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第33層「少女の過去」

 不思議な夢を見た後に、目覚めた俺は一路彼女の宛がわれている部屋へと向かうことにした。


 その道中で俺が気絶した後のことも色々と知ることができた。


 俺が気絶したその後は、俺が予め渡していたレッグバンド型の加速魔道具・韋駄天によって土竜頭族、またあの少女を匿ったがゆえに集落を失ってバラバラになってしまった兎頭族の捜索が続けられたそうだ。その甲斐もあり、兎頭族の大半を救い出すことができているということだった。


 韋駄天には、小人忍ミニンジャーの手甲にも使った迷宮魔法の力向上系を応用して作られた速度向上系の魔法が付与されている。


 無論、それも馬や狼の魔獣ウルグルフの速度を元に作られている。


 狼速ウルフスピーダ馬速ホースピーダ豹速チータースピーダで倍率はパワー系と同率である。


 またそれに通信機能をつけていて、娘達ドーターズ息子達サンズはこれをリストバンドやレッグバンド型の標準装備としていて身に着けているので、俺の指示もそれ越しにできるようになっている。


 個性豊かなホムンクルスたちだが、やることはしっかりとやっているようで俺はそうかそうかとわが子たちの働きに頷いた。


 わが子として、完全に受け入れがたいホムンクルスたちもいるんだけど。


 筆頭は無論、サラリーとオフクロである。どう見ても年上な彼らや、こうして少女の宛がわれている部屋に着き、その扉の前で何やら心配そうなピョルナを撫でている様子の白衣を着た女医姿のホムンクルスで名前もそのまんまでジョイというが、そんな彼女もである。


 そんなジョイに抱き枕のようにされ、撫でられながらも心配そうに少女がいる部屋をピョルナはじっと見ていた。


 しかし......ジョイはもふもふ好きか。血は争えないな。


  しれっともふもふを堪能しているジョイに話しかけることにする。


「ジョイ、あの子の様子はどうだ?」


 そういって手を上げながら近づいていくと、綺麗な黒髪を腰まで流して伊達めがねをかけるその姿はどこからどう見ても俺が病院で見たことのある"女医さん"が振り向いて心配そうな顔つきで答えてきた。


「ええ。健康状態は良好だけど......父さんのほうは大丈夫なのかしら?」


 ああ。この通りだよ。それで――」


 保護した子はどうかと尋ねようとしたところに、ピョルナが割り込むように話しかけてきた。


「迷宮主様!ど......どうか、どうか......あの人、お願いするピョー!」


 と言って、もふもふをおしつけるかのように抱きついてきたピョルナを抱きとめて、頭を撫で、背中を撫で、腰に位置してピョコピョコと動く可愛い尻尾を見て愛でるなどをしっかり行った後、彼女の背に合わせる。


「ま、出来る限りは......な」


 そうしてピョルナを離してジャックスに目をやると、よーしおじさんとあっちに言ってようなぁ~という声とともにピョルナを連れていった。ピョルナはどうやらそういう年齢の子らしい。


 どうでもいいけど、狼男が兎女子を連れて行く図はなかなかシュールなものだったのは言うまでもない。


「それでどうだ?お前の"目診"では」


「ええ。私の目診ではとても"黒い"様子だったわ。ただ、目を覚ました途端に追い出されるほどだったから治療はできず......だったけど」


 そうして頬に手を当てて、ため息をつく姿は血が繋がっていなければ俺にとっては最高の仕草だと喜ぶ場面だろうけど、やはり家族のそれゆえか、状況などによってか、そんなことも思わなかった。


 彼女――ジョイは、俗に問診というものを目で見ることによって行える力である"目診"という力を持っている。手当てという言葉がある。手を当てて、治療することが由来になっているそれのように彼女の目診はそこからきているのだ。


