第27層「誓いと帰還」
夜中、優しい揺すりで起こされた俺はオーリエに感謝をして起き上がる。
心配そうに体の補助をするが、如何せん体格差があるし俺的には目線がいちいちそこにかかる恥ずかしさというものがあって手で制して自力で起きた。
少しフラフラするが、3日間も寝ていたことだろうとしばらく体を軽く動かして調子を確かめると問題ないと思ってそのまま部屋を出た。
オーリエはそのままついてきて、あの頃よりももう少しだけ気配が分かるようになったジャックスも近くにいることが理解できた。全く持って心配性になってしまった2人に苦笑いを浮かべるも心で感謝を述べながら俺は、バーレンの居場所を聞いてそこへと進んだ。
ま、いまさらくどくいうことはあるまい。
コンテナ1つ分くらいの小さい警備兵舎へと辿り着いた俺は、すぐに迷宮創造をかけてその場にいたものを全員眠らせた。関係のないものは関わらせたくないし、後の処置もある。
コツコツと牢に続く地下への階段を下りて、目的の牢屋の前に止まった。
檻越しに見えた初老の男は髪を掻き毟ったかのようにボサボサとなっているが、表情はわりと穏やかな感じがしていた。
今は何やらブツブツと呟いている様子だったけど。
気にせずに俺は檻を軽く叩く。すると、牢の中にいた初老の男――バーレンはこちらを振り返ると、まるで愉悦な表情をして言葉を発した。
「これはこれは、下郎がこんなところに何の用ですか?」
「ああ、罰を与えにね。俺にしたことと、王女の頬を"張った"ことの罰だよ。それは分かるだろう?帝国人様"とやら"」
俺のその見下した言葉にピクっとなったようだが、こんなところで問答する気はない。俺は早速転移を発動して檻の内側へと入った。
その魔法ともいえる力に驚愕したかのような目でこちらを見ていたバーレンに構うことなく、俺は懐から短剣を取り出した。
それで察したのだろう、バーレンは青い顔をすると必死で唾を飛ばしながらも言い放ってきた。
「き、貴様!い、いいのか?わ、私は王国へと連行される身だ!そ、それを貴様が殺せばどうなるか――」
俺はそれに応じることなく、"実践"で教えてあげることにした。
右手に持った短剣を動けないようにしたバーレンの心臓につきたてたのだ。
無論、相手はその激痛に悲鳴やら絶叫やらを上げて血を口から流すが、それだけである。
「これで分かったか?今、確実にお前は一度死んだ。心臓に刺したんだからな。で、痛みは分かったか?それが死の痛みだ」
冷静に伝えるも、心臓に直接刃が刺さったことがそれほど苦しいのか、動ければまるで転げまわるように痛みを堪える姿に俺はため息をついた。
こんな奴にあんな恐怖を抱かされて、未だ直りきらない心の傷を与えられたのかと。
「があああああああ!!!た、たのむうう抜いてくれぇぇぇぇぁぁぁ!!」
そして必死に懇願してくる奴に、特に何も考えずに言葉を返す。
「それが俺の復讐で、お前の胸に一突きして殺したことでそれは成った――んだけどな」
そう言うと、続きとばかりに話した。
「まだ、王女の顔を張った分をまだ罰していないからな。それで考えたんだが、どうせお前は王都へ連行されて処刑されるからどうせならそのまま5日間ずっとそれを味わって、お前があの時してくれたように最後の静寂を王都に着くまでの間に味わってもらうっていうことにしたいんだけど、いいよな?」
つまりは、3日間くらい暴力によって犯され続けた後に王女と引き合わされたままのことを罰として与えようと言う訳だ。
そして、激痛にもだえそうな表情からまた一点して恐怖となったバーレンは意味不明なことを口走るようになるがどうでもいいので聞かずに牢から出た。
「知っているか?俺の世界には昔、仇討ちってのがあったんだ。本来仇討ちってのは、仇を討つという言葉の通りに無残に殺された結果に認められた正式な罰なんだけど、いつの間にかそれは廃止されたんだ。無残に自分の家族を殺人犯に殺された遺族の恨みなんかどう晴らせってんだろうな?」
正直、甘っちょろいガキの戯言だったと思うが、もう俺は甘っちょろい場所で生きているわけじゃない。そう教えてくれたことにはバーレンに感謝をしてもいいくらいだった。
「俺はお前みたいにお前が苦しそうな顔をしているのが嬉しいわけじゃないけど、まぁ自業自得だと思って5日間という地獄とその後の一時の安静を楽しんで死んでくれ」
