第12層「1週間後の進捗」
チャビン率いる小人族による迷宮"本丸"の開拓作業に触発されて夢中になったおかげであの笑い転げた夜から1週間が過ぎた。
暦の上ではもう寒い季節がやってきているわけだが、体感的にはそうでもなかった。
携帯の暦を見ると、11月――こちらでいうところの水瓶月に入っている。後半くらいから本格的に寒くなってくるらしいので、自分の欠点を補うため早めに冬服をもうすでに出していた。
それはともかく、開拓の最初のほうは要領的に不慣れな面もあり、進まなかったのだがチャビンの指示の下に開拓の中でも班を分けて空間削岩作業と地図通りに区画の編集をする作業という分担作業によって1週間だけでも2階層目まで完成していた。まだ全然できてなかったラウンジで完成まで練習した甲斐があったというものだ。
夢中になったのは何も彼らのおかげだけではなく、迷宮空間を広げるべく初めて第2階層への降り階段作成作業で下層へ下りた際に気づいた迷宮創造の効果範囲に"高さ"が関係していることが分かったからだ。
いや、当たり前に考えられることだったと思う。
今まで見た目で分かる奥行きや幅という認識でやっていて、色分けシートも高さを考慮していなかったので気づかなかったのだ。ちなみに調査した結果は、10mほどの高さが迷宮空間化していた。
これはだいたい1階層の通路の高さが4mくらいであるため、2階層分と2mくらいということになる。これじゃあキリが悪いということで1階層を5mにして、2階層分で丁度合うように調整した。
その後にも日を追うごとに違和感を感じたために気づいたものがある。それは、迷宮空間を広げることで循環による回復、魔力最大量の増加である。当初は、さすがに全部だとその他の作業時に魔力使えないというので制限していた。
だいたい魔力総量の半分ほどを使って球場2つ分の面積を1日1回作り、2日に分けて1階層分の迷宮空間を作っていく作業を繰り返し行なっていたが、その途中でその違和感に気付いた。
10mの高さの球場2つ分という認識で魔力を込めて迷宮空間を作っていたはずだが、途中というか2日くらい過ぎた時にどんどんそれらが余裕というか認識的に球場2つ分はおろか元々の広さの球場4つ分ですら余裕で作り出せることに気付いた。
そこでレティーナ様が言っていたことを思い出して、なるほどと納得した。
それは――
"迷宮内に俺の魔力を循環させれば、俺の魔力容量へと還元することができる"
と言うものである。
つまりは、底を深くして迷宮空間を拡大させていけば比例して魔力容量も回復量もその面積の分、循環域によって増えるというものだ。
おかげで、1週間後の今は階層も50階まで進み全50階層分の迷宮空間を作り終えた。またその循環域の分魔力の容量も回復率も大幅に上がったのである。広さと奥行きは球場スタジアム4つ分と広大で、高さにして地上から東京タワーの特別展望台くらいだ。
地上でこんなものがあればさぞや巨大な塔になるだろう。
こればかりに掛かりっきりになっていたために、ジャックス押し潰され事件後にジャックスには捕獲して上で発動できる迷宮魔法――隷獣令*の権限を与えて隷属させた魔獣の運用と世話を頼みオーリエには住居分解、及び建築での小人族の力作業を担当させ、アベさんには見張りや二人のフォローをまかせている。
階層を深くすることに躍起になることを考えて事前に対処していた結果だが、こうまで結果が反映されるとは自分でも予想外だった。階層深くしては開拓組の小人族を手伝って飯を食べては階層を深くしてみたいなサイクルをしていたために集落という名の地上に出るのはだいたい1週間ぶりなのだ。
ちなみにその手伝いの過程の中には彼らの住居における手伝いやら、畑部屋といった部屋作りも入っている。
久しぶりに集落中央のゲートから出てきた俺は集落内を見渡す。
以前まで建っていた大鬼族の建物はそのほとんどが、解体を終えているようで
俺が今いる後方に立てられている大鬼族の長が住んでいた大きなゲルのような建物くらいしか以前と変わりがない状態だった。
ちなみに迷宮化した集落だが、円になっていて柵で囲ってありこの集落の基点としてゲートの扉がある。
北西部が畑などがある場所、南西部は魔獣たちの厩舎がある場所、北東部は小人族の仮の宿舎、南東部は用水用のため池が作られる予定になっている。それというのも後々この迷宮"集落"は、迷宮内の食を預かるいわゆる穀倉地帯の迷宮にする計画であるからだ。この集落の規模は一般的な学校施設が丸々入るほどの広さだし、中央部のゲルの部屋と亜空間の倉庫をゲートで繋げる為、"腐らずの備蓄倉庫"と化せば食に困ることはないだろう。
迷宮名も"穀倉"に変える予定である。
見渡してまずは魔獣の厩舎が建てられている南西部へと移動した。
