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第26層「残ったモノと王女のお礼」

 帝国人による王女誘拐事件から3日が経った。


 色々と酷いダメージを受けて今なおそのダメージが残っている俺は、宿屋へ泊まっていた。幸いにもお金はあるので延長も問題ないだろう。


 例え新しいポーションの回復力がすごくても、体にも心にも残るものは顕著に現れている。


 あの日の夜に目覚めて、すぐに宿屋の俺の部屋という迷宮空間に運び込まれた影響で、駆けた歯や折れているであろう骨などはすぐに治ってはいるが、精神的なものには作用しないのか、そのせいで不眠がしばらく続いていた。


 寝ても冷めてもあの時の暴力が蘇ってきて眠るに眠れない日々を送ったり、駆けつけたオーリエやすでに真っ裸だったところをあの時王女に見られたというある意味、男としてはどうしようもない別種の心の傷など本当に色々なことを抱える日々だった。


 震災で酷い目にあったり、過度なDVに悩む奥さんなんかがかかるPTSDじゃないかと自分では把握している。まぁだから、この3日間は誰も入れることなくメモで外に言伝を頼んでゆっくりと自分を癒す3日を送った。


 まぁメモを挟んだ理由もそれだけではないんだけど。

 さてこれからどうやって会えばいいのかと悩む。

 

 おそらく、あいつらは気にしているはずだし。


 そんなことを考えていると、ノックとともに俺の療養として用意された宿の一室に来客があった。扉を開けた際に見えたのは、件のジャックスとオーリエだ。

 

 あの時は咄嗟のことだったようで、今のような表情ではなかったが、俺にあった出来事を反省しているせいか、顔色が悪かった。アベさんがこの場にいないのは、なぜか町の中には入らたがらずに待機場所で俺達を待っているせいだ。


 やっぱりかという思いも顔に出さないように必死で抑えて何でもないように問いかけた。


「............そんなところにボケっとして、どうしたんだ?」


 そんな俺に、ジャックスとオーリエはますます顔色を悪くするが勢い込んで俺が寝ているベッドの前に来ると膝をついて頭を下げてきた。


「こ、今度のことは、俺が悪かった。調子に乗ったおかげでお前を危険に晒しちまった。い、如何様にもしてくれ!」


「私、タクト強引に守ればよかったノニ、タクトに嫌われているかと思って......ごめんなサイ」


 それぞれ頭を下げる中、そんな様子に俺は自分のことで色々考えてたのがバカらしくも情けないと思って、思いっきり開き直ることにした。


 ベッドから降りて2人の前に立ち、そのまま床に座って土下座をする。


 その行動に2人は驚くも、俺は構わずに続けて話しかけた。


「ジャックスに関しては、俺があんたをいつもの脛蹴りで躾けて止めなかったことに対して謝りたい。そして、オーリエお前には――」


 し、躾けって!というジャックスの言葉は無視してオーリエに視線を送る。


「俺がガキなせいで、あの朝に寝顔やら寝姿で君を魅力的な女として意識したことが最大の問題だったと思う。俺の不甲斐なさで余計なことを考えさせてしまったことを、ただ今は謝りたい」


 そうして再度頭を下げた。

 2人は肩を掴んで引き上げようとしたが、俺は動くことはしなかった。

 だが――


「じゃあさ、ジャックスたちも俺のこの謝罪を許して、俺の謝罪を受け入れた段階で俺もお前達を許すって取引は、この場合......交渉としては"有り"か?」


 そう言って、少しジャックスのほうを見る。

 すると、ジャックスは何かに気付いたのか破顔して急に噴出した。

 そんな俺達のやり取りについていけないオーリエはただただパチパチと目を瞬かせるだけだった。


 許し合うという交渉が成立したところで2人にイスに座ってもらい、色々と話しを聞いた。


 俺たちを助けるために、馬車に乗って取引へと急いでいた侍従長やらを連れてこちらに向かってきたことやわざと侍従長を捕らえさせてから強襲する仕込みを行う途中で、なぜかいた傷の男の闘賊たちをダシにして突撃することにしたことなどだった。


 あの時先に俺たちの元に来たのはそういうことだったのか。

 納得した俺は先を促して話しを聞いた。


 どうやらバーレンの手の者たちが、あいつらは手配人だと吹聴したおかげで、一時は指名手配扱いだったようだ。しかしそれも王女の尽力によってそれを解かれたようだ。

 

