティに試験官として気づいた点や日記として一日の終わりにどんなことがあったかなどの記入作業のために渡されたノートへ書き出すものが課題にあり、そのためのノートだが、それはおそらく、後ほど開設後に訪れる侵入者たちに比べれば楽だと思った。ジャックスに聞いた限りでは彼らは携帯する書き物など持っているわけじゃないことらしいから言えることだけど。
ゲームでも言えることだが、マッピングができるのとできないのとじゃだいぶ違うので、ここに来る侵入者もおそらく苦労するだろうと
俺は、ただの侵入者であるのと同時にこの迷宮の試験官という側面もあるから筆記用具くらいは今は問題ないと思うが後々、きちんと質を上げて完成した暁には、本当に1から何もない状態で攻略してみたいと思っている。
最後に気づいた点でいえば、環境によるストレスくらいか。
3階層に降りてから改めて気づいたことだが、洞窟の地下というのはジメジメとしている。ビチャビチャになることはない。ただ生乾きっぽくなるのだ。
例えて言えば洗濯したはいいが、梅雨の時期で乾燥機もない状態で仕方なく手絞りや乾いたタオルで少しでも湿り気を落とした後に着る生乾きっぽいあのような状態である。
またそれに戦闘や罠といった行動によってかく汗の対処もあった。
その煩わしさを払拭できる手段は限られていて、まず持っているタオルで体を拭うことや池のポイントを探索してそこで体を洗うかしかない。
迷宮内のいたるところで、見つけた宝箱の中にも水を生み出す水精石という俺かエロナが作っただろうそれでも体を洗うことはできるけど、池などを飲み水にして食中毒にでもなったらと思うとその回数制限のある水精石も無駄にはできないと、現在はガマンしている。
そしてもしそれらの行動が、できるといってもそこは絶対安全の中でしか行えないといえる。
だけど罠や魔物という敵対者の動向に気を使いながらなので、ストレスは増大を増す勢いだった。
対策としては、肌に感じる湿り気は一旦無視することにして俺はこの下の階層の5階層まで降りたら、先ほど発見できた4階層の帰還陣を利用して一旦戻ろうとジャックスたちと相談した上でそれを目標にと決めることしかなかった。
だが、目標は士気を上げる手っ取り早い方法だと知っている俺はもうその手段にしかすがれない自分に情けないと思う一方で同じ経験をするのかなという侵入者への哀れみとも取れる思いも浮かべた。
ま、戻りたいのはそれだけじゃない。今もみんなや俺から漂うここにくるまでに味わった罠の数々による臭気を払拭したいのだ。
これというのも、腐った卵のような匂いのものが絶妙なタイミングで飛んできたり、地味に抜け毛らしきものが頭へと振ってきて肌に刺さってチクチクしたりという嫌らしい罠のせいだ。
これ考えたのは、あの変態娘に違いないという思いとともに、時々狙ったように現れる超音波を発して頭を混乱させるコウモリや、音もなく近寄ってくるフクロウの魔物たちも襲ってきたりと凄い速度イライラが募るものだった。
......最終的には考えを逆転して、襲ってくるそれらにイライラなどの鬱憤をぶつけることで晴らす手段へと変化したことで"そっち"はなんとかなった。
しかし複雑なストレスは仲間のそれぞれにもあるようで、ジャックスはしきりに酒が飲みてぇと言ったり、オーリエやアラーネも体が洗えないことやおいしいご飯を食べられないことからなのか、今まで見せたこともないような魔物の倒し方をしたりしている。
こんな風にそれぞれがそれぞれのストレスなどをこの迷宮に入ってから抱えている現状でも仲間がいるというのは、すばらしいことだと改めて気づかされることとなった。これがソロ活動《1人》だったらと思うと、船の中あまりに孤独でネズミですら話し相手にしたいとするくらいの発狂を覚えてしまうだろう。閉塞空間とはそういうものだと貴重な経験ができてよかったと俺は振り返った。
そうして、そんな仲間達との助け合いによって帰還陣探しの際に見つけた休憩ポイントにやってきたので、一旦俺達は休憩を取ることにした。
休憩中はもっぱら、レティに渡されたノートに気づいた点や俺が考える修正点などを書き込む作業になる。
また、その日一日体験したことを冒険の日記の如く書き込んで見張りを立てつつ就寝をするというのも、流れ作業っぽくなっていた。
「......よし、できた」
「この後はさっさと5階層見つけるんだろ?」
「......ああ、そろそろ限界だからな」
くんくんと自分を嗅ぐと、気持ち悪い肌触りのそれは洗濯がなされていないので、自分でも臭っていてとても嫌なものだった。
早く風呂に入りたいは切実なる願いである。
それを忘れるかのように書くことに集中して筆記作業を終えた俺は、そういえばとここにくるまでに手に入れた宝箱からのドロップ品や魔物からのドロップ品を順番に並べた。
剣やレッグガードや盾と装備品はこんなものか。
ほかは道具らしい水色の石の他に、魔石であろう桃色の石やら黄緑やらその大きさも色々な石がある。
アイテム情報とそれを手に取れば見ることができるが、武器の剣とか、防具のレッグガードや盾といったものは発見時は"未鑑定"となっている。
どうやら何かの鑑定ができるアイテムがないと見れないようだと理解できた。
魔道具である水精石といった野営道具などは未鑑定じゃなく、そのまま情報が乗っているので、エロナか......記憶封印前の俺もそこまで鬼じゃないようだ。
回数制限があるから、あまり頻繁に使うことはできないけど。
あとは......食料なんかも宝箱から手に入るようで、中には野菜がまんま入っていたり、魔物からドロップしたりっていうのもあった。
「記憶がないと何がどこにあるのか分からないから不便だな。記憶喪失経験のある人の気持ちが分かる気がする」
「おめぇがそれを楽しみにしていたんだぜ?それなら精一杯楽しむこったぁ~な」
そんな気楽なことを言うジャックスだが、ああ、酒の宝箱とかほしい~とか言うおっさんも色々と限界に近いのだろうことはなんとなく分かる気がした。
俺へとかけてくれた言葉に感謝を心の中でするとまた一通りをドサ袋へと戻して水精石で思い思いに水を振る舞い、しばらく体を休めた。
その後に出発をして探索をしていると洞窟内の曲がり角に差し掛かった。
「これはどっちか......迷うな」
「鼻は効かないノ?」
「おう。どっかのご丁寧な令嬢に封じられちまっているぜ」
そうしてため息とともに、俺へと視線が向けられるので俺は迷ったあげく右へと向かうことにした。
しばらく通路を歩いていると、やがて小屋のようなものが見えてきた。
「ありゃあ、休憩所か?」
「"今の"俺じゃあ分からないな」
ジャックスの問いにそう答えつつも、進み一度深呼吸をして扉を開けて全員が中に入る。中は薄暗くなっているので近くにかろうじて見えた松明に手に持っている火精石でつけようとするも、何やらジャックスとオーリエが過敏に反応した様子で俺たちの頭を無理やり地面に下げさせた。
そこへ何かが通り過ぎたのか、ひゅっという音とともに迷宮の壁へと刺さったのが音で感じ取れた。
「どうした!?」
「一度戻るべきだったかもしれねぇな......トラップだぜ!」
そういって飛んできたものを確認しようと後ろを見ると手製の矢が突き刺さっていた。ここにきて、直接的なものとこの"罠"のあわせ技で来るかと今までの比じゃないこの罠に舌打ちをして目の前のほうを改めて見ると、何やら黒い影が蠢いているのが分かった。
後ろで同じくオーリエに下げさせられたアラーネのひっと言う声が聞こえた。
「4階層で"モンスターボックス"か」
念のために扉を開こうとするもそういう仕掛けなので、開くことはない。
ってことはつまりは――
「戦うしかないって事か!」
そういって俺は折り紙を手に乗せると、先制で発動させる。
「炎折鶴!」
折り紙の鶴が火の鳥へと変化してやがて前方の蠢く影へ向かって突進すると、なぜか爆発が起こりその熱風がこちらへと襲い掛かってきた。
なんだという思いと、しまったという思いが交差した。
同時に、妙な震動が俺やジャックスへと襲い掛かってきた。
洞窟ではおなじみの蝙蝠の魔物であるケイブバッドの超音波をまともに食らった。くらくらする頭を必死で振りつつも、後方へと転がって避けることにした俺は、辺りを見ると、煙の向こう側に前衛の2人ガ見えた。
まともに食らったジャックスも頭を振っている様子だったが、抜け出せずにいたようでオーリエに拳骨を食らってようやく我に戻ったようだった。
しかし、さっきの爆発の影響で前衛、後衛と分断されてしまっていた。
「さっきの爆発はつまり、そういうことを想定した仕掛けって事だな」
俺のことをさすがに分かっているレティだ。こんな先制を仕掛けてくると呼んでいる辺りさすが俺の娘だと思った。
そんなことを考えつつも、襲ってくるケイブバットを迎え撃つために構えて、
「ともかく、隊形は変わらずにして俺たち後方はケイブバッド中心に落すぞ」
後ろのアラーネにそう声をかけて、それに頷いたことを確認した俺は手持ちの折り紙を右手に乗せて"ある折紙武器"を発動させた。
「紙投器具!」
俺の言葉に折り紙は、Y字のパチンコのような形を取った。俺は左手でポケットから予め作っておいたアラーネ製の糸をそれに取り付ける。
現状で俺ができるのは遠距離、中距離による投射攻撃だ。近接戦闘なんてできるわけじゃないので俺が今考える中で効果的な方法としてこれまでも採用している。
そしてそれにはアラーネの極限まで弾力性と丈夫さを持つ糸を用いることで生み出しガ可能になった。そんな紙等具を持ち、折り紙を投具に設置させると、続けて発動させる。
「紙釘撃!!」
セットされた紙が釘の形に折られて、それが鉄ほどの硬度を持つと同時に俺はそれを放った。10cmに満たないそれら釘たちは上空にいた数匹のケイブバットの羽や胴体などを引き裂きつつも、天井へとまさに釘付けする勢いで飛んでいった後に紙投具は魔力を失って、紙クズと糸に変わって消えていった。
それら一連を見て、俺は思った。
まだまだ甘いなと。
ここまでの道のりの間にも試行錯誤しながらも進んだ折紙武器だが、こんな感じで時間制限であるためまたわざわざ作成しなくちゃいけない。俺はいよいよ最終的な省略をするべきだなと考える直前、意識的に認識しなきゃ見つけられないオウルバードの気配にギリギリで気づいて横へと逃れるように飛んだ。
危なかった。
そんな思いをした俺がオウルバードのほうへと視線を向けると、そこにはアラーネの糸によって縛られている姿が見えた。思わずヒヤっとする場面だったにも関わらず、アラーネのおかげで助かった俺は先ほどの技を省略する形で折り紙と糸を持って発動させた。
「紙投具 "紙釘撃"《ペーパースリング:スパイクショット》!」
そうして束縛されたオウルバードへと一斉に紙釘が飛んでいき、串刺しにしてオウルバードを倒した。緊張する場面ばかりだったので汗が噴出してくるが、それよりもアラーネが気になった俺は傍を注意しながらも移動した。
剣戟が聞こえるあちらはまだ手一杯なようなので、なるべく早く合流しなければいけない。
アラーネに近寄り様子を伺うと、彼女も額に汗を汗を掻いていたのでもっていたハンカチで拭ってあげる。どうやら、彼女でも2mを超えるオウルバードを拘束するのに手一杯の様子だった。
「大丈夫か?」
「............ちょっと、お腹空いた」
俺はこれが終わったら――いや、考えまい。
たしかこういうのは死亡なんちゃらっていうしな。
そう考えて、アラーネを伴い急いでオーリエやジャックスの下へと向かった。
ジャックスやオーリエもバーゲージやらウルグルフなどの集団に囲まれて難儀していた様子だったが、俺達も加わったことで事なきを得ることなく全滅させることができた。
戦後、そこにはおびただしい数の魔物の死骸が転がっていた。
生き残りはいないか警戒しながらも探すが、動くものはいなかった。
オーリエの"独楽斬り"によって姿が欠片級になっているものも中にはあったので、どうやら完全に討伐したようだとほっと息を吐いた。
しばらくすると、何かをコロンと落してそれらは消えてしまった。
「お、短剣だ」
俺はそれを手に取ってみると――
【アイテム情報】
----------------------------------------------------------------------
アイテム名 :短剣(未鑑定品)
効果 :未鑑定
アイテム説明:どこかの宝箱にはこれが何か分かる"鑑定書"があるようだ。
----------------------------------------------------------------------
と、出た。
また未鑑定品か。それに今度は剣やらにはなかった鑑定書があるようだという説明付きだ。
しかし、これはどこかの宝箱にありそうな鑑定書を探す必要がありそうだ。
まだ4階層は全体をマッピングできているわけじゃないので、探すのなら充分発見はできそうだけどと考えていると、ジャックスとオーリエが粗方の"魔石"を持ち寄って戻ってきた。
「これが景品になる......なんてな」
そうして手からポンポンと上に飛ばして転がせているその魔石は、桃色でしかも大きさも5cmほどとこれまでより大きいものだった。モンスターボックスをクリアしたことによるサービスか何かだろうかと邪推するが、まぁいいかと
ジャックスに答え返した。
「まぁ、いいんじゃないか。収集癖のような人族も中にはいるんだろうし、こういうのをこまめに集めて景品として取引したら結果的にレアな武防具に当たる可能性もあるんだからな」
ゲームを通しての経験だったが、外れてはいないだろうと思う。
さてとここでこんなことしてまたモンスターが溢れる部屋に逆戻りではさすがに辛いのでさっさと出ることにした。
モンスターボックス部屋で連中を倒し終えた時点で、もうすでに暗くなり始めていたので俺たちは近くにある休憩防衛ポイントとなる小部屋で野営をすることにしたのだ。
もうすでに5日は経っている時点でこういう準備にも段々と慣れてきた。
それは最初は顔を青くしていたアラーネにも言えることである。
「アラーネ、もう大丈夫みたいだな」
「......?」
不思議そうに小首を捻るアラーネを改めてみると、現在彼女はショートカットに切りそろえられている。追っ手などのこともあっていちいち身嗜みにも気を配れない逃亡生活を送っていた彼女だったので、彼女の元の髪型に近いイメージで切ったのだ。
まぁ、うなじのほうの後ろ髪だけは不自然に腰くらいまで長いので、後ろから見るとまるでおたまじゃくしみたいに見えるけど可愛いのは可愛いのでよしとしよう。
そんな感じでしばし見惚れるようにアラーネを見ていると、あの頃に比べればその容姿も驚くほど綺麗に生まれ変わった感じになったと気づいた。長年の垢やら汚れなどや服なんかを変えるとここまで変わるのかと思っても見なかった結果だが逆に言えば、俺としてはもう少し普通の容姿でいてほしいと思う。
なんせ、その体躯は普通の女子高生くらいだけどスタイルがいいのかわりとメリハリボディなのだ。
オーリエだけでもあれなのに、と俺はこの先もホムンクルスができるのかなといろんな意味で悩ましかった。
そんなことを考えていると、何やら糸が手についているのを見たのではっとして俺のほうを見る無表情なアラーネが赤い顔を向けていた。
「い、いや......あれだって。その......」
彼女の糸の用途は主に、縛る、繋がるということで俺やらジャックスやらはよく繋がるのほうで被害に合っている。ま、そんな目で見てしまう己が一番アレなんだけどな。
「............いいよ?」
「いや、よくないよ!」
何を言ってるんだこの子は。
さっきまでのどもりもなく即効で否定した俺は、彼女の様子を見る分には問題ないと食事の用意を手伝う振りをしようと誤魔化すようにオーリエの下へと向かった。
翌日、いよいよ5階層へと至る最中――
現実的にまだいけるかに見えたそこへ至る前に、
――ガチャ......ヒュ~~~
あれだけ頑張ったはずの俺達は、最も古典的でもっともありえないオチの中、とても深いと思える穴へと真っ逆さまに落ちて"死んで"しまうのだった。




