第16層「旅に向けての準備」
「それじゃ、会議の結果――野草の採取担当はそのまま魔獣を使っての地形探査ということでこの森全域の調査に移行。あ、洞穴とか見つけたら渡している白地図のマーキングをお願いするよ」
「わかったわ」
「そして、畑担当は、野草の採取担当が採ってきた物を畑部屋に植え替えをしてこのまま花系、野菜系、草系と畑を分けて栽培続行。俺があげた栄養剤の効果も検証よろしく」
「了解したね」
「あとは工作担当は、俺が指定する寸法の浴槽を作成。部品やらそういうのは後で俺の部屋に来て説明するからよろしくな」
「まかせるだい」
「最後に、迷宮開拓担当もそのままでレティシアが訓練の合間に調整能力によって、多少誤差とかズレが出ても調整はレティがしてくれるから安心してくれ」
「オイラにまかせてくれ!」
と、"一ヵ月定例小人族会議"で決まったことを俺は並べ立てた。
「それで、迷宮主はどうするんだ?」
「俺は、2ヵ月後の旅支度と旅のためのトレーニングの続きだ。......アベさんが言うには俺もまだまだ全然体力があれらしいからな」
げっそりとしながら俺はここ最近のことを思い出す。
あれから1ヶ月が経った。
俺は、人族の町へと向かうために現在は体力作りをしている。
しかし凡庸な体格と体力しかない俺は迷宮魔法の重力を用いて必死でトレーニングをしている。
そう、修行――それに必要なのは、やはり"重さ"と"修行場"は必須だろう。
参考にしたマンガにもあったし現実の日本でもリストバンドの重りが入っているものもあるので、有効だと判断した。
岩などの重い物でそういうリストバンドっぽい魔道具化してもいいのだが、それよりも部屋に入って希望のGを念じると、すぐに作動する重力部屋のほうが効率的だと早速作業室の隣に作ったのだ。
重力調整に関しては、レティーナ様のプラス、マイナスというものと浮遊、重力で関連付けてなんとかなった。
そんな修行は、最初の頃の2Gはだいぶしんどかった。
そんな中、ジャックスは3G、アベさんとオーリエは5Gなどと個々に自重を調整できることに感激した様子だった3人は3ヵ月後に町へ行くということが決まってよりだいぶやる気になっている。
アベさんの場合は面白がってというかそんな感じに見えるのだけど。
火、水、土、光、闇の人材精霊によって畑部屋内の環境調整によるものと、試験的に全ての人材精霊と組み込んで錬金術式練成で作り出した"栄養剤"で、普通よりも早めに成長する薬草が比較的安易に収穫できるようになった。
それにより、疲労回復効果のある赤のポーションと、50階層まで迷宮空間化したことによる魔力向上などのおかげで、ここ1ヵ月の間、疲れてはポーション飲んで、疲れてはポーション飲んで、寝る前に錬金術式練成でポーションを作っての生活を行なっていた。
また、休息日にはオーリエやジャックス用の防具、また異次元バックを採取用、畑用、工作用とそれぞれ大きさを分けて、牛や豚の魔物製の皮で作ったりと割と充実した日々を送っている。
先ほどまで行なわれていた会議での報告でも、迷宮開拓担当のチャビンが17階層まで終わったと言っていたので、そちらも順調である。それというのも日を追う毎にレティシアの力の使い方がどんどん進歩していったからに他ならない。
今ならば、雑に作っても手直しくらいはジャックスたちとの訓練中でも行なえてしまうほどになっているのだ。あちらの世界でゲームバカの親友が言っていた並列同時処理とか言う状態に近い感じがした。
でゅあるこあのCPUとか言ってたっけ?言ってることは全く分からなかった。