 そしてその主犯であるバーレン自体は侍従長などではなく、ただの執事的な使用人の一人だったようだが不審を抱いた王に調査させる前に行動を起こしたというものらしい。

 

 ジャックスが捕らえた一人を尋問して聞きだした情報から、バーレンの正体は帝国の諜報部隊の十人長だったそうだ。


 そして、その情報から帝国の諜報を司る者たちの生き残りなどをジャックスやアベさんの尽力によってことごとく捕らえられたようで、主犯のバーレンも現在では牢に繋がれているそうだ。その様子は自信があった自らの計画があんな形で費えるとはと思ってもいなかったようで今は、ぶつぶつと何かを呟いてはいるが、大人しいものだとのことだった。


 そんなバーレンは、王都へと連行されて処刑されるところまで確定されたとのことだった。


 ちなみに傷の男リーダーの闘賊たちは、任務が終わったと同時にささっとあの廃村を脱して俺の言うとおりに再び別の闘賊団を潰しにいっているらしい。

 それらが終わり次第、再び迷宮の森に来てもらって今度は情報の拡散を行ってもらうつもりだ。


 それよりもバーレンのことだが――


「そっか。まぁ、後で挨拶くらいさせてもらうか」


「またあの大鬼族みたいなことをやるのか?」


「......さあ、どうだろうな」


 そんなやり取りをジャックスとして、しばし口を噤んで考える。


 あの時から考え方はまるで変わったかに思えた。

 今まで俺は、俺自身に危害があっても特に復讐とかは考えなかった。

 しかし、あの暴行による"二次被害的な現状"は到底治まるものではなく、王女にでも口を利いて貰ってその間に俺なりの罰を与えたいと思っている。


 それにあの王女の頬の分も、見てしまったからにはその分も報わせないと落ち着かない。


「おう、そういやぁーよ?王女様から言伝を受け取っているんだが――」


 その言伝は、俺達を王都に招き、正式に褒美をという話について尋ねられているとのことだった。それで、どうするか?と問われた時、俺は一にも二にもなくこう言った。


「そんな面倒なところに行きたくはないな。褒美にも興味はないし、それよりも、帰って迷宮を早く開設したいと思ってるよ、俺としてはな」


 その言葉を言った瞬間、まるで図ったかのように扉が開き、部屋の中へと見目麗しい容姿とそれにまけず劣らずの白くて着飾ったような意匠で作られたドレスを纏った少女――王女があの時ウォーレンと呼んだ侍従長とともに姿を現した。


 いたずらに成功したかのようにジャックスは王女に声をかける。


「と、いうことでございますぜ。王女殿下。こいつはこういうヤツなんで、分かりきったことですがねぇ」


 そんな口を聞いて騙されたと思った俺は――


「おいクソ犬。どういうことだ?事と次第によっちゃあレンガで埋め立てた後、30年後くらいにお前の白骨死体を白日の下にさらして作・タクトと銘打ってやんぞ」


「やり口が怖すぎるわ!」


 と言うやり取りを終えると、王女は何がおかしいのかクスクスと笑っている。


 垂れ目で今はきちんと両サイドに分けられて後ろで括られているその容姿は、地のおっとり感のようなものが出ていて嫌味に感じないのが憎いところである。


 そうして落ち着いたのか王女は笑顔のままに語った。


「ジャックス様のおっしゃられたとおりだったもので、笑ってしまい誠に申し訳ありません。そして、この度は命を救っていただいたことに対して改めて、お礼を申し上げたく思います」


 そうして王族がするべきではない行為――頭ゆっくりと下げた。

 ウォーレンとかいう侍従長が諌めるもそれを手で制して、頭を下げ続ける彼女に俺はため息をついて言い放つ。


「いや、俺が助かりたいだけだったから礼を言う必要はない。そのおっさんも言っているように王族ってのは頭を気軽に下げるべきじゃないんだろ?」


「いえ。されたことに対して、礼を申し上げないことこそが王族にはあるまじきことにございますよ」


 そう言ってニコっと笑う。生来の天然な笑顔に心臓を鷲掴みされるような印象を受けたが、咳払いをしてそうっすかと適当にお茶を濁した。なお、ウォーレン氏はずっと言葉遣いが気になるのか俺を諌めるかのような目で見ていたが、俺は取り合うことはなかった。


 そんな俺を疑問的に首を傾げた格好となった王女だったが、そうだと思いついたかのように両手を合わせて俺に言った。


「私としましては正式に王都へお越しくださりたいところですが、ジャックス様もおっしゃられるように御嫌だと言うのであれば、まずお礼の1つとして馬車を贈呈したく思います」


 馬車?


