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第28層「帰ってまた出発」

「にしても、帰って早々に出発なんてな」


「なんだ?酒のためにとあれほど喜んでいたくせに」


「いや、嬉しいには嬉しいんだがよ......おめぇが大丈夫かとこれでも心配してやってんだぜ?感謝してほしいくらいだぜ」


「べ。別にあんたに心配してもらっても嬉しくなんてないんだからね!」


「......なんだそりゃ?気持ち悪いぞ」


「......やってて後悔したんだ。言うなよ」


 そんなやり取りの中でも馬車は進み、御者台をベンチ型に改造したことでそこにジャックスと俺は腰掛けていた。

 監視当番と錬金術作業という別々の役割で。


 今、俺たちは迷宮"チュートリアル"から帰ってきて、3日ほどである目的のためにまた別の場所へと旅立っていた。


 それはなぜか?

 話は3日前に戻る。



 * * * * *



 懐かしささえ感じる迷宮前の森を抜けて戻ってきた迷宮"チュートリアル"。

 その出迎えのためにやってきたレティシアからはいきなりお仕置きどーんをされ、その後はずっと説教をされた。


 ジャックスは――一応彼にも守るべきものはあるだろう。

 あえてその程度に留めておく事にした。

 さすがにアレは......だもんな。


「それで説教を受けている間に、一通りオーリエに聞いたけどお前たち無茶したなーオイラ驚いたよ!」


 と言って、チャビンが相変わらずな口調で話しかけてきた。

 オーリエは、俺のスケベ心を理解したレティシアの裁量でわずか一言という短い時間の説教で終わっていた。その間に報告したのだろうが今はなぜか、俺がチャイムにあげた鈎針と冊子をチャイムと一緒に見ていた。これから、バイソンシープの毛糸を使って何か編み上げようとしているらしい。


 それから目を外して再びチャビンにまあなと適当にお茶を濁して早速、こちら側のことを聞いた。


「森の探索担当からでいいか?」


「ああ、頼む」


「それじゃ――」


 そう言って出した俺が渡した方眼紙型の白地図は、それなりに正確な感じで色と記号分けされて描かれていた。緑で塗られた部分が森で、記号化されているところは洞穴、または何かある場所だと分かった。そのうち、この迷宮"チュートリアル"を基点として、東北部――迷宮"集落"からさらに東北に進んだ斜面になっている様子の先に何やら爪のようなものが描かれていた。これは何か?と尋ねると――


「それは洞穴を見つけたときに、その洞穴の地中に集落を作って住んでいる土竜頭族だよ。オイラもあの狼に乗って実際に会ってさ、とある問題を片付けてくれたらおいら達に協力してもいいって話になったんだ」


「とある問題?」


 また、厄介ごとかと思った。さすがにああいうのは懲りているので、と思ったが――


「ああ、まぁアベサン連れて行けば一発で解決するし、あのジャックス君に話しを振れば文字通りに尻尾振って参戦すると思うよ!」


「どういうことだ?」


「うん。迷宮主は、睡紫花と酔精草ってのは知っているか?」


「いいや、町にもそんなものはなかったけど」


「睡紫花って言うのは、紫色の花なんだけど夜の間に咲く花で効能はよく眠れるっていう特徴を持つ花なんだ。そして、酔精草は緑色だけど木の葉に似た草でそれを摘んで水につけておけばその水が酒のような状態になるっていう草だ」


 睡紫花と酔精草か。睡眠薬やら酒作りに有効そうだな、その2つは。

 てか、帰還の道中で懸念していた通りに紫もあったな。


「で、話はここからなんだけど......実はある"魔物化した氏族"がその2つの花と草が大好物なんだ」


 魔物化ってことは、おそらく魔素を取り込みすぎてってことだろう。

 レティーナ様にそういう話を聞いたことを思い出した。


「魔物化しているから、もう理性はなくてね。乱獲って感じでそれらを求めて彼ら土竜頭族が縄張りにしている周辺に住み着いちゃったってことなんだ」


「ああ、じゃあそれらを捕獲なり殲滅なりしてくれって話か?それは」


「さすが迷宮主、察しが良くて助かるよ。彼ら、土竜頭族が協力してくれたら、彼らの特性である地中調査が可能になるからね。それが分かれば、鉱脈なんかも探せるだろうから君にもいい取引になると思ったのさ」


「おお、それは助かるよ」


 確かに地中調査ができれば、そういう場所を探し当てることができるしなんだったら、風呂計画が"温泉計画"へとシフトできる。水脈があれば、俺が考えていたゲート機能による水道工事も多少手間が減りそうだし。


 利点が多すぎること請け合いだな。


「彼らの気性は温厚だから、そういった意味でも安心だよ」


「分かった。その件はアベさんたちと話し合って早速向かうことにするよ」


 といったところで、何か心配げな目で俺を見るチャビン。どうした?


