第34層「会議と3色人族」
帝国から追われ、逃げていた少女――アラーネを救い出してなぜか俺を師匠と呼ばれてから2日の時が流れた。その間も、付かず離れずで行動していたアラーネを俺は内心で辟易とした感じで見ていた。
「お前も難儀なことだな。乳ありの娘に好かれるのはもはや......あれだが」
「......そこは見ていて目の保養になるからいいとして――」
いいのかよ!という突っ込みをスルーしながらも、話を続ける。
「別に尊敬されるようなことじゃないのに、なぜあんなにもってほうが問題だと思うぞ」
帝国は獲物だ発言をした後、時を置かずしてどこに琴線が触れたのかすらも分からない尊敬からくる"それ"を止める手段は今のところないのである。彼女の力は有用だと実体験で判断できたし、無表情でいつも眠たげな彼女もどこか生き生きとして現在でも修行場で頑張っている姿を見ると、それも彼女にとってはいいことだろうとは思うけど。
「だからって、洗濯やらの家事の世話、なぜか添い寝までしようとする神経が俺には分からん」
一昨日と昨日は、それでレティと大いに揉めた。
それゆえに、ここ2日間の俺は若干寝不足気味である。
乱れ飛ぶ糸に対して、レティの突撃で部屋はめちゃくちゃになったし。おかげで増殖させる気がないものまで増殖する始末となり、慌てて停止させたり補修したりと色々ひどかった。
「いいじゃねぇか。......嫌われるよりかは、な」
「......なんだ、まだ疑われているのか?」
「狼はうそつきだと......ったく、どこの誰だって話だ。俺と同じ種族で彼女に嘘ついて逃げたバカは」
何やら逃亡中に出会ったジャックスと同じ種族の男にだまされて売られそうになったので、そのことを根に持っているアラーネは自らを救って一緒に逃亡までしてくれた妹分のピョルナがジャックスに懐いているのを騙されていると勘違いしていきなりあの拘束の糸でもって縛ったそうだ。
誤解は解けたが、彼女の心根は未だ不審者を見る目だったのでジャックスも俺とは別の意味で辟易としている様子だった。
「ピョルナに好かれる報いとでも思えばいいじゃないか」
「報い前提かよ......しかも、あの兎側から近寄ってくるだけで俺のほうはなんにもしてねぇのによぉ」
サラリーたちとともに外に出て、再生のオーブにて土竜頭族の住む洞穴以外で、色々と俺が苦手とするタイプの虫――ヤスデやムカデ、また洞穴に住むというツバメなんかの吸収作業をまかせたことが縁となったのか兎頭族や土竜頭族など、散り散りになっていた彼らをほとんど救うことができた段階で発動したのは、両種族の子供にモテるというものだった。
顔は怖いくせに、子供にモテるそれがロリコンという目覚めを起こさないことを祈るばかりである。別にもふもふを独占されたから怒っているわけじゃない。
そんなことを考えながら俺とジャックスは、迷宮"集落"の会議場までやってきた。今現在でもここは会議場として使われていて、家を失った兎頭族、洞穴から逃げ出して路頭に迷い込んだ土竜頭族の仮設住宅っぽい位置付けにある元・大鬼族の集落にあるそのゲルで今回、3氏族による会議が行われようとしていた。
出席者は、俺と護衛役のジャックス、そして小人族、土竜頭族、兎頭族の3氏族の族長、長老である。議題は一ヶ月後の現状報告から、新たに加わることとなる2氏族の今後についてである。
扉の代わりとなるのれんのようなもの手ですくいながら会議場に入ると、もうすでに着席している様子の3人がこちらを一斉に見た。
「待たせたみたいで悪いな。じゃあ早速、はじめようか」
そうして、まずは自己紹介を始めた2氏族を見つめる。
深い茶色の毛皮で光によって光沢を持つ毛皮の土竜頭族、そして、斑模様で桃色と白が合わさったかのような垂れ耳の特徴を持つロップイヤーっぽい兎頭族のうち、まずはと土竜頭族が口を開いた。
「ワシの名は、モグドーといいますじゃ。長を勤めさせてもらっておるんじゃが、まずは今回のことにはとてつもない恩を感じておるですじゃ。この通り、礼をうけてほしいですじゃ」
そうしてあの洞穴で見せたような大きな爪を横に開いてまるで全身で祈るように伏せて礼をするモグドー老に短く返事をしてそれを受けた。
