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第15層「3つの一新」

 迷宮共感(ダンジョンシンパシィ)と呼ばれる力を持つレティシアという娘ができて、オーリエの訓練相手問題も解決したことでコレまでのことを整理した。


 ちなみに、レティシアの現在できることは相手の力量を測り同じ分の力量にしてそれを返すことしかできないそうだ。そのため、今はジャックスに基礎から護衛術などを教授されつつも組み手をしている。一ヶ月後には今度は、アベさんと魔物との戦いという実戦訓練だ。その間はオーリエには本棚にあったコミックや雑誌などの中から体力作り、柔軟運動に関連したものを抜き出して作った合っているか分からないトレーニングノートで、柔軟運動やら体力作りを行なってもらっている。


 それ以外で整理した事柄についてはまず、迷宮に関することだった。

 迷宮は全50階層を空間化して、あとは全ての地図に従い、開拓、編集をする作業のみとなった。ちなみにこちらは"本丸"と名づけている。

 一方、ラウンジ側は"生活圏"と名づけて主に居住区や生活面での施設が置かれるところとした。

 小人族についてはもうすぐにでも引越しができる体制が整っていたが、家のほうは全世帯ができてから始めるようなので、現在も集落のほうで暮らしている。 そして小人族の中でもそれぞれ3部門になっていて、工作担当、薬学担当、畑担当に分かれて行動している。襲ってきた魔獣については全てを隷属化してそれぞれの部門に割り振った。ここまでが完了していることだ。


 これを1ヶ月単位の報告で進捗などを聞いていき、途中必要なことがあれば俺のほうに言ってくるようになっている。

 

 それ以外のこと――例えば、食料については畑担当による作業で俺たちはうどんやめんつゆを提供、それと交換する形で小人族は野菜や薬草という良く分からないやり取りでお互いに補い合う形をとっている。

 うどんがなぜそんなに好きなのか疑問だったが、そういえば原料って小麦粉だし、そういうことなのかもと納得しておいた。


 そして、俺はある意味羨ましいと思ってもらえるだろう悩みがある。

 オーリエだ。彼女はこれまで異性という接し方をしていたわけではなく、体を拭くことで衛生面を保つ習慣に身を置いている彼女は普通であれば同種の異性と接することで得るはずの"羞恥心"を迫害によって得ないままに育ってきた。

 

 風呂を教えたときにそれは遺憾なく発揮されたが、それを思い出すと鼻血やらが垂れてしまうので割愛する。そういう面は懇切丁寧に教えたおかげで改善されたのだが、先の小人族とのやり取りにより食糧事情の改善も功を奏したのだろうが、俺にとっては逆の意味で功を奏してしまっている。

 

 基本的に食事は俺と同じ食事する。

 栄養を考え、小人族から仕入れた野菜などを取れば必然的に肉と野菜とあとは血液サラサラ効果があるとされる麦茶で集落に居た頃よりもだいぶ改善されている。つまり長々と言っているが、それによってスタイルが前よりもよくなったということ。そして、それに俺が反応してしまうということだ。


 俺は過去の妹を失った経験から、女性に対してそういう目を向ける気が起きない。しかしながら体というか気持ちというか、そういうのは別だとでも言いそうなほどに魅力的な彼女を見ていると言い知れないジレンマが起きてくるのだ。


 まぁ、それを解消させる欲を"彼女を着せ替える"というので、今のところ平静を保っているのだが。幸いにも"同志"が小人族にいてくれてよかったよ。 


 閑話休題


 さて、まずは今後のことについてと俺は書き出していく。


 まず、迷宮が全て完成する前に一度人族の町へと赴かねばならないと思っている。現在の魔物狩りや傭兵といった穢れの多い連中が欲しがる物をリサーチするためと、実際の武具や防具を仕入れたり、小人族の間にはない果物の種などの購入、また段階に分けてこの迷宮の存在の吹聴役を用意するためだ。

 

 地道に町の酒場を回って情報を広めるのは、人族の町へと行くのが基本嫌な俺にとっては、苦痛しかないので適当な町で生命契約(ライフプロミシズ)によってそれらをこなしてくれる者を探す意味もある。

