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第23層「絶望」②

 日が昇りそろそろ昼に近いという現在――

 夜を徹して町の中で行なったタクトの捜索は、その後何の手がかりも得ることはできなかった。

 町の外でも今頃は、オーリエちゃんと旦那が定期的に探しているだろう。追手もあるようだが、"あの程度"なら旦那は問題外としてオーリエちゃんでも容易いとだろう。しかし、そのオーリエちゃんからなんの知らせもないということはまだ見つけられていないんだと思う。


 俺のほうからは相変わらずあいつと繋がりは感じるが、迷宮の外じゃ弱いあいつではいつ死ぬか分からないという危機感が常にある。

 しかし町の中にはあれからも幾度かクソ野郎たちがやってきては襲ってきて、またある理由でおおっぴらに探すことができなくなっている。奴らはこの町の住人に見つかろうがなんだろうが構わないのだろうがな。


 そして歯がゆい思いで身を隠している現在、俺は路地裏の倉庫のようなところで短い仮眠を取ったあとに牙闘具"緒虎羅"の整備を行なっている。

 この牙闘具は特殊なグローブで5本の指の腹の辺りの内側から牙を通して固定した俺たちレッド族に伝わる武器だ。――が、難点が多くまず複数回使用するとべったりと血や裂いた時の肉が内側へと入ってきてどんどん威力が落ちてくる。

 そんで、握力が物を言うので使う側の握力がなくなってくれば威力も落ちる。

 故に整備と握力回復のために時間を置かなくてはならない。


 あのクソ野郎共はもうこれまでに30人ほど屠ってやった。

 途中から火の短剣も用いているが、目覚まされてからそろそろ疲労によって動けなくなっていた。旦那は元よりスタミナバカじゃないオーリエちゃんじゃない俺としてはまだ動いたほうであるがさすがに限界だった。

 まぁそれだけじゃなく途中からこの町の警備兵にも追いかけられてることもあり、さすがに手にかけるわけもいかずに逃げるしかなかった。


 だが、ここで止まるわけにはいかないだろう。しかし、まだ妙な匂いのせいで、タクトへと繋がるものを見つけられずに路地裏で身を潜ませている現状は歯軋りをする気持ちだった。


「おそらく今、町のあちこちじゃ謎の死体やらで結構騒ぎになってそうだ」


 これもきっと奴らの仕業だと思うが、俺は生きて返したくはない。いまだ俺は頭に血が上っているようだ。だが、そんな中でもこれからどうするか考える。

 幸い、宿にあるタクトの持っていた荷物などはタクトに貰った入れても重さを感じずに収納も容量以上に入る不思議な布袋の機能とやらにある『手繰り寄せ機能』という"とうろく"をしている同じ袋を持つ者同士であれば、どいつの袋からでも、その持ち主が袋の側にいないことが条件で、袋越しに手繰り寄せる盗難防止の処置のおかげだ。

 故に今、俺の持つ大袋にはタクトの袋が入っている。と、考えたところで俺はあいつとの会話を思い出した。


 匂いについて何か言っていた。

 確か、タクトの世界にある"たばこ"という匂いがつくものとかなんとか。


 整備が終わった俺は、牙剣具を懐に入れてタクトの袋を出す。探しつつも思い出そうとするがなんだったのか、思い出すことができなかった。しかし俺には悠長に探す時間など与えられることはなかった。


 先の襲撃者と同じ匂いを持った人族が、この町の警備兵とともにやってきて見つかったのだ。

 クソっと吐き捨てて俺は、再び町の中を逃げることにしたのだった。




 * * * * *




 気付けば私の影がすぐ近いところにあった。

 上を見上げると、太陽が中天に差し掛かっていた。


 アベサンと別れて、東のほうへしらみつぶしに探したけど全くといっていいほどタクトを見つけらずにいた。

 悔しい思いがするけどそんなことを考えてもタクトが見つかるわけじゃないし、イライラしちゃだめだ。

 こういう時こそ冷静でいなくちゃいけないとジャックスに教えられているので私は深呼吸をした。


 私の後を追ってきたのか、何度か黒い服を着た人族が襲ってきたがタクトに作ってもらった剣で全部なぎ払っているのでケガは1つもない。タクトの作ってもらったこれらは私には未だ扱いきれていないすごい武器と防具だった。なにしろ、動きを阻害することもなく"りにゅーある"したといっていたタクトも絶賛するほどの出来だった。こんなふうによくしてもらっているのに、そんなタクトを今は守れずに探すことしかできないなんてとても悔しかった。


 頭を振って、再度襲い掛かってきた襲撃者――あれ?今度はあの町に来る前に戦った......たしか、闘賊だったっけ?という人族たちだった。あの時戦った闘賊たちはタクトの不思議な力で奴隷状態になっていて、今頃襲った周辺で活動しているのだけど、目の前の人族は全然違う闘賊たちだった。


「確かに馬鹿でかい女だな。悪いが、依頼なんでね~死んじゃくれねぇか?」


 先頭の男が武器を構えつつも、周囲に指示をして取り囲むようにしてくる。

 たしか集団戦の場合は自分の状況を相手よりも上げて、自分有利な場面を作り出してから......だったよね。

 ジャックスに教わったように決して、闘賊たちに囲まれないように私は後ろに右に左にとかく乱させながら動いて、隙ができるのを待つ。


「ちっ、俺たち相手の戦い方ができるなんて聞いちゃいねぇぞ」


 闘賊たちは安易に包囲できると踏んでいたようだが、どうやら作戦を変えたようで何組かは私に向かってきては下がったりしてきた。おかげでリズムが崩された私はかく乱ができなくなってきた。えっと、こういう場合は――


