第18層「初めての”外”へ」②
ちょい残酷描写があります。
旅を始めて、これまで順当に進んだ上でようやく町へと辿り着く前というタイミングで、突如現れた一団に遮られる形で目の前に姿を表した。
周囲に人の姿はなく、彼らが見ているのも完全に俺らであるのは明白であった。
「あんたの知り合いってわけでも......ないよな」
「............中央にいるやつは、"一応"知り合いだぜ。しかしなんでヤツがここにいるんだ?」
という呟きが聞こえたがその中央にいるヤツがこちらへ一歩踏み出してきた。
思い思いに武装していて粗末な防具ではなく、本格的にこれから戦争にでも行こうぜと言えるほどの防具を身につけて、中にはその最中に失ったのだろうか片腕のやつもいた。
そんな中で唯一、中央にいるやつは顔を横断するかのような大きな傷を持っていて特徴的だった。
ざっくばらんに切り揃えた斑の短髪と大きな傷のある顔のその目は獰猛で獲物を見つけた時のような優越感のようなものも見られた。それはジャックスを見ても同様である。
「よう、"影狼"。あの時の戦ぶりくらいか?」
「............さあて、どの戦なのか覚えがねぇけどな」
そんなやり取りの中でも周りに控えている奴らは俺たちを取り巻くように囲んでくる。まぁ完全にそういうつもりだろうなと思いながらも、俺は影狼と呼ばれるジャックスに目を向けた。
そして言い放つ。
「"影狼"ってあんた......ぷっ」
「ダサいとかいいたいんだろうが今、それどころじゃねぇだろ!」
といういつものやり取りをして、大きな傷の男のほうに目を向けると何やら舐められていると感じたのか血管が浮き出ており顔が真っ赤になっている。
無論舐めているというか俺は、冷静にこの場を切り抜けるためにという考えなのだが。
さっきのやり取りでどこかに隙が出来たかと探っていたが、どうやら相手はあの大鬼族のようなバカではないようだ。
「それで、昔馴染みらしいけど俺たちに何か用か?こんな風に囲むなんてまるでこれから襲うみたいじゃないか」
と言う発言に、見下した目を向けて相手は言い放った。
「その通りだ。依頼のために来たわけだが実入りが少なくてなぁ。まぁ、"影狼"がいたことは予想外だったが、まぁこの人数ならいくらてめぇでもどうにもならんだろう?」
「まぁな」
そんなことを言いながら懐から火属性の短剣を取り出して構えながら、どうする?という目を向ける。
俺はそれに手で制して、オーリエのほうに目を向けて、頷く。
初お披露目となる"それ"によって隙を作れることに期待して。
「"ドレスアップ"重騎士」
そう呟いたオーリエがつけていた指輪が一瞬の光を放った後、黒いもやがオーリエを包んだ後に表れた姿はあの時に作った漆黒の鎧と遮光カーテン製の赤く着色されたマント、大きな盾、そして幅が15cmで長さが2mもある長大な剣を持った姿となった。
おそらくここが迷宮内で迷宮ルールが適用されていて、指輪を見た時はこう表示されるだろう。
【アイテム情報】
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アイテム名 :変衣の指輪(時価)
効果 :装備の変衣能力(7/10)
アイテム説明:装着者が発動と形態キーを唱えると、
その衣装に変わる指輪。
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森の中を調査していた時に、小人族がたまたま見つけたとても古い指輪をくれたので考えを巡らして錬金術式練成で変衣機能をつけて作った魔指輪である。最大10回という回数限界はあるが、俺が魔力を込めなおせば再度使用できるし、着替えに時間が掛からなくなるという利点がある。
コスチュームは主に普段のチャイナドレス、作業時のタンクトップにホットパンツ、戦闘用に現在の漆黒の鎧、癒し用にナース服と計4着が登録されていて、夏までには黒ビキニも用意したいところである。
さて、そんな変衣をするというある意味魔法を使ったとも言えるその変化に、彼らは驚愕して隙が生まれたのを確認した俺はオーリエに言い放った。
「オーリエ、盾を構えてあちらへ向けて全速力だ!アベさんやジャックスも後に続け!」
「うン」
