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第31層「遅すぎた到着」

「......おいおい、なんで全滅してんだこりゃ」


 ホムンクルスによって人員を確保したことで迷宮作業のあらゆることをこなしつつも旅をしていた俺は土竜頭族の洞穴へと着いた。しかし――

 その光景は眼を疑うものだった。


 目の前の土竜頭族の成れの果てに、だ。


 基本的に馬車につけられた魔道具・監視眼イービルアイ経由でしか馬車の外を見てなかった俺だが、移動の途中途中で魔物の少なさから、ここらへんにはない血の匂いというものを嗅ぎ分けたジャックスやアベさんからするとこの光景に驚愕しながらもやがて納得という感じで彼ら――土竜頭族の大きな爪がついていた部位以外が無作為に刻まれているソレをみていた。


 体長は140cmほどとレティくらいの背丈しかなく、土竜独特の鼻先に従いすっと狭くなっていくその顔はどれも首から斬られたのか離れて転がっていたり、体そのものが真っ二つに切られていたりというのが見受けられた。

 

 ただ、共通して言えることが爪が付いていたのだろうその部分がごっそり鋭利なもので切り取られていることだった。10人近い"ソレ"全員に。


「土竜頭族っていうからには、掘りやすそうな爪でも付いていると思ってたけどこれって......あれだよな?」


「......魔物狩りだな。あいつらは、素材になりえるものであれば世の中で亜人としてまだ人族と認識されている俺らでも狩ろうとする輩もいるんだ」


 あのヒャッハーな連中か。


「中からは生命反応っていうか、そういうのは感じる?アベさん」


「ガウ......」


 首を横に振るアベさんに俺はそうかと短く返して、ひとまず彼らを弔うために土を掘ることにした。全員で行ったために比較的短く済ませて、俺が手を合わせて冥福を祈るとそんな習慣はないはずのアベさんたちも真似るようにして同じことをした。


「ここの"洞穴"は一種の通過点で、まだ先の洞穴がチャビンが言っていた"本命"だ。案内役と合流して向かう予定だったが......こりゃ出来る限り早く向かったほうがよさそうだぜ」


「そうだな」


 そうして俺は再度手を合わせると、早速ポーチからある加速型の魔道具を取り出して馬たちの足に取り付けて馬車に乗って先を急ぐことにした。


 数分ほどで本命の洞穴へと着くと、真新しい様子のまだ爪のある土竜頭族の遺体が入り口に見えた。


「おい、まだ中に入ったばかりみたいだ!急ぐぞ!」


 匂いから判断したのか、ジャックスとアベさんが先行するように洞穴へと入っていった。


 中に入ると、悲鳴のような呻き声が聞こえてきたりしたために、俺は迷わず一旦迷宮創造(ダンジョンメイカー)を発動、そして、迷宮化したこの洞穴内にる先ほど埋める際に手で触り、見て覚えた土竜頭族の特徴を思い浮かべて彼らに不死設定、超回復設定を施した。


 一連のことをやり終えてオーリエに守られながらも奥へと進むと、ジャックスたちが殺したのであろう魔物狩りの遺体などが転々と転がっていた。

 どの顔も驚愕によって見開かれた目のままに死んでいたが自業自得と、死後の罰を与える意味で手元から再生のオーブを取り出してそれに吸収させた。


 以後、彼らは同じやつか闘賊か分からない迷宮の侵入者とほぼ死ぬことなく滅ぼされつつも殺し合いをするだろう――迷宮定番の魔物『スケルトン』として。


 処理をして最奥へと向かった俺の前には、俺を待っていたかのようにジャックスとアベさんが足元に数人の魔物殺しを転がせつつも、さらに奥にいた長い髭を蓄えた土竜頭族の老人とともにいた。


 周囲には、疑問的な顔で同じ顔をした土竜頭族の人たちが自分の手や、体を触って不思議がっていた。ああ、超回復設定にしているから斬られたのに、瞬間的に回復したから戸惑っているのだろうと、そう思った。

 

 気を取り直して長老っぽい人のほうを向く。


「貴殿が助力してくれたとこちらの銀毛様と狼頭族の方にお聞きした。礼を言いたい」


 そういって彼らなりの礼儀なのだろう、バタフライのように大きな爪の両手を横に開いてそのまま地面へと体ごと前のめりに伏せた。なんかの宗教でよくある祈り方っぽかった。


 俺はそんな長老っぽい人や土竜頭族の人たちに顔をあげるように言って何があったのかを聞いてみることにした。


「......事の始まりは、とある少女が帝国側からこちらへとやってきたことに端を発する......といった次第じゃ」


 そうして語られた内容は土竜頭族だけではない話だった。


 ここから間逆とも言える森には他大陸より逃れたという兎頭族トトぞくという種族が暮らしているそうだ。彼らと土竜頭族は、兎頭族的特長ともいえる大地を踏み鳴らすことでその音の返りを耳で判別してそこに何があるのか分かるという技術と、彼ら土竜頭族の削岩能力によって一種の協力関係にあったそうだ。


