第30層「会議」
今回の話では、途中挿絵を挟んでの説明をする部分がありますので、
予めご了承ください。
「はぁ~~~~~~~~」
俺のため息が鍛錬室に広がった。
こんなため息を吐く経緯というのはそもそも会議の場をも包んだ呆れという種類の空気に由来するものだった。
あれは、そう――2日前のこと。
「それじゃまずは、父さんが知らないだろうことについて一通り話すよ」
迷宮主邸と言う――いわゆる外向けの会議場として使用される会議室。
そこでは、レティ、サラリーといったD.C組と、それぞれの4氏族(小人族、土竜頭族、兎頭族、人形族)の庇護下組、ロブスタン族と竜爺、プラティという"善意の協力者組"での合同会議が行なわれていた。
最初は、報告からで俺が知らない1週間の間に起こったことなどの報告だ。
「まず、東の大陸の港町に停泊していた迷宮"船"だけど、停泊してあった港町で専用の停泊権を買い取ったから今も港町で停泊させているよ。そして、その船を牽引用にしていた首長竜のクビナも、プラティさんによって大湖へと移しておいたよ......ああ、そうそう。権利金や延滞金は父さんの小遣いから"毎月"減額させてもらっているから、そのつもりでね」
「......あ、ああ」
すっかり忘れてしまっていたそのことに、きちんとフォローを入れてもらっているサラリーには頭の下がる思いだった。月々のお小遣いが減るのは、え~という意味で頭が上ってしまう思いだが。
「そして南西の町に関しては、現在イシャ、ジョイ、アクター、アクトレス、シスターを派遣して"あらゆる復興"をお願いしているところだよ」
怪我人も多数いたしそのための医者役と、元気を与えるための演技者、それからエメリケさんとの町とここの取引などの折衝役としてのシスターかと俺はそれぞれの立場によって動いているということを理解した。
「あとは父さんも知っていると思うから割愛するとして、次はこっちの中央側だよ」
「そういや、結構人増えてたよな?」
「レティ姉さんのおかげだよ」
どういうことかと聞くと、それはレティが今やっている熱血プロベースボール2013(通称ネップロ2013)という俺が当時買ったやり込み系の野球ゲームでペナントレースモードで表示される順意表を参考にして、ランキング表として門の手前に設置したということだ。
「競争意識を狙ったとか?」
「うん! 迷宮"競馬"でも、勝率表示させたからそっちにも結構人が行ってるよ!」
ついでに競馬の売り上げを聞くと、目が飛び出るほどの売り上げをあげているようだった。
金貨が多めにと考えれば、それなりの立場にある人族も訪れているんだな。
ともかく、そんな風に競争意識を煽るために"ここのパーティは今迷宮のこの辺までいってて、これくらい稼いでるよ"と明示することで、それ以外の人にとってはそれ以上に稼いでやると言う思考が働かせることで外部からの呼び込みにも一役買っているのだそうだ。
今後はそういうものも利用していって是非とも迷宮の格を上げていってもらいたいものだと思った。
俺はレティの頭を撫でることで褒めて、次に移らせる。
「次は鉱山のほうですじゃな。......我ら土竜頭族、それから兎頭族の方々による採掘班は、現在のところ鉄鉱石、銅鉱石、銀鉱石......あとは宝石もアメジスト、サファイアが見つかっているですじゃ。鉱石は、エロナ殿の魔道具にて加工し、インゴットとやらにして倉庫に貯蓄してますじゃ。......宝石は、地竜様眷属のジュエロンが付着した不純物を食してくれることで、磨かれる効果もあるため、加工はあえてせずに、インゴットの倉庫隣の倉庫へ貯蓄されておりますじゃよ。引き続き、地竜様の思し召しのまま採掘を続けるつもりですじゃ、こちらにそれらのことがまとめてありますじゃ」
「ほっほっほ、わしはまた土を馴らしたいんじゃがのう」
そんな竜爺の話を耳にしながらも、代表で説明をしてきた土竜頭族の長であるモグドーさんから手渡された資料を読むと中々の採掘量が記されていた。
品質がどれもいいものばかりというのは、竜爺の思し召しのおかげだろうか?