 第一候補は、ここから南へと3日ほど歩いていけば到着するらしい町で、そこはエウレシア王国の最南端の町とのことだった。


 ジャックスに聞いた限りでは、そういった連中は定住することなく移動移動が基本の旅人スタイルを取っているそうで、その流れの傭兵とかいう感じで帝国領とか、うまくいけば別大陸や帝国から迂回してしかいけないらしい宗教国家へ向かってくれれば万々歳である。もっとも、迷宮ができたら何人かは生きて帰してそこから広めてもらうつもりでもあるけど。


「ここらへんは、ある意味強いヤツが理想だよな」


 そうでなければ、野垂れ死の可能性もあるし、一定の実力がなければその吹聴する内容を信じることができないだろう。


 次に迷宮管理ダンジョンマネジメントの運用法だ。

 思い出せない運用法というか、職業体験の時に何か結構役に立つことを教えてもらった気がするのだが......まぁ思い出せない時は別のことを考えたほうがいいとしてひとまず保留にして、先へ進む。


 次は、錬金術式練成(アルケミクリエイト)のことだ。

 これも品質や魔石作りがもう少し改善できないかと考えている。現状武器というのは包丁とゲームなんかではなぜか鈍器武器にもなりえるフライパンとかだ。まぁ俺が今一番欲しい、そして小人族たちにも役に立つであろうものは、いわゆる異次元バック――中が空間になっていて重量、大きさ関係なく収納可能な魔法のかばん――なんだけど、あまり高望みはよくないよな。

 一度これらも、町へ行って調査をしてからでも遅くはないだろうとこれも保留にしておく。途中途中気付くことがあればできそうだし、実際に町で購入した武器への付与である"エンチャント"をやってみたい。


 そして、現在――


「とりあえずこれらは後に回すとして............問題はこれか」


 そうして視線を移して、俺は再生のオーブと人材精霊の珠を見る。


 レティーナ様からの情報で見落としがないかと思い、当初のメモを見直したのだ。きっかけは簡単で、レティーナ様が言っていた"血の記憶"とはなんだろうとかそんな程度だった。

 そこから記憶というフレーズからそういえばと思い出して、ゴブリンとして生み出そうとしてもダメな理由、牛や豚なんかはそのままといってもいいほどきちんと生み出された理由を考えたのだ。ココに来る前にレティーナ様と話した内容をまとめたメモを見ながら。


 現実に生きているもの、現実には生きていないものとか色々と比較をしていき気付いたのが、レティーナ様のいわれた記憶の類だった。

 牛や豚は中学時代に酪農体験の折に"触れたことがあり、その動物の匂いを嗅いだことがある"があり、ゴブリンにはそれはないというもの。


 同じ理由でそれならばと俺は現在、これまでのことやこれからのことについてまとめている間に同じ時に"触れたこと"のある鶏の魔物を生み出せるかの実験で待っている状態だった。

 

 結果から言えば約10分後にきちんと鶏がコケーコッコッコと鳴きながら出現した。


「やっぱりそういうことか」


 出現した鶏の魔物を見て納得した俺は確信した。

 そして何かないかとメモを見ていた俺はついでというか、人材精霊についての記述に――


 "人材精霊は作業などのやりたいことを想像しながら念じれば、それにあった属性の精霊が出る"


 と言うものがあり、そういえば亜空間の畑では今までは出してから頼む形をとっていたなと納得した。試そうと思ったが、現在頼むこともないので珠はそのまま消して、新たに"人材精霊を念じながら呼び出す"とメモを取った上でそういえば、その亜空間の畑をまだ見せていないことに気付いた俺は、気分転換も兼ねて畑担当のチャイブ老に会いに行った。


 この日こそ俺はそういえばというキーワードに感謝したことはないだろう。


 集落へと向かった俺は、畑で作業中だろうチャイブ老を探した。

 いるところを作業をしている小人族の人に聞いていき、ようやく発見した。


「チャイブ老!」


 俺の声にチャイブ老は振り向いて、ほうほうと声を出して応えてきた。


「迷宮主様たね。どうしたね?」


 迷宮主様というのはやっぱり慣れないな。

 それで会議の時に気になったので聞いてみたら、お前さんは"我々を庇護してくださる。だから主と言っても過言じゃないから"と強引に呼び名を固定されてしまっている。普通に名前で呼んで欲しいんだけど。


