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第24層「絶望」③

 幾日が経っていることは理解できたが、現状では何も変わっていなかった。

 

 少なくとも俺の中ではそうだった。そんな俺は現在、ただ恐怖を逃れるために昔の楽しかった頃を思い出していた。両親と妹、そして俺の3人家族で平凡だがそれでも楽しかった時のことを。


 病気にかかる前の妹は、俺の後をひたすら追いかけては途中で転んで泣いたりといった感じの元気な女の子だった。そんな俺たちを両親は生活のためにと忙しくしながらも笑顔で見守っていてくれたものだった。だけど、そんな幸せは彼女が発症した病気によって阻まれることになる。


 筋萎縮性の病気で、アルファベット三文字で"ALS"と呼ばれる全身の筋肉が萎縮して筋力がどんどん低下していく病気だった。


 あんなに元気に跳ね回るかのように遊んでいた妹の影はわずか3年で見る影もなく落ちていった。俺はそんな妹に元気を与えるために入院してから塞ぎがちだった妹のためにと様々な外での出来事を教えたり、必死で両親の手伝いをして妹が入院中に暇によって暗い気持ちにならないようにと携帯ゲーム機をお駄賃と小遣いを貯めて2人分購入して、遊んだりととにかく妹のために頑張った。


 そのおかげか、発症から最大でも5年ほどで死ぬとされている妹は呼吸器を嵌めての延命処置の甲斐もあってか、喉の筋肉低下が原因なのか言葉はたどたどしいが、未だに元気な様子であった。


「お、お、おにぃ......ゃあんは......しょうらいろうするろ?」


 中学にあがった頃、ふいに妹にそう聞かれたことがあった。

 俺は考えてこう言った。


「そうだな、お前が元気になったら一緒に何かできればいいな」


「......もぉ、ち、ちらうよ?お、お、おにぃゃぁんろこぉろ」


 俺のことなんてどうでもいいんだ。

 いや、それしか俺にはなかったのだ。

 妹と再び、元気に外で遊びまわりたい。


 悔しいし、おそらく嫉妬もするだろうけど妹に恋人ができて結婚することになったらそれを精一杯祝福したい。こんなに辛い目にあっているのに、その分幸せにならなければ割に合わないのだ。


 当時の俺はそのことばかりだった。


 そんなある時、一緒にゲームをしていた時、家族に呼ばれた。

 何やら医者に呼ばれて一緒に説明を受けることがあるらしい。

 妹の病状で何かあったのかと、不安もあったが俺はグズる妹を撫でてすぐに帰ってくるからと言って、家族と一緒に出て行った。

 一緒に説明を聞いていく中で、俺はやはり幸せになる権利はあるものだと思った。まるで奇跡かとでもいうような治療法が見つかったのだから。

 ALSに対して有効とされるその治療法を見つけたとされるその医者と現代医学の発達に感謝した。


 ただ、その治療は成功率がとても少ないもののようで、医者としては念のためにと精神のケアのためにもと一度家で根気を養うために仮退院をして数日過ごしてはと提案された。


 その言葉を理解できなかった俺はただ、妹が久々に家に帰ってこれば喜ぶだろうというその一点のためにもいの一番に妹の病室へと赴いて、報告をしようと思った。


 病室へと向かう中、何やら騒がしくて警備員が色々な場所にいたのが、気になったのだがかまわずに俺は妹の病室へと向かった。

 近づくにつれて多くなる人の数は俺に何か言い知れない気持ちを与えた。

 関係ないよな、あの目の前に見える病室で何やら病室を覗き込む患者やら、一般人やら、警備員やらなんて......妹には関係ないよな?


 だが、現実は違っていた。

 俺はそのまま妹の病室へと入っていった。


 止められそうになるが、振り切った俺が見た光景を俺は忘れることはない。


 妹はベッドで涙がまだ流れた後が真新しいそれを頬に、またそれとは違う白い液体を体の至るところ、下腹部の辺りには血とともに流れた白い液体でまるで事後だとでもいう状態で人形のように投げ出されていた。

 その表情はこちらを向いていて、絶望に見開かれたものだった。


 幸せに浸るはずだったその記憶が――まるで何かに辿りついたかように蘇った俺は、恐怖から怒りによって現実に戻った。

 恐怖と絶望で食事も与えられずにただ暴力を受けている自分にはそれによる痛みと現状の最悪さしかなかった。


 なんだ?これは


 まず思ったのはそんなことだった。


 あの妹の状態と、今の俺の状態はまさに同じ状態であると思った。


 つまり、あの時部屋で俺が発見したあの絶望を浮かべた妹もこんなことを感じていたのだと俺は悟った。すると、不思議ともう恐怖というものは欠片も感じられなかった。恐怖という防衛をする意味がなくなったのかとも感じられたそれは純粋なる"自分にしたことへの怒り"だった。ただひたすらに妹にしたことに対する犯人に対しての怒りと同様の、だ。


