第10層「小人族との会議」
1人を除く大鬼族を駆逐して小人族を庇護する立場となった俺は、それら小人族たちとともに迷宮を作っていく上での説明と今後の方針を決めるために長が住んでいたあのゲルのような家に一同を集めた。
といっても、彼ら全員集めることはなく代表者である小人族の長・チャビンとチャビンを支える存在となる3人の計4人に対して、俺らは席――といっても、車座で藁っぽいので作られた座布団のようなところだが――に座った。
すぐに引っ越すことはできないと知ったほかの小人族たちは、一旦荷物を戻してもらった上でゲルの家の別室でみんなで待機してもらっている。
チャビンが言うには、力のある種族である大鬼族が駆逐されたことにより、現在のこの集落は魔物たちによっては狩場のような場所にもなりえるということを考慮しての対処だ。集落がすでに迷宮空間化しているため持って来た魔力回復のポーションで少しだけ回復をして、先の"復讐"で使用した際に用いたこの迷宮のノートにルールを作り『敵性、敵意を持って集落に入ってきた瞬間に金縛りに合う』ルールを課しているので問題ない。
ちなみに外に放置されている大鬼族たちの遺体は、一箇所に集めた後に俺が持ってくる再生のオーブに吸収されて、今後迷宮で侵入者を襲うための魔物として扱われるが自業自得である。、
大鬼族と交渉にやってきたのに、結果は大鬼族は死滅、彼らの庇護にあった小人族との会議だ。世の中何があるかわからないなと思った。
そんなわけで俺は、この世界にやってきた経緯と俺がやっていること、手伝ってもらいたいことを話した。小人族の主要メンツが驚く中、ジャックスは別の意味で驚いているようだった。
「おいおい、つまりはあれはでたらめってことか?」
「ん?」
「召喚されてどうたらって話だ」
「ああ、うん、半分はそうだ」
「認めるのかよ」
そう言ってため息をつくジャックスに俺は言い放つ。
「喜ぶところだぞ。今は生命契約レベル3――つまりは義兄弟級と言って俺が命令しても拒否できる権限にしているんだからな。............ま、今回みたいなことが起こっても裏切らずに逃げなかったことに対する報酬だ」
「......なるほどな、そういう狙いもあったってことか」
そういうことだ。
ここで計画中に逃げ出そうとしたら、俺はすぐに大鬼族にやったように迷宮魔法――言霊令で縛るつもりだった。そのくらいのことをしなければ安心して今後の迷宮運営なんてとてもできない。
まぁ、アベさんはその中でもかなり特殊だけど。
「一体なんのことをいっているんだ?」
話しについていけず、痺れを切らしたのかチャビンがそう問いかけてきた。
「いや、俺が持っている力の話だよ。それでさっきの話をわかった上で協力してもらいたいんだけど、どう?」
「こっちは君の力が解ったし、何よりオーリエを救ってくれた恩人だ。オイラたち小人族は場所は住めればどこでもいいから文句はないよ!」
本来であれば、迷宮前の森を開拓してそこに彼らの集落を作るつもりだけど、それじゃ迷宮というよりも迷宮都市になってしまうし小人族しかいない現状でそこまで考えていないので迷宮内にて住んでもらうという説明はしておいた。
そして、そう言ったチャビンの発言に左右にいる小人族も同意するようにうんうんと頷いている。
ありがたいと思って話を続けることにする。
「じゃあこれからやってもらいたいこととか話し合うために、まずは小人族の人たちが得意なことを挙げてもらいたい」
「それなら、まずワチたちからそれぞれ紹介したほうがよいね」
そういったのは、チャビンから見て右手に座る耳は尖っているが丸っこくて、鼻も丸っこく尖っている小人族特有の容姿をした女性(?)だった。
「ワチは、草の知識を伝承してもらっている『草担当』のチャミルよ。野草、薬草、毒草といった色々な草に精通しているから相談してくれればよいわ」
俺はよろしくと言いつつ、手元のメモ帳に彼女の名前を付け足す。
草の知識が得意というのは俺にとっても都合がいいな。なんせ、今のところは三色のあの薬草しか知らないから。
「おいは、手芸、建築、工作を得意とする小人族の『工作担当』チャマットだい。木製の工作やこの家みたいな建築はおいにまかせるだい」
そうしてチャミルさんの右横に座るチャマットさんは、顎鬚が生えていて全体的に少しふとましい印象を受ける様子だった。こういう特徴がある人は容姿も書きやすいので印象に残るなと考えてメモ帳に記した。