ジャックスに使用許可を与えている隷獣は迷宮魔法であり迷宮内でしか効果がない魔法のためにあの夜に力を行使した魔獣以外は迷宮外で作業をさせられないので、内外関係のない生命契約で縛る必要がある。
そうしてしばらく歩くと厩舎が見えてくるが、厩舎も馬房のようにきちんと仕切られたものではなく魔獣の種類ごとに部屋を作ってそこから出るなルールで放し飼いの状態だ。畑を作る予定であるのにしっかりと作っても意味がないし、現在チュートリアル迷宮内の部屋の1つ、"魔獣部屋"は小人族が作っている最中だ。
さて、5つくらい分かれている牧場のようなところでジャックスがいる区画へ向かうと、奥でなにやら4mはありそうな『ウルグルフ』のブラッシングをしているようで鼻歌が聞こえてきた。
「ごきげんだな、ジャックス」
「ん?おー久々だな。もうできたのか?」
「ああ」
そう言いながらも、口元を撫でながら俺が渡したヘアブラシでブラッシングしている姿を見ると、どこからどう見ても親戚にしか見えない。狼を狼男がブラッシングって構図だし。
4mのヤツは心地いいのか黙って目を閉じて堪能しているようだ。
「それで、ウルグルフは............分かったとして他の捕獲具合はどうだ?」
チラッと目を向けるとウルグルフが群れで固まりながら、ブラッシング待ちをしている様子が見える。
黒い塊がきちんと整列している20匹の図はとても躾がされた警察犬のような感じだった。
平均的に見て2mの体格を持っているそれらが俺に目を合わさないように、またジャックスのほうも見ないようにしながらもこちらを伺っているのが"なんとなく"理解できた。............習性か?
「オウルバードはこれまで13羽で、フットラビルは迷い込んだのが2匹の番だったな。バーゲージはよく分からんで入ってうっかりってパターンで4匹でうち2匹は旦那に食されたようだ。バイソンシープは小人族のヤツで1人欲しがっているヤツがいるってんで旦那がわざわざ森へ行って連れて来たくらいだ」
『オウルバード』は梟の魔獣であり、広げれば2mほどの翼を持ちながらもその羽毛に秘密があるのか音が全くしないで飛びたてるし、近寄ることもできる奇襲型に特化しているとも言える。しかし夜行性らしいので、そこが難点だ。昼間も可能であれば明るいうちに色々空から偵察できるんだけど。
そして、他が初耳なので聞いてみると――
『フットラビル』っていうのは兎の魔獣で、そんなに強くはなく普通であれば50cmほどの最弱な魔獣らしいが、ここで迷い込んできた2匹はどちらも1mは超えるほどの大きさということらしい。『フットラビル』は主に家畜にすることが多くその理由は彼らの糞がどうやら畑の肥料にちょうどいいことからということ。気性も魔獣にしては大人しいので飼い易いようだ。なるほど、春までに肥料を貯めるために今からここで集めておいてもいいかもしれないな。
『バーゲージ』はまぁいわゆる突撃型の猪魔獣だ。これは主にアベさんが主食にしているので割愛する。
『バイソンシープ』というのは、羊型の魔獣らしくてその羊毛は大きな町の商人が是が非でも欲しいほどの希少性がある高品質な羊毛を持っているようだが、バイソンと名前がつくとおりに彼らはバーゲージ並に突撃をするタイプの攻撃性を持ち攻撃力も10cmくらいのねじれた太い角を持っているので、それなりに強いそうだ。しかも、ここらの森に出るのはどれも一般的なものよりも大きいらしいので脅威度は跳ね上がるそうだ。ちなみに捕獲したのは2mほどの体躯をしているそうだ。そんなのを連れてこれるアベさんはさすがだ。
「結構どの魔獣も利点がありそうだな」
「魔獣?」
「ああ、みんな獣型の魔物だから魔獣のほうがいいかなと思ってな。いわゆる"言い分"ってやつだ」
「いいじゃねぇか」
そう言ってひとりでにうんうん納得するジャックスを置いておいて、やりたかった作業を行うために『ウルグルフ』に近寄り順番に生命契約レベル2で縛っていく。もうこれくらいじゃ全然魔力が抜ける感覚がしないな。
「それでどう運用するか考えたか?」
「ああ、これを見てくれ」
そう言って取り出した俺は、前日に伝言を受け取って宿題にしていたノートを取り出して部隊ごとに分けて書かれたものをジャックスに見せる。
「ウルグルフは建築班用や小人族用の運搬用にと、後はこの集落の見張り役で分けてくれ。で、薬草採取班で騎乗用に使えば効率が上がりそうだから残りはそんな感じで振り分けてくれればいい。オウルバードは言ってみれば航空偵察っていう空からの見張り役だ。たしか梟の目って両方別々のものを見ることができるし、ウルグルフは近距離、オウルバードは中遠距離タイプって感じでやればいいだろ?まぁそれも夜限定だけど」
「なるほどな」
そうしてうんうんと納得している様子なので、話を続ける。
ここからは初めて見る魔獣たちだったので見ながらだから考えながら提案する。
