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第22層「絶望」①

「クソ、クソ、クソォォォ!!」


 そんな叫び声が闇を切り裂き、辺りに響く。

薄紫の毛皮を靡かせる男は、夜の暗さでその毛艶見せることもないが代わりに目は獰猛とでも言いそうなほどに見開かれて特性ゆえか輝いており、なおも興奮冷めやらぬ様子で足を動かしていた。


「俺が、俺があんな......あんな軽はずみなことを!」


 彼の呪詛とも言うべき叫びに答えるものはいない。彼は今、居なくなってしまった己の主を探している最中である。気配がないとオーリエに叩き起こされ己の失態を受け取る間もなく探しているのだ。



 * * * * *



 俺は後悔していた。

 アイツははっきり嫌がったのだ、あの侍従長と関わるのを。


 だけど俺は国と絡むというのは、利点が多いだろうと自己判断をした。

 しかし結果は見事に酒に薬を盛られて、アイツになんの警戒もさせぬままに浚われちまっている。

 なぜ、オーリエちゃんがいなかったか分からなかったが、今はそんなのはどうでもいい。帝国にいた時と同じようなことでミスり、"今度は"人の命を危険に晒すということをしてしまったのだ。


 唯一の希望と呼べるものは、俺はアイツの力によって隷属されている状態であるためかなんとなくだが、アイツとの繋がりが切れていないのを感じている。それはつまり、死んで繋がりが消えたわけじゃないということだと俺は判断している。こんな、細い糸を手繰り寄せるようなもので自分に冷静を求めているのはすげぇバカらしかった。


 しばらく宿を中心にアイツの"匂い"を手繰るように探しているが、別の匂いやら粘りつくような匂いのために辿ることができないでいる。だが、探さねばならない。アイツにはそれだけの借りと恩がある。

 そんなことを思って探索をしていると、目の前に黒い格好をした5人ほどの人影が見えた。


 武器を手に持ち、いきなり襲い掛かってきた。


 腰の短剣を出してその一撃を受け止める。が、続々と後ろから攻撃を繰り出してきてさすがに後方へ飛んで距離を開けた。このタイミングで襲い掛かってくるってことはなるほど、全ては計画済みってやつか。

 そんなことを思うと、不思議と冷静さが戻ってきた。計画された上で殺そうとしてくる敵に冷静じゃない状態じゃ"アレ"が使えない。


 一旦息を整えて、目の前の男たちに話しかける。


「つまり、お前らはこの"影狼"様にケンカ売るってことで......いいかぁ?」


 そうして俺は、短剣を腰の鞘に戻した。

 代わりに懐にしまっていた特殊なグローブ――"牙闘具・緒虎羅"を取り出して、両手に嵌めると自身の体を左右に揺らして、右足を踏みしめる。

 襲撃者たちは何か危険を感じたのか一斉に襲い掛かってくる――が、


「......遅ぇ」


 俺はその襲撃者たちの背後へと回っていた。


 そして――


「影狼"ファング"」


 無防備になっている襲撃者2人の背中へ緒虎羅の指の腹についた牙を突き立てて一気に握りながら捻った。両者にそれを行うことによって、襲撃者たちは背中の脊髄を"食い破られ"、血を噴出しながら倒れた。


 そして、もう1つの技を放った。


「影狼"テイル"」


 そのまま体を横へと捻るように回転させて自慢の仕込み尻尾"小尾牙"を襲撃者の首へと放った。すると、襲撃者の首は綺麗に両断され、汚い鮮血が噴水のように噴出して倒れ伏した。奴らにとってはその戦闘力が予想外だったのか、一気に戦況はひっくり返り、そのまま逃げようとするが逃がすわけがない。


「"影狼"の名は、あらゆるものを食い破って影さえ残さないほどの攻撃力からつけられている"二つ名"だ。普段は滅多に使わない特別性だが、ま、馳走してやっから味わって死にやがれ!――影狼"クロウ"!」


 俺は残った襲撃者たちの被る頭巾の頭ごと、両手で両方を掴みそのまま体を前回りに回転をした。すると、男たちは、突き立てられた緒虎羅の牙によって抉るように顔を分割して血飛沫をあげながら絶命した。


 終わった戦闘で俺はあることに気付くが、今は急いでいるしどうでもいい。

 タクトの身の安全のほうが先だ。

 オーリエちゃんには旦那の下へ行ってもらっている。


 その間に俺は町の中であいつの匂いを手繰り寄せて、手がかりを見つけて浚った奴らを血祭りに上げなければいけない。


 俺は襲撃者の成れの果てに一瞥することもなく、暗い夜の道を足早に駆けて行った。




 * * * * *




 ――バキッ!