 俺は思う。


 妹もさっきまでの俺のように、ただ希望も救われることに対する願いもない状態のまま事切れるまでそれを味わったのだろうと。彼女自身の気持ちは分からないが、俺はその悔しさによって自分を取り戻し、また怒りによっての原動力を入れているのを感じる。何も出来ないという自分のプライドやらなんやらはここまで完璧に砕かれて落ちに落ちた。


ならば、この先――この怒りによって成すべきことをするべきだろうと俺は冷静に自分を諭した。


 この感情は犯人への復讐の時と同じ感情だ。そしてあの時と同じように考え出す。

 怒り狂って闇雲にやることなんて誰にでも出来る。

 でも、それじゃあ駄目だと。


 そう――怒りは忘れずにただその機会を伺うためにいつもよりも冷静に、自分のできることを考えて、考えて、考えてから計画に移すあの頃のように、俺はスイッチを切り替えるようにスッと自分の中に落とし込んだ。

 

 そして、裸にされ暴力に犯された今を思い浮かべる。

 現状を考えるに、まず俺は迷宮創造(ダンジョンメイカー)を使えない。

 ここは使えないフィールドだと考えた。じゃあ他の力はどうだと考えた時に俺は"あれ"があったと考える。

 

 そして機会は間もなく巡ってきた。俺はそのために今は耐えるように、体が冷えて震えるが不病による効果のために風邪を引いているという感覚がないのが救いではあるが、体力も低下しており殴打されることでボロボロで酷い状態の自分に改めて活を入れて、今はひたすら耐える選択をした。




 * * * * *




 二日経っても事態が進まなかったことだが、それが匂いを消す方法を思いついて前進した。タクトのやつが語ったのはただの戯言だった。


『たばこの匂いは"纏わりついて染み付くような"匂いだからこの世界にたばこがなくてよかったよ。あれ洗剤でしかとれないし』


 そうだ。匂いには種類があって、自らが放つ匂いとつけられて纏わりつく匂いだ。

 つまりは自分が放っていてそれが残るもの、他者がつけてその場に漂った後に染み付くものの2種類だ。そのことに気付いて俺はタクトが放つ匂いを探るためにタクトの袋から洗剤と水精石とかいうのを取り出した。

 あいつは確か、これを服とか洗うのに使っていたしたまたま『せんたくき』という妙な箱に入れて水がジャバジャバでるのもみたことがあった。


 つまり、これを水の出る魔石で溶かせていけば俺たちの鼻につく匂いだけを消すこともできるだろう。欠点は纏わり付く匂いだけだし、それが消えれば匂い分けでタクトだけの匂いを辿るのも楽になるだろう。

 

 そんな考えを元に俺は嫌な匂いを逆に辿るようにして、周辺を消していくことで活路を見出すことにした。


 が、そんな俺の苦労をよそに外から帰ってきたオーリエちゃんの言葉によって、それは打ち砕かれた。


『アベさんがあの"櫛"と同じ匂いがするっていう豪華な馬車を今引き止めているから行くヨ?』


 ということだった。


 さすが旦那だと納得したいが、俺が折角思いついた方法が砕かれたような気がしてあれだったがまぁそれはいいだろう。


 そして櫛と豪華な馬車にピンときた俺は、タクトを攫った奴らが本物の誘拐犯であって、豪華な馬車に乗ったやつが本物の王女引渡しの交渉人だと悟った。そこまで気づいた俺は、オーリエちゃんとともに町の外に出て旦那が足止めをしているその馬車を追うことにした。


 考えてみればおかしいことが多かった。

 侍従長のようにそもそも、護衛もつけずに行動するなんてことがまずありえないだろう。

 それは目の前に見えてきた王族でも使っているかのような馬車が目に入り、旦那となにやら揉めている様子の護衛たちを見て納得できる形だと理解できる。


 まだ旦那は手に掛けちゃいないが、いつ旦那がキレるか分からないために俺とオーリエちゃんは足早に近づいた。


 馬車は大型で王族にゆとりをもたせたいがために作られたのか、全長は7mはありそうな白い着色が成されたものだった。それでも帝国じゃあだいたい中流の貴族が乗るくらいだったのでエウレシアの国力が分かるものだった。三頭立ての白馬も落ち着きなく、旦那を見ている。まぁわからねぇこともねぇが。