そんな彼らに負けじとでもいうべきか、兎頭族の長老も口を開く。
「我々のほうもだピョン。わしはピョゴンと申すピョン。これより、よろしく頼むピョン」
渋い――時代劇にでも出てればいっぱしの武士も務まりそうなそれを"ピョン"という語尾で台無しになっている感じの長老もそう言って頭を下げた。
土竜頭族は、"モグ~"で、兎頭族は"ピョ~"ってことか、と理解した俺は頭を上げるように言って"チャ~"の小人族族長であるチャビンに話を振った。
「概要は説明はしたのか?」
「そこはちゃんとしといたよ!」
俺はそうかと相槌を打って、それじゃあと声をかけるとまずは報告を聞くことにする。
「工作担当からは、現在2氏族のための住居を作っている最中ってことだよ」
「本丸は別としてラウンジのほうもか?」
「うん。あとは、迷宮主が"しすてむ"とかいうのを加えるだけだろう?」
「そうだな」
ラウンジでもあり、酒場の様相を持つそこは宿泊もできて、迷宮ギルドという迷宮に関するシステムを設置する方向でいる。まぁ、最初のうちは迷宮に関することの案内所や入るための検問を兼ねている部分しかないけど。
「後は、畑担当は採取担当と小人忍部隊の調査班で洞穴周辺から移し変えたものを生育記録をつけながら栽培するようにしているってことだよ。これが採取してきた主な花や草だよ!」
そう言って渡された紙には、彼らなりの言葉で書かれた一覧が書かれている。
本来は読めないけどそこはルールによっていかようにもできるので、俺も問題なく読める。......もっとも、あの町でも何もせずとも読めてはいたけど。
リストに書かれているのは、睡紫花と酔精草を筆頭にあの群生地で有用そうなものも含まれていた。あの群生地は独特の生態のようで、前述の草花を守るように様々な毒の特性を持つ花や草がまるで守るかのように生えているそうだ。
「群生地ってよりも、花と草の国っぽい感じがするな」
「チャミル、チャイブ両方もそんな感じらしいって言ってたよ」
やっぱりそうか。まぁそれなら、あの2人であればこれを崩さずにと手を打ってそのまま植え替えたかもしれないな。
と、納得して俺は話を進めた。
「調査に関してはどうだ?」
「小人忍部隊によれば、土竜頭族の洞穴の先に熱い水が溜まっている場所があるって聞いたよ!」
「温泉か!」
「な、なんだい?そのおんせんって?」
「あぁ......いや。ふっふっふ、楽しみにしていてくれ!あとでチャマットとも話があるからと伝えといてくれよ!」
「わ、わかったよ」
なぜかテンションの上がった俺に焦る様子のチャビンを見ながらも俺は騒ぐそれを必死で抑えることにした。
しかし......そうか、温泉が見つかったか。
これで彼ら小人族のためにもなるし、もちろん日本人としての血が騒ぐ俺も利用ができるぞ。俺は手元に置かれた紙に温泉のことをメモった。
「オイラからの報告は以上だよ!」
そう言って話が終わったので、今後についてのことを3人で話し合うことにする。
「じゃあ今後のことだけど、君たちの申し入れだから庇護下にという話になっているんだけど......」
その振りにモグドーさんとピョゴンさんはうむと頷くと――
「我らにできるのは、音を聞き分け地中を掘り進めることじゃ。チャビン殿がいうには、貴殿は迷宮作りにおいて鉱石などが採れる場所を探していると聞いておりますじゃ。であればその方面でお役に立てるはずですじゃよ」
「遠い過去、我らと土竜頭族、そしてもうすでに滅び去ってしまった蜘蛛頭族(スパイド族)と呼ばれる三族はそのようにして生活をしてきたピョン」
「ん?蜘蛛頭族?」
あれ、それって......。
「迷宮主のお考えは理解できるピョン。あの少女のことだピョン?」
「ああ、もしかして関係性があるのか?」
「大いにあるピョン。三色人族という言葉に聞き覚えは?」
三色人族?全くないな。
俺がそう答えると、ピョゴンさんは口を開いた。
「三色人族というのは、獣頭族、水棲族、そして滅びた蜘蛛頭族の元となる虫精族の血の色を表したものだピョン」
血の色から三色ってことか。
