第17層「初めての”外”へ」①
「それじゃ行ってくる。レティ、迷宮のこと頼んだぞ」
「まかせてー!あ、ジャックスのおじさん!」
「な、なんだ?」
「パパのこと守りきれなかったら............」
「き、きれなかったら?」
「えっと~......お腹掻っ捌いて石詰めて井戸に埋めちゃうからね!」
「描写ってよりも寧ろ、何か因縁めいててこえぇよ!」
そんな誰に似たのか分からないレティシアからの見送りを受けて俺たちは、南へと旅立った。それにしても、狼に石を詰めるのってたしかに因縁だよな。ここに猟師がいないのは幸いだろう。
季節は2月――牛月に入り、未だ深々と降る雪は5cmほど積もっては溶けて降ってを繰り返すようになっている。この辺の季節はバランスよく感じるな。都心に住んでいた時は雪が今くらいでも結構混乱していたけど、都心から離れた郊外辺りはこういう風情を楽しめるのかもしれない。どことは思わないが。
迷宮の外へ出るのは初めて、野営も初めての俺、オーリエ、アベさんはジャックス先生からありがたい講義を聞きながらも坂を上るように森の中を進んでいった。寒い季節ではあるが、チャイムの作ってくれたバイソンシープ羊毛製の外套に火魔石と組み合わせて錬金術式練成にて作った質感と温暖効果というこの季節にはありがたい外套のおかげで常にぬくぬくであるので快適だった。
見た目で言えば、茶色の遮光カーテンの生地で作っているのでまるでそれを羽織ったような感じではあるが、中には羊毛が縫い付けてあるので温暖効果がなくても寒くはないだろうと、それ自体は野営などで寝る時などに有用だろうとつけたのだ。なので、動いている時は効いているか効いてないかくらいの実感しかないので、休憩中にも確認したほうがいいだろう。
中に着る服は俺は、コンビニなどへ行く時用のジャージ、アベさんは自前の銀毛、オーリエは現在の"ドレスモード"は赤のチャイナドレス、ジャックスは自前の薄紫の毛皮に皮で作ったジャケットを着ている。
そして俺はリュックとウエストポーチで、アベさん以外は俺が作った肩掛け用のカバンとウエストポーチを装備している。もちろん全て異次元収納付きだ。
何やら町に入ったら今の状態の外套は"結構な高級品に映る"ようなので脱いだほうがいいと言われたが、別にずっと滞在するわけでもないし、狙いもあるので目立ってもいいと思う。
というか、迷宮産のアイテムだという吹聴もしやすくなる。
まだ完成も70%くらいだから、場所は明かさないように誘導しなければだけど。
そんなことを考えていると、どうやら迷宮の森の外へ出たようだ。
そこで俺はジャックスに聞いてみる。
「森を抜けたな。ここから3日か4日くらい南へ行けば、町があるんだよな」
「俺が見た地図ってのは2年前のやつだ。だから、もしかして潰れていたりもするぜ。まぁ、ここは帝国なんて目じゃないくらい平和だから人口流入とか盗賊の略奪の煽りで廃村の1つや2つ以外で潰れたりなんてないかもしれないけどな」
「そっか」
盗賊か。俺のイメージではゴロツキたちが徒党を組んで暴れるイメージなんだけど、やっぱり現れるんだろうか?忠告通りにこの外套に目をつけるか、またはオーリエに目をつけるかで。
「盗賊ってのは多いのか?」
「いや、多分ここらへんじゃいねぇと思うぜ?帝国やら他のところならまだしも、エウレシアって国は本当にほのぼのとしている平和な国だってそこからの出身者から聞いたことあるしな」
「それなら、まぁ安心かな」
よくあるパターンで襲撃されて撃退なんてのがあるけどないならないに越したことはない。そんなことを話していると何やらオーリエが袖を引いてきた。どうしたのか聞いてみると前のほうに指を向けて――
「道があるヨ?」
と言って来た。
言われた方向へ目を向けると、200m先に確かに人が踏み固めてできたような大きな街道っぽいのが見える。
車輪っぽい跡もあるので馬車も頻繁に行き来しているのだろう。
丁度、西から東というラインになっているのでおそらくは西が大きな橋があるという帝国との国境のはずだ。
「あれ......ってことは東に伸びるルートはどこへ向かっているんだ?」
「東......東の大陸へ行くための港町とかでもありそうだな」
そういえばここは中央大陸だったな。
「まぁ、それも今後の調査で段々分かっていくだろうし。今は南の町だ」
そう言って、ジャックスが先頭、オーリエが俺のすぐ前に、アベさんが最後尾という形で歩みを進めた。
体力トレーニングのおかげか、携帯の時計を見てだいたい6時間は歩いているのにまだまだ余裕を持って歩けるのは助かった。アベさんやジャックスはともかくオーリエもこの3ヵ月頑張ったおかげで常に周囲を見ながらきちんとジャックスの教えを実践している様子を見ると満足だった。まぁ、抜群のスタイルと相まっているだろうドレスが見えないのは、残念ではあるが。本当に。
そんな感じで南のほうへと歩いていくと、やがて誰かが野営した跡らしきところを発見した。日も丁度よく降りかかっているため今日はそこで泊まることにした。