「あての番たね。あてはこの集落で畑を管理してた『畑担当』代表のチャイブたね。人族の好きな野菜があるかは解らんけども、栽培得意だからそういうのがあったら気軽にいってくれたね」
チャビンさんの左手に座る老人のように立派な白い髭を生やした小人族がそう自己紹介をする。畑は現在亜空間で三色薬草を試験的に栽培しているのでそれを見てもらうなりしてもらうつもりだ。その点をメモ帳にも記した。
「オイラは紹介しなくてもわかってると思うけど、長のチャビンだ。オイラは小人族の全体をみんなにまかせてもらってるから小人族に関わる大事な話がある時はオイラにいってくれ!」
そうして最後にチャビンが自己紹介をした。
わかったと了承した上でまず、『工作担当』のチャマットさんに早速、質問してみた。
「工作とか物作りが得意だっていうのは分かったけど、具体的に分かりやすいのってないかな?」
俺の質問に、チャマットさんは頷いてしばらく席を外すと何やら小人族サイズの足の短い4つ足のテーブルっぽいものを持って現れた。
「分かりやすいので言えば、これだい。見てくれだい」
そう言って手渡されたのでじっくり見ることにする。
見ている間に説明を受けていると小人族がご飯などで使う一般的なテーブルということだ。
幅がだいたい40cmくらいの奥行きが30cmくらい、高さが20cmに満たないサイズの正方形のテーブルは角はつるつるしていて木製であるにも関わらずトゲのようなものがなくて手触りがいいものに仕上げていた。裏を見ると、何やら板を並べた状態でそのままホッチキスで繋いだような跡がある。
「これってどうやって?」
「ああ。そりゃこれを使うだい」
そう言って出してきたのが、ホッチキスの芯のような形をしていて両方の先端が鋭く削られた木製の釘のようなものだった。
「板合わせてそれを打ち付けてつなぎ合わせた後に、チャミルの組が取ってきた草を材料にした『接着糊』を塗りこんで表に突き出た尖った部分を木槌で万遍に潰すんだい。あとはチャミルの組が同じく取ってくる草を材料にした『鑢粉』を付けた動物の皮で表面摩り込めば、滑らかになるだい」
言われて表を見ると、この釘が表面に突き出たものを万遍なく打ち付けることによって丁度円の形になっていた。
「なるほど。すごいな」
そう言うと、チャマットさんは褒められて満更でもないかのように鼻を伸ばすようにしてる。そして草の話が出たからなのか手を上げて聞いて聞いてという態度のチャミルさんに聞く。
「話題ででたからついでに話すと、その接着の草は『多粘草』っていって草を切ると白い液が出てくるわ。それを少しずつ水入れながら、根気よく混ぜ続けるとこの家くらいでも5年くらいくっつけておける強力な『接着糊』が作れるわ。そして、擦るものに使う草は『砥草』って呼ばれるものを細かく刻んで小さい石を砕いたものと潰しながら水を入れて、乾かすと木を滑らかにする『鑢粉』ができるわ。どっちもこの集落付近で取れるから守れる人つけてくれるとよいわ。あとは、畑でも栽培可能よ?」
なるほど、便利そうな草もあるんだな。
しかし、この家もこういうテーブルのように作られているのか。
手先の器用さと知識というよりも、もうこれは1つの文化と生活の知恵になるだろう。
俺は納得して礼を言いながらチャマットさんへテーブルを返す。
畑でも栽培可能であるならば、土ごと採ってきて植え替えすれば危険を冒さずとも手に入りそうだな。そうして畑のことを聞いてみようと目を向けると、さっきチャビンの左隣に座っていた小人族の爺さんのチャイブさんがいつの間にかいなくなっていた。
どこに行ったのか尋ねようとしたとき、入り口のほうからすまんのすまんのと言いながら何やら籠を抱えて持って来た。
「チャイブさんそれってもしかして?」
「そうたね。ここで作ってる野菜もってきたね」
そう言って小さな籠を受け取って中身を見ると、何やらじゃがいもっぽいものや人参っぽいものが入った野菜が入っていた。これにたまねぎと香辛料があればカレーが作れるな。
「味わってみるたね」
俺はそれに頷いて、早速ジャージの袖で人参っぽいものを軽く擦って食べてみる。人参よりも甘いが味はまずくなく、寧ろ、現代で食べたことのあるキャロットスティックの人参より美味しく感じた。
それを告げると、ほっほっほと顎鬚を撫でながら――
「それはキャラロと呼ばれる野菜たね。あてら小人族は肉はあんま食わんからそういう野菜を育てて食べてるたね」
「なるほど」
