第35層「迷宮ギルド」
会議終了後、迷宮ギルドのシステム作りのためにと迷宮ラウンジへと戻ってきた俺はモジョから逃れるように合流してきたアラーネを連れて、迷宮の本丸となる門から北西のスペースを丸々使って作り出した酒場兼宿泊施設へと向かっている。その道すがら、先ほどの会議の場で語られたことを彼女に語ったが、ただ「......そう」としか言わずにまた無言で俺の隣を歩いている。
彼女にとって、そういうのはどうでもいいことらしい。
もうすでにその先祖返りした力も彼女なりに受け入れた上で復讐を決意しているのだろうと俺は何も言わずにいた。
「そういや、ラウンジって初めてだよな?」
「......うん」
ここに来てからというもの、彼女はあの犬小屋からすでに部屋を移っていて修行場と亜空間側の部屋しか行き来していないらしいとレティに聞いた。
無口キャラなんて娘の私が認めないよ!とか意味不明なことを言っていたが、俺がそんなに軽率なキャラに見えるのがわりと失礼に思った。
そんなことを思っている間もゲートを通り抜けて、居住区とラウンジとを繋ぐようにしている階段前の踊り場に着くと扉を開けて俺とアラーネはラウンジへと入った。
広さはショッピングモールが丸々入るほどで、一見すればそれはまるで商店街のような感じであらゆる屋号の区画になっているが、今は営業もされているわけじゃないので、閑散としている。
現在のラウンジは、町以降に考え直された俺なりの考えで元々の一般的グラウンド2倍の広さから数倍に匹敵する規模にまで広げられていた。
主な施設として宿屋兼酒場が一体となった複合施設場と各種迷宮に必要なものを販売するための区画しか現状ではない。
それ以外はフリースペースとなっているため、侵入者はそこで野宿するなり外部との待ち合わせをするなりのオープンテラス型のテーブルなどが置かれた場所がある場所とない場所という状態でそれぞれ敷地を設けている。
森側の入り口から入ると、丁度正面に迷宮"本丸"への門が見えてその右側にはカウンターが設置されており、そこが案内兼ギルド登録の場になっている。
宿屋と、酒場利用のためにそのカウンターのさらに右側にはテナントハウス3階分ほどの大きさを誇る建物が置かれている。
1階は、宿屋と酒場で2階から3階が宿としての機能を持っている。これらも小人族の工作担当と俺の"右腕"とも言えるホムンクルス・ダイクに頼んで協力して作られたものである。左腕のエロナに右腕のダイクなんてちょっとあれだけど"支援生産系"の俺には両方なくてはならない存在である。
それら、ラウンジの現在の施設などをアラーネに教えながら歩いていると、やがてそのカウンターへと着く。
本丸側の壁に併設されるように、設置されているカウンターにはそれぞれ登録用、報酬受け渡し用、買取用という感じで分かれているのだが現状では登録用しかない。残りは実際に運営が始まってからである。
そんなカウンターには現在、留守用にと渡していた木製の人形がぬぼーっと突っ立っているのみであった。
「どうやら、ホステスはでかけているようだな」
ホステスというのは、"上唇"から生まれたホムンクルスでセクシーさを売りにして"俺"には甘い口調で囁くセクシー担当のホムンクルスである。俺から出来ているためそれ以上の感情を抱くことがないから俺には無用ではあるが、それ以外には他人事じゃないくらいの妖艶さを放つという特徴があるらしいとジャックスに聞いたことがある。いや、ジャックス以外の小人族の"大人たち"側の意見だ。
ちなみに"下唇"から生まれたのは、ホストというこっちは男版のホステスと同じ――でもないが、ホステスはホストを弟のように可愛がっているからなんというか、上唇下唇で口姉弟というシュールな設定が付与されている。
狙ったわけじゃないのは言うまでもない。
ちなみに彼女は別に甘い性格をしているわけじゃない。
俺に関してはなんていうか、親としてなのかそういう感じだろうが俺以外ではこうじゃないのだ。ソレが証拠で彼女の力で毛皮がチリチリになって帰ってきたジャックスで証明されている。
彼女は主に、このカウンター界隈の責任者的立場にあるが、暇さえあればどこかにふらりと出かけている。なんていうか、俺からすれば彼女は露出狂とでも言えそうなほど自分を見て欲しいという欲を持っているように見えた。
行動はスパイシーな自己顕示欲というか......まぁそんな感じである。
そんな受付嬢がいないので、俺は気にしないようにしてカウンターの中に入りカウンター内に設置しているギルドシステムの各種装置を確認していった。カウンターの下には、このラウンジの入り口がモニター化できるように俺の部屋から持ってきたテレビが置いてある。
それは、監視眼の二対一組となる魔物の目製の魔道具を利用して作られた監視モニターである。切り替えも可能なので、ラウンジ内のいたるところを監視できるようにしてあるものだ。難点は、42型であるため多少場所を取ることくらいであるのでこういう場所を使ってしか使えないが、丁度隠れる位置に設置できるために今では"諜報には重宝"している。
なんだろう、モジャの影響か?
