第19層「人族の町で」①
闘賊たちを奴隷化した翌日――
エウレシア最北端に位置する町へと入った。
規模としては、大鬼族に比べれば少し小さい印象があった。
町を四角い石壁で被っていて出入り口も北と南とにそれぞれあるようだった。なんせ、この道だけ馬車が通れるほどの大きな道になっていてあちらにも同じようなデザインの出入り口が見えるのだ。
俺たちは北の門から入り、検問も何もない不安な警備に驚きつつも、それに疑問を持ったがそのまま通り抜ける。
歩きながらも一通り見てみると施設というか、建物はやはり人族の建築という感じで木造ではあったが、どれも屋根がつけられてきちんと作られている印象を受けた。
各々の建物の出入り口の扉は、ウエスタンの酒場のような左右の観音開きの開き方になっていて、俺たちの部屋に着いているタイプとはどうも違うようだった。
そんな建物の間にある大きな道を商売をするために来たらしい人、町を歩く町人らしき人、そして武装している警備兵っぽい人が通っていて、その中を掻き分けながら歩いていくのは俺とジャックスとオーリエの3人だった。
その町の規模よりも人口が多そうな感じで俺は早くも気分が悪くなっていた。
「タクト、だいじョウブ?」
「おいおい、これくらい普通だぜ?本当に大丈夫か?」
「............さ、さすがにこの人数は少々しんどい」
ひきこもり――それも視線を集めるそれはマスコミを連想させるものであることから、その時のトラウマのために結構辛かったが我慢した。なんせ、俺たちはやるべきことがある。
今後の計画としては最初に道具屋、もしくは薬屋へと赴いてお手製のポーションなどで外貨を獲得してその後に宿を取る。それからは順番に武器屋、防具屋、酒場といったところへ赴いて情報を得て今後の迷宮に対して有効そうなことを調査しなくてはならないのだ。
それには、まず第一段階である――
"どこにあるかは分からないが、こういうものが隠されている場所が存在する"
と、いう情報を与えるためにも適している場所を見つけなくてはならない。
第一候補は酒場だが、それはジャックスに頼むつもりである。昨日の夜に酒は好きか?という問いに対して、二の句も上げずに頷く完全犬化した姿に呆れもしたが、それならばと第一段階の情報拡散やら情報収集をまかせることにした。またそのためもあって、こうして印象深い綺麗な外套を羽織った格好をしているのだから。
もちろん第二段階はおそらくここだろう的な情報で、第三段階は迷宮完成後に間違いないと思われる情報を広めるという感じでの拡散方法だ。そのための"準備も選定"も行なっていて、今は迷宮で頑張っているころだろう。
トラウマ克服や慣れる意味でも俺は率先して町人らしき人たちに話しを聞き、薬を買い取ってくれそうなところを探し歩いた。その時に気になったのだが、どの人族も髪型には見たこともあるものも多いが、髪の色が斑になっていて、中には脱色に失敗して茶色が地毛と斑っぽくなっている人族もいた。
俺が見かけた段階で中にはギャルやらギャル男(?)とか形容できる容姿の人も中にはいたくらいだし。ただし、いわゆるそういう化粧をしていないので、とても違和感を感じさせるものだったけど。
前日の闘賊たちもこんな感じだったな、そういえば。
ちなみに肌に関しては白いのや、褐色っぽいの、俺みたいな黄色系などが多かったけど。獣人族やジャックスと同じ獣頭族もいないのが印象深かった。
そうして、人族についても観察しながらも商品を買い取ってくれる場所を住人の一人に聞くことができて、ある1軒の道具屋を教えてもらった。
礼を言って別れて歩いていると外套の中がチラチラ見えて、漆黒の鎧を着た長身で容姿のいいオーリエへと視線を向ける人が多いようだ。
そんな中でもジャックスは周囲に警戒を怠ることなく、それはオーリエも同様だった。
教えられた道具屋の前に立ち、よく見てみると一軒家くらいのサイズの建物があった。開き門の右手には看板がかけられていてそれは金属製でわりと装飾が成されていて目立つ印象を与えるものだった。ここにくるまでに見た建物の中でもわりと大きめだったので、それなりの価格で買い取ってくれそうだと期待する俺は早速と足を進めようとしたが、ジャックスに止められる。
「交渉事ってのは見た目にも影響があるってもんだ。それでな――」
そう言って俺の耳に口を近づけてきたので、食われるのかと思った俺は――
「おっと!......蹴るんじゃねえぞ?」
と、釘を刺されたのでしぶしぶ耳を貸して作戦を聞いた。
どうやら相当レティシア相手に苦闘しているらしい。血のつながりという部分で俺までそんな警戒をされるとは侵害だ。ということで――
「お前ら親子は、何か俺に危害加えないと生きていけねぇのかよ!」