「獣頭族の赤、水棲族の青、虫精族の黄は1000年前が起源とされる我らの祖先の証なのだピョン」
つまりは進化する過程で、それぞれの色に分かれた血を持っているということだろうか。
「ワシもまだまだ若輩に過ぎず精霊族らのような知恵者とは違って知識不足ではあるが、これだけは言えるピョン」
そうして一呼吸した後に語った内容は、アラーネの正体というか力の証明というものだった。
「血はおそらく赤に違いない。が、稀にだがそんなものでも異種族の力を持ったものが生まれることもあるらしいのだピョン。最初は普通の人族かと警戒をしたが、彼女の持つその異様な髪質や髪の色で判断したピョン」
「髪質や髪の色?」
「人族にはあまり定着されておらんものだが、昔からワシらや獣頭族といった種族には一色性、二色性というものがあるですじゃ」
それは先に語った赤い血を持つ獣頭族や人族といったもの、青の血を持つ湖や海に生きる水棲の種族、黄の血を持つ空、森、岩、どこにでも適正を持つ虫精族という色で分かるそれらは昔から彼ら同士でもそれを特徴として捕らえていたそうだ。
獣頭族や人族なんかは髪の色なんかで見たまま分かるものだし、青の血を持つものはヒレなど体全体も青に近いものを持っているのだという。
虫精族なんかは割りとそこらへんでは分からない部分もあるが、目の色で判別できるというのでそれが一色性である単色であれば生き物としての位が高く、二色性のような雑多な色であれば単色よりも低いとされるというものらしい。
そこまで聞いてそういえばと俺は、町での人族の髪の色がほとんど斑に近かったなと思い出した。あれは二色なんてものじゃなくほとんどが三色然とした斑だった。つまりは――
「それは人でいえば、町にいる人族たちは三色性で一番生き物としての位が低いってことなのか?」
「......その概念はワシらには理解できんが、ワシが話した生き物としての位の話でいえばおそらくは、そうだろうと思うピョン」
彼らはそれで優劣を決めるということをしないようだった。
まぁソレは人間が勝手に決めてしまう"性"なのだろうが、つまりはそういうことだと俺は理解した。
じゃあ銀色の毛皮を持つアベさんはと思ったが、なんとなく聞くのをためらった俺は話をあのアラーネに戻すことにした。
「あの子の薄い黄色と白の混色っぽい特徴は、そういうことなのか?」
「蜘蛛頭族の体毛は薄い黄色だったと聞いたことがあるピョン」
彼らの憶測だが、力に目覚める前はおそらく薄い黄色だったが目覚めたことによって髪色もそれに応じてあんなふうに変わったのだろうと語った。
なんていうか、先祖返りっぽいイメージが浮かんだ。
彼女の祖先にはそういう血筋もあるのかなと思った。
「知らなかったのであれば、知っておくとこの先にとっても有利だとオイラは思うよ!あ。ちなみにオイラたち小人族は、妖精族の亜種だよ!」
そうなのか。
そういえば、ゴブリンって妖精族がって確か何かでも見た覚えがあるからそういうものなのだろうと理解した。
三色草やら血の色やらを考えると、この世界というのは結構色が重要な側面がありそうな感じだな。
そんなことを思っていると、会議を元に戻すべくモグドーさんが咳払いをして話しかけてきた。
「ともあれ、ワシらのできることはそういった事ですじゃ。お役に立てるならば、ぜひ役立ててもらいたいですじゃ」
「あ、ああ。その代わりといってはなんだけど、こちらでできることがあれば言ってくれれば対処させてもらうよ」
そうして意外なことを聞くことが出来た会議は、その後の段取りなどを簡単に打ち合わせるとそのままお開きとなった。ちなみに会議に一緒にでていたジャックスが大人しかったことに気づいた俺がそちらを見ると手を後ろに組んだまま横になって寝ていた。
護衛が寝ててどうすると思うも、このおっさんもおっさんで迷宮のためにと厩舎で魔獣の世話やらアラーネの訓練やらと骨を折って協力してくれていることに免じてそのまま寝かせて俺のみ出ることにした。
今後の居住区の地下には土竜頭族が、小人族の上の階層である三階層には兎頭族が暮らすことになったのだが、今の俺はそのことよりも色について考えることがあった。