寒いなと思いながらも、もくもくとそれらモニターとラウンジ内の監視眼との接続作業を行っていく。
「............」
俺が作業している間も飽きることなくその様子を見るアラーネに問いかける。
「暇じゃないか?」
俺の問いに彼女は首を横に振るのみである。
「......」
「......」
む、無口キャラというのは話が続かないのかと思いながらも、俺はそういえばと気になっていたことを改めて聞いてみた。
「そういや、アラーネの糸ってのは自在に生み出すことができるのか?」
「?」
「えと、細さとか硬さとかそういう意味でなんだけどな」
俺の問いに、頷いて答えると手元に糸を出した。
作業をしながらもソレを見ると、見た目で言えば色々な種類があることが分かった。糸よりも細い釣りに使われる釣り糸くらいから、それを束ねることで太さを増したかのようなよく工事現場でよく見る何かをひっかけて吊って資材を運ぶのに使われるワイヤーみたいなものまでの太さのモノもだ。
なるほど、これを利用すれば色々なことができるな。
綾取りとか教えてみようか?
そうしたら、それが彼女の技に昇華できるかもしれない。
思えば折り紙にしろ、あやとりにしろ、チョイスが妙に爺臭い感じがした。
例え、妹のためだったと考えていたにしても。
そんなことを考えて、ため息をつきつつも続けて聞いてみる。
「それは、負担......生み出す時に何か犠牲が必要だとかはないのか?」
「......お腹が空く」
お腹が空くだけか。そりゃ、なんというか......ご飯を食べさせるだけで糸製造機にもなりえそうな感じだ。帝国もそれを便利だと目をつけたのだろう。
ま、俺も利用はさせてもらうつもりだけど、無理はさせないようにしないとなと自分に言い聞かせた。
ギルド各所に設置している監視眼との接続が終わり、調子を切り替えてスイッチで確かめるために、ポチポチと切り替えて問題がないと調整を終えた時フラリといい香りを漂わせた女性が現れて――
「お疲れ様ねぇ~ダディ」
うふんとでもいいそうな女性は抱きついて俺の耳元で話しかけてきた。
俺は、それに反応することなく冷静に伝えた。
「ホステス、お前どこにいっていたんだ?あと、"唾液は垂らす"なよ」
「あらぁ~、相変わらずつれないわねぇダディったらぁ。それに秘密を持つのは女の趣味よぉん♪」
「ハァ~......」
ため息とともに俺は、相変わらずだなという感想とともにもう一つの作業へと移った。
カウンターの引き出しに入れられた手元のファイルペーパーの紙とガラス製の水晶玉を取り出して試しにそれぞれの項目を記入してみる。
全ての記入をすると、光とともにそのファイルペーパーはプラスチック製のカードへと変化し、光の一部は隣に置かれた水晶へと吸収されるように入っていく。
「......よし、調子は良さそうだな」
紙からカードへと変化したソレは運転免許証くらいのカードサイズになっていて、右上には写真と左には名前、出身、D-rankと順に書かれている。
例えば俺の場合は――
【迷宮ギルド証】
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(顔写真) 名前 :タクト=ヨイズミ 性別:男
出身 :??? D-rank:D
貢献度:- 賞罰:なし
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顔写真などは監視眼と共に付けられている選備眼を元に、画像を取り込んで自動的に張られるようになっていて名前などは記入した情報がそのまま登録させる。
D-rankは迷宮の制覇層に応じてD、C、B、A、Sと分けられている。
これは、登録当初はみながDとなり、以後10層毎踏破することであとは10層クリアごとにアルファベットが上がっていく仕組みである。
貢献度に関しては、後々今はまだ実装されていない『ポイントシステム』による魔物からドロップされる魔石を集めて換金することでポイントを稼いでいくことで溜まるポイントのようなものである。
登録用の隣に空いたスペースはそれ用であり、今現在は人数不足のためもあって人員確保次第で創設する予定のものだった。
D-rankもそうだが、貢献度ポイントも利点があるのは明白だ。