 アベサンに殴られた。

 私はタクトが浚われたことを告げるためにアベサンの待機場所にきた。

 そして、殴られた。

 タクトは今日一日おかしかった。

 なぜか、私を避けているかのようだった。


 タクトのためにと頑張ったこの3ヶ月間、恩に報いるために必死で頑張ってきたけど何かタクトの気に食わないことで私は嫌われたのかと思って避けるタクトを強引に一緒にいるでもなく、そのまま1人部屋に戻ってしまった。

 外に出る気配と行き先から厠だと分かっていたが、また避けられると思った私は何もしなかった。

 待てばまた部屋に戻ってくると何も確証のないことを信じて。

 結果的にいくら待っても戻ってこなかった。

 そして、気付けば、タクトの気配は消えていた。

 バーレンとかいう男も、バーレンが追っていたという捕まえた男も一緒に。


 待っても帰ってこないことで宿を探した後でいないことに気づいた私は、ジャックスを起こしてすぐにここにきて、今アベサンに殴られている。


 そして――


 ――バキッ!


 私もアベさんを殴った。

 ガウガウといってアベサン自身が自分も殴れと言ったからだ。

 辺りを見ればアベさんが暴れまわった後がある。伝えた瞬間にあることがきっかけで起こったアベサンの怒りだった。

 丁度私が立ち止まったところでつけてきていたのか、どこからかやってきた黒い服を着た人族たちが襲ってきたので、返り討ちにした"欠片"が転がっている。


その数は30ほどだったがこの中で原型をとどめているのはおそらく2人ほどだと思う。私も分からない。私だって、たくさん暴れたから。


 そして今、互いに罰を与え終えた私たちは今後のことを話す。

 ジャックスも自分を責めているだろうけど、今はタクトのことだ。

 南門から少し離れた場所から、湿地のある西へと向かい狩りを終えたアベさんからの情報は、何度か見かけた不審なものたちの匂いだったと言う。しかし、その匂いも何かに阻害されているので、辿ることができないらしい。


 完全な手詰まりだった。

 だけど、早く見つけないとタクトが殺されると思った私とアベさんは手分けして、西と東に別れて捜索を開始した。


 私はタクトに謝りたい。きっと、ジャックスも、アベさんも。

 タクトが作ってくれた白い輝きを薄っすらと放つ防具に身を包みながら私は東へと出発した。


 どうか、生きていてと願いながら。




 * * * * *




 顔に注いでいるらしき、何かの暖かさをまるで水を打たれたかのような冷たいと感じる衝撃で叩かれて起こされた。

 目を開けると太陽が昇っている様子が見えた。そして、今の自分の状態に気付く。全裸にされて、手を後ろ手に縛られて転がされている状態になっていて、なおかつ知らない男が桶のようなもので水を浴びせたと思わせる行動のまま見つめていたことに。


 こんな季節に冗談じゃない冷たさが全身を襲い、また男は無言で俺の腹に蹴りつけた。


 ぐぅっという声を吐き出し苦しさと激痛が走るがなんとかこらえる。

 そんな男の奥からはあの時の初老の男で王女の侍従長を勤めているらしきバーレンが姿を見せる。


「お目覚めでございますかな?妙な衣装を纏う正体不明の少年」


「なんで......お前――がっ!」


 口を開いている最中にも拘らず、お前と言うキーワードに反応したかのようにまた腹を蹴られた。強引に吐き出される苦しさに思わず咽てしまう。


「口の利き方に注意なさい、下郎君。力ない君が我が"帝国人"が貴様のような下郎にお前と言われる筋合いはありません」


 て......、帝国人?

 意味が分からなかった。たしか、こいつらは王女の侍従長を勤めているはずで、じゃあ......だったら......。


「おや、騙されていたことに気付いたようですね。では――」


 そうして、さも優越感に浸っているかのような顔つきになりバーレンは言い放った。


「あなたがこれから3日後に死ぬのは気付きましたか?......王女と"本物の侍従長"たちとともに」


 帝国、王女、3日後に俺と王女と本物の侍従長が死ぬ、誘拐............


