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第21層「人族の町で」③

 翌日――あれからご飯も食べずに寝たためにお腹が空いて目覚めた。

 昨日は錬金疲れのために早く寝たためか、ガラケーの時計を見るとまだ6時頃だった。それでも日は出ているようで、部屋の中は比較的に明るかった。

 

 人の気配がして、ジャックスかと寝返りを打って起きているか確認しようとした俺の目に飛び込んできたものはとんでもないものだった。


 丈の足りないYシャツに包まれて、その量感は寝ていても決して潰れるでもなくまるでこれでもかと自己主張するソレの頂には太陽の光によって白い生地が透けていて、どこかピンク色のものが見えるようなって――


「うわ!」


 俺は慌てて逆へと寝返りを打った。

 そしてなぜと思う。


 昨日あの後のことを考えてみるとすぐに寝たはずで、ここはジャックスが寝るようにということになっていたはずだ。あれ、じゃあジャックスはどこだ?そんなことを考えている間も先ほどのオーリエの姿にドキドキとうるさいくらいの鼓動を感じた。


 ジャックスがここにいないということは、護衛役が誰もいないことになる。

 ならば、もう一人の護衛役がその役を担うことになると思った俺は、そういうことかとここにいないジャックスに怒りを覚える。


 んん~っという声が聞こえて再度、気になってチラっとみてみると横へと寝返りを打ったせいでいやがおうにもその量感たっぷりの胸は両腕によって潰れて深い谷間を刻んでいるのが見えた。

 

 栄養が充分行き届いているかのようで集落の頃よりも艶々とした水色の髪と長身の割りには、まだあどけなささえ感じるそれに、括れのある腰と大きさも理想的なお尻で今のポーズだったならば、そのままの姿を写真に収めて雑誌投稿のコーナーに送ればたちまちたくさんのオファーでも受けそうなほどの美しさを放っていた。


 俺は自分のアレが目覚め特有の状態ではなく、確実に彼女に女を感じていることに情けなくも男としては当然かという感情で必死に押さえつけた。


 多少ぎこちない挨拶を目覚めたオーリエと交わして、1人部屋で酒臭い部屋の中でアホ面でいびきをかいている狼男を強制的に目覚めさせた俺は、昨日夜遅くに帰ってきて俺たちの部屋にはオーリエがいたからってんで、オーリエの部屋で寝たと聞いた。門限みたいなのを決めておけばよかったと思った。

その話をしながらも、朝食を取って早速宿を出て調査を行なうことにした。


 酒の臭いがまだ残るジャックスを尻目に右隣で周囲を伺うオーリエに俺は朝のことが未だ頭をよぎっていて落ち着かない感じがしたが、迷宮のためにと気持ちを切り替えて朝からやっている市場などで市場調査を行ない、野菜、果物の種などが売られているという近くの農園へと向かってそれぞれの種やら球根を仕入れた。午後を少し越えた辺りで、俺たちは近くで待機しているアベさんとも合流する。

 そして、早速朝食中にジャックスから聞いた情報を元に、狩りを行なってもらい素材収集をお願いすることにした。


「えと、この町の西へ行ったところに湿地があってそこに"マッドフロッグ"という蛙の魔物がいてそいつの胃袋や皮膚なんかは伸縮性に優れた素材になるようなんだ。あとはその周囲にも狩って欲しい魔物もいるから、悪いけど頼むよ」


「ガウ」


 そうしてアベさんと別れて町へと帰ってきて、次に本屋はないかと探していたところに何やら腕に覚えのありそうな男たちに絡まれることになった。

 

 オーリエに下卑た視線で舐め回しながら見つつも、こちらにはまるで威圧するかのような存在感を放っている。闘賊バトルシーフという印象ではなく、その装備からおそらく魔物狩りと呼ばれるものだろうと判断した。何せ、格好は魔物の牙をジャラジャラとさせた首飾りにまるでつぎはぎにしたかのような鎧と、先が途中で折れ曲がっている剣などを肩に掛けているのだ。

 

 ヒャッハーとか叫んでも俺には、違和感は感じないだろう様子だった。


「ようよう、お前らか?ボンボンの貴族様らしき旅人ってのは。なんか羽振りよくやっているそうじゃねぇか。どうだ、その女と金を融通しちゃくれねぇか?」


 完全な欲の目にイラっとするが、まぁどっちにしてもこういうのは望むところだった。それに、ジャックスとオーリエという俺にとっては最高の護衛がいるのだから安心していられる。

 その態度が気に食わなかったのか、主に一番の弱者だと思われた俺の胸倉を掴もうとした先頭の男が、オーリエによって阻まれる。......腕を握りつぶして。


「タクトに害するなら、お前殺すヨ?」


「ぎゃあああああ」


 その握り潰された腕をブランブランさせた絶叫にそこらへんを歩いていた人たちは立ち止まり振り替える。そして、圧倒的強者のつもりだった奴らは一瞬にして自分らが弱者になっていると気付いたのだろう。

 それくらいのインパクトがあった。

 何せ、俺から見てもオーリエは大して力を入れてない様子だった。

 だけど、結果は簡単に手首を骨ごと握りつぶされたのだから、たまったものじゃないだろう。


「まぁ、おめぇらは魔物が減ったんだし、今じゃあそうやってしか生きていけねぇのは分かるが、相手にしちゃあならねぇヤツくらいは見極めることだな。......今後はよ?」


 そう言いつつも、いつの間にか後方に回って炎の漏れる短剣を首元に押し付けながらジャックスは呟いた。

 魔物狩りたちはみなその武器と実力が知れたのか、恐怖と驚愕な表情を浮かべつつもすごすごと尻尾を巻いて逃げ出した。その姿を見て思う。

 これで彼らは炎の短剣と綺麗な外套を羽織った旅人がいる噂を撒き散らしてくれるだろうと。


 しかし、その後は何がしかのことにより、俺たちはどこへ行ってもジロジロと見られたりして相当目立ってしまっていた。ジャックスに全部任せて宿に引っ込んでおけばよかったかなと思いつつも、俺はため息をついていると夕方になっていたので、そろそろ適当な店に立ち寄って食事をとろうとしていた矢先に細い路地から何者かが現れて、通り抜けて目の前を横切ろうとしていた。

 そんな中で叫び声のようなものが聞き取れた。


「そ、その男を捕まえてください!」


 俺は無視しようと思ったのだが、止せばいいのにジャックスは逃げる男を捕らえてしまった。

 基本的に必要最低限以外の人族に関わるのは嫌なのに、このおっさんは。


 再度、ため息をつくと汗をたくさんかいたらしき40代ほどの初老で、短く刈り上げたこの国特有なのか茶色と薄緑の斑模様の髪の男性が俺たちの前で立ち止まって頭を下げた。


「申し訳ございません。お手間をとらせてしまいました」


「へへ、いいってことよ。こいつはなんだ?無銭飲食でも働いた......にしてはあんたは、どこかその辺で働いているってわけじゃない服装だが」


 ジャックスの言うように、初老の男性は身なりのいいタキシードに似たような服を着ていて、目にも理知的でいて背筋もきちっとしていた。こういうのが貴族なのか?と思いつつもジロジロとジャックスの後ろから見ていると、男性はやはり分かりますかと言いながらも再度、胸に手を当てて礼をする。


「申し遅れました。わたくしは、エウレシア王国第一王女の侍従長を勤めておりますバーレン=ヨルドと申します。以後お見知りおきを」


「おいおい、とんだ名前がでてきたもんだな」


 エウレシアって、確か南にある王国だよな。まぁ、ここもその領土だろうけどなんで侍従長とやらがこんな最北端の町にきているんだ?


 気になるといえば、気になる。

 しかし、俺は関わりあうつもりはないと思ってジャックスに声をかけようとするが、手で制されて手を肩に乗せて念話で話しかけられる。


("どうもトラブルの臭いしかかんじねぇが、これでうまくいきゃあその王女とやらを通じてよ、王国と秘密裏に協力し合えるようなこともできるんじゃねぇか?")


("トラブルってどんなのだ?それに利点があやふやすぎるぞ")


("まぁよ、聞くだけ聞いてみようぜ")


 ......道具屋の件でも助かったし仕方ないと俺は判断して、黙っていることにした。


 ここではなんですので、と先ほど捕まえた男を後ろ手に縛ったままに俺たちが宿としているところまで歩いていく。彼は今日ここに着いたばかりで宿を取っていないと言うことでついでとばかりに女将に話し、宿を手配したようだ。その間にもジャックスやオーリエは監視するかのように警戒しているところを見ると、無償で信じているわけではないようなので安心だろう。


 宿でバーレンが部屋を取った後に、俺の部屋で待ち合わせをしてやがてやってきた。


「お待たせしてしまい申し訳ありません。あの男は部屋で厳重に監禁しなければと思いましたので」


「いや、別にいいぜ。それで、王女付きの侍従長さんがここまできたってことはそれなりに危険なことだったりするのか?」


「......お察しの通りにございます」


 そうしてバーレンさんは、懐から何かの皮が巻かれたものを取り出してテーブルに置いた。皮の巻物なのかその横に割りと品質のよさそうな櫛もあって、その櫛には紋章のようなものが描かれていた。


「こいつは?」


「まず、このようなことに巻き込みしましたことを今一度謝罪させていただきます」


 そう言って語る。


 エウレシア王国王都・ラーレッヘンから1週間前に突如王女が姿を消したそうだ。王女の寝室のベッドには、彼女がいつも持ち歩いている愛用の櫛と先ほどテーブルに置いた巻物が置かれていたそうで、それは王女を誘拐したというものだったそうだ。


 それでこの町へ着いてしばらく捜索した後に、先ほど捕まえた男が王女のことを口にしていたのを耳に入れて追いかけていたら俺たちに会ったそうだ。


「中を見てみても?」


「ええ」


 そう断ってからジャックスが巻物の中を拝見して、なるほどなーという言葉とともに俺のほうにも渡す。

 が、その書かれている文字は俺には理解できないものだった、ということにした。


「読めないぞ?」


「......マジか?」


「ああ」


 まぁ、読めるんだけど基本的に関わりたくないので読めないフリをしておく。適当なところで適当に切り上げてくれれば、あとは基本的な調査やらを行なって迷宮に帰れるのだから、俺としてはなんとなくこういうのとは距離をおきたいと思っている。