「なかなかナイス判断だぜ!」
「ガウ!」
そうして俺たちは呆然としている闘賊たちの囲みの中で"層"が薄い一点へと一気に走っていき、オーリエの高身長と、5Gで鍛えた脚力、そして重装備による突進はまさにダンプカーとかのような車が突っ込んでいく感じだった。そこにいた2,3人はあわてて耐えようと構えるが、まるで車に跳ねられて人形のように吹っ飛んでいき、後についていった俺たちはこれを抜けて包囲を突破した。
そして闘賊たちもそれに反応する形で武器を振り上げて襲ってくるが最後尾にいたアベさんやジャックスが爪や短剣で牽制して、一定の距離を取ることに成功した。
戦いに関しては素人でも、ジャックスに教わった隙をつくという点で貢献できたことに俺はほっとした。
抜けられたことに悔しそうにしながらも逃すまいと囲うような陣形でこちらへ攻撃をしかけてきた奴らに対応するアベさんとジャックスに俺は声をかけた。
「アベさん!ジャックス!10人ほど生かしておいてくれ!」
その言葉にそれぞれ了解と爪と短剣を挙げた。
俺は、側で盾を持ちながら俺を守ってくれているオーリエを横目に呟く。
「闘賊って連中はおそらく、傭兵とか魔物狩りというのを生業にしている連中が徒党を組んでいる連中だろうな。オーリエ、参考にするつもりで見てるんだ」
「わかったヨ」
そうして俺もアベさんの戦いやジャックスの戦いを見つめる。
彼らもそれで生計を立てている様子を感じられるほどの戦闘を見せた。
アベさんに対しては実力があると認めているのだろう、5,6人で囲っていてコンビネーションによってアベさんの攻撃をうまくいなしていた。しかし、相手が悪いようだった。アベさんはそんな中でも一撃も食らうことはなくて、なおも、爪と体躯を活かした攻撃を行なって数へ減らしている。
腹を爪によって裂けられて飛び散る血や内臓の類が宙に舞うと見ている俺は、その生々しい戦闘を行なっている現実に胃の中のものがこみ上げてくる。
「タクト、大丈夫?」
「あ、ああ。吐きそうだけど、なんとか堪えているよ」
彼女は平気そうなそれに俺だけ音を上げるわけにはいかない。
それに少なくともこれからは迷宮内でもこういう場は嫌でも目にするのだろうから。
気遣わしげなオーリエの視線を受けながらも、視線をジャックスのほうに移すと目ではとても追いきれないほどの速度で動き、死角となる場所から放たれる一撃は火を放つ包丁型の短剣から繰り出されるそれも合わさってあっという間に切り口から火が傷口から焼く勢いで闘賊たちが燃えていった。
鼻につく嫌な臭いにアベさんのほうを見てえずいていたものが再度波のように押し寄せてくるが、懸命に堪える。
そんな光景の中俺は初めてとも言える修羅場に胸がどきどきと鼓動を叩いていたが、彼らの戦いぶりを見て安心していた。戦いに慣れた連中だったのだろうがここへ来るまで傷を増やすようなこともピンチという状況でもないことに。
そんな俺たちのほうへ大きな傷を持った男が駆け寄ってくるのが見えた。
その顔は怒りと恐怖が綯交ぜという感じだった。
「てめぇら、一体何者だ!?ふざけやがって!」
そうして放たれる長剣を振り下ろして攻撃してくるものをオーリエは盾で受け止めた。
「ふざけてる?最初に牙を向いてきたやつが何言ってるんだ?」
俺の返しにますます冷静さを失った様子の傷の男は、自分の剣撃で一歩も下がらないオーリエに驚きつつも強引に俺のほうへと向かって、剣を振り下ろした。 冷静を失くした中でも俺が司令塔であると判断できたのであっただろう。
だがしかし、それは俺にとっても同様だった。
「オーリエ、そのままヤツを押さえ込め!」
そういうと、オーリエは盾を捨てて片手で振り下ろされる剣を持つ手を掴みそのまま捻って相手に体落としを仕掛けて地面に転がした。剣が手元から離れて、動けない相手に俺は手を触れて発動させる。
「生命契約"レベル1"!」
すると、男の体が初めて会った頃のジャックスのように赤い光を放ちそれが俺へと吸い込まれた。
「"催眠状態に入り、そのまま動くな"」
生命契約レベル1は完全服従状態になる。
つまり一切拒否ができなくなる上に、こうして命令をすれば彼は俺の言う通りに人形へと変化させることができる。これはまぁ、バーゲージ相手に試めさせてもらって気付いたことだった。そしてその検証結果の如く、意識を失うようにすっと目から光を消してそのまま動かなくなった。
これでこいつは俺の言うがままとなる人形と化した。
命令を愚直に従う様はまさしく首輪のない"奴隷級"という感じだろう。
そうして俺は傷の男に命令をして、残り十数人となった仲間たちに降伏するように仕向けた。
頭となる男の命令により生き残った闘賊たちは剣を捨てていく。というか、アベさんたちの戦いぶりにもう戦意がほとんどなかったのかもしれないほどのあっけなさだった。
そうして動くなということを命令した上で、順番に生命契約をかけていく。
一通り終わるとそこには光を通さないかのような目をした一団がボーっとたっている図となった。
「......それで、こいつらって傭兵たちだよな?」
戦後の処理を終えた俺は早速、ジャックスに聞いてみる。
「ま、分かるだろうな。そうだ。こいつらは、盗賊に身を落とした傭兵の馴れの果てといった奴らだぜ」
魔素が消えてなくなったことで、魔物が減り、治安が乱れ国同士が争い合うと台頭していくのがこういった傭兵たちである。それらは戦がなければ食い扶持はなくなり、それはやがて盗賊のように村や集落をまるで軍のように組織しながら襲っては略奪、強姦、殺人といったことを行なうものたちとなったそれが闘賊という存在らしい。
彼らは誰も彼もがそういう戦闘――それも集団戦に慣れたものたちだったために下手な軍でも制圧が難しいというような存在ということらしかった。基本的に魔法に頼った戦い方が身についた者たちでは手も足も出ないために被害が後を絶たなかったそうだ。賞金もかけているようだが、今のところはそういうのも効果をあげていないとのことだった。
「そっか。じゃあ、犯罪者としてこれからは俺たちの役に立ってもらおうかな」
普通であれば悪即断みたいにするべきであるだろうけど、俺としてはこれからのことを考えれば逆に利用するという判断をした。先ほどの戦闘から見ても充分、吹聴役にも向いているだろうし。
俺は手持ちの中から魔武器の何点かを、闘賊の頭である傷の男に渡してこう命令した。
「ひとまずここらへんの周囲にいるお前たちと同じ奴らを狩っていけ。略奪とかはもちろん禁止だ。食料なんかは狩りなどで賄えばいい。いいか?」
俺の言葉にぼーっとした闘賊の頭は分かりましたと呟くように了解した。
「んじゃ、"催眠を解け"!」
そういうと、はっとした顔をした後に先ほどとは違う表情となった彼らは思い思いに頭を下げて、先ほどまで敵対にあったという雰囲気も感じさせないように愚直に行動へ移るためにこの場を去っていった。
それを見ながらジャックスはため息をつきながら俺の側まで来て問いかけた。
「あれで大丈夫なのか?」
「距離のことで多少不安はあるが、まぁ......偵察も兼ねているからな。今後は奴らのようなものを増やせば共食いして勝手に数を減らすと思うよ」
「ある意味、ひでぇ扱いだな」
「それだけひどいことをしたってことだよ。今後彼らは死ぬまで俺に使われることになるだろうな。人権のあったあっちじゃあ考えられないことだよ」
人権?なんだそりゃ?という疑問に答えずに俺は、チャイナドレスへと変化したオーリエとアベさんと合流した後に死体から装備品などを回収していき今後の錬金術式練成での素材として使わせてもらうことにして死体を埋める処理作業で俺の防波堤は決壊しつつも、なんとかこなしてその場を去り、30分ほど場所を空けたところで野営に移った。
そこで傷の男から攻撃を受けたオーリエの盾を見てみると、見事に大きくへこんでいた。それほどの攻撃力なのだろうかと思ったが、俺は盾に使われた素材に問題があるだろうと思った。
やっぱり町で一度鍛冶については知るべきだなと思ったところ、ジャックスが疑問的な感じで問いかけてくる。
「それにしても、奴らなんでこんなところにいたんだろうな?俺と会ったことがあるってんなら、どう考えても生息域は帝国側だろうに」
「さあな。............あーそういえば、そうだな。聞いてから解放すればよかった」
もうすでに姿の見えなくなった闘賊団たちを思って後悔したとため息をつきながらも、いよいよ町だと考え直してその日の夜は更けていくのだった。