D-rankは階層ごとのアルファベットにより待遇や宿屋での値引き、酒場での酒代などの福利厚生が上がっていくし、貢献度ポイントも貯めればポイントに応じて、俺が作り出した質のいい武防具や魔道具などとの交換が可能というものである。
つまり、侵入者は自分の命を賭けて迷宮へと向かうよりも無理せずにきちんと迷宮のいたるところに設置されている帰還陣を通じて自分の身の丈にあったノルマに従って行動することで、いずれそれらのアイテムを手に入れることもできるのだ。
それが、現在のそういった人族のどれくらいの割合でそのことに気づいて行動するかは分からないけど。
賞罰はそのまま、迷宮内で罰を犯した、何かを成し遂げた、とする際に書かれる項目である。無論、罰則は罪に応じての"重罰"か"軽死罰"が基本である。
前者は苦しみながら、後者は一瞬でと極端ではあるが分かりやすいと思ってそういう取り決めをしている。
それらの説明をアラーネにしつつも改めて顔写真付きのカードのそれを見ると、入り口のある機能をまだ取り入れていないので一度廃棄させてからその分野専門といってもいいレティに連絡を取った。
ちなみに無視された形となったホステスは、カウンター前のテーブルに腰をかけ、頬杖をついて成り行きを見守っていた。目があえばウインクしてうっとおしいことこの上ない。
(どうしたの?パパ?)
(どこにいるか知らないが、この迷宮の出入り口、ラウンジへの入り口に設置した銀素材のアナライザーを"繋げて"欲しい)
(あーあれだね、了解!)
二つの出入り口に敷設されているものにはその人の見た目、身長、体重といった身体的特徴が自動認証される仕掛けが施されている。そこを通れば、どんな奴かを見ることができてそれが侵入者側に伝わることはなく、情報として自動的にカウンターに置かれている先ほどの水晶へと伝わる仕掛けになっていた。
現実世界でいえば、レンタルビデオ屋に置かれているあの盗難防止装置のような感じのセンサーを応用した形である。と、それを頼み実行されたと思える時につけっぱなしだったモニターに何やら一団がやってくるのが見えた。
「お、これはちょうどいいな。奴らに試してもらうか」
そうして俺は心の中で、向かってくる一団に"ギルドで登録をしろ"と命令をする。やがてやってくる一団は町到着前で襲撃されて隷属され、あの拉致事件ではなんともいえない救出をされ、いまや人形のように言いなりとなっている傷の闘賊たちであった。
彼らはあの後もこちら側にいる同族たちの狩りをしているのは変わらないが、時として外の様子を知らせるためにこの迷宮へとやってきては外での出来事などや手に入ったものなどを仕入れる役もこなしている。
どうやらそれがたまたま今日だったみたいだった。
カウンター前までやってきた一団は、疑問的な顔をすることもなく俺の言いなりのままにそれぞれ出された紙に記入をしていった。そしてそれぞれの手元にカードが出来上がったので、先頭の傷の男――ハウエルのカードを見せてもらう。
【迷宮ギルド証】
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(傷の男の顔)名前 :ハウエル=ジョー 性別:男
出身 :帝国東の村エメン D-rank:D
貢献度:- 賞罰:なし
--------------------------------------------------------------------
入学願書時に撮影した時のように胸元から上にきちんと撮影された写真がカードに問題なく貼られたカードに頷いてハウエルに渡した。次に、水晶にハウエルの情報と念じると、カウンターの下に置いてあるモニターには身長と体重と特徴などが書かれている。
モニタリングだっけ、それも問題ないようだな。
彼らの情報を取るのはもちろん、今後分析をして迷宮の質を上げていく目的があり、先ほど寒いダジャレのごとく諜報としての意味もあった。あとは、リサーチということで町などに行かずとも彼らの知識でどこの生まれだとかそういう情報からだいたいの地図も出来上がってくるし、彼らが欲している装備や道具などの傾向もこれで知ることができる。
未だ隷属化に置いているこいつらでさえも、手に汗をかくほどの緊張を覚える今の俺にとっては理想的なものだと思う。
