第27層「眠りし時の1週間」
白銀の竜・プラティニアの劇的なビフォーとアフター劇から立ち直った俺たちは今後のことについて話し合うのだが、その前にもう一度尋ねることにした。
「で、プラティニ――」
「プラティ! んもう~! 次間違えたら、水圧の息吹で圧殺しちゃうぞー☆」
ムチャクチャなことを言うなよ。
というか、あの内臓破裂の奴はそういうことだったのかと納得した。
「わ、わかった。それでプラ......ティはこの湖に迷宮を作ってもいいと?」
プラティニ――プラティはわざわざ決めポーズを作ると、そうだよ~☆と本当に色々な意味で残念な態度と答えを返してきた。喜んでいるのは、キャー可愛いのだーといっているシーアくらいである。
「......まだ色々と、解決してないことはあるが......迷宮の準備だけはしとか――」
「あ、パパー!気がついたんだね!」
と、また遮るかのようにしてかけられた声に俺は驚いた。
「え......?レ、レティ......が、なんで!?」
久々に見る能天気そうな顔で俺の元にやってくる娘が、近づいてくる様子に俺は困惑するばかりである。
「......また能天気って! ま、それはあとでお仕置きするとして――もちろんそこのプラティちゃんに"繋げて"もらったからだよ!」
そして2人して『ねぇ~♪』と言い合うレティとプラティ。
いつの間にそんな関係に? と疑問に思うが、俺はお仕置きというフレーズを聞いて青い顔になっているだろうことに、気をよくしたようなレティは、ニコニコとしてその独特の怖い笑みを浮かべていた。
しかし、繋げてもらった?
俺は、プラティのほうを見るとどういうことだと視線で尋ねる。
「タクちゃんが持っている馬車内のお風呂場から、ここに来るまでに繋げた陣だっけ? それを辿って繋げたのよ~☆ それにね、もう"1週間"経ってるのよ~? 私がちょぉ~っとやりすぎちゃったおかげで、体の中の構造が"変質"しちゃったから、それの癒しのために"めいきゅうくうかん"というタクトちゃんのルールで回復ができるとこで傷とか体力とか回復しても、それ"以外"で1週間かかっちゃったんだけどね☆」
テヘッと舌を出すのは、辞めてほしい。
それから語尾がやたらとキラキラするのもどうかやめてほしい。
あと、タクちゃんってなんだタクちゃんて。
なんか、俺のドラゴン像が音を立てて崩れて――
って......もうプラティについては崩れているか。
というか、馬車内の迷宮空間内であっても回復に1週間かかるほどの変質って一体......。
「あ、大丈夫大丈夫~☆ 魔力とか不老不病効果が失われているわけじゃないから☆ ........................ただ、筋力とか体力が元に戻っただけで」
「....................................え? 今なん......て?」
「だから~☆ 筋力と体力が......タクちゃんがだいたいこの世界にやってきたくらいの頃に戻っちゃったの~☆」
................................................。
――バタンッ!
「パパ!?」
「あ......えへへ☆」
俺は、あまりのショックに気を失って倒れることになった。
そのショックは、こつこつと2年間ゲームをやり続けた結果がある日突然、データが飛ぶことで救いようのない時間の無駄に終わる瞬間にどこか似ていた。
そして、気がついた俺は馬車内の寝室に寝かされて、エロナが何やら管を俺につけてんーっと言っているのにも関わらずぼーっとしていた。
その間にも、エロナとともに来たサラリーが何やら報告しているのが聞こえる。
「――と支配を目的で......父さん? 聞いているのかい?」
「..............................へ? ああ、なんだ?」
「はぁ~......」
ため息をついてサラリーが何やら呆れているが、俺としてはそれどころじゃないのだ。やっとアベさんと組み手ができるレベルまで上げた体力、筋力が一気に元通り――なのだから。
「お父さん~。スネないでよ~......。それで得たこともあるんだし~」
「得た......こと?」
気が抜けていた俺へそう伝えたエロナにどういうことかを聞く。
エロナはうんやっぱりねと呟いて、管のようなものを外して説明をしてきた。
「お父さんの魔力が今まで無属性だったってのは知っていると思うんだけど、なんと! ......新たに水属性の魔力も得たんだよ~!」
興奮しているのか、両手をギュっとして舌っ足らずな口調で懸命に説明するエロナ。
「水属性の魔力......プラティが言ってた変質ってそういうことか?」
「うん~。......プラティちゃんに聞いたんだけど、あのプラティちゃんって完全に水属性でしょ~?」
「そうだな」
「で、お父さんはその攻撃を受け続けてそれを"無理矢理"回復し続けた」
内臓系はさすがにヤバイと感じた俺は、土下座の体勢ができないほどの激痛と命の危険もあったので大分ガブ飲みしたと話す。
「やっぱり~。でね、さらにお父さんのプラス体と言える体質?が、水に順応させるために新たな要素を取り入れたけど~先の無理矢理回復のせいで、回復させるための代償――資源みたいなのが枯渇気味になったみたいなんだよ~」
「まさか......それで筋力とか、体力が?」
「その通り!......で、お父さんの体が『よし!ここは現段階までの体力とか筋力とかを犠牲にした上でもう変質させて作り変えよう~その間、意識は閉じちゃっておこう』ってなって、変質完了するまで仮死状態にあったんじゃないかな~って説明してたよ? レティお姉ちゃんと壮絶な殴り合いをした後でね~」
「え?」
ちょっと待て、最後にすごく聞き捨てならない言葉を聞いた気がするんだが。
「なぁ、今......レティと壮絶な殴り合いって言ってない――」
「言ったよ~?プラティちゃんが繋げた後に、パパが仮死状態に陥っていることを説明していると経緯を聞いたレティお姉ちゃんが、『パパをそんな理由でいじめるようなことをしたの!?』ってキレちゃって、プラティちゃんの胸倉掴んで馬車内の鍛錬室で壮絶な戦いを繰り広げたの~......終わったの4日くらい経った頃じゃないