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第37層「温泉とはじめての"味"」

 温泉。

 それは命の洗濯ともいうべき日本人に生まれてよかったと思えるものだ。


 ホムンクルスの体液や毛などで作られた彼らそれぞれの下部部隊が作られたことで個性豊かなそれぞれがさらにその数を増やすという結果で、収集がつかない状況下の中でサラリーによる提案で一応の解決を見た。だが、レティのその後の発言で色々と吐き出したい俺にはまさにうってつけのものだった。


 思いついたらすぐ実行の俺は、早速温泉を見つけに飛び出した。

 護衛は基本のアベさん、ジャックス、オーリエ......そして親父臭い息子のダイクと、もはやストーカーとでもいいそうなアラーネとアラウネちゃん一行である。


「ダイクよ、そんなに覗きたいのか?」


「親方、冗談は顔と態度だけにしろよ」


「お前もか」


 なぜかダイクは俺のことを親方と呼ぶ。いつから俺はねじりはちまきが似合う人になったんだろう。


「がはははは!いくら毒舌のおめぇでも息子に言われちゃ形無しだな!」


「黙れワンコロ、レティに会議の場で護衛のくせに寝ていたことをチクるぞ」


「ひぃぃ、カンベンしてくれ!」


 相変わらず苦手のようだった。


「タクト、もうすぐ着くヨ?」


「ガウガウ」


 クンクンと辺りの匂いを嗅ぎ沸けて、チャビンの報告にあった場所を探索しているアベさんと目で見て辺りを見ていたオーリエの2人があっちだよとでもいう感じで指を差した。


「そっか、ありがとう。いやー楽しみだ!」


テンションをあげた俺は、少しだけ馬車の速度を上げて先を進むことにした。




――その後方



「うふっ......ぐふふっ。父の乳を激写しない娘はいないのですよっと」


「グフグフ」


 そんな一行の後を追うように現れた髪が長く、青白い顔をした少女とそんな彼女に付き従うかのような同様に顔色の悪いおかっぱ髪の童型の"何か"が笑いつつも後を追っていた。


「フジョ、いいですか?これは重要かつ絶対的なミッションなのですよ。引きこもりで有名な父の乳とオーリエさんとアラーネさんのご立派なお乳を激写するチャンスなんです!念のための絡みの選材資料のためにもジャックスさんとダイクさんも撮らねば!!......決して見つからないように......うふふ」


「コクンコクン......グフフフ」


 1人と1匹?は、温泉というキーワードから初めて入った風呂というものから妄想して父親となるタクトの艶姿に何度も昇天をする思いで彼らの後について行っている最中だった。その時――


――ブヒァァァァ!


 というほえ声とともに、横から現れたモノがいた。

 体長は2mを超えるほどで前足で地面を掘り起こすようにしてまるで興奮した牛かとでもいいそうな魔物だった。


「猪とか乳の父を拝みたい私の前に現れる障害にしては随分と容易い相手!」


 モジョはそういうと、自らの髪を掴んで突撃してきたバーゲージをひらりと受け止めると手に力を込めてボソっと呟いた。


「髪芸――"亀甲縛刃"《きっこうしばり》!」


 その言葉によって、髪はまるで生きている縄のように伸びていくとバーゲージを捉えてまるで亀甲縛りのように絡みついていった。そして、ザシュっという音とともにブツ切りに切断される。伸びた髪はするするっと回収される形で戻っていく。その髪をペタペタと触りながらもモジョは憤りと共に愚痴を言い放った。


「あぁもう!髪が血で汚れたわ!で、でもこれで......うふ......大儀名分が......うふふふふふ」


「グフフフ」


 1人と1匹(?)はあっさりと邪魔者を葬ると妄想とともに前を行く馬車を追いかける。......転がるそこに写る目は、どこか寂しそうな雰囲気で佇んでいるかのようだった。





――ブルッ!


「な......なんだ?今悪寒が」


「............?」


「あ、いや。なんでもない............と思いたい」


 突然襲った悪寒だったが、気を取り直して前へと向きなおす。

 小山ほどの丘を越えた先にまさに温泉とでもいいそうな匂いとともにその目的のものが姿を見せた。


「おぉー!確かに温泉だ!」


 見えた光景はいたるところにまるで染み出たかのような池のようになっている湯気の立つものがあった。広さは一番大きいもので一般的なプールくらいの広さを持つ規模もあるため源泉としては十分だと思った。


 もくもくと挙げる湯気に喜びを隠せない俺は、匂いを嗅いで間違いはないと、いの一番にジャージを脱いで下に着ていた水着姿のまま温泉へとダイブする瞬間にアベさんに羽交い絞めで止められた。


「え、あ、アベさん?」


「ガウ」


 そう言ってアベさんが爪を指した場所を、改めてみるとそこはボコボコととても普通じゃ入れないくらいの熱気を帯びたものだった。そういえば、温泉は絶対に適温ってわけじゃないと妹の湯治の資料でも書かれていたっけ。


 危うく若さゆえの大火傷――下手すれば煮物になりそうだったと思いヒヤっとした俺は、アベさんにありがとうと礼を言ってそのままの姿で手袋を取り出してからあるものを取り出した。


 迷宮内であればこういう情報で表示されるものである。



【アイテム情報】

----------------------------------------------------------------------

 アイテム名 :水精保冷剤40(タクト専用)

 効果    :保温効果(40℃)

 アイテム説明:水の精霊と血の記憶によって作られた保冷剤。

        どんなに温度があっても、必ず40℃の保温効果を持つよう        に調整する保冷剤を使用したもの。

----------------------------------------------------------------------


 俺はその保冷剤をその温泉へと投げ入れると、温泉自体が水色の光を帯びて浸透していくとすぐに光が消えた。効果が効いたことを検証するために俺は手を少し入れると、俺がいつも入るほどの適温さへと確かに変わっていた。


「よし!これで入れるぞ」


 そう言った瞬間――


「やべぇ、温泉とか超やべぇ」


 とか言いながら、迷宮馬車からゲートを通じてやってきたであろうギャルオが現れてそのまま入った。


「お前なぁ......」


 別に一番風呂にこだわるわけじゃないが、空気を読まないその行動はさすがにあれだったが......まぁ、いいか。


 俺も続くように入ると、適温のそれは風呂とは違う匂いと暖かさがあった。

 あ”ぁ”~という親父臭い声とともに入るそれは俺のオヤジの受け売りである。

 俺と同じように水着のままにジャックスやダイクも俺の隣に座った。


「あ”ぁ”~......最高だぜ」


「こりゃ、親方が言った通り......体の節々に染み渡るなぁ~はっはぁ!」


 ジャックスはおっさんだからしょうがないとしてもダイクのご機嫌な様子は、俺よりもオヤジ臭く、頭に巻いた捻り鉢巻がそれを増長させている感じがした。


 やがてアベさんも頭にちょこんとタオルを乗せて浸かり、何やら通ぶりを発揮している姿を見ると俺はアベさんを今後どう見ればいいのか分からなくなるが、アベさんだしな、という気持ちで落ち着くことにした。


 やがて、馬車内の着替え室で着替えてきた綺麗所も入ってきた。

 無論だがオーリエもアラーネも水着姿である。水着の素材であるアベさんが狩ってきた蛙の魔物マッドフロッグというらしいの水をはじき伸縮性のある魔物の皮やらのおかげで出来上がった一品である。


 オーリエはそのグラマラスな肉感をこれでもかと強調している黒のビキニ姿で、アラーネは逆に白いワンピース型の水着を着ていた。

 各々が立派なスタイルを持っているため、俺も直視ができるわけじゃないがチラチラと見た範囲では充分着こなしているそれを最高だとチャイムに話しかけて完成させた自分にグッジョブと内心で褒めることにした。


 ていうか、そんな2人は当然のようにこちらへと来るためうちの男どもは何を考えたのかそんな俺の両隣を譲る形で別の場所へと腰を落ち着けた。


 おかげで両方にはさまれる形になった俺は、友人が見ればハーレムだとでも言う状態であった。


 温泉の周囲を見たりしてごまかしつつも、現状を忘れることにしてここに来た目的の一つである条件を確認してばっちりだと思ったので早速取り掛かろう。


 まずは迷宮化である。


 俺は立ち上がると、そのままダイクの下へ行って――


「ダイク、柵を作るぞ」


「おう、もういいのかい?親方」


「変な気を使うなっ!ギャルオ!お前の足も貸せ!」


 そういう俺になんだかなと呟いて岩場に置かれた自分の道具を手に取るダイクに、えー超めんどくせぇとか言うギャルオに――


「レティにチクるぞ」


 という、彼らにとっての幼いが絶対的な位置にいる娘長・レティシアの名を聞いて考え直したのかそれぞれさっさと準備を整えた。


 本当にうちのヒエラルキーがあれだ。


「んじゃま、ちゃっちゃとやっちまいますか」


 歩いていきそこらへんに生えている木をパンパンと叩いて、おもむろに左手に持つその道具――カンナを振り上げて滑らせた。すると、光と共にその表面がまるでかつら剥きをする大根のように表皮がスルスルと剥けていく。それをもう一つ右手に持つのこぎりで切り裂くと、"2本目の白く薄い腕の左手"に持ったノミで形を整えていき、同じく"2本目の右手を握り締めると囲う場所めがけてそれら殴っていった。


 ダイクの特殊な力である阿修羅手である。最大で36本ほどの手になるため、同時作業に向く"右腕"から生まれたらしき力である。

 ま、俺と同じく戦闘には向いておらずあえてあげるなら腕力で殴るくらいだ。


 ノミ、カンナ、ノコギリはもちろん俺が作った魔大工道具である。


 殴られたそこへ、"左ふともも"から生まれたホムンクルスのギャルオがその左ふとももで器用にリフティングのように浮かせると、足先で蹴っては俺の指定した場所へと振り分けていった。