そして俺は隷属化した警備兵を5人ほど呼び寄せると、そこで監視させるようにしておいた。彼らやこれから牢に5日の間に入るものたちはおそらく今も聞こえる絶叫の声が耳に届くことはないだろうけど、念には念を入れておくことにする。
ネズミを隷属化して、王都までの監視を任せて俺は今までずっと殺気を抑えつつも黙っていたオーリエを伴って牢を脱するのだった。
翌日の朝――
一刻も早く帰りたい俺は、また余り眠れない夜を過ごして今は朝露も落ちる早い朝の中、ジャックスが引き出した豪華な馬車というその前に立っていた。
見た目では7mほどもある馬車本体は、白一色の正方形の箱型になっていて角から角に至るまで銀の装飾がされたものがつけられていた。屋根はアーチ型の帆がつけられており、扉は御者側と側面と2つあった。
側面側は1.5mほどしかないのでオーリエには多少乗り降りが不便だろうから後々改造をするかと考えていると、向こうから件のジャックスが綺麗な白毛の馬を連れてやってきた。足が若干太いが、全体的にバランスがいい馬だなという感想だった。
「連れてきたぜ。とりあえず、先に迷宮化を試すか?」
「ああ、ちょっと待っててくれ」
そう言って俺は、十分条件は整っている馬車本体の側面の扉を開けてそのまま屈んで迷宮創造を発動させた。
白い光とともにそれが馬車全体を覆うと、すぐに収まる。
「よし、迷宮化できたぞ。後は、馬に引いてもらうだけだな」
「じゃあ繋ぐぞ」
そうしてジャックスが馬具を馬に着けて、馬車にも繋いだ。
そしてそのまま馬の轡の部分を引いて歩かせてみると、特に問題はなく馬車は進んだ。どうやらうまくいったようだな。
「問題ないみたいだぜ。で、改造するのか?」
「ああ、世にも珍しい寝室のある迷宮馬車だぞ」
「......そんな物よりも、あの森の迷宮に繋げばいいんじゃねぇのか?」
「お前、そんなこと言ってていいのか?」
「ああ?どういうこと――」
レティが出発前にジャックスに零した悪魔の言葉を思い出したのか、察しのいいジャックスはそのまま顔面蒼白とした感じでガクガクと体を震わせた。
『ジャックスおじさん、腹に石詰めて井戸に叩き落すよ』
確かこんな感じだったはず。
ちなみに俺も他人事じゃない。なんせ、繋がっているのだから今回の件は、絶対に知っているレティに『お仕置きどーん』をされること請け合いなのだ。
ひとまずため息をついて忘れることにした俺は、そのまま馬を隷属させて自動的に進ませると町の外まで出て行くことにした。
そして、アベさんが合流したところでいざ馬車に乗ろうとした時にジャックスが話しかけてくる。
「そういやよ、お前のさっきの隷属化させる奴ってのは誰でも可能なのか?」
生命契約のことか。
「ああ、それがどうかしたのか?」
「いやぁ......よ」
そういってなぜか、アベさんとオーリエのほうを見る。
俺はその視線で何が言いたいのか分かったために、苦笑とともに答えることにする。
「ああ、アベさんとオーリエはそういう隷属っていうのをする気は――」
「ちげーよ。俺が言っているのはな、今後のことについてだ」
「今後のこと?」
そう問いかけると、ジャックスの話に自分たちが関係しているのかと感じたのか馬車に先に入ったアベさんたちが降りてきた。
「ガウ?」
「どうしたノ?」
その言葉にジャックスは丁度いいとでもいいたげに2人に話しかけた。
「旦那にオーリエちゃんにも聞いてもらいたいんだけどな?今後のためにもこいつのあの従わせる力を使って俺たちの居場所やこいつの場所を探るためにもよ、旦那たちにもどうかと思ってな」
「あんたはさっきの話を聞いてなかったのか?隷属はアベさんたちには――」
「隷属......か。ま、"言い方"なんてものはなんでもいいんじゃねぇのか?」
その言葉を受けて俺はピンと来た。
このおっさんがいいたいことを理解できたのだ。
「お前が考えていることは分かるつもりだ。あれだろ?さっきの馬にした時みたいに完全に言いなりにさせるとかそういうことを少なくとも俺たちにはしたくないんだろ?だがな、隷属じゃ嫌なら言い方変えれば納得できるんじゃねぇか?」
「......」