そして昨日でジャックスによる基本的な対人戦闘、護衛の心得授業を終えて今日からはアベさんと魔物用の実戦編に入る予定である。
「大変なんだな。まぁ、迷宮のことはオイラたちにまかせてくれ。あの子もちょくちょく手伝ってくれるから、比較的に作業も早いし迷宮主が作ろうとしている"ふろ"と言う奴が楽しみだからな」
「まぁ、楽しみにしててくれ」
会議後で思い思いに去る中で俺も修行場へと行こうとしたら、個性的な服装をした小人族がこちらにやってきた。
「あーん。迷宮主の旦那さん、ちょっとまってーん!」
女性の小人族のままの特徴を持っているが、話し方もその全身ヒラヒラな個性的な服を着た小人族――服飾担当という新たな担当になったチャイム(チャイブ老の孫)が手に服を持ってきていた。
「お?チャイム。............まさか、できたのか?」
「んふーん!もちもちよーん!」
もちろんよーとでも言いたいのだろうその意味不明な言葉をとりあえずシカトして、俺は受け取った服を広げる。そこには羊毛と何かで織り込んだ服で横にはスリットの入っているのが見えた。俺は心の中で歓喜しながらもチャイムの手を握って多大なる感謝を示した。
きっかけ自体は羊毛を欲しがっていた時にその理由をチャイムから聞いて、何か参考になればと俺の部屋の本棚やらのコミックや雑誌などを渡したことに端を発する。彼女の服に対する知的好奇心やデザインの発想などが刺激されたようでことあるごとにそういう参考になるものを渡す代わりにオーリエ用の衣装を頼んでいたのだ。
現在頼んでいたのは、チャイナドレスである。
"褐色に脚長の姿にチャイナドレスはジャスティス"といって憚らない俺は、これを魔防具化して着色したらオーリエへのプレゼントをするつもりだ。ちなみにこれまで、黒ビキニ、ジーパンの生地で作ったデニムベストをオーリエに渡し済みである。どれも似合っていたのを俺は涙で表現して、レティには白い目、オーリエにはきょとんとした目で迎えられたが、後悔はない。男だし、目の保養は必要なのだ。最近、レティが一緒に寝ていることもあり、娘の目に触れでもしたらアレなのですっかりソロ活動もできなくなったしそれくらいは許して欲しい。
「それで次のナース服についてだが――」
と、次の服の要望を伝えようとしたところでアベさんが現れた。
「ガウ」
「あ、いや、あと少し待って?もう少しで――」
「ガウ」
「......はい」
一旦やる気が起これば一生懸命なアベさんに有無を言わされず抱きかかえられて俺は、強制的に修行場へと連行されていくこととなった。
いや、別にやる気がないわけじゃなくて、ただナース服は......ナース服だけは......。
そうしてやってきた修行部屋であるトレーニングルームにはすでにオーリエ、レティシアが柔軟体操をしていた。
まだ各々は重力機能を使ってないらしく、身軽そうだった。オーリエには俺が普段着にしているジャージを与えているが若干きついようなのでジャージの上は開けていて、黒いタンクトップからこれでもかと自己主張をしていた。
「あーやっときたー!......あ、はーい!ねぇねぇ、パパー!チャイムちゃんがね、ナース服は順次滞りなく......だって!パパってばエッチだねー!」
「エッチいうな!男の黄昏(?)なんだ!それで、.チャイムには.....了解といっておいてくれ」