 ちなみにギャルコは右ふとももであり、物を使って自在に蹴り分けるサッカーみたいな力を持っている。彼ら用にと一応サッカーボールのようなものも魔道具で作り出して渡している。


 足技は引けをとらないだろうが、決してあの有名な子供探偵には向かない性格だというのは言うまでもない。


 そんな作業の中で何やらヘブッ!という声が聞こえた気がしたが、気にしないことにする。柵を打ち付けていき俺は作業を進めていった。なぜかここにはいないはずのモジョが、俺が増殖して与えてあるガラケー片手に温泉でプカーっと浮いていたけれど、見間違いだと最後まで気にすることはなかった。


 あいつは連れてきてないはずだしな、うん。幻だ......きっと。


 そうして、温泉に入っていたアベさん、オーリエ、アラーネ、ジャックスたちと木を切り揃え終えたダイクの手伝いもあって特に時間をかけることなく温泉の敷地いっぱいに柵で囲われた場所ができた。


 手を当てて、迷宮創造(ダンジョンメイカー)を発動させて迷宮"温泉"ができると馬車に置かれたリュックから掃除機とアベさんがマッドフロッグと同じ場所で狩ってきた防水性の皮を持つ河馬の魔物"ヒポダンプ"性のホースで作られた魔道具"給水ホース"を設置した。


 掃除機の吸引力によって吸い込ませた源泉をすでに居住区へと設置されている各家庭の浴槽へとゲートを通じさせる作業まで行った。

 各々接続するだけとなるそれをあとはこちらでやるとチャマットに言われた。


「これで温泉もできたな」


 そうしてパラパラと集まってきた日本人の血も持つホムンクルスたち、その下位部隊が連れてきた魔獣たちもともに温泉を楽しむ光景が見て取れた。

 ふいにそういえばと俺は辺りの木々を見ると、日本ではもう桜が咲いているのかなと少しノスタルジックな感傷を抱いた。


 日本に未練があるわけじゃない。

 あるとすれば、俺が一番気にかけていた親友のあの二次元オタクのダメっぷりな生き方と、育ててくれた両親への申し訳ない気持ちくらいだ。


「よぅ、おめぇもどうだ?」


 と、作業後に改めて入りなおすことにした俺のそばにジャックスが寄ってきた。

 感傷に浸っているのを気にすることもせずにズカズカと入り込んでくるこの姿は、自分の好きなものを語る時のあいつに似ている気がする。それ以外は全く似ちゃいないただのオタクなんだけどな。


「酒は飲めないっていってるだろ?20までまだ3年だ」


「おいおい、おめぇはもうその世界とやらの軸を外れてるんだろ?」


 といったジャックスに酔精草の入れられた麦茶の酒を強引に渡された。


 ジャックスの言葉に同意したわけじゃないが、確かにもうあっちのルールは適用されるわけじゃない。それに考えてみれば、不老となった今の俺はそういう意味ではもう年齢も関係ないかと思った。


 舐めるように初めて飲んだ酒の味は、ウーロン茶に似ていた気がした。


 その日の夜――

 パソコン前で土竜頭族の下への以来となる『アレ』を起動させた。見てみると、コストが1000も増えていた。現在は2500を越えているそれに今回は2氏族を解放したからなのかなと思いつつも、今度は池の種類などを見ると池の種類には新たに"泉質"に追加がなされていた。"単純温泉"というもので、湯治の時の資料を机の引き出しからだして見てみると、どうやら日本に一番多いタイプの泉質らしい。


「いろんな種類の温泉を迷宮化して、それぞれを楽しむのも乙だよな」


 そんなことを呟きながら、どこからそういうのが追加されているのか分からない不思議なソフトとそれを疑問に思うも『アレ』の仕様と世界への貢献度についてなんとなくだが、理解を深めた。


 つまりは世界にとって彼らは貢献度が加算されるほどの存在なのだろうと。

 それを1氏族救い500得るということは、2氏族で1000のコスト最大数増加だと考えれば妥当だと思った。


 今後も機会があれば、亜空間内を充実させるためにという邪道な考えながらも、救ってみるのもいいかもしれないと思った。


「そういえば、土竜頭族たちのところへ行く時にコーラとか飲みたいなと思ったけど......ま、果物系はまだできていないからな。楽しみにして待つか」


 そうして炭酸池と単純温泉で1000消費させると、パソコンを閉じた。


 レティがぐしぐしと目を擦りながら寝転がるのを受け入れて俺もベッドに寝転ぶと、隣からスースーとよく寝ているレティの顔が見えた。

 妹にもしたように、頭を優しく撫でた俺はいよいよだと心待ちにしていた初めての迷宮攻略に思いを馳せるのだった――が。


("父さん、お休み中に申し訳ない。明日早い時間にでも今後の迷宮に関しての会議を開く予定だから父さんにも出席を頼む。では、また明日")


 と言いたいことをいって一方的に通信を切ったサラリーのおかげで、明日にでもと思ってたのを一日延長することになるとは思わずにため息とともにとりあえず眠ることにした。

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