第13層「突然の再会」
「あ~どうしようかな~............」
あの後、アベさんとジャックスを含めて話し合った。
まぁ、結果的に言えば不可だったというところである。
アベさんいわく、"自分の狩りは戦闘というべきものではなくあくまで狩り"らしい。つまり、ただ相手を殺すことのみ、これだけだということのようだ。それを聞いて俺は、ズブの素人が安易に『訓練』というので組み手をさせるわけにはいかないと判断して了解した。
ただ、後々の話になってもしアベさんが認めるレベルまで彼女が育ったと感じた場合は魔物の狩り方を実戦で教えてくれるそうだ。それがアベさんなりの妥協点なのだろうと理解した。
次にジャックスだが、彼も体の動かし方や鍛錬方法、護衛の心得のようなものなら教えてやれるが面と向かって組み手をするには力配分のできていない相手では命がいくつあっても足りないとそこは拒否された。
実際に、この1週間は集落で一緒にいる機会も多かっただろうジャックスとオーリエだったからジャックスも彼女の剛力を理解したんだろうとある意味で納得した。
そんなわけで頼みはあえなく一部を除いて不可となった。
実際何も基礎をせずにいきなり組み手とは考えてないが、要所要所で確認の意味も考えて組み手も大事なのではないかと考えていた部分がダメになるとは思ってなかったため、先の呟きとなって現れた。
冷静に考えれば、ある意味で競えるような存在がいればいいのだ。
供に成長していく存在がオーリエに必要だと感じた。
日本という平和なところで暮らしていた俺は、まず最初に武器を使って戦うということ、強い相手と競い合うということは考えていない。分不相応だと思っているし、俺の場合はもうすでに"迷宮"という武器を持っているので、今更他の戦闘手段は考えてない。
考えるとすれば、錬金術式練成で作った魔道具を駆使するくらいだ。まぁ、迷宮のテスト攻略時にはこれが主な戦い方になるだろう。そのための体力作りもしなくちゃいけない。
..........っと、今は俺のことはいい。オーリエのことだ。
「さてさて、オーリエと同程度の力量での訓練相手かぁ~」
とりあえず俺は思いついたことを実戦するために、亜空間部屋から外に出て集落へと移動した。
迷宮内への居住区作り用の資材で余った木を分けてもらいそれを迷宮"チュートリアル"作業室へと運んだ。そして、机に置かれたままになっているデッサンノートを手に具体的なオーリエサイズの身長や、行動パターンなどを悩みながらも設計して力を発動した。
いわゆる木人型の人形だ。
1回目はぬぼーっとしてただ突っ立っているだけだった。
2回目は行動パターンという項目を作り、こうきたらこうみたいな感じで作った。
テストしてみたらその通りになったが――
「なんていうか、意思みたいなのがないこれじゃ本当にただのサンドバックだ」
自立して立つことはできるし、俺のへなちょこパンチも避けるようになっている。
しかし予想外とも言える様な――例えば、物を投擲すると普通に食らって倒れた。
立ち上がりなおしてぼへーっとした人形を見ながらあーだこーだと時間を潰していく。
そこであることに気付いた。
あの時に全滅させた大鬼族たちに。ヤツラならばと思って立ち上がりかけたが
またすぐにイスに座り込んだ。
「さすがにトラウマであろう相手を出して、傷口を抉るようなことはできないよな」
まだあれからそこまで時が経っている訳じゃない。
確かにあの時は怒りやらも滲ませていたが、現在でもそれが続いているかと問えばそれはないと思いたい。普段物静かで表情をあまり変えることはないが今現在ではたまに笑顔を向けてくれたりしている。
それを壊すような真似はしたくなかった。
「んーどん詰まりとはまさにこのことかな」
そうしていまだぬボーっと立っている木人人形を眺めながらため息をついた。
空気を換えるかと立ち上がったその時――
ふいに光が正面から溢れながら、何かが姿を現した。
光が収まったところを見るとそこには久しぶりの再会とでもいうべき存在がいた。
俺にその女神的な笑顔を浮かべながら声をかけてくる。
「タクト、久しぶりですね」
と――
俺は唖然としながらも必死で落ち着きを取り戻して、平静を装いながらもぎこちない笑顔を浮かべていると自覚しつつ挨拶を返した。
「お久しぶりです。レティーナ様」
場所を変え、亜空間内の部屋でレティーナ様に茶を振る舞い向かい合わせにいた。
「あなたの様子が気になり見に来ました。いかがですか?迷宮の進み具合は」
と言う言葉とともに、俺が出した麦茶を一口飲むと聞く姿勢で俺に目を向ける。
黄色に近い輝く金髪に同じ金色の瞳、スタイル抜群なそれをOL風のビジネススーツで覆い隠すかのような装いの彼女に見られるとドキドキしてくるが俺はこれまであったことを正確に話していった。そして、現状としての進捗状況も。
「小人族を庇護する立場にあるというのは、あなたならば納得です」
「どういう意味です?」
「現在のあなたの性質は主に、"忍耐"、"機を探る"、"打算"を包み込む優しさがあると感じております」
優しさ?俺が?