 そんな兎頭族たちだったが、突然彼らの前に少女が現れたらしい。

 彼女は憔悴した様子で見た目もボロボロの状態ということ、また悪意を感じることがなかったためというのもあって保護したそうだ。しかし、少女を追って魔物狩りたちが現れた後は先ほどの洞穴のようにまるで素材を狩るかのようにかれら兎頭族の集落を殲滅する勢いで襲撃したそうだ。


 散り散りになった中で、保護した少女とともに兎頭族は土竜頭族のいるここまで逃げてきたがそれを追って魔物狩りが現れて現状のようになったそうだ。


 てことはあの案内役の洞穴の様子は分からないんだろうな。


 そう思って俺は、そのことを包み隠さず話すと、彼らは大いに嘆いて仲間の死を悼んでいた。


 しばらくそんな光景を見ていたが、ふとそういえば今ここは迷宮空間にあると思って俺はある連中を呼び寄せた。


 少し立つとメガネをクイっとさせながら現れたのは、サラリーマンのようなビジネススーツに身を包みエロナが作ったビジネスカバンを持ったホムンクルスの青年と、母親のようなおっとりした感じをかもし出すエプロン姿の女性だった。


「サラリー、至急で悪いんだが――ヤンキーを連れて土竜頭族を警護しながら案内役のいた洞穴まで向かってくれ。オフクロは、ここの人たちのケアを頼むよ」


「了解だ。親父」


「あらあら、お父様に言われたんだもの~がんばらなきゃだわ~」


 と、思い思いに了解した旨を伝えると早速それぞれのやるべきことのために動く。ちなみにサラリーは俺の"右脳"からできていて、オフクロは"胃"で作られてる。さっきポロっといったヤンキーは、見た目まんま剃り込みを入れてリーゼントに特攻服を愛用している"肝臓"を使ったホムンクルスである。


 それらを作る時は痛みとかそんなので苦労したし、個性の激しい悪組のヤンキー、レディース、ギャルコ、ギャルオ、モジョの制御は大変であるのは明白であった。


 そんな彼らは一様にして俺のことを父扱いするのである。

 なので、俺も開き直り、娘たちは娘達ドーターズ、息子たちは息子達サンズと呼んでいる。


......まぁ、今はそれはいいか。


 サラリーたちが動くのと同時に俺は、その少女とやらについて聞いてみた。


「あの子は我らの抜け道を使って外へと逃がした。一緒に来た兎頭族の少女も着いていかせようとした時に襲われたでな。あの子は今1人で森をさまよっているかもしれん」


「長ぁー!ピョルナちゃんが外へ行ったそうだ!」


「いかん!......タクト殿、ピョルナというのが話しをしていた少女をここまで連れてきた兎頭族の少女です!お力を!」


「わかった」


 俺は、その抜け道へと向かうために近くにいたジャックスに声をかけてここの護衛を頼むと、真っ先に飛び出すようにして抜け道から洞穴から出て外に出た。


 森なので木々しか辺りに見えないが、アベさんがガウっといって爪を南の山の逆側へ向けたのを見てそちらへと加速型の魔道具をつけて走ることにした。

 

 そしてふいに何かが飛んできたが、それはオーリエの大剣で両断されて地に落ちた。しっかりと護衛役を務めているオーリエに感謝しながらも、前を見ると見た目130cmくらいしかない兎頭のぐったりとしている様子の人が木の上にいて、その周囲をゴリラ並の体躯でそれ以上にムキムキとしていたそれらは手に棍棒を持ち理性の伴わない眼で奇声を発しながら囲んでいた。


 その中でこちらに気づいた奴が牽制のためか、俺に向かって棍棒を投げたのだろうと察した。


「あいつらか?土竜頭族の縄張り荒らしの犯人は。なんていうか、......いわゆる"猿頭族"みたいな感じでいいんだろうけど」


 俺は俺なりに奴らを『エイプ』と名づける。

 魔物化したその目は濁っており、言葉を交わすことはおろか武力で持って従わせることも適わないというくらいとても理性を感じられない様子だった。


「ガウ?」


 やっちゃう?とでもいう感じで右手を掲げたアベさんを手で制した俺は、あるものを試すことにした。


「いや、俺なりに考えた俺の武器を試すことにするよ。何があってもいいように、警戒だけはしといてくれ。オーリエもね」


「分かったヨ?」


「ガウ」


 2人の了解に俺は、ベルトに折りたたんで収めている"折り紙"を外して手のひらに乗せた。


 俺はジャックスみたいに武器を持って振り回すことはできない。アベさんのようにとても強い戦闘力を持っているわけでも、オーリエのように強靭な肉体を持っているわけではない。そんな非力な俺ができるのは、道具を使うことだ。