「ああ。前に約束していた俺の部屋の外にある畑を見せようと思ってさ」


 俺の言葉にほうほうといって早速先頭を切って、ゲートのほうへと歩き出した。

 お年を召されている様子のチャイブ老のフットワークの軽さに苦笑いを浮かべつつも、俺は付いて行った。


「なんたね!この土は!」


 亜空間側の畑に着いて、チャイブ老が発した第一声がそれだった。


「何って......人材精霊にただ掘らせたんだけど?」


 俺の言葉に何!?という感じでチャイブ老はこちらに振り返ってきた。

 どうしたんだろうと思いながらも聞いてみる。


「......ほうか、しらんたね。しかし、その御仁は相当な方と見えるたね。精霊様を簡単に召喚できる道具をぽんとくれるとは。まぁそれは今はいいたね」


 いや、精霊のことを詳しく教えてほしいんだけどとは言い出せない迫力でこちらに顔を近づける。ちょっと加齢臭っぽいのが鼻についたが我慢した。


「迷宮主様に頼みがあるたね。こういうのは土の精霊様に違いないたね。よければ、それを次回の春にでも作って欲しいたね」


「それくらいお安い御用だけど、理由は?」


 俺の言葉にはぁっとため息をついて、土を持ちこちらに見せながら言い放つ。


「この土の質は、普通に考えてもおかしいと思えるほどの質たね。周りの土は普通なのにこれだけが異常に良質な条件というのがわからんたね?」


 いや、分からない。

 そんなことを心の中で呟いていたのだが、以前この畑を耕してもらっていた時のことでふと気になったことがあったなと思い出した。


「そういえば、掘ってもらってて妙に、掘り返していた時に土がうっすら光を放っていたような気がしたけど............まさか関係ありとか?」


「大有りたね。それが"精霊の祝福"たね。精霊様の純粋な力はあらゆる万物に作用があると言われているたね。だから、あてもここまで驚いているたね」


 なるほど、そういうことだったのか。

 俺は納得しつつ、それじゃあと迷宮ラウンジ内の畑部屋で同じことができるかと考えた。それをチャイブ老に尋ねてみると――


「物は試し、たね。たしかその部屋はもう終わっているたね?だったら急ぐたね」


 再び発揮したフットワークの軽さに俺はため息を吐きながらも再びついていった。俺としても"念じながら自動的に属性精霊を呼び出す"というテストができるので、文句はなかった。

 結果から言って大成功ともいえるものだった。何しろ、念じただけで現在の俺からすれば微々たる魔力を対価に土と水の人材精霊が出てきて、あっという間に畑が完了したのだ。そしてその質を見て、チャイブ老は種を持ってきてこういった。


「この質は春の畑の質に似ているたね。ならば、今からここで種植えしても頻繁に収穫はできると思うたね。早速、植えるたね!」


 といって畑担当の手の余っている小人族たちと一緒に種植えをしていくことになったのだった。その後のチャイブ老に聞かれたことで俺は"おもいだす"という天啓を得ることになった。


『そういえば、あの畑はきちんと生育記録はつけてるたね?"何"の種を、"いつ"植えて、"どこ"で育てているのか、"誰"が担当して、"どのように"管理しているかと分からねば今後他のものを育てる参考にはならんたね』


 ピコンっとなったと同時に俺はチャイブ老にありがとう!と言う言葉とともに、その場を立ち去り急いで作業室へと駆け込んだ。


 思い出した。そうだ、『5W1H』だ。

 職業学習というので工場でこんなのを教えてもらったのだ。

 Who(誰が)、What(何を)、WhenいつWhereどこでWhyなぜ、そして、Howどのようにという考え方でWが5のHが1から『5W1H』という意味だ。

 

 また、"なぜ"を消した『4W1H』というのもある。


 "なぜ"はいらないから、俺が必要としている運用方法はこの場合は『4W1H』になる。


 そして俺は改めて、迷宮管理ダンジョンマネジメントで決めたルールを全てコレに置き換えて書き直す作業を開始した。簡単なことだ、今までは"迷宮創造主が~"というくだりでわざわざ書き直す時も全部を消してから書き直していたが、『4W1H』の方法で管理すれば修正も簡単になる。