 その側にいる護衛に守られながらも、馬車の窓から外の様子を見ているところへと近づいた。

 槍を持った護衛兵たちがこちらに突き出そうとするが、オーリエちゃんの怪力によってそれが曲げられると恐れとともに後ずさったおかげで、近づくことができた。


「き、貴殿たちは一体.....?」


「あんたは、エウレシアの王女付きの侍従長か?」


 相手の質問に答えることもなく、俺は問いかけた。

 王族の使用人特有の襟がある服が窓から伺えたからの質問だったが、相手の緊張を孕んだ首肯によって俺も納得した。


「実はな、あんたの"偽者"のおかげでうちの大将が攫われたんだ。だからよ、ちと話しをきかせてもらいてぇんだが――」


 そうして俺は、タクトの匂いを一旦"忘れて"奴らが持っているであろう櫛の匂いを嗅ぎ分ける。なるほどたしかにあの櫛と同じ匂いだ。そして、それを頼りにさらに集中することでその先に櫛の元の匂いと俺が探している匂いが同じ場所にあった。


「あんたらがどこへ取引に行くか......当ててやろうか?」


「そ、そのようなこと――」


「ここから北東にある――ここは襲撃されてまだ新しい村......ちっ!あの闘賊団はここを潰してきたのか!」

 

 町に来る前に出会った闘賊たちの依頼という言葉が理解できた。

 たしかに奴らと俺たちがいた地点とで結べば、あの時の違和感は払拭された。

 

 俺が何に納得しているのか理解できないといった様子の侍従長へ素早く近づいて護衛たちに制されるのもかまわずに言い放つ。


「ああ、邪魔して悪かったな。もう、行っていいぜ。知りたいことは知れたしな。あぁ、安心しろよ。あんたらの取引を邪魔するつもりはねぇし、俺たちは俺たちの大将が取り戻せればいいだけだからな」


 そう言った俺に疑問的な顔となった侍従長だが、目的を邪魔されないということと先ほどの槍を曲げるという行為で俺たちが実力者だと判断したのだろうかある提案をしてきた。


「ど、どうだろう。貴殿らが協力してくれさえすれば取引などもせずに我々は王女を、そして貴殿らはその大将とやらを救出できると思うのだが」


「......取引か?"予行演習"にしちゃあ相手が見えてねぇ気がしねぇんだが」


「ど、どういうことだ!?」


「恐らくだが、相手は帝国人だ。奴らはそんなに甘くないってのは俺たちも今日に至るまで続いた襲撃で分かっているし、俺なんかはその帝国から逃れたクチだ」


「て、帝国だと!?......帝国とはベルガンディア帝国のことか!?」


 と、言い放った後になぜか納得したように侍従長は続けた。


「......そうか、なるほどな。奴らが指定した"これ"はそういうことか」


 手元にありそうな"何か"を見ながらそう呟いた侍従長に疑問を持ったが、今はそれどころじゃない。

 ここ一連の動き、町に辿り着く前に依頼というものによってなぜか帝国領にいるはずのあの"闘賊"たちと襲撃者の特徴が帝国で飼いならされているあの"暗殺者たち"と酷似しており、奴らが得意そうなだまし討ちということから察すれば十中八九経験者は語る、帝国の仕業だと理解できた。


 そしてエウレシア側もそのことに納得したのだろう。近隣からの印象はこんなものなのだから。


 俺が考える限りじゃ、依頼を受けた奴らがその村を襲ってそこを拠点にした可能性が高い。拠点を作ることに対しての自国民以外の犠牲などまるで考えていないからだ。となれば、考えられるのはあの闘賊たちがやってきた方向だろう。その方向に向かう様子でいたこの豪華な馬車を辿ればおそらくその廃村と化した奴らの根城を叩くことができると踏んでいる。


 こうしている間にも、今はまだ繋がりを感じられるタクトに危険が及ぶ確率が高まっている。襲撃者を全て返り討ちに、依頼を受けたらしい闘賊たちも全滅させてきた。もし、報告役がいてそのことが相手に伝われば、時間をおかずに殺される可能性もあったのでもうすでにしてしまった事にも後悔が残っている。


 ともかく今は急がねばならない。


 俺は了承とともに、自分の感覚を理解するとそれなりに離れている廃村のようで時間としてはギリギリだった。

 方法としてはこいつらに先に交渉に入ってもらってから、俺たちが死角から乗り込んで奴らが油断したところで襲撃をかけることとなる。


 御者の席に旦那が座って、まるで爪で人質を脅すかのように馬たちに急かしつつも、タクトの無事を祈りつつも、侍従長たちとともに俺たちは廃村へと向かっていった。

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