思い思いにジャックス流の準備をする中、俺は仕込んでいたある実験をやってみるためにカバンの底を見てみる。
しかし結果から言えば失敗だったようだ。
「迷宮と距離を開けると、ゲートの扉は消えるんだな」
出発前にゲート機能で実験用のカバン底に扉を開けておいたのだが、底は出発前には鍵を使って小さい扉があったのだが今は普通の皮という感じで可視化されている扉はどこにもなかった。
この実験はいわゆるゲート機能の距離制限を測るものである。もしできるのなら、亜空間経由でやり取りできないかと考えていたのだ。それならばと、俺は改めて鍵を差してみる。
しかし鍵を押しつけてもいつものようなドアノブへと変化することはなかった。
「んー、てことは迷宮周辺じゃないと効果がないってことになるな......」
これは帰って迷宮との制限距離などを測っておいたほうがいいかもしれない。
今後こういう風に迷宮と離れることがあった時に、俺の最大の武器となる迷宮の力が振るえないとダメだろうし。
それからも迷宮と距離がある今しか出来ない実験を行なっていった。
結果から言ってみれば、錬金術式練成は問題なく使えて、人材精霊の珠も出てきた。しかし、再生のオーブは出てこなかった。
ちなみに人材精霊は検証の結果として攻撃性のある命令はできない。
とことん"生産支援系"だな、俺は。
そんなことを考えてため息をつくと、俺は野営準備中の彼らを手伝うために立ち上がった。
そうして作り溜めしておいた食事を取り、夜も更けたところで交代で見張りにつくことにする。
一応街道っぽい踏み固めた場所の外れにあった木の陰で野営をしているが、何があってもいいようにと常に誰か2人は起きているようにするようである。そこらへんは俺はズブの素人なのでジャックスにまかせることにした。
念のため、俺も願い出たのだが彼ら曰く――
"ズブの素人は寝てたほうが守る時に邪魔にならない"
という、ある意味ありがたい指摘によって1人寝床で丸くなって寝ることにした。
分は弁えるのは大事だってこととは別に、なんとなく男として情けないような感じだなと思ったのは仕方がないだろう。
次の日、その次の日とも順調に南へ南へと歩みを進めた。
普通の乗り物による旅はおろか、徒歩での旅も初体験な俺とオーリエはさすがに疲労が溜まっていたが、それも3日目に入ると逆にテンションが高くなってきた。基本的に雪道だったのだが、ここらへんはあまり降っているわけじゃないようで積もっても1,2cmくらいしかない。
あの森からかなり南に歩いた現在は、ちらほらと俺たちと同じような旅人スタイルの人や荷馬車に乗った行商の人ともすれ違うようになっていた。中には粗末な服に鎖を繋げて乗せられたいわゆる奴隷馬車に乗せられた一行も見つけてチラっと中を見た限りでは老若男女はあるが若い男性、女性が多くてああいうのが帝国だと当たり前な感じなのかなと思った。
御者を務めるものはオーリエの背の高さに驚き、アベさんに驚きというのもあったが基本触れず触らずのようで何事もなく歩みを進めることができた。
オーリエのスタイルは外套で覆われていて目立たなかった。
彼らの格好が長年使い続けたような外套の中がちらほらと見えたのだが、全身を布で覆い腰の部分はベルトのようで止めている格好だった。俺たちのように上下に分かれているものではないのでおそらく寒い季節用の物だと思うけど、長年使い込まれたかのようなその格好に対してまるでボンボンとでもいうかのような綺麗な状態の外套で俺たちが町に入り、外套を脱いだら目立つだろうなという印象を受けた。
ジャックスに聞いてみると、上下に分かれた服を来ているものは大抵が傭兵か魔物殺し、ジャックスのような流れの用心棒兼護衛といった危険なことを行なう連中が取る服装のようだ。また裕福なやつは見た目で分かるほどゴテゴテしたものを着ているそうだし、商人も上等そうな服を着ているのでわかりやすいそうだった。
町民とか一般的な人は男女の別はなく、スカートのようにすっぽりと全身を覆う格好が一般的だということだった。奴隷は男性は腰巻、女性は水着のように胸元と下半身を覆うボロを着るくらいだという。
俺はメモ帳を取り出して色々メモを取りながら整理する。
つまりは上下に分かれた装備品が彼らにとってのエサになりうるだろうと。
あとはデザインとかだが、これは町で調査すれば大体分かるだろうとまたメモ帳を仕舞った。
そして歩き続けていよいよ野営でもと考えていた時にアベさん、ジャックス、オーリエが俺を庇うような体勢となった。少しびっくりしながらも俺は聞いてみた。
「どうした?もしかして盗賊の類か?」
「いや、そんな生ぬるい相手じゃねぇ。ヤツラは闘賊だ」
そうしてジャックスが目を向けた先に武装した一団が踏み固めた道の外れからこちらへと走ってくるのが見えた。
闘賊という言葉に怪訝になりながらも、異世界で初めてまみえる人族の集団を見定めることにした。