そんなハウエルたちから情報を引き出した後は、一日ほど宿に泊まって貰い労を労うために土竜頭族の件で採取した酔精草入りの酒を、ポーチから取り出して渡した。味は、俺は飲めないのでジャックス便りだがうめぇうめぇとまるで犬のように尻尾を振って喜ぶほどなので問題ないと思う。
それぞれ感謝をして、思い思いに宿のほうへと向かうハウエル一行といつもやつらから情報を引き出す役を担うホステスへ何かを手渡すと去っていった。
なんだ?と思ったが、緊張状態だったこともあったせいか俺は、気にせずに吐き出すようにため息をついてそのことを頭から消し去っていた。
そんな俺の手を握って、自らが着ているチャイム製のYシャツの袖で手汗を拭くアラーネにサンキュとだけ伝えた。俺の過去をあの時に知って、俺が今どんな状態なのかを知っているがゆえの行動だろうが、女の子に手を握られている現状は摺れていない思春期の男の子には別の意味でドキドキだった。
「......ダディ。そんなちんちくりんよりも私のほうが柔らかいわよ?」
という謎のホステスの敵意を持った言葉にそうかそうかと適当に相槌を打ちつつも、今度は去っていった宿屋兼酒場のほうへと向かい裏口から入る。
そして、同じくギルドカウンターでの作業をこちらでも施した。
ちなみに宿屋では繋がっている水晶にカードをかざせば宿泊ができるシステムになっている。
あとは酒場で出すメニューか。
酒場の担当は、ギャルコとギャルオなのだが今は不在のようだった。そこで、彼らのまとめ役でもあるホステスにメニュー表はと聞くと、カウンターの引き出しからメニュー表を渡してきた。
「一連の奴は......肉食メニューって感じだな」
「やってくるのが肉食系ならば当然よねぇ?」
「......まぁ、そうかもな」
牛や豚の魔物の肉を扱った串焼き、煮込み、揚げ物は一通りあるとして......野菜類が全くないものに俺は少しくらいは野菜料理なども追加したほうがいいかと思って、酒場の厨房スペースでポーチからあるものを取り出した。
迷宮"集落"で取れたニンジンとじゃがいものような野菜と、試験的に物質へと迷宮創造を使って作られた大岩の迷宮"精肉"で、取れた牛の魔物の肉である。
専用のゲートでしかいけないあそこは、唯の"食料品生成迷宮"となっている。
そこから狩ってきた素材をそれぞれ切って、なべで煮て、アクを十分とって塩やしょうゆで味を調えつつも完成させた野菜の煮物をホステスに味見させた。
ゲームを買い込みすぎてついつい金の足りない時によく作る貧乏料理であるそれは、俺としてはありなんだけど、口から生まれたので胃から生まれたオフクロと同様に味に関しても一過言あるホステスの批評は予想以上にひどいものだった。
「味はあれだし、塩分と塩分ってどれだけコレステロール取らせる気よって感じかしら?」
味はあれらしい。
料理といっても知識もへったくれもない男の料理なんてそんなものである。
しかし、だめか。
「仕方ないから作り直すわ。ハウエルからあるものももらったし」
そう言って、ホステスは手元から取り出した赤い草っぽいものを包丁でみじん切りにしてそれらを混ぜ合わせて俺の取り出した野菜と肉とで同じような煮込みの料理を作り上げた。
ああ、さっきのやり取りはこれだったのか。
完全に頭から離れていた。
そんな味付けをしたホステスの料理を一口、食べてみた結果――
「カ、カレー......だ」
「......不思議......だけど、おいしい」
「香辛草というものらしいわ。エウレシア王都の南には小さい港町があって、そこから時折仕入れることがあるとあのハウエルから聞いたことあるから仕入れてもらっているのよ」
「あいつらはそんなところまで行っているのか」
ていうか、この世界の草万能すぎだ。
奴らにも一応韋駄天やら力手甲といった魔道具は渡しているが、最南端までもカバーしている様子だった。そのおかげもあってそちらにいる連中へ宣伝はばっちりなんだとかいうのだから無駄なことじゃないはずだと納得することにして、そろそろかとあることを思いついた。
「帝国側へと戻らせる頃合か」
明日の出発時にホステスへそう伝えるようにして、俺はご飯のない久々のカレーを堪能した。
ラウンジ内の描写で分かりにくい部分があるかもと思い、一応ペイントで簡単に作ったラウンジの見取り図を挿絵挿入しました。