レティシアはあれから迷宮"本丸"の調整だけではなく、迷宮内であれば誰の呼びかけにも応え、それを別の誰かに伝えるいわゆる"通信"の能力も覚えた。それは力量判断の次くらいに覚えた"学習"という迷宮内で起こる事象をその身で受けたり知識を得ると覚えるといったものから電話などを教えたからに他ならない。 おかげで現在、電話のようにチャイムから着信して俺に伝えている。
下手に俺の記憶を握っているせいで、中学生にしか見えない娘から呆れた顔を向けられるのは情けなく思うが、男なんだと理解してもらうことにする。
ちなみに、1部屋限定で自分がいる空間で彼女の"知っている"ことは自由に扱えるようにもなっているようで、レティシアの場合は自力で重力制御もできちゃうらしい。
俺も柔軟運動をこなすと、早速2Gの重力付与を自分にかけてまずこの体育館サイズの修行部屋の外周を走ることにする。アベさん、レティシア、オーリエ、ジャックスはもうすでにそこまで終えているようだった。
そこからアベさんとレティシアは魔物狩りのための組み手、オーリエは5Gの中での筋力トレーニングになる。
それに比べての俺の修行スケジュールは、準備運動してからは体力トレーニング、ジャックスから回避術、体の動かし方などを教わっている。
そして現在、ジャックスから言われてやっているのは体裁きの反復練習である。1ヵ月前までは"相当辛かった"ことが現在では"結構辛い"にまで伸びていて1ヶ月の効果を実感していた。
そんな中、アベさんとレティシアの戦いを見守る。
相変わらずアベさんは、レティシアの急所を狙い、逆にレティシアは体格差などものともしない勢いで力量を測ったアベさんの倍の力を持ってそれを封じつつも逆にアベさんへと攻撃を繰り出していた。今日から1ヵ月はこの状態で双方にとっての修行を行い、ラスト1ヵ月にレティシアが覚えた二通りの戦い方をオーリエに伝授して町という流れだ。
オーリエも筋トレなどを行ないながらも二人の動きを注視しているようで、ジャックスなんかも早速3Gの重力をかけて走り回ったりしていた。
それぞれに目を向けて満足した俺は自分に活を入れて集中していくことにするのだった。
トレーニング終了後、俺はシャワーを浴びて汗を流した後に冷蔵庫の麦茶を一杯クイっと飲み干して、現在懸念しているオーリエの装備品について考える。彼女には基本壁役と思っていて理想は鉄壁とも言える重装備シリーズをと思っている。
5Gの中ですら動ける彼女なら、可動域を分割させることによって阻害されないようにすればいいので、そのデザインをしているのである。まぁデザインしたからといっても、鉄がないのだからどうしようもない。それに武器はどうしようかと迷っている。ジャックスみたく短剣で攻撃するタイプならば包丁の刃の部分のみを取り出して、彼が愛用している柄とともに錬金術式練成で属性付きにすればいいだけなのだ。
しかしオーリエの装備品を揃えるとなると、鉄鉱石とかそういうのが相当必要そうだ。
「んー......鉄、鉄か。あれそういえば砂にも鉄ってなかったっけ?」
と、あることを思い立った俺は早速――もはやそこらへんの山ほどもありそうな大量の砂置き場へと足を運んだ。別に狙っていたわけではないが、結果的に砂にしてよかったと思えた。
「そういえば、磁石ってなかったな......磁石以外だと............静電気か」
そこまで考えて俺は立ち上がり、部屋へと戻ってきた。下敷きを取りに。
そしてそのままレティシアへと連絡を取った。
("レティ、聞こえるか?すぐに俺の部屋へ帰ってきてくれ")
("パパ?うん、いいよ。もうすぐこの階層の調整終わるからすぐ帰るね!")