と相槌を打ちながら他の野菜を見ると、キャベツみたいなものも出てきた。しかし、果物がないことに気付き聞いてみると、どうやら果物の種は彼が若い時に尽きてしまったようでもうすでにしばらく作ってないとのことだった。んー、人族の町に行けば手に入るのかな?俺としてはあまり食べないから別になくてもいいんだけど。
ひとまずそのこともメモ帳に書いておいた。
これで一通り彼らのことがわかった。
「3人ともよく分かったよ、ありがとう。すごい労働力を持っているって分かったから、これから頼りにさせてもらう。それで――」
そうして俺はアベさんが持っていた俺のカバンを受け取ると中身を出す。
「俺の迷宮で過ごしてもらい、その知恵を授けてくれる礼には程遠いと思うけどこちらで用意するのはこれらだ。気に入った物があればいいんだけど」
そこには、しょうゆ、塩、胡椒、砂糖、油といった調味料や包丁、フライパン、ケトルといった調理道具、うどんとめんつゆの食品がある。そして、手元から三種のポーションを取り出すとそれぞれの使い方から食べ方といったものまで詳しく教えた。
彼らは驚愕し、歓喜したようでその中でも特に気に入ったものはうどんとめんつゆ、また薬としての緑ポーションだった。彼らの技術や知識にはまだ足りないと思っている俺は今後も彼らの生活が向上できるものがあればそれを用意するつもりだ。
渡した物の反応などを書いて、メモ帳の別のページにこれからのことを書いていき、一通り自分の中でまとまったことを伝える。
「ともかく、現状としてはあなた方の居住空間すら出来ていない段階だからまずそれをなんとかしようと思っている。ここと俺たちが本拠にしている迷宮までは歩きで大体4時間ほどなんだけど、俺の力でどこかの部屋にここと繋げるから引越しは心配しなくても大丈夫だと思う」
そう説明すると、チャマットさんが声をかけてくる。
「その、"めいきゅうくうかん"だかできればあとはおいたちにまかせてくれれば家とか作れるだい。うどんとかめんつゆとか薬までもらったんだい。迷宮主様はただ場所だけ作ってくれればいいだいよ」
「え?一応俺の力を使えば、一部屋一部屋ごとに用意できるんだけど」
俺の答えに部屋?と疑問的な表情をしながらも、チャマットさんが答えた。
「おいたちは非力だから言わば団結して動く種族だい。一部屋一部屋ごとってのはつまり今までのように場所ごとに分けるってことだい?」
「ま、まぁ、そうなるかな?」
「迷宮主様に都合が悪ければそうするだいが、別に迷惑でないんならその"くうかん"とやらを作ってくれればあとはおいたちで家とか全部やれるだい」
負担になるだろうと思ったけど、どうやら彼らはそのつもりだったらしい。
「わかったよ。あなたたちに迷惑じゃないのなら、俺は迷宮空間内にあなた方が住む場所を用意しておくよ。木材とか必要なものはあるか?」
「いんや、大鬼族どもの家潰してそれ使えば、無闇に木を使わんでもいいだい」
なるほど、手間もかからない上で自然にはいいかもしれない。
「了解!じゃあ、チャミルさんは、野草やら薬草なんかは採取をする時に護衛をつければいいか?」
「それでよいわ」
よし、じゃあ護衛役はアベさんに頼むこととしよう。
そんな視線を向けるとアベさんは気付いたようにガウッといって頷いてくれた。さすがアベさんだ。
「畑に関しては、今のままこの集落で育ててもらって畑部屋みたいな場所を作ったら移動させていこうと思ってるんだけどどうかな?」
俺は畑担当のチャイブさんに問いかける。
「それでもいいが、ここは土の養分がいいところたね。できればこのまま使うほうが理想的たね。まぁ、もうすぐ冬だし全部収穫したら次の春まで畑もつかわんたね」
それならこの集落ごと穀倉地帯にするのもいいかもな。
そういや、今は10月の後半か。
となればそれらに従事している人たちが暇を持て余すようだから、あれだったら迷宮開拓を手伝ってもらってもいいかもしれないな。そのことを伝えると代わりにチャビンが答えてきた。
「それは元から手の空いているオイラたちでもやれそうだし、人数が多いほうが作業も進むからまかせてくれよ!」
と言ってくれた。
よし、これで迷宮のほうも順調に進みそうだ。
実際の作業効率とかを見てみないと、開設時期とか分からないからそこはまた考えるとして一気にできることが増えて俺としては実りの多いものになった。
こうしてこれから改めてよろしくってことで、俺は順番に握手していき
自己紹介を兼ねた今後のことについての会議は円満に閉幕となった。