『いいか、オーリエちゃん。たまには意表を突く事で生まれる隙もあるもんだぜ』


 たしかジャックスはそう言っていた。

 だったら、と私は大剣を構えて、それを思いっきり地面を抉り相手に叩きつける様に掬い上げた。

 地面が細々としたつぶてとなったそれらはまさかそんなことをと思ったのだろう闘賊たちへと当たり、バランスが崩れたのを見逃さなかった。


 私は大鬼族と人族の混ざり者だからこれくらいのことはできる。


 そうして自分に自信を与えて、具足の効果なのか羽のように軽く跳躍して着地と同時に大剣を自身を中心に置いてぐるっと振り回し、タクトにつけてもらった技を叫ぶ。


「"独楽"斬り!」


 遠心力のついた大剣が周りにいた闘賊たちの胴を分断しながらなぎ払って、それによってできた"ふうあつ"というもので円の外周にいた闘賊たちをより外へと押し出した。その闘賊たちは混乱のためか、未だ隙ができたままなので私にしかできない技で倒すことにする。


 大きく大剣を振り上げて大地を砕いた私は、砕けた衝撃で浮いた地面のそれを剣の腹で先ほどの技の"えんしんりょく"の要領で闘賊たちへと浴びせた。


「独楽"殴斬り"!」


 私に殴られた砕けたモノは、それ自身がまるで凶器のように闘賊たちに襲い掛かって、顔に命中したものは顔が砕けたり、体のどこかに当たる闘賊もその部分が貫かれたりと被害は尋常ではないものだった。タクトがいっていたが、普通は剣の腹は"ていこう"がどうのこうので普通に剣を振るうよりも力がいるそうだけど、力に特化している私だったらできるかもと教えてもらったのだ。


 こんな場面でもタクトにしてもらったことで戦えることと、そんなタクト捜索の邪魔をするこの人族たちに私は怒りを覚える。


 被害の少ない闘賊たちに近寄りながら私は、大剣を構えて近づく。


「......死ねばいいヨ?」


 これが終わったら、一度アベさんと合流しないといけない。

 そんなことを考えながら私は誰一人生きて返すこともなく、闘賊たちを全滅させていった。




 * * * * *




 恐怖とはなんだろうか。

 それはどうしようもない状況で、自分には何もできない事態となったときに感じる人間の防衛本能だろうと思う。しかし、それで冷静になり事態が好転するかと言われればそれはない。


 その恐怖により脱糞した自分の"それ"に、髪をつかまれて押し付けられている俺はそれが屈辱だとかそんなものを考える余裕はなかった。頭を踏まれてグリグリと押し付けられていても、ただただひたすらに怖かった。


 これはつまり、こうして怖いと思うことで平静を保とうとしなければ、心が壊れてしまうからという防衛本能なのかもしれない。無論そんなことを考えている余裕は今の俺にはなかった。それ以上に今の俺は迷宮がなければ、迷宮に関する力がなければ、何もできない弱い"本当の自分"をさらけ出すかのようだった。

 

 殴られ、蹴られとただ入れ替わりたちかわりにその恐怖を与えてくる帝国の男たちになすすべもなく、無様に悲鳴すら上げて転がることしかできない俺がそこにいた。その悲鳴や呻きが、帝国の男たちにとっては何よりも嬉しいものだと思うこともできないほど無様な姿だった。


 夕暮れを迎えたのだろうか、辺りは夕焼け色に包まれていた。

 死なない程度に絶妙な加減で暴力と自身の嘔吐したもの、恐怖によって下から出た排泄物などが顔についているのも構わずに俺はただ気温が低く、真っ裸の状態だったことで寒いということ以上にひたすら震えていた。


 この地獄は一体いつまで続くのだろうか。

 そんなことも考えられないほどに、俺はずっとずっと恐怖によっておそらく奴らの狙い通りだろう結果となっていることに憤慨できることもなくただただそれを甘んじて受けることしかできなかった。

 口の中が切れて、また顔面を蹴られた時に前歯がボロボロになっていて口の中に食い込んですらいるのまである。


 そんな俺の様子を見るためか、バーレンがやってきた。


「これはこれは、随分と逞しい顔になりましたね。それでどうですか?あなたの着ていた服について何か教えていただけませんか?」


 俺は口をあけて声を出そうとするが、切れた口の内側の歯やら血が喉に入ってきたせいか咽ることしかできなかった。


「おやおや、どうやら喋ることができないほどなのでしょうね。お可哀想に。まぁ、これも運命だとでも思えばよろしいかと思います」


 そうして普段では憤慨するほどの鼻につく丁寧なその喋りに俺は何も返すことはできずにただただそれが続いてくれることを願っていた。その間だけは暴力がなくなるのだ。その時間だけ暴力から解放されるのだと、覚えた俺は情けなさやプライドなども考えずにひたすら懇願を心の中でするのだった。


 しかし、そんな願いはやってくることなくバーレンは俺の心を見透かしたように口元に弧を描いて去っていった。そして、また新たな男が現れて、再び暴力が繰り返されることになるのだった。

 

 もうすでに俺の心に希望というものは欠片も残されていなかった。







 タクトが暴力によって絶望し、アベとオーリエは外でそのタクトを探し、ジャックスも匂いを辿るために町で潜伏して隠れながらも行動をしている状況は次の日も、その次の日になっても変わることはなかった。


 こうして何も変化もない状態で、タクトの死へのカウントダウンはゆっくりと刻まれていくのだった。

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