しかし、これだけの量を貯蓄していけば、魔法道具を作る側である俺たちのほうが余らせてしまいかねない量だなと思った。
妖精族らしいドワーフをこちら側で雇えればいいんだけど......。
「モグドーさんとピョゴンさんからも何か要望があればいつでも言ってくれ。その代わりに今後もよろしくってことで......竜爺は、後で俺から概要を説明するけど、湖でも陸のほうで結構な整備をするから、その時にまた頼むよ。酒もたんまりと上乗せさせてもらうからさ」
「ほっほっほ、頑張らせてもらうかのう。プラティニアという同胞との久々の再会も喜ばしいしのう。......まさか、このようなナリをしての再会とは想像もできなんだが」
「えへへー☆ グラン=ディノもこういうのにすればいいのに☆」
「......ワシはこのままでええのじゃよ」
竜爺の本名は、グラン=ディノというらしい。
本来の姿だったら結構合う印象だと感じた。
そんな竜爺は、プラティの返しにため息をつく。
俺としては気持ちは分かるぞとだけ心の中で言っておこう。
「あとは迷宮"集落"や他の糧食関連だけど――」
「それはオイラが報告するよ!」
と言って遮って話し始めるのは、結構久々の小人族の長チャビンだ。
「収穫高は迷宮主のあの人材精霊の力でかなりの品質で保たれているよ!それと、成長が早いから一時は迷宮内の自給率を大分オーバーしていたけど、それを外へと向けるっていうサラリーくんのアイデアのおかげで、順調に消費と流通とでうまくバランスがとれているよ!」
「あとはそれに付随してエウレシアからもそれらの流通の貢献を示す意味で、感謝状が届いているよ。父さん」
「そうなのか。まぁあの王女様なりのお礼ってやつだろな」
チャイブ老の管理された作物は以前からオフクロという調理側からも人気があるらしいし、流通で成功しているのはチャイブ老に感謝をしたいところだ。送られた感謝状はチャイブ老にこそ相応しいと俺は思った。
「それで?......収穫されたそれらは、東の大陸にも流すのか?」
「もちろんだよ。それを糧に、レティ姉さんじゃないけど張り合ってもらい、せいぜいそれぞれの生産品の品質を上げる努力をしてくれればって願うばかりだよ」
なるほど、そういう狙いか。
「あとはオイラたち、小人族内で作られる手芸品とか家具、そういったものも流通させるんだ。オイラたちも自分で作った手作りの品が買われればやる気が増すってものだよ!」
「だろうな」
小人族のテーブルを見て感じたが、草などの知識や木の加工方法をしっかり踏まえた上でそれらをうまく組み合わせた使われ方をしている点は評価に値していたからおそらくだが、彼らの作るものも流通をさせることはできると思っている。これもチャミル、チャマットによる連携の成果が東の大陸の商業力に期待したいところだ。
「そうそう、東の大陸に分布する草とかの調査をしてもいい? 迷宮主」
「それはウルグルフとかを動員してだよな?......そういや東の大陸じゃ魔物とかは?」
「......プラティさんが100年前に起こした洪水、といえば分かるかい?」
「えへへー☆」
............ああ、そういうことね。
「ただ、東の大陸には別の魔物がいる。商業が発展しているところだからゆえの魔物がね」
「盗賊たちか。ハウエルたちを派遣して駆逐しながらもファナの騎士団とともに草の調査やら大陸の調査もお願いするとしようか」
「そうだね。ここのところ、こっちの傭兵や闘賊といったものはここへと引き寄せられているし、あとは訓練の意味も込めての自警による探索で数をある程度残した上でなら東の大陸へも人員を割けると思うよ」
と、言うことで植物の調査、大陸全土の地図作りのための調査も併せて実行されることが決まった。
あっちはこっちと違って、大手を振って調査がやれるから作業も捗りそうだ。
「後は、学校だけだね。これは人形族へ父さんの部屋にあったテキストなどを参考に計算を、それからこちらでの文字についてもレティ姉さんの力で理解した上でそれらを教えた上でリリィさんの協力で年齢問わずに教えている最中だよ」
「わたくしは、主に歴史についてを担当しているのですわ。東の大陸であった出来事......それらは後世に残すべき忌みなるものとして決して繰り返してはならないとわたくし自身も思いましたし」
「そうだな」
宗教における身分制度なんて、愚か以外の何者でもない。
クリアムも言っていたが同じ血を、同じ体を、そして同じ種族であるにも関わらずに人を人と思わないのは明らかに間違っているし。そこらへん、発展したあちらの世界のとある国にもいってやりたい気分だ。