 訳知り顔のジャックスにチョイチョイと指で合図して肩に手を置いて問いかける。


「("おっさん、どういうことだ?")」


「("お前は見たことないだろうが、あの王女の馬車は結構大きくてな。全長で7mはあるんだぜ?ここまで言えば............わかるよな?")」


 なるほど、そういうことか。

 つまりその馬車をもらって俺が迷宮空間として使えれば、帰りも安全になるってところだろう。だけど動作可能なものに果たして使えるのか疑問的な部分がある。だがまぁ、元々考慮もしてなかったことだし例え迷宮化できなくても、もらえるものはもらっておいたほうがいいかもな。こんなとこで足踏みしたくないし。


 それに迷宮化できたら、移動型迷宮へと早代わりとなる期待感もある。


 俺は謹んでいただくことにするよと王女に礼をして、声をかけた。


「ああ、そうだ。後は王女さんに一つ頼みたいことがあるんだけど」


「なんでしょう?」


「奴――あの帝国のバーレンとかいうやつの拘留を少し延長してもらいたい」


 俺の言葉をウォーレンとかいう侍従長は不審そうな目で見てくるも、それは無視して王女だけを見る。少し間を置いたが、分かりましたと納得したので5日間後に連行という話で決着した。


 そのまま話を聞くとお礼を言いたいがために3日残ったという王女は、別の馬車でこれから帰るということだった。わざわざそのためだけに残るなんてとも思うがまぁ、それがこの王女の気質と言うものだろうと思った。故に平和なのだろうかとも。


 そんな去る間際、王女は何やら赤い顔をして、手元に持っている綺麗に赤く輝くブローチをこちらに見せるようにした。それはあの時、魔道具化した王女のブローチだった。


「あの時は水色だったこのブローチがこのように変わったことについては私とあなたの秘密ということにいたしますので、ご安心ください」


 つまり、どう見ても魔法の類だという力のことは彼女のその大きな胸に仕舞うことにしたらしい。


「そ、それで......も、もしよければまたいつか――」


「え?......ああ、いつか、な。うん、いつか?」


 何がそうさせるのか、フラグ的な何かを感じて身震いした。

 あれ?王女で容姿もいいスタイルも抜群にいい美少女と立ってもいいはずのそれになぜ身震いを感じているんだ?まぁ、いいか。


 で。いつかってことは、20年後の5日でもいいんだよな?


 俺の適当な言葉にはにかんだ表情が笑顔いっぱいに包まれて、はいっと声を出した後に一礼をして去ろうとした時に俺はため息とともにちょっと待ったと言って、こう助言した。


「それは念じれば、あの時のようなことが起こる。今後、王女様の身に何か起こった時にまた同じ目に合わないように事前に自分の危険が迫った時にと念じておけば使えると思うよ。......それじゃあな」


 俺の言葉に喜色した様子で再び一礼をして、いずれまたという言葉を残して王女は侍従長とともに去っていった。今後はブローチが守ってくれるだろうと俺は安心した。


 この時、また再び――それも危機的な状況でかなり後にまた再会することになるだろうとは知る由もないことだったが。


 王女が帰ったことでジャックスとオーリエとが部屋に残った。俺は力を抜いてベッドに身を預けた。


「......まだ時間はかかりそうだな?」


「あー、やっぱり分かるか?」


「タクト、すごい汗かいてるヨ?」


 オーリエの指摘に俺は額に浮かんだ汗を拭った。オーリエはその手を止めて、持っていた手ぬぐいで額などを拭いてくれる。感謝しつつも俺は、PTSDというのはここまで辛いことなのかと改めて理解を深めた。

 こんな調子じゃしばらく人前なんてでられないだろうと思った俺は、まだしばらくの間療養を行うことにした。


 まぁそれとは別に、バーレンにはきっちりやるべきことはやっておく。


 やられたらやり返すなんて、本当にレティシアと血が繋がっているなと皮肉に思いながら俺は、ジャックスには町への調査の続きとオーリエには夜起こすように頼むとひとまず今は体を落ち着けることにした。


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