「なんのためにお前は"義兄弟級"とか名づけて、今俺にかかっているレベルとかってやつにしてるんだ?」
確かに、俺は最初は縛るつもりでこのおっさんに隷属するようにした。しかし、大鬼族の一件もあって信じられると判断してその後に変えたのだ。その意味を考えた時にまず最初にあったのは、仲間としての繋がりだということだ。
「お前は気づいていないがな、タクトって人族はよ、すげー礼儀正しい奴できちんと分別弁えた奴だってのはここにいる俺たちには当たり前にわかることだ。なんせ、俺を最初に隷属とやらにした時に俺の年齢を知ってからか、"お前"から"あんた"になったのは気づいているか?ま、それだけじゃないんだがな」
その言葉にアベさんとオーリエも納得している様子で頷いた。
......。
全然気づかなかった。
それが日本人における年功序列っていう風習によってなのか分からないが、このおっさんは、そしてアベさんもオーリエもそんな細かなところも見てくれていたらしい。
「隷属関係が嫌なら、仲間とかそれこそお前が言う義兄弟とかでもいいとは思わねぇか?そんでよ、繋がりを持って俺たちもお前がどこにいるのか分かれば、守りやすくなるし逆にお前も俺たちがどこにいるのか分かればそれだけ安心できるとは思わねぇか?」
その言葉が胸に響く。
その裏に込められた俺への気持ちに気づいて、何かが溢れそうになるのを必死で堪えながら俺はジャックスに問いかける。
「だけど、そうするとお前たちにプライバシーが――えと、自由時間とか秘密にしたいこと......みたいなものがなくなるも同然だぞ?」
あの手加減させて殴られた男のように、魔力を込めてなおかつ義兄弟級レベルであればおそらく位置関係はおろか、手を触れずとも念話をすることも可能になるだろうと思う。それはあの男で実証もされているわけだし。
そんな状態で果たしてこの3人のプライバシーを侵す結果になるんじゃないかと思っているがジャックスたちはなんだそんなことかとでも言いたげにため息をそれぞれついた。
「ま、お前の住んでいた世界がどんな考え方が尊重されているのかは知らんが、少なくとも俺たちは自由時間さえも縛ることとかそんな七面倒くさいことは考えてねぇよ。......だろ?」
そう言ってアベさんたちに向き直ると、同意するかのようにそれぞれ頷く。
なんていうか、俺は当たり前だがまだまだあちらの考えに囚われているかのようだった。それほどまでにジャックスやアベさん、オーリエは俺を仲間だと思ってくれているらしかった。
「わかったよ」
俺は降参することにした。嬉しくてたまらないが、ガマンするようにあえて不躾な感じでそれぞれに手を出すようにする。
「ここまでやられたんだ。なら、俺なりの俺の知識で知る最高の誓いでやらせてもらうぞ」
「へへっ、構わないぜ!」
「ガウガウ!」
「こうでいいノ?」
そうして俺は一旦、ジャックスの生命契約を解除すると改めて3人の手を一番上から押さえるようにして手を翳してあることを復唱させた後で仲間としての契約を行うことにした。
それは俺の住んでいた世界ではとても有名な誓いだ。
キザだけど、これくらいはしてもバチは当たらないと思う。
「「「「我ら4人、生まれし日、時は違えども義兄弟の契りを結びしからは、心を同じくして助け合い、我ら迷宮に侵入する者たちを穢れから救わん。上は女神に報い、下は穢れなき民を安んずることを誓う。同年、同月、同日に生まれることを得ずとも、同年、同月、同日に死せん事を願わん」」」」
そうして俺は生命契約を発動させた。
1人多いし、桃の木がないし、酒もない形だけの誓いではあるけれどこの誓いは何よりもかけがえのないものになるだろうな。
そんなことを考えながら、ようやく新たな"仲間の絆"を得た俺はこの旅で失ったもの以上に得たものを胸に迷宮へと帰還をするのだった。
日頃は拙筆な物語をお読みいただきありがとうございます。
本日の12時にもう一話乗せます。
幕間というもので帰還中の一幕ですので、
普段よりも文字数は抑え目で書いております。
今後の簡単な流れとしては迷宮の残りの作業話から開設、そして開設後からまた新たな章へという感じになります。今章はチュートリアルという括りの第一章ということも合わせて付随させていただきます。