そうして5分後にレティシアが帰ってくる。
俺は事情を説明すると、分かったと了承したのを聞いて早速レティシアに学んでもらう。
静電気というものをレティシアに理解してもらい、磁力と呼ばれるようになるまでレティシアに増幅を行なってもらうことで迷宮魔法創作のきっかけをお願いするためである。
電気に関しては知識として記憶はあるが、そのものには触れたこともない。例を挙げると、現在における風系統などの"無味無臭"な迷宮魔法は部屋にある扇風機を彼女に当ててそれを彼女が学習することで、それを介して風の魔法というルール付けをしている。ゲームでいうところのラーニングというのに近いだろう。
ゲートによってこの亜空間と迷宮は繋がっているので、ここでも彼女は力を扱えるというのは俺が初日に受けた突撃抱擁で実感済みなのは別の話。
「んーと、ビリビリーっていう微弱なこれが静電気でこれを砂の中の砂鉄を引き寄せるくらいのでいいんだよね?」
「ああ。あとは、雷レベルまで増幅して迷宮魔法化もしようと思っている。ついでにだけどな」
「パパは、あの雅楽と魔術が交差する物語に出てくる雷使いの能力者の女の子が好きだもんねー!」
「いや、そういうわけじゃないんだけど」
あれはあのゲームバカの好みだ。
どっちかっていうと、俺はお手拭、法乳シスター派だし。
「って、今それはいいんだ。とにかく、新しく作ったこの"迷宮魔法運用ノート"に登録するからよろしく頼む」
そんなわけでここに3つの魔法が新たに生まれた。磁石代わりの磁気吸*、気絶とか敵封じに楽そうなスタンガンレベルのショックを与えるそのままの意味で、感電*2と最後に勇者にしか仕えないらしい雷魔法の雷撃*3だ。
覚えた磁気吸を使って大きな山から砂鉄を引き寄せた。
その引き寄せの弊害により、俺とレティシアが砂まみれになったのは内緒である。
今目の前には、とてつもない量の黒い塊があった。黒い塊の砂鉄のみのそれは、なんか色も相まってすごい存在感だ。
「早速、錬金術式練成で彼女の武具防具を作るかな」
そうして、錬金用の素材として砂鉄、遮光カーテン、疲労軽減用にと赤色の草を用意して魔力の比率を3割ほどにして発動させた。もう寝る前だし、一睡すれば全回復するほどなので大盤振る舞いだった。
出来たものを確認すると、砂鉄ではなかった艶のある漆黒の鎧が完成した。
【アイテム情報】
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アイテム名 :黒光りする鎧(???)
効果 :疲労回復(小)【自動発動】
アイテム説明:脆弱な状態の砂鉄で作られたマント付きの鎧
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括弧の中が"???"になっているのはどういうことだろうか。
それに、脆弱な状態ってなんだろう?やっぱり砂鉄なだけだと脆いのか。
鍛冶なんて全然知らない俺にとってはあらゆることがちんぷんかんぷんだ。町に着いたらここらへんもなんとかしなければと思った。
そして俺は試す意味で、実際に鉄でできている包丁を組み込んでみる。
【アイテム情報】
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アイテム名 :黒光りする刃の鎧(???)
効果 :疲労回復(小)【自動発動】、一定の確率で自動反撃
アイテム説明:脆弱な状態の砂鉄で作られたマント付きの刃がついた鎧
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説明欄にかかれている通りに、包丁のような刃が胸元についた鎧になってしまった。これはこれで使えそうではあるが強度関係にプラスしているものじゃないので満足とは言えない出来となった。
一通り試して強度を上げていくしかないな。
ひとまずは皮を内側に何層も当ててごまかしでやるしかないかな。
早速やってみたが、皮による内側の補強で多少強度が増しているということ以外代わりがなかった。とりあえずはと俺は残りの2mほどの盾と同じく2mほどの剣を錬金術式練成で作り上げた。
「鍛冶に関する知識もメモって置こう。砂鉄が悪いのかもしれないし、町での購入リストには鉄鉱石は確実に入れとかなければ」
そうして、改めて必要性を感じるものを錬金術式練成で作り出しては修行と、野菜もあるし寒い季節にぴったりかもという理由で作った土鍋を小人族の世帯分作ったり、オーリエのナース服姿に感激したり、その他の細々とした作業とを繰り返すうちにあっという間に2ヵ月後の旅の日を迎えたのだった。
*:磁気吸
磁気を指定する場所へ向けて発動させることにより、そちらへと磁気に反応するものを引き寄せる魔法
*2:感電
一般的な人族を気絶させるほどの電気を与えるスタンガン的な魔法
*3:雷撃
対象に雷の一撃を放ち、感電死も可能なほどの攻撃を与える魔法
次回から人族の町編です。