さすがにジャックスが涙目でそう言ってきたので、分かった分かったと納得した。但し、"危害"じゃない、"可愛がり"だ。そこは、間違えないで欲しい。
結局俺が交渉するよりも、実力者という印象を持つジャックスとオーリエが前に出ることで俺が持つ発見したことになっているアイテムにも説得力が出るということなので先頭に立って交渉することがベストだといわれた。
俺の見た目がこの中では貧相な部類なので、外套を脱いで漆黒の鎧verとなったオーリエと、見た目は冒険者風味で実力も備えているように見えないでもないジャックスが前に出ることにして俺の役柄としてはどうやら、奴隷とか丁稚とかそういう下の立場に徹するのが都合がいいらしい。
それにネタとしては先ほどの第一段階に合わせた形で話をもっていくということだった。
頷き合った俺たちは早速、ジャックスを先頭に商会と思われる門を開いて中へと入っていく。
店の中は小綺麗に整えられていて棚には分かりやすく何かの道具やら、粉やら、草やらが並べてある。
外気に触れて多少埃っぽい印象を受けるが、ここはガラスケースとかはないのだろうかと思い、異世界だしまだそこまで進んでいるわけじゃないのかもと理解してジャックスの後方で立ち止まった。
すると、タイミングよく奥から店員――いや、身なりから店主っぽい――人がやってくる。オーリエの漆黒の鎧姿に驚くも平静を保つように先頭でカウンターの前に立つジャックスにいらっしゃいませと声をかける。
ジ
ャックスはそれに返すこともなく、話し出す。
「実はよ、ある場所から見つけてきた......ある薬品を買い取ってもらいたくてな」
「ある場所?薬品......でございますか?」
「ああ」
そうしてこちらに手を出してきたので、俺はリュックから目薬の入れ物を参考にして小人族の協力で作り上げた木製のコルク栓付で20mlサイズの緑のポーションを取り出して渡した。
作業中の怪我などを少量ずつ試した結果この程度でも、それなりの効果を上げていたのでこのサイズにしている。ちなみに倉庫には、1.5Lペットボトルサイズの新ポーションが山のようにあるのは別の話。
受け取ったジャックスは、カウンターにそれを置いて店主に指で指して確認してくれと促した。
店主は懐疑的ながらも言われたとおりに、木製のコルク栓を開けては臭いをかいだり、入れ物を近くから遠くからと調べたり、味以外を一通り確認した。
「確認させていただきました。それで......こちらは一体どういう効果が?」
という言葉でジャックスは再び俺に目を向けてくるので、頷いて右腕にジャックスの持っていた短剣を渡してもらい軽く5cmほどの傷をつけた。少し青い顔になる店主はほっておき、俺はそのポーションを傷口に振り掛ける。
すると最初の頃のポーションと同じ具合に傷が癒えていった。
驚愕する店主をよそにジャックスは再び口を開く。
「これを見つけたのはたまたまだ。おそらく、魔素消失以前............それもかなり昔の遺産とかいうやつだろうな。まだ魔素が存在していた頃なのかどうかはわからねぇが」
「お、お、お客様......こ、こちらはどちら――」
「それをお前に話すと思うか?金が回ってねぇこのご時勢によ?」
「あ......、し、失礼しました」
ジャックスは儲けの元を話すバカじゃないと断言しているようだった。
まぁちょっと考えれば分かるけど、中には分からないやつもいるのかもな。
「それでその場所については教えることはできないが、結構魔物がいる場所でな。まぁ、教えても腕が俺くらい立つヤツじゃなきゃ無理な場所なんだが......俺も偶然たどり着いた場所で今度はいつ行けるかわからねぇ。まぁだが、さっきも言ったようにこのご時勢だ。金がいるからよ、手に入れたこの傷薬を特別にお前さんの店に卸そうと思ってるんだ。で、これはあと10本ある。......いくら出す?」
その言葉に店主はゴクリと喉を鳴らす。
魔法の使えない現在、こういう直接的に目で確認できるくらいの効果を持つ薬は貴重だし、傷が癒えた時の店主の反応から期待できそうだ。
相場とかは未だ不明ではあるが、ここで無理をして買い取ってもいくらでも儲けを出すことはできることは明白だろう。
そして、ジャックスとオーリエの存在感はその薬を採って来たことという"説得力"も増すみたいだ。少なくとも店主はそんな目で2人を見ていた。
「そ、そうですね......他の、その薬の効果も確認しなければいけませんが、これが10本もとなれば......私でしたら、銀貨430枚で買い取らせていただきたいと考えております」
430枚か、それがどれだけの価値があるのか分からない。
俺は前々から薄々とだが、できる気がしたのであることを試すことにした。
ジャックスの背中側にいる俺は、指をジャックスに押し当てると念じるようにジャックスに話しかけた。
("ジャックス聞こえるか?")
ビクッとなった後にこちらに振り向きそうになったので、慌てて俺はそのまま聞いていろと言った。
聞こえていると判断した俺は、心の中で念じるようにしてみろと教えるとジャックスは返してきた。
("......不意打ちはさすがに驚くぜ。今のこれって、まさかそういう力ってことか?")
("そういうことだ")
ジャックスは今、生命契約で隷属状態だ。現状は隷属といっても、《義兄弟級》なので対等な関係ではあるんだけど。
大鬼族のときになんとなく、ジャックスの位置が分かる気がしていてずっとモヤモヤしていたが、そういう効果もあるんじゃないかなと試してみて実証された感じがする。
それに応用もできるかもしれないけど......まぁ、これはまた後で試せばいいか。今は交渉中だし。
早速俺は、教えて欲しいことを店主に聞くように指示をする。
「......ああ、そうだ。俺は見ての通り西の大陸から来たし、こっちの相場がわからねぇんだ。こいつらも同大陸の護衛と奴隷なんでわからねぇ。この際、それを教えてくれねぇか?ああ、お前の商売外に関することだけでいいぜ」
「さ、左様でございますか」
そんなわけで相場を聞いてみると、この町やこの国に関しては銅貨1枚くらいで果物などが買えて、酒場で酒を飲むと銅貨3枚辺りになり、銀貨1枚で個室のある宿に泊まれるそうだ。現在、武器や防具はだいたいが銀貨20~30枚ほどで、高級なものになると、金貨2枚くらいにもなるそうだ。
金貨は一般には出回っていないものなので、出回っている銀貨換算でいえば200枚ってことか。つまりは、ポーション10本に対しては金貨2枚の高級武具の2倍ほどとなる買取額を提示したということになる。
俺的には充分なものだったので、念話でもういいだろ?と言ったのだが、ジャックスはどうやらまだいけるとでも思っているらしく、最終的に銀貨530枚といったが、さっきの相場の情報料だとかいって500枚に落として成立させた。
("さすが盗賊、やることがえげつないな")
("盗賊じゃねぇ!ま、そうでもしなけりゃ帝国じゃ、生きて生けなかったんでな")
そんな念話のやり取りをしながらも、しっかり店主ともやり取りをしているジャックスの器用さに、呆れるやら何やらだが話がまとまったらしい。ジャックスの指示通りに旧式のポーション10本を出すと、順番に同様の効果があるかを少量垂らして確認していった。確認が取れて本物だと分かった店主が一言、金の準備のためにと、店の中へと戻っていった。
上げて落とす交渉術は何かでいいと言っていたが、なるほどなと思った。
店主にとって予想外に高い買い物になったのか、憔悴している姿を見ていると可哀想に思うが、まぁ、頑張ってくれとしか言いようがない。
待つ間あれだったので、改めて品を見てみることにする。
小人族が作った物よりも出来の悪い木製の小瓶のようなものが入れられている物、あの森や畑部屋で植えられている中では見たことのない草が束ねられている物、手芸品だろうか誰かが彫って作った木彫りの物まである。と、視線があるもので止まった。
それは、妹が入院中にゲームを一緒にやっていた時ふと、せめて女の子らしい趣味でもと思って編み物はどうだろうとプレゼントとして買いにいった時に進められた鈎針という、先端の片側が鉤形に曲がった針と同じものだった。
そういえば結局あれは渡しすことができなかったな。今はずっと、机の引き出しに入れたままだったと思い出したので帰ったら、服飾担当のチャイムに編み方の冊子とともに渡してあげようと思った。
小瓶は薬品だろうか?気になった俺は戻ってきた店主にそれとなく聞いてみるようにジャックスに頼んだ。
店の奥から5つの大袋と1つの小袋をトレーのようなものに乗せて戻ってきた店主にそれとなくジャックスが聞くと小瓶は飲み薬らしく、胃腸薬とかの内服薬ということだった。他にも、消毒などに使われる草のエキスを絞ったものなどもあった。
その横にまとめられている束の草は、それら胃腸、消毒に効果があるものが無造作にまとめて売られているそうだ。管理が杜撰すぎるなとも思ったがまぁ薬屋でもないのだから、仕方ないか。
また睡眠に効果のある草などや魔物の糸、胃袋、牙といった素材まで売られていて、それらは魔物狩りの乱獲などにより数を減らしている現状で値段が高騰しているという。
それならばと魔物が現れる場所なども知りたいところなので、ついでに聞こうとしたが、自分は仕入れ以外にはかかわってないので分からないということだった。分かるとすれば、酒場という情報に感謝して俺たちは店を出た。
魔物狩りたちのいわゆる依頼場ってのもあるだろうし、やっぱし予想通りでもあったな。
ちなみにこれは外で待機をしているアベさんに狩って来て貰うためである。
素材に関する情報を仕入れた段階で、俺たちの中での魔物狩りのエキスパートでもあるアベさんに頼むことは自然なことだった。
やり取りに関しても、そこらへんを飛んでいる鳥やら、小さいネズミやらを生命契約で使えば、アベさんの待機場所まで伝言しに向かってくれるだろう。
しかし、ジャックスは結構こういう聞き出すことに慣れているようだな。今後のためにもそこらへんも教えて欲しいものだと感じつつ、結構な重量の金の入った袋を収めたウエストポーチをポンポンと叩いて確認する。異次元式なので、無論重量はゼロに等しいものだった。
店を出た俺たちは、次に宿を探すことにした。
ジャックスは久々の酒だぜと喜んでいる。
魔物の情報もついでに仕入れてもらうので、先ほどの交渉で店主が泣きそうなほどのお金を手に入れてくれたこともあって、報酬で彼の好きなだけ飲んでもらうつもりだ。
まぁだけど、その前に宿だ。
先ほどの道具屋店主に店を出るときに聞いたところへと足を進めながら、今後の行き先を考える。
まず、武器屋防具屋で一通り購入するとして、野菜、果物の種なども手に入れたい。ポーションは売れると分かったけど売ったのは、全て旧式のやつであり、現状で売りに出すのはそれしかないので、在庫はポーチに入っている新ポーションしかない。これは自分たち用に各々5本ずつ持っている。
まぁ、魔物の毛皮やら、バイソンシープの羊毛も一応持って来たけど、金が足りなければ防具屋などで売れるだろう。ここでは一応、リサーチもしなければならないので3日程滞在する予定である。
その間に仕入れられる情報は仕入れておきたい。
そんなことを考えていると、宿が見えてきた。
2階建ての木造の建物で結構いい宿の印象だった。
1人部屋と2人部屋が空いていればいいんだが。
中に入ると酒場のようになっており何人かの人族がテーブルについて何やら話している。すっとこちらを見て、次にオーリエのほうに向いて驚いているもののもうすでに慣れた視線であるため、2人に先を促して宿を取ってもらう。
幸いにも、俺が望む部屋は取れたのだがなぜわざわざ分ける必要がある?という疑問が2人から出てきたので――
「一応、中と外側での見張りに必要そうだろう?」
と、とってつけたようなことを言っているが結局はオーリエと同じ部屋で寝ることができないからである。17歳の男の子には刺激が強すぎるのは当然なので、この日のために俺は言い訳を考えておいたのだ。まぁ、ジャックスにはバレている様子だったが、察しろと一言言ってお金をジャックスに預ける。
3日分先払いで銀貨27枚だったが、25枚にジャックスがまけさせた。
残りの銀貨2枚分で酒を飲みたいらしい。まぁそれくらいいいだろう。
食事は朝と夜に出るらしく、風呂というのはないようで大きい桶とお湯を渡されてそれで体を拭くようだった。というか、それがこちらでの一般的なもののようだ。
一通り説明を聞いて鍵を受け取り部屋に入ると、中は割りとしっかり区分けされていて、机、1人用のベッドが2つに、4人がかけられるイスの中央にテーブルといったものだった。
木製の割とマシなベッドがあるが、布団についてはそこまで良くは感じられない。ペタンとしているが、念のため自分のベッドで使っている布団を持って来たので、まぁそこはいいだろう。そこまで考えて俺は気づいた。
そういえば、長身のオーリエにこのベッドは合わないけど、どうするつもりだと聞くと、自分用の布団と敷布団は持ってきたのでそれを地面に敷くそうだ。
俺は床に寝るのが心苦しくなるも木材などもなくどうしようもないので、言葉を飲んで荷物を降ろして、早速ベッドに座っているとジャックスがいいか?とかいう感じで見てきた。
「酒飲みも結構だが、情報収集も忘れるなよ」
「まかせろ!」
情報収集をしてくるのはいいが、飲まれすぎないようにと釘を刺した後、酒場へと急ぎ足で去っていくジャックスに一瞥してから立ち上がる。
「さて、オーリエ。俺たちも早速市場やらこの町の様子やらで調査を始めるか。もう普段着でいいぞ」
「うン」
そう言うと、オーリエは漆黒モードからチャイナドレスモードへと変更した。
旅人っぽく外套を羽織って俺たちは早速外へと向かっていくのだった。
少々長くなりましたが、一応、5000~6000文字/1話を目安で書いていく予定ですが、しばらくこれくらいの文章量だったり、満たない場合もあります。あらかじめ、ご了承ください。