「はぁ~......。まぁ、ようするにこちらが決めた場所で要求額さえ払えば王女は無傷で返すらしいぜ」


 金目当ての犯行ってことか。先ほど出会った魔物狩りのような奴らか、あの闘賊たちのようなものなのか。

 まぁどうでもいいと思う。


「お三方のことはこちらに着いて早々に見た"魔物狩りどもとのやり取り"で把握しました。実力のほどを」


「......で?そこまで話したからには、俺たちに力を貸して欲しいと?」


「先ほどのお手並みも見事でございました。そして、恥を忍んでお願いしたいと思います」


 そうして頭を下げるバーレンさん。


 しかしバーレンさんはあれを見ていたのか。そして、なんかこの話の流れからすると、救出のためにお力をお貸しください的な流れになっている気がする。気がするじゃない、もうすでになっているな。

 俺はたまらず拒否を口にするべく告げようとしたが、ジャックスが何を差し出す?とどうやら交渉を行なうつもりのようだった。こらこら、わんこ。


 オーリエはバーレンさんの後ろに我関せずで立って、話を聞いている。というか、俺のほうを見て疑問的な顔をしている?

 今朝のこともあるのであまりオーリエのほうに目を向けることができない。 童貞にはそれほど刺激的な光景だったのだからだが、性に疎い彼女には理解が出来ないのだろうと思った。


「よし、ならよ。うまく言ったらその王女と俺たちのことについてナシをつけてくれれば、あとはこちらで交渉するってことでどうだ?」


「王女殿下に話を......ですか?それは一体......?」


「まぁ、そればかりは今ここでってヤツだな。ああ、安心しろ。国にとっては悪いことじゃねぇだろうし」


 その言葉に少し不審な目を向けてきたバーレンさんだったが、やがて分かりましたと頭を下げた。


("こら!何勝手に話しをつけてるんだ!")


 たまらず俺は念話でジャックスに声をかける。


("まぁ心配ねぇだろ。こいつの匂いは危険な匂いじゃねぇし、王女救って顔繋ぎができれば王とも顔がつなげることになる。そうすりゃ、迷宮業もこの国のお墨付きというものを得られるぜ?")


 つまり、国が正式に認めた迷宮という施設だってことだろう。しかし、あそこは未開拓領域だから、あってもなくても別にどっちでもいいんだけどな。後ろ盾ってのはそれほど重要なのだろうかと思った。

 まぁだが、決まってしまったのは仕方ないので、大分納得はいかないがもうすでに夜も結構な時間になってきたしそのまま下へと降りて俺たちは共に食事を取る事になった。


 ジャックスはエウレシア王都産の酒だと振舞われたそれをまるで水のように飲んでご機嫌だったが、俺とオーリエは酒を飲まない人間なのでどうでもいいと適当に出された飲料水を飲んで場に合わせた。そんな中でもオーリエへと目を向けることはなかったけど。


 救出作戦については色々酒の入っている場で打ち合わせた結果明日の夜に該当する場所へ向かい、そのまま意表をつく形で襲撃するという段取りを終えたところで解散となった。

 

 そうして、バーレンさんと別れた後に部屋に着いてジャックスが泥酔状態で先に入って、オーリエが俺たちの部屋へと続けて入ろうとしたが、それを止めてしまう。


「タクト?」


「あ......いや。あのさ、今日はもう護衛は大丈夫だから、明日の朝にまた......あ、そうだ!明日の朝、起こしにきてくれればいいからさ」


 そう言って返事を待たずに、足早に自分の部屋へと帰ってきた。


 俺は扉に寄りかかりながらも何やってるんだろうと体を預けた。

 俺が勝手に朝のことを意識して避けるような態度を取った上でのこの体たらくである。落ち着くためにリュックから麦茶ポットとコップを取り出して、それを飲み干す。


 先に入ったジャックスがやけに大人しいと思ったら、なんともうすでに眠っているようだった。よほど先ほどの酒がうまかったらしいな。

 このおっさんくらい、気楽に生きていければいいなと思いながらも、俺には無理だと俺もベッドに入ろうとする。そして、酒は飲んでないが出された水を飲み、先ほども麦茶を飲んだことでブルっと振るえを覚えた俺は寒い季節の小便の近さにため息をつきつつも、部屋の外に出てトイレへと向かった。


 色々考えながらトイレに着く直前――後頭部に何かの衝撃が走った。


 それまで、全くの無防備だった自分と、オーリエを自分勝手に遠ざけたということがこの結果を生んだかと思ったことと、倒れる時に見えた"バーレンさん"の獰猛な愉悦を含んだ笑みに俺はなすすべもなく意識を手放すことしかできなかったのだった。

次回から視点変更があり、残酷描写が結構ありますのでご注意を。

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