忍耐と機を探るは分かる。それで妹殺しの犯人に復讐を果たし、大鬼族を陥れて打ち倒した。
打算の部分はおそらく結果そうなってもいいというところや小人族を、オーリエを仲間にすれば今後効率的に進められそうだという点もあると思っていて納得できるが、優しさの部分は許容できない気がする。
「優しさなんてないと思いますけど?」
「ええ。自分の"外"には............ですね。ただし、一旦内側――つまりは身内にさえなればそれが発揮されるのではないでしょうか?私の考えで言えば、出会ったばかりの言葉が通じない生命の種族をただ手を出してこないからと信じすぎるのはどうかと思いますよ」
アベさんのことだ。
「別にだからと言って今から縁を切れというわけではありません。私が言いたいのは――つまり、そういうところがあなたの弱点になりえると思うので今後注意してください。不老不病ではありますが、迷宮外に出ればあなたはただの一般人に過ぎないほどの弱さとなるのですから」
言われてみれば確か似そうだと思う。
実際、俺はアベさんと出会って最初こそやられると思ってたけど、その後攻撃してこないからという理由だけでとても不安定な関係でこれまで付き合ってきた気がする。心細かったからなのか分からなかったがそれがもし悪意があって演技をしていた場合はもうすでに俺はこの世にはいないだろう。うまく迷宮の外にさえ連れ出せば、俺なんて吹けば飛ぶようなものと一緒なのだから。
そんな甘さを指摘してくれたレティーナ様に頭を下げる。
「ありがとうございます。今後は肝に銘じておくことにします」
ダメ出しされるとは思ってなかったが、しかし、心ある言い方でごまかすことをせずに言うレティーナ様に不快感など覚えようがない。しかし、この時は"経験がないなりの納得"をして深く考えなかったことがきっかけにより、まさかあんな形で実感するとは夢にも思うことはなかった。
「............ごめんなさい。ですが、ご存知の通りに私もこうやってこれる時間がいつでも取れるわけではありません。現状では他の管理者もいない中で1人の作業となっておりますので、なんというか............その」
「つまりは俺の心配もしてくれているってことですね。心細い物同士ですしね、俺たち」
そういうと、レティーナ様はクスっと笑う。
レティーナ様は1人で管理者の仕事、俺も1人で迷宮の仕事をしている。
現状では俺には今力を貸してくれる仲間たちがいるが、彼女は1人だ。
もしかしたらそういうので多少嫉妬もしているかもしれない。
と、思っているとレティーナ様が
「1つだけ言っておきますと、羨ましいからといって苦言を呈したわけではありません。心配だからとご理解ください」
そういいながら片目を閉じてウインクしてきた。
この人(?)はなんでこう自然と男心をくすぐることができるのだろう。
心拍数が上がってきた心臓のドキドキを抑えつつも、そういえばと俺は聞きたいことを聞くことにした。
「あの、この部屋――亜空間のことなんですけど。なんで冷蔵庫の中身が増殖したりするのですか?あとは腐食もしたりしないこととか」
「ああ、あれは............この空間全てを"生命にとってのプラスへと再生する"という方向へとしているためです」
「生命にとってのプラスへの再生............」
「はい。結局、生と死とは我々にとってプラスかマイナスかでしかありません。マイナスへの作用が間違って働いた場合は、取り戻すことができなくなるためこの空間にはマイナスというものはなく、代わりにプラスへと力が働くことになっているのです。あなたにとっての............ですが」
俺にとってのってどういうことだろう。
「あなたが願ったこと、希望した"有"をこの空間ではプラスされるということです。ただ出来ない部分............つまり、"無から有"はあなたに渡したあなたの世界の円盤にて行なってもらっていますが」
俺の世界の円盤っていうのは、DVD-ROMでそれをインストールしたパソコンのことだろう。
そういえば、冷蔵庫の中身も魔物の皮も"有"から"有"だ。
"無"から"有"ができないっていうのは、海や湖といったものを願ったところで最初からないし、その無いものをいくら願ってもプラスされることはない。
ていうか、まず無から有ができるならば錬金術式練成とかいらないだろう。なんせ願えばそういうものがぱっと出てくるのだから。
「ただし最初からこの部屋にあったものに限られるので、それ以外にこの世界から追加されたものには決してプラスに働かないことはご注意ください」
倉庫にしまってある皮なんかは増やせないってことか。
まぁそんな都合よくはないっていうか、そんなんじゃ面白くはないからそれは別に良かった。
「いえ、それが解っただけでもありがたいです。応用もできそうですので」
俺が計画している彼ら、小人族の働きに対しての特別報酬のことだ。
最初からあったものであるならば、なんとかできそうである。
あと聞きたいことは............そういえば――