「宵闇様は、現在......迷宮内で使える魔法を迷宮魔道書へと書き記していると聞きましたわ」
「ああ、あれか......ぶっちゃけあれは完全にオリジナルだからこちらで20数年前まで使えていた魔法書とかがあればそれに従うことで"あれの実装"ができるんだけどな」
「北の大陸に、『魔法大国』とされていたところがあると我が一族の伝書に書き記しがあるのですが......おそらくあるとすれば、そちらのほうかと思いますわ」
「北の大陸か......」
魔法がすでに使えなくなっているはずだから、もう滅びててもおかしくはないし、今はまだ東の大湖にかかりきりだからいけるとすれば、その後になる。
一応、メモ帳に情報として残しておくか。
「競馬は先の報告で売り上げ順調で、魔獣馬主も結構増えてきている、と。後は何かあるか?」
「こちらからの報告は、以上さ。あとは迷宮"大湖"のことだけど」
「あ、ああ。じゃあまずは概要からだけど――」
そして俺はモジョ製の黒板を使って"迷宮"大湖"の概要"と書いて、イメージ図を上から順に書きながら説明することにした。
「まず、"チュートリアル"と同様にラウンジとなるのをあちらにも作る。一応、タイプとしてはギリシャ神殿みたいな感じなのを固形化した水上に建築する。 ......これは、以前から事前に決められた内容だったし、多分レティがそれを知っている上で石材、木材の両方を用意してくれてるんだろ?」
「そうだよ!」
確認をして黒板に棒を一本引いた上で、そこに下手な神殿のようなものを書き加えながらも、ニコニコとするレティに心の中で感謝をして、説明を続ける。
「それで、だ。俺が考える迷宮"大湖"は、だいたい水深1000mの辺りから最大水深のあるところまでを広く使った迷宮構成にしたいと思っている」
迷宮"大湖"に使用される領域はとてつもなく深い。
それならば、それを最大限に活かした迷宮構造にするべきだと考えた俺は、前提として平面じゃなく斜面的な迷宮作りを思いついてそれに従って考えた。
平面を探索していくと下り階段があって、そこを降りてまた平面を探索する、といったタイプなんて同じようなものを作るつもりはないし。
そこまで説明した上で、視覚的にも分かりやすいようにイメージ図を黒板へと書き連ねていった。
そして出来たものをしばらく見せながら注意点を説明した。
「まずこのイメージ図は、円錐を真ん中で切ったというイメージで見て欲しい。で、湖の上に建築させる神殿の中は円でそれぞれ別々に入り口が設定されている・......この一番線が長いところのそれぞれの入り口から通路へと出るスタート位置ってことを頭に説明を聞いてくれ」
そう前置きをしていざ説明を始める。
この迷宮における1階層分の攻略は、主に3つの段階が必要だ。
逆三角形表示されているそれぞれの交わる円や書き加えた線の交わる円。
とにかく円となっている場所――ここには、第1の段階となる小部屋が設置されている。
その小部屋にはそれぞれ、例えばだが――『あ』『い』『う』『え』『お』という石版の文字が砕かれた『石版の欠片』が1つだけランダムに置かれていて魔物がそこを守っている。
その魔物を倒してその欠片を入手して第1段階が終わる。
そして、次の段階――第2段階となる丸角の四角で囲われた中部屋に第1段階で集めた欠片を使用することになる。
中部屋には、石版の欠片を収めるための祭壇を魔物が守る形で置かれることになっていて、魔物を倒した後にそこへ正確に欠片を収めると、イメージ図の逆三角の最下にある四角で囲われた大部屋への道が開かれることになる。
ここまでが第2段階だ。
最後の第3段階の大部屋では、『戦闘』か『知恵比べ』がランダムで決定されて、挑戦者はそれをクリアすると次の階層エリアへと進める道とクリアした報酬として宝箱が1つ手に入る。
その一連の流れが、迷宮"チュートリアル"でいうところの1階層分というわけだ。
この図では平面や斜面の線で書かれているが、本来こんな風にただ真っ直ぐというわけじゃない。斜面を意識しているからには上り坂もあるし、下り坂もある――そういう意味での斜面も意識されている。
つまり、この大湖の迷宮とは――
「戦闘はもちろんだけど知力や行動力、そして運も試されるってことだね」
「そういうことだ」
第1段階で得た欠片も正解じゃなければ、また戻って別の小部屋で魔物を倒して改めて欠片を入手しなければいけないからそれらは当然必要になる。
ちなみに大部屋で出題される問題は、こんな問題が用意される予定だ。
例)家畜用のウシ、ヒツジ、ヤギを乗せた馬車が走ってました。
勾配に差し掛かった時、馬車からあるものが落ちてしまいました。
一体、何が落ちたのでしょう?