 目で相手を見て、診断し、目によって暗示に近い状態で自浄作用を引き出すという治療法だと説明をされた。


 彼女の見診通りに、あの夢が正確な彼女の過去なのであればそれも頷けるものだと思った俺はジョイに後はまかせてくれと伝えた。


「大丈夫なの?......私から見ても、あまり現在の彼女に接触するのはお勧めできないわよ?」


 と、なんとも医者らしいことを告げるジョイに――


「大丈夫かどうかは彼女次第だ」


 そう言って、オーリエとジョイにしばらくここらへんには近づかないでくれと伝えると、不安そうにしながらもジョイとオーリエは不安そうな様子で去っていった。


 荒療治になるかもしれないなと俺は1つ深呼吸をすると、一旦部屋の扉を叩いて応答を確かめたが返ってこないのでごほんっと咳払いをして中に向かって話しかけた。


「もしもーし。こちらは、夜泉――タクトだ。タクト=ヨイズミ。君を保護した張本人なんだけど、話をしたいから開けてくれないか?」


「......」


 中からなんらかの音がしたことで、聞いていると判断した。

 答えは別に期待しちゃいない。


「......応答なし、か。なら、入らせてもらうぞ」


 そう言って、俺は扉に手を当てると迷宮主権限で中へと入った。


 旧・犬小屋のその部屋の奥にはベッドがあり、そこには俺が救い出したままの格好である少女がシーツを握り締めていきなり入ってきた俺に警戒している様子だった。


「あー、そのままそのまま。俺はここに座るから」


 そう言って、手元にあった椅子を引き寄せるとそこに腰掛けた。


「さてと。改めて紹介すると、ここは俺が作った迷宮チュートリアルというところだ。なんていうか......洞穴の中に作られた居住も可能な巨大な階層の罠......みたいなものかな」


 そう言って少女の様子を見ると、その目はどこを見ているのか分からない様子でまぶたも半分ほどになってまるで眠い様子のままぼーっとしている表情に思えた感じだった。


 黒い、なんていうのはこういうことかと俺は納得して話を続けた。


「で、いってみれば俺はここの長で最高権限なんてものを持っているからあるから中から鍵をかけて閉じこもろうが何しようが、俺の権限で全部開けられちゃうってところだ。あ、だからって、覗きをする趣味はないぞ?ほんとだぞ?」


出来る限りふわっとした感じだが、応答はなしか。


 なんの反応も返さないまるで人形にでも話しかけているかのようなその行為だが、俺は懇切丁寧に現状を伝えることにする。なんせ、こういうことに経験がない。いや、ないわけじゃないが、妹の癇癪と同様に扱っていいのか分からないのだ。


「そんなわけで、無理やりに入って来た理由は君に聞きたいことがあったのと、スカウトに来たってところかな」


 聞きたいことというのはつまりは、あの夢のことだ。

 まるで追体験するあれは本当のことかを知る必要がある。

 あの迷宮輪ダンジョンリングの力なのかは知らないけど、あれが本当であればあの時に見せた彼女の力は有用なものだと思うのでスカウトをしたいと思っている。


「......」


 一方、彼女は特に何の反応も返さずにただひたすらに警戒をするわけで、俺が独り言っぽくなっているがまぁ、覚悟の上だと率直に聞いてみることにした。


「俺が君を救った時に見たのは、燃え盛る村......かな?そこで君が襲われそうになっているのを何か不思議な糸のようなもので相手を拘束して逃げ出す場面や、その時に君が『私が悪いの?』という思いなんか――」


 と、話を続けようとした時、件の糸が飛んできた。


 俺はその糸を掴もうとするが、その糸は粘着力を含んでいるようでベタベタになり、やがて俺を拘束するかのようにして巻きついてしまった。

 なるほどなと思った俺は、少女が次に何をするのかと見ていると部屋から出ようとしていた。


 これってつまりは図星を突かれた反応だと思うけど、害されずただ逃げるために使ったそれを俺は言葉令ワードルールで糸を"消した"。


 その行動に驚く彼女は、驚くあまりなのか動きを止めてこちらを伺うようにしていた。


「......話は最後まで聞いてくれって言いたいところだけど、君には辛いことだよな。俺も"体験"したし、土足で踏み入るようなことをして悪かった」


 そう言って彼女の拘束を解いた俺は、手のひらを扉のほうへと向けた。


「......どうぞ。逃げるなら逃げればいい。俺は追わないし、話をする気もない人を無理やりなんてのも趣味じゃない。君を助けたのは取引相手となる土竜頭族や兎頭族のあの女の子に請われたからだし。何より――」


 そう言って俺はため息をついてこういった。


「生きたいと思っているくせに、逃げるだけの人に俺は興味を持てないし」


 俺のその190度くらい変わった態度に言われるまま逃げようとした少女はピタっと足を止めて、こちらをまるで睨む様に見ていた。俺も、上等だとでもいいそうなほどに睨み返す。