「あのレイアウトソフトでコストというのがありますよね?あれはデフォルトで1000なのですが増やす条件というのはあるのですか?今のところ予定はないのですが、海などは灰色で使えないので、不思議に思ったんですけど」
「あれは、言ってみれば世界への貢献度のようなものが指標として増加するようになっております。つまり、世界に何かのプラスとなることをした場合に報酬としてそれが付加されるといったものですね」
つまり俺の場合は、迷宮に穢れを持った侵入者を迎え入れて間引きすれば穢れが減って世界へ貢献できるみたいな感じか。金銭や物じゃなくなんかポイントカードの最大貯蓄ポイント値が増えるみたいな印象を受けた。
「あなたにお願いしたこと以外でも貢献度が付与される場合があります。外の様子を見る限りに理解したことですが、小人族を救い大鬼族による穢れの増加を除去したことも貢献として認められていると思います。その他にも色々な貢献の度合いもありますので、攻略好きなあなた自身で解き明かしてみて下さい」
「え、あれってそうだったんですか?」
「ええ。すでに起こった事象となりますのでお教えしますが、近いうちに彼らの暴走が起こり、小人族の穢れが彼らに取り付いて魔物化までいく自体となった可能性があったのが今回で確定されたようです。本来であれば魔素がまだ存在していた場合には、オーガと呼ばれる魔物になるかもしれなかった存在ですから」
それってつまり――
「もしかして、小人族が魔素を取り込みすぎていたらゴブリンとかそういう?」
「その通りです。亜人を差別する特定の人族などは彼らを『小鬼族』と呼ぶものもいるようです」
うわー、そうだったのか。
なんかああいう魔物の誕生秘話みたいなものを聞いていいような悪いような。 まぁ、俺からすれば小人族は小人族だと思って接しているので、ゴブリンのような悪辣なイメージは持ってない。
しかしああいうイベントってのは、それを果たして世界への貢献度って形で報酬を得るのは一種のクエストみたいな感じだな。自分で探してクエスト受注して報酬で海に必要なポイントを得るなんてロマンを感じられた。
別に海じゃなくてもいいんだけど。
そういうことが起こった場合は積極的にいってもいいかもしれない。
これも攻略だと思えば、コンプリートし甲斐がありそうだし。
と、俺の機嫌が良くなったのを感じたのか何やらクスクスとレティーナ様に笑われた。
「笑って申し訳ありません。あなたの生き生きしている姿を見て、ここへお誘いした甲斐がありました」
「いや、本当にありがたいですよ。俺にとって、レティーナ様は救いの女神様です!」
と、調子に乗った発言をした俺に少し頬を染めたレティーナ様が手元の麦茶をまた一口飲んだ。こういう表情もするのかと物珍しそうに見ているとごまかすようにコホンっと咳払いをしてそういえばと問いかけてきた。
「そういえばこちらへ来た時何か、タクトには悩みがある様子だったようですが、どうされたのですか?」
「え?......ああ。えっと、実は――」
ここ最近加入したオーリエの戦闘訓練用の木製人形のようなものを作ったけど、意思がなくそれに意思を付与してオーリエと訓練することによって成長し合えるという機能をどうにかしたいということを話した。
「なるほど。それでは、"血の記憶"でもない限り難しかったかもしれないですね」
「"血の記憶"?」
「記憶とは何がきっかけでも宿るものです。触って得る記憶、匂いによる記憶、見ることで覚える記憶と。言ってみれば、"血の記憶"とはそういったものです。さて――」
そう言いながら、人差し指をテーブルに差しながらレティーナ様は、
「では、あなたの望む"成長をする"要素を持つ生命体であり、その要素も応用すれば行使できる新たな力も授けましょう。その描かれたものはありますか?」
と、言われたので取りに行こうとしたが手で制されて、レティーナ様が人差し指をテーブルに向けるとそこにはいつの間にか俺が木人人形の設計図とも言えるものが描かれたノートが現れた。
いつも思うが、どういう力の仕組みなのか気になるところだ。
「あと、必要なのはあなたの血が必要です。このナイフで少し指を切って、このお皿に垂らしてください」
そういってまたいつもの如くどこから取り出したか、分からないナイフとお皿があった。
俺は言われた通りに指を切って血を垂らす。普通であれば、先ほど言われたような再生の力というものですぐに傷が塞がるのだがこのナイフだと不思議と傷が癒えないまま血を垂らし続けることとなった。
その後一定まで血を皿に垂らして、指をと言われたので差し出すとその綺麗なレティーナ様の手が重ねて乗せられた。そして、光を放ちはじめたそこは次第にデザイン画と血の入った皿までが輝きながらやがて序々に形を変えていった。
それは見間違いでもなんでもない、人の姿へと変わっていった。
「今後のあなたへの助けとなる存在でもあり、あなたの"血の繋がった"娘ともいうべき生命です。可愛がってあげてください」
小さいながらもそんな呟きが聞こえた俺は、ぎょっとしながらレティーナ様のほうへ目を向けつつも、光が収りつつあると再びその光の中心に目を向けた。
同時にそこにいたのは、人間らしき少女が現れた。