ある意味で、頭が固い人なんかじゃ解けない意地悪要素を含んだ問題。
多分現実世界で出せば、下らないと一笑に付す問題だろうけど......果たして学習が進んでいないこちらで何人がクリアできるか。
こんな感じで用意されている問題を解くための柔軟さも必要になるし、冷静さ、運も必要だ。それから、道中においても迷宮"チュートリアル"と同じように魔物が現れるのだが、この道中でも注意が必要となる。
それぞれの部屋へと繋がる通路は全てが水の壁となる。
滝のように延々と水が落ちる水壁は、空気を生ませる効果も考慮しているのだが、それとは別に水の落ちる音による聴覚と、ただひたすらに同じ視覚効果によって油断を招かせるようにさせる効果がある。そんな油断した時に突然、水壁から魔物によって襲撃があったとしたら......つまりは、そこらへんも挑戦者は気が抜けないことになるだろうと考えている。
人ってのは単純なものが繰り返されると、集中力なんかが切れやすいとか何かで聞いたことがあるので採用した理由もそうだけど......もっとも、水の迷宮というイメージも踏まえている。
「魔法武器や魔法道具ももちろんチュートリアルとは違うんだよね」
サラリーの質問に、ああと返事をした上で説明をした。
「水属性、反水属性、吸水属性が主なもので、もちろん質も全然違う+2くらいのものを作る予定だ」
水の迷宮なのに、火属性の武器ってある意味自殺行為だろうし。
まぁ、ネタとしてはありなんだけど。
なお、迷宮"大湖"はだいたい50階層分のエリアとなるし、ボスもそれぞれ用意させるけど迷宮"チュートリアル"とは違う点がある。
それは環境と水深を活かした構造になるため、1~20階分のエリアは主に上層と呼ばれて水圧がなく、必要な石版の欠片と置かれている小部屋なども少ない。つまりは入門編みたいなところだ。
中層は上層よりも水圧がかかった上で、必要な石版の欠片や部屋も多くなる。
そして下層は......考えられるレベルじゃよっぽど運がなけりゃ......無理ゲーに等しい。
ボスからして面白そうにボスになる~☆と手を挙げたプラティだ。
まぁ、とてつもなく手を抜いてくれるらしいし、気に入らない人族であればすぐに消すとまで言っているので、その目か水の気に適えばその挑戦者は将来相当大成しそうだと言える。
「概要は分かったよ。それで......実際のところ、かのティニ嬢から手に入れたという魔力凝縮は身につけたのかい?」
「え、えと......そ、その......ま、まだなので一応"仮止め"ってことでエロナに頼んで水を凍らせる迷宮魔法――氷固形付与の『氷結化スプレー』っていう魔道具で......なんとか作業をお願いしたいと!」
土下座にも等しいような謝罪によって、白い目とともに会議はその方向で決着して終わりを迎えた。
「はぁ~~~~~~~~~」
俺のまだできません的な発言の時に漂ったあの微妙な空気を思い出すとまた自然とため息が漏れてくる。
会議後から、今日まで俺はまたすぐにこうして特訓をしているのだが......秘伝というのは難しいものだと改めて思い知らされる結果となるのみだ。
ノートに書かれた魔力凝縮の方法を、何度も読み込んで実行しているのだが......どうもあやふやなものしかできないからだ。
俺の水固形化トレーニングはこうして今日も進んだか進んでいないかの成果とともに終わりを迎えた。