 ・いつ   =今すぐor時間指定

 ・どこで  =迷宮空間全域 or 場所指定

 ・誰が   =全て or 人物指定

 ・何を   =目的 or 対象

 ・どのように=効果の種類


 というように分けられて、例として――

 "迷宮創造主が手を岩に当てると、その部分から想像分だけ砂へと変わる"

 この一文を、


 ・発動時間いつは、手を触れてから

 ・発動場所どこでは、迷宮全域

 ・可能な人物(誰が)は、迷宮創造主のみ

 ・対象とするモノ(何を)は、迷宮内の岩石

 ・効果どのようには、岩を砂に変える


 と言う風にカテゴリーが作られるので、どこでを例えば座標の『A-2』という指定をすればそこだけに範囲が及ぶようにできるし、可能な人物の部分を何か適当な腕輪をつけた人のみとかにすればわざわざ人物の名前を書き足すこともなくなるという具合にできるのだ。


 そうして書き直しを始めようとしたところで、やけに今日は思いつきのいい俺はまた天啓が閃いた。


「わざわざ、書かなくても媒体があればいいってことなら――」


 そうして、部屋に戻り勉強机の棚にあった攻略要点用に愛用したファイルケースを取り出した。中にはゲームごとの要点をまとめたものが綴じられていたがそれを抜き出した。


 このファイルケース自体には迷宮管理ダンジョンマネジメントの力を宿しておいて、パソコンで打ったものを挟んでいけばいいのではと思い実際にやってみたところ成功した。


「なんか、俺......どんどんデジタルな人間になっている気がするな。パソコンもない異世界で」


 ファンタジー要素がゼロになって来ているが、どんどん管理が大変になってくるだろうからとこれくらいは許容しようと思ったその日は、アベさんに早く寝ろと怒られるまでひたすら更新作業を行なった結果、6つのファイルケースができた。


『全迷宮運用Book』、『迷宮作業用Book』、『迷宮生活圏ルールブック』、『迷宮魔導書』、『迷宮施設運用ガイド帳』、それから『迷宮別ルールブック』で書式は全て『4W1H』で統一した。


 そしてさらに1週間ずっと、俺は錬金術式練成(アルケミクリエイト)のある一新のための修行を行っていた。


 それは人材精霊を用いての魔石作りだった。

 今までは迷宮魔法を発動しつつ込めるという感じでやっていたが、それが畑という芽で発芽したことでさらなる成長のためにと錬金術式練成(アルケミクリエイト)の魔石作りに応用する実験へと足を進めたのだ。


 手が炭化するとかそういう面がなく、ただただコントロールだけが難しかったがようやく安定してモノに込められるようになった。


 早速俺は手ごろな石を右手で持ち、左手で人材精霊の珠に念じながらもその力を石へと移動させる方法をとった。

 50階層分まで増えた魔力の大体2割ほどといった結構大きめな魔力を代償にした結果俺が今までやっていたものよりも断然質のいいものができてしまった。


 青々しい光を放ち、何かの紋章が浮いている魔石――通称『水精石』である。


【アイテム情報】

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 アイテム名 :水精石++ 

 効果    :水の人材精霊の力が宿っている。

 アイテム説明:水の人材精霊の力が宿っている石。

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 と、アイテム情報でも質がいい感じに書かれていた。

『++』ってのは品質を指すのだろうか?


 早速包丁を取り出して、錬金術式練成(アルケミクリエイト)を発動した。


【アイテム情報】

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 アイテム名 :水の包丁+(時価)

 効果    :振るえば水の人材精霊の力で水攻撃を放つ。

 アイテム説明:水の人材精霊の力が宿っている包丁で、魚を捌く時有効。

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 定価498円と書かれていたところが、時価になった。

 てか、石状態だと価格がつかないのだろうか?

 それからプラスが1つ少ないということは、錬金術の代償か少し品質が落ちたのかと思ってしまうが......まぁでも前よりはその出来に満足した俺は、それからしばらくの間、ポーション、全属性の包丁を作り上げた。


そして、その後ついに俺が熱望していた異次元バックを光と闇の人材精霊の力を借りて、完成させるのだった。これがあれば物運びも容易になる。そしてそれは、冒頭で一番に考えていたことへと繋がった。


 3つの一新を遂げた俺が次に目指すのは――嫌だけど人族の町である。

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