 乗せた折り紙は手の中で煌々と光を放ち、俺の発動キーによってそれはあるものへと変化をもたらせた。


「"炎折鶴"《フレアバード》!」


 折り紙が光を一瞬放った後に、手のひらで折鶴が折られた。

 それは赤い炎を撒き散らしながらも木の周囲にいたエイプたちをまるで飲み込むかのように燃やし尽くしていく。燃えた紙の小さな燃えカスが広がるようにあっという間に広がるその光景は、まるで延焼する家屋かのように広がった。


 それでいて、木自体にはそれが燃え移らないというのは俺が指定範囲から外しているためである。


 マギ・ペーパーといってノートなど、紙に何かと縁のある俺が考えて紙に錬金術によって与えた魔力を封じ込めた紙束を折り紙サイズにして、ホムンクルス時のあの精を取り込む応用で"血の記憶"となる血を取り入れて、まるで単語帳のようにくっつけた魔道具的な紙だった。


 そこに、入院中の妹が喜ぶだろうと必死に覚えて、折ってやった『折り紙』を技としてまたは武器として昇華させたものである。


 また俺が着ているジャージも、一着だけ持っていた形状記憶シャツというものを応用して作られた相手の攻撃手段に合わせて形状変化によってそれらの攻撃を軽減させる機能を持った防具も時間はかかったがなんとかできたものである。

 

 迷宮内であればこう表示されるだろう。


【アイテム情報】

 ----------------------------------------------------------------------

 アイテム名 :"武紙"マギ・ペーパー(タクト専用)

 効果    :形状変化

 アイテム説明:"血の記憶"を取り入れ、迷宮主の知る折り紙へと変化する紙。

 ----------------------------------------------------------------------


【アイテム情報】

 ----------------------------------------------------------------------

 アイテム名 :形状変化のジャージ(タクト専用)

 効果    :形状変化防御【自動発動】

 アイテム説明:"血の記憶"を取り入れ、考えうる攻撃にあわせて攻撃を和らげ        る形状へと変化させる上下のフード付のジャージ。

 ----------------------------------------------------------------------


 さて、今はそんなことをよりも木の上に逃げた兎頭族の少女である。

 俺はアベさんに頼むと慎重に木の上から下ろして、ピョルナだったっけ?を保護した。


「ピョ、ピョン!怖かったでピョー!ありがたいピョー!」


 ピョーピョーうるさかったが、俺は落ち着かせながらもピョルナに帝国から逃げた少女の行方を聞いてみる。


 そのことでようやく少女のことに気づいたピョルナはピコピコと可愛らしく長い耳を動かしてある一点でそれが止まった。


「あ、あの音!あの子!攻撃されているピョー!!」


 そういって駆け出そうとしたが、アベさんに抑えられた。

 アベさんにピョルナを抱えてもらいながらも、すぐにそこへと向かった。


 現場らしき場所に着いた俺が見た周囲は、鬱蒼としたさまざまな花が咲き誇り、木の葉のような草も群生していた。

 そこに何やら棍棒で白い塊らしきもので殴りつけてまるで遊ぶかのようにしているエイプたちを発見した。


「まさか、あの白い塊の中か?」


 その塊は蚕の繭みたく円形でちょうどレティくらいが丸まったらちょうどよさそうなそんな塊だった。


「あの中から気配が"聞こえる"ピョー!すぐに助けてピョー!」


 気配が聞こえるとか、まるで共感覚のソレっぽいが兎頭族なんていうしと、納得して俺は早速、折り紙を取り出そうとしたが、それをアベさんが今度は逆に手で制した。


「え?アベさんがやるのか?」


「ガウ」


 そうして、こちらに気づいたエイプの集団が思い思いに棍棒を手にして、近寄るのも構わずにアベさんはサーっと素早く近寄るとまるで竜巻を起こすかのように中央で独楽回しのように爪を振るった。


 あの技は、オーリエに教えた技だ。


 アベさんがやると、まるで某市長のダブルラリアットのようだがそれは容易くエイプたちを狩るのに時間はかからなかった。なお、こちらに襲撃してきたエイプたちはオーリエによって両断されて、葬られている。


 俺は、咄嗟に再生のオーブでまとめて吸収させた。

 魔物にも数があったほうがいいし、強そうだったしな。


 そうして恐ろしいダブルラリアットで殲滅し終えたアベさんは、周囲にエイプの姿がなくなったのを確認し、白い塊に近寄ると慎重に外側を切り裂いた。


 俺たちも近寄って中を見ると、そこにはエロナくらいの体躯だがそれとは逆に育っているものを持つ足に届きそうなくらいの薄い黄色と白の混色の長髪をした少女が膝を抱えて、まるで自らを丸くするかのようにして身を小さくしている姿があった。

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