「フットラビルは............肥料用に家畜として育てればいいな。これは畑班に割り振ればいいと思うぞ。番っていうのが好都合だから彼らで繁殖すれば数も増えていくし、無理に捕獲しなくてもいい。バーゲージはまぁ、アベさんが狩るだろうし今のところは使い道がないから完全にアベさん用と考えてくれ。バイソンシープはその小人族に預ければいい。一匹しかいないから、彼ら同士でどうにか羊毛を採取するだろうし」
ノートに分かりやすく、建築班、薬草班、畑班と書いておきそこへ割り振る魔獣たちの絵を書きつつ、ぐるっと円を書きながら説明したせいかわかったと一言いってその紙を渡してブラッシングに戻っていった。
これで残りの全部に生命契約を施して、ジャックスの指示に従うようにすれば実質彼に言うだけでそれぞれの運用ができるだろうと俺はもふもふしたいのを我慢して別の厩舎へ向かった。
一連の作業を終えると、今度は北西部の畑へ行き、だいたい収穫を終えた様子の畑を見渡した。作業をしている小人族にお疲れさんと声をかけながら途中であった畑担当責任者のチャイブ老に挨拶して先ほどの魔獣の運用を報告して別れた。別れ際に、一度亜空間側の畑を見てみたいと言っていたので、そういえばと今度は忘れないようにして時間が取れたときにでも見せてあげるか。
それから彼ら小人族の宿舎がある北東部を一通り見回りつつ、声をかけながら南へ向かい最後に南東部の現・建築資材作業用区画、後にため池となる場所へ来た。迷宮"チュートリアル"ラウンジ2階にはすでにここで作られた資材が作られてはゲートで運ばれる作業を行なっている。
そのため、採取した薬草を加工したり、建築班が作業したりと小人族が今の時間一番ここに集まっている区画と言える。
そんな彼らに思い思いに労いの言葉をかけながら、力作業で彼らを手伝っているオーリエのところに向かう。
彼女の今の格好は、懸念した俺があげた黒のタンクトップにジーパンを加工して作ったホットパンツスタイルを身につけている。褐色の肌に合うと思って贈ったんだが、なんていうかすごかった。こう............動くたびに揺れるド迫力のあれがぶるんぶるんと。
ていうか、なんか以前よりもスタイルがよくなっているような?
きゅっとした腰つきやら、以前よりもつやつやした髪やら肌の質やら凶悪なそのどたぷん以外にも肉感的な成長が見える気がする。
食糧の幅が広がったせいか?
............。
いやいや、ずっと見ていたらほら小人族が不審な目を向けてくるじゃないか。
俺はそれをごまかすために彼女に話しかける。
てか、もうすぐ冬なのに彼女は寒くはないのだろうか?
「お疲れさん。どうだ?調子は」
その呼びかけに振り向いて、わざわざ俺のほうまで来て見下ろしながら返してきた。
「順調らシイヨ?タクトは、終わっタノ?」
拙い喋りながらも、以前よりは向上した様子のそれに俺はああ、やっと終わったよと返す。
「お疲れサマ」
そう言って労ってくれた。
アベさんと双璧を成す癒しキャラになりそうだなこの子は。
まぁ、さすがに抱きついてスリスリはできないけど、やりたいけど、できない。
「何をヤりたイノ?」
「え?あ、い、いや、なんでもないぜよ」
ドモりながらも口に出ていたことをごまかすようにオーリエに聞きたいことがあったので、聞いてみる。
「とりあえず迷宮のほうは、予定階層まで空間化したから落ち着いてさ。それで、前に聞いたことは考えておいてくれたか?」
「うン」
前に聞いたこととは、俺の護衛として側近として行動を供にして欲しいということである。それを全体指示をする時に考えておいてと答えを保留にしたんだけど、どうやら答えは出ていたようだ。
「............私に戦える力ガあレバ、チャビンたち守レルし、恩人のタクトのために頑張りたいからやってみタイと思ってるヨ?」
「そっか、ありがとう」
救いだしたいと思ったこと、また力があり戦えそうだという打算の意味でも考えていたのだが彼女は彼女なりに自分の役割を見出しているようだ。それならば俺は彼女のために力を貸そうと思う。それに彼女は今まで戦闘経験はなく、スタミナや力はやはり大鬼族の血が入っているからかなりあるようだが、それを有効的に使えるようになれば彼女の利点にもなるだろうと俺は考えている。
「じゃあ、とりあえずどう訓練するのかを"専門家"たちとも相談して決めておくからオーリエはこのまま彼らを手伝っててあげてくれ」
「わカったヨ」
そして俺はアベさんとジャックスの2人からまずは『オーリエ強化作戦』のための訓練について話を聞くべく、世話をしているジャックスと見回り中のアベさんを集めて自分の部屋へと戻るのだった。
*:隷獣令
生命契約のように指定相手を隷属させられるが、迷宮内でしか使用できない限定的な隷属系の魔法