薄い黄色に白が混じった髪のアラーネ、水色の髪のオーリエ、薄紫の毛皮を持つジャックス、そして――
「太陽の光さえも反射しそうな深い銀色の毛皮を持つアベさんや金髪のレティーナ様......か」
そういえばあの王女も灰色という白と黒の二色だったな。
そこまで考えて思うことは、まだまだこの世界は深いことだらけだとしながらも歩いていると何やら忙しない連中がやってきた。
「............もういいから、離れて」
「そ、そんなこと言わないで。私とあなたはいわば無口キャラの代表格であの父が好きな乳を持つ乳娘なんだし――ヘボッ!」
何やらうっとおしいことをアラーネに絡みながらいいそうになったわが娘の変態代表・モジョに制裁を叩き込んだ。あぁ、しまったつい............。
後悔する間もなく、長い髪を伸ばしっぱなしにして某TVからぬっと出てくる女性のような髪型ないわゆる危ない雰囲気をかもし出す変態ホムンクルスは俺に抱き付いてこういった。
「ち、父よ。やっと私をいじめてくれるのね!さあ、穴はここ――ヘブッ!」
チョップで再度制裁を加えた後に、言い渡す。
「モジョ。お前と俺は血が繋がっているし、俺は今のところそういうことは考えちゃいないし、何よりお前に言い渡したことはできたのか?」
両手で頭を撫でながらも、薄気味悪い笑みを浮かべてえへえへと答えてきた。
「それはもちろんよ、父。私の罠に掛かった人間は全て私にお仕置きされるのよ!............と、ところであの狼男との受けと攻め、どっちが――」
「そうか、お疲れさん。じゃあ後はこっちでやるから、お前は自室に篭ってていいぞ。あ、チャイム巻き込んでまたあんな変なもの作るんじゃないぞ」
「ああ......父に虫のように無視され、自動監禁命令とか萌えるわ!」
そんなことを言いながらもぶつぶつとおそらく妄想をしながら律儀に去っていく彼女は、俺の"左脳"から生まれた二次元オタクのツレが話題としてあげていたモジョというものに似ていたのでそのままの名前を与えたホムンクルスだった。
性格はこんな風に父と呼ぶものと相姦しようだとか、SMのなんとかやら、受け攻めというわけの分からないことをいう感じの残念な少女である。
アラーネの何が気に入ったのかたまにこうして絡んでいる様子で、もちろんホムンクルス内でも接触する娘息子はいない残念さんである。
いや、唯一といっていいかは分からないが、エロナは彼女を認めているな。
......なんでだろう。
アラーネはやっと収まったという感じで、俺に頭を下げてありがとうと礼を言う。
俺はその姿に、別に乳なんて......と思いつつも160cmくらいで彼女の年齢であれば、一般的な背丈に似合わぬその推定86はありそうなそれを見ている自分の首を振って忘れると話を振ってみた。
「そういやなんだかんだあって聞いてなかったが、何で俺のことを師匠と呼ぶんだ?」
「............」
その言葉に、アラーネは無表情な中にも、あの時の睨みに近い状態の熱を持った目で俺を見つめて言った。
「............帝国を獲物として見るその"度量"を学びたい」
「い、いや。そんなもの学んでも......」
「......そして、いつかあの商人に復讐をしたい」
「!」
復讐、か。
全てを分かるわけじゃないけど、俺の過去を見て考えが変わったのか彼女なりの前向きさが伝わってくるものだった。
「復讐は大変だけど、覚悟はあるのか?」
「............コクン」
と、俺の問いに頷いて答えを返してきたのでそれならばと、俺は彼女に協力しようと思った。都合のいいことにその機会はあるのだ。
彼女を本格的に鍛えるための機会が。
「もうすぐ迷宮が完成するから、一連のロールプレイとして迷宮へ入るつもりだけど、そこでなら実戦にもなりえると思うが参加するか?」
そう、ギルドシステム、出入り口のとある設定、監視眼の設置から宝箱の中身のシャッフル機能、魔物の設定を終えたらいよいよ残るは、実際に攻略する過程となるテストプレイである。
俺の問いに今度は力強く頷いた彼女に俺も頷き返して、早速俺は最終段階である工程を行うために迷宮のラウンジへと向かうことにした。