「............私のこと......知らないくせに」


「あれが事実なら少しくらいは知ったし、君の本質を知らないから知ろうとしたんだけど、逃げるんだったらもうこだわる必要はないだろ?それに......」


そうして睨む目を見つめ返して、こう言った。


「そんな目ができるのに、逃げる意味がわからない」


 そんなことを言った瞬間にまた糸が飛んできた。今度は粘性はないが、まるで音楽の授業で見たピアノ線のように細くて丈夫そうなものだった。


 俺はそれにあえて捕まると、その糸は締め付けて身に走る痛みに声がでそうになった。攻撃として十分通用しそうだなこの子のこれは。


 まるで動じていない様子の俺に勘が触ったのか、また締め付けてくる。

 ギリギリとしまっていきそれによってできた傷から血も出てくる中で、これがこの子の痛みかという捉え方をした俺なので、言葉遣いとは逆に冷静に相手を見つめることにした。


 しかし、無表情で何事にも関心がなさそうな感じだったけど、自分のことでなおかつ許せないことには毅然として立ち向かってくるっていう、なんというか人は見た目で判断しちゃいけないタイプの典型だと思って俺は関心さえしていた。


「............なぜ、抵抗しない?」

 

 要するに彼女は、これまでこうやって相手を屈服させて逃げ続けたんだろうと俺は思った。


 しかし、今までとは違って黙って拘束を受け続けている俺に、疑問に思ったのかソレを緩めることなく聞いてきたので俺はさらっと答えた。


「俺は俺の力を信じているし、"あの時"に比べればなんてことないからだよ」


「............あのとき?」


 その答えに呆然とした様子の彼女を見て俺はあることを思いついて、実行することにした。


「ま、君の触れて欲しくない過去に触れちゃった罰ってのもあるけど......そうだな。それじゃあ、俺の過去を見せることで君の知らない俺を知ってもらおうかな」


 そうして俺はそのままの格好で、わざと倒れて締め付けで傷ついた傷口から出た血で地面に"4W1H制前"の状態で俺の過去を見せるルールを書き込んだ。


 その瞬間に俺から発する光が、糸を通じて彼女へと流れていきそれが攻撃かと千切ろうとしたものを動くほうの手で持って彼女を今度は逆に言葉令ワードルールで拘束させた。


「あ......あ......」


 俺の過去を見ているのだろう、眠たげな目は涙に溢れていて嗚咽交じりに膝を落として両手で顔を塞いだ。......あれ?そんな風になっちゃうのか?

 俺としては別になんてことはないただの取引と思って見せたものだったのだが、予想以上に彼女にとっては辛いものだったようだ。


 一時の時間の後に、彼女は手で涙を拭うと俺のほうを見てきた。


「............どうしてこんな......なのに、そんな......」


 彼女のいわんとしていることが全く分からないけど、答えを求めているようなので答える。


「悲しかったか?辛かったか?だけどな、俺も同じようなものだと思うぞ」


「???」


「なんていうか......俺は君の過去を見てただひたすらに君は可愛そうだとか辛かったんだろうなと思った。自分の住んでいた家を燃やされたり、追われたりといった経験はないけど、君と同じで家族を殺された経験ならある。なんとなく似たような体験をした相手のそれは結構響くかもしれないな」


 子を亡くした母ライオンが餌となるはぐれたガゼルの子をそのまま育てることもあると何かで見たことがある。同情とかそんなものじゃない、孤独ゆえに同じ孤独となった存在に対して本能的に行うだろうそれは依然として理由は知れなかったけど、俺と彼女もそんな感じなのだろうと思った。


「............」


「ここに帝国の奴らはこない。考える時間が欲しければ、考えてみるといいよ」


 そう言ってすでに拘束が解かれていた状態だったので、呆然とする彼女を置き去りにするように出口へと向かった。

 しかしそれをいつの間にか傍に来た小さい手がジャージの袖を掴み阻んだ。


「あなたは............帝国の敵?」


 何を思ったのかそう尋ねた彼女に俺は――


「敵じゃないよ」


 と、告げた。

 

 少女はびくっとなった後にジャージを掴む手を離して、そのまま垂れさせることなく自らの胸元でギュっと掴んだ。


 そんな彼女の心のうちを知らない俺は、扉の前で止まり振り返って呟いた。


「"獲物"を敵だなんて思わないだろ?獲物は、どこまで行っても獲物だ」


 そうして俺は部屋から出て行った。


 翌日――


「............師匠。私の名前、アラーネって言う。......よろしく」


 何がどうしてそうなったのか、きちんと風呂に入り髪もショートカットにした上でうなじから流すように一房だけ長く伸ばしたかのような髪型の少女――不思議な糸を生み出して扱うことのできるアラーネは、俺にそう告げて深く頭を垂れる結果となった。


 あれ?なんでだろう?

 そう思ったのは言うまでもなかったことである。

狼速ウルフスピーダ馬速ホースピーダ豹速チータースピーダ


速度向上系魔法。2倍、5倍、10倍と力向上系と同じ倍率で足の速さが上がる。

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