「......人族に随分酷い目にあったそうだけど、本当に大丈夫かい?」


 ああ、なるほどね。

 俺は感謝の気持ちを含めてチャビンに手を振りながら答える。


「心配してくれてありがとうな。大丈夫だよ。さすがに人の多いところとかそういう場所は今はダメだけど、今後のことを考えればまたいつか行くことになったときに責任者としての立場から逃げてばかりじゃいけないと思ってるし」


 そういうと、何やらチャビンは驚いているような目で俺を見ていた。


「成長したんだね。オイラ嬉しいよ!依然はどこか危なげに感じる部分があったけど今の迷宮主は、しっかりしている感じがするよ!」


 危なげな感じって。まぁだけど、そうなのかもしれない。

 今でもガキの部分はあるだろうとは思うけど、あのことがきっかけで明確に俺の中で変わったことは間違いないだろう。自分がされたことを怒れることができるなんて当たり前なことなんだけど、俺の場合はそれに気づくのが遅かった。


 悪意の度合いって意味合いでも現実とじゃ違いすぎるけど、

 それほどまで俺は今まで他人のためにと流されて、結果的に自分すげーとか勘違いしていたことをこの時点で気づけてよかったかもしれない。


「ともかく、調査に関してはそんな感じ。後はまだ未開拓ってことで引き続き調査をしているみたいだからまた何か分かったことがあったら知らせるよ。それと見つけた洞穴には色々な魔物もいたから帰りにでも寄って確認してくるのをお勧めするよ!」


「分かった。じゃあ次は――」


 俺はメモを取って引き続き、工作、畑、迷宮開拓担当の報告を聞いていった。


 工作担当は小人族の家ができているため現在は浴槽やその他の物を作っているのだが、世帯的にはもう半分ほど終わっているようで、順調なようだ。また、畑担当には俺が渡すあの町で購入したものの栽培をお願いすることになる。迷宮開拓は全迷宮階層の開拓作業が終了して現在は微調整やら、ラウンジの"施設作り"を始めているそうだ。


 ラウンジの施設はつまり、侵入者用の施設だ。ギルド酒場とか宿、迷宮進入に必要そうな道具屋なども置くつもりである。外貨獲得という名目もあるが、情報や好みの傾向なども町などへわざわざ行くこともなく収集できる意味でラウンジに建設をするつもりである。市場、宿を取る選択、酒場の情報などはコレ目的でと言うところも大きな理由だった。


 結果論だけど、この方法をとることは今の俺にとってもいい事だと思う。


 工作担当も何人かこれに携わっているので、今はおそらく施設用の木材で建築やテーブル、カウンターといったものを作っているのだろうと思う。

 迷宮ギルドについては"システムを作る"必要もあるため、資料的な意味で色々持っているゲーム、ゲーム小説からそういうのを調べる必要があるだろう。


 色々と忙しいことこの上ないが、まぁもうすぐ春になるわけだから、せめて俺が来たくらいの季節には開設できるようにしたいところだった。

 と、例のことが気になった俺は聞いてみた。


「そういえば、あの部隊の訓練はどうなった?」


小人忍ミニンジャー部隊のこと?選抜メンバーは小人族の中でも、冷静

 で勇気もある人たちを中心に集めて今はレティちゃんに色々教わったり、あの体重が重くなる部屋で特訓してもらっているよ!」


 そう、体躯が小さく動きが素早い特性も持つ彼ら小人族には諜報部隊としても活躍をしてもらおうと思っていた。大鬼族の集落でチャビンが見せた素早さに目をつけてこういうのあったら調査とか楽だろうなという思いつきだったのだが、何やら俺が持っていたゲームやらマンガのそう言った"忍びモノ"が彼らの何かに火をつけたようで、そういう趣向を持った者たちが実際にやってみたいと名乗りをあげたことに端を発する。