 俺はそれを繋ぎ合せて気付いた。つまりは、こいつらは本物の王女誘拐犯で何かしらの取引材料を元に侍従長を呼び寄せて何かを成した後に、王女とその侍従長たちとともに俺を始末するということなのだろうと思った。


 良く見てみれば、水を浴びせたと思われる行動と俺を蹴っているこいつはあの時捕まえた奴だった。


「しかしまぁ、予想外ではありましたよ。犯人役として決めていたあの魔物狩りどもを当初は騙す予定でしたのに、あなたの連れがそれらを潰して町から追い出してしまいましたからね。それに"影狼"まで連れているとは、ね」


そう言うと、ふぅっとため息をついて続けた。


「北門を通過した君とそばにいた大鬼の亜人が報告に上がってきた時、なぜそのような目立つものがこの町にと思いましたが、あの"負け犬"のクズどもに加担する"影狼"と一緒にあの町の道具屋で見かけたときからマークしておき、馬車で力量を測った上で理解できましたよ――われらの計画とは関係がないとね」


 俺たちが町に入ってきた時からだったのか。

 そんな時から始まっていたとする計画とやらに、俺は巻き込まれているだけになるが今はそんなことはどうでもいい。


「その上であの魔物殺しとの圧倒的な力量さです。"影狼"、あの亜人があの町で"説得力"のある行動をしてくれたその"評判"によっても計画に差し支えはなく、順調ですよ。本当にありがとうございます」


 全く感謝の気持ちも篭っていないバーレンの言葉に、俺は犯人役というキーワードで思いついた。

 

 つまりは、交渉材料となりえる"何か"を持って来た侍従長とやらを殺した犯人を俺たちに擦り付けるつもりなのだと。それで、3日後ということからそれはおそらく3日後にその侍従長がここにやってくるということなのだろう。


 俺が捕らえられたというか、攫われた理由はなんだろうかと考えたが、俺にはそんなことに付き合うつもりはない。

 そう思って早速、冷たい体を捻ると強引に仰向けになって、地面に手をつけて魔力を込めて迷宮創造(ダンジョンメイカー)を発動させた。これさえできれば、俺は無敵になれるのだとそんな絶対的な"優越感"さえ覚えながら。


 だが、いつも発動したとする感じが全くしなかったのだ。


 どういうことだ?


 そう思って俺は、嫌な予感を覚えながらも改めて自分の今いる場所を目を皿のようにしてみてみる。


 転がされて視界が狭い中で見えたのは、何やら朽ちた家や井戸のようなものと今この場所がその家に備え付けられていた"囲まれているというのもおこがましい"ほどにボロボロに朽ちた馬屋らしい場所だった。


 その瞬間、俺は嫌な予感が当たったことと日本にいた頃とは別次元の絶望を感じた。囲まれた場所じゃないってことはつまり、ただ全裸に剥かれて迷宮創造(ダンジョンメイカー)も使えない俺に起こるであろう事実に。


「体を捻って何をするのかと思えば......まぁ、いいでしょう。それよりも、あなたが着ていたあの上等な生地を使った服について聞きたいのです。我々が攫った理由はまさにそれだけで、なおかつ攫いやすい相手でしたからね。本来であれば、足止めを用意しておいてあなたを招くつもりでしたが、親切にもあの亜人を遠ざけてくれたことには感謝をしなければいけませんな」


そんなバーレンの話など、今の俺には届かない。


「何、素直に話してくれれば、痛い目に合わないですよ」


俺は恐怖の余りにその程度と言いかけるが、そんな俺の様子をさも可笑しそうに見下した目で見下ろすと――


「それじゃあつまらないしせっかくですので、3日間の間どうか耐えてくださいね。その後で素直にお話していただけることを期待しております。では挨拶代わりに――」


 そう言ってバーレンは男に目をやると、もうすでに言葉の意味することを理解した俺は帝国というところの怖さと寒さと絶望による恐怖でパニックに陥っていた。


俺はそれに抗うことはできずに現れた男たちによって殴られ始めた。

 

 日本というぬるま湯に浸かり、この世界に来て今までなんとかできていた迷宮の力も使えない普通の17歳の高校生――いや、犯罪者で引きこもりだった最底辺の圧倒的弱者の少年が見ることになる暴力の地獄が始まることとなったのだ。

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