 危険なことも多いと俺は渋ったが、手先が器用なだけというレッテルを払拭したいという言葉に納得をして創設を許可した。その諜報部隊も現在は順調にやっているようだった。


「そうか。あまり無理するなよと釘を刺しておいてくれよ」


「レティちゃんが見てるんだから心配ないさ!」


 確かに俺と同じ思考を持つレティがいるなら、俺としては安心だ。

 迷宮内において彼女の感覚ほど間違いじゃないほどの正確さを持つものはいないのだから。


「それじゃあ、迷宮"馬車"で移動するから何か他に報告がありそうなことがあったら、レティ経由で伝えてくれ」


「了解したよ!」


 そう言ってチャビンと別れて、俺は部屋に戻った。


 帰ってきてまた旅にでることになるとは考えてなかったが、まぁこれもPTSD治療の一環として耐えることにした。そういえば、と気になった俺は久々に亜空間レイアウトソフト『アレ』を起動した。そして、レティーナ様の言われていたコスト増加を確認すると1000から500ほど増えて現在では1500になっているのが確認できた。しかも、池の水質も追加されているらしい。


 先の小人族解放による貢献度上昇分とかで500増加なのか色々気になったがまぁ今はいいだろう。


 それよりも"炭酸池"って、炭酸水が汲めるってことか?

 果物系があればそれとあわせて炭酸飲料とかできそうだ。そういえば、コーラとか炭酸オレンジとか久々に飲みたいなと思ったので、旅から帰ってきたら試してみようと考えながら、『アレ』を閉じた。


 そして、土竜頭族に関することを伝えるために俺は直接頭で、契約したアベさんたちを呼び寄せる。シュタっと右手を上げて登場したアベさん、寛いでいる様子のやはり俺には目の毒なYシャツ姿のオーリエ、レティシアにかなり絞られた様子のジャックスたちが姿を見せると俺はチャビンから聞いた話から、出かけることを伝える。


「いや、それはいいんだけどよぉ?おめぇは大丈夫なのか?」


「タクト、無理しないほうがいいヨ?」


「ガウ」


 と、各々心配してくれる声をかけてくれるがそこまで過保護になってほしくないので割と厳し目に帰す。


「あんなことくらいで止まってて、その後この迷宮を運営していくことが出来ると思うか?気持ちは嬉しいが、甘やかすのは止めてくれ。無理なら無理っていうし、生命契約(ライフプロミシズ)の力で俺のことはなんとなく分かるだろ?」


「そりゃまぁそうなんだがよ」


「......」


「ガウゥ~」


 あの件は彼らなりに思うところがあるようだった。まぁ、だけどそればかりを気にしていても始まらないのでこう言った。


「ならさ、無茶する俺を敵から排除する、守る、その中間って分けて考えてくれ。無論俺も自衛の方法は考えているから負担にならないようにはするけど、アベさんは排除する、オーリエは守る、ジャックスはその器用さで中間って立場でな。必要なら、それぞれの部隊を作ってもいいしね」


 そして、そんな俺の言葉がきっかけでまさかあんなことになるとは思いもしなかった。


 何やら納得した様子の彼らに、出発は3日後くらいと伝えて別れた。


 こうして、帰還して早々にまた土竜頭族の住処へ出発ということになったのだ。

 そんな3日前のことを考えていながらも、こうしてジャックスとダベりながら錬金術式練成(アルケミクリエイト)を発動しているなんて俺も器用になったものだった。


「よし、人数分の数が出来た」


「......そんなものが飛ぶのか?」


「ま、今はこれの劣化版で練習してもらっているからな。ぶっちゃけ、俺も飛ばし方知らないからもう一つも含めてすごい鍛錬は必要だけど」


 そんなことを言いながら、ペットボトルに入った液体製の増血剤をチューチューストローで吸うのをやめない。錬金術式練成(アルケミクリエイト)は血液も必要なので補充は欠かせないのだ。注射器の針のようなものがあれば点滴のようにできるのだけど、さすがにそれはやりすぎか。


小人忍ミニンジャー部隊ねぇ。ま、これほど小柄な小人族にあった"武器"はないが、大丈夫なのか?」


「基本は全部抑えているし、戦闘訓練もやっているからな。丁度できたところだしゲートで"一旦戻って"訓練風景でも見てくるから馬車を頼んだぞ」


「おう」


 そういって、土竜頭族の洞穴へと向かう迷宮馬車からゲート機能を使って迷宮"チュートリアル"へと戻ることにした。


 こんな出来る限り馬車の中で暇になりがちな時間を効率的に使える環境ができてよかったとともに、馬車と迷宮を行き来しながらも移動をするという方法で、俺たちは順調に土竜頭族の洞穴へと向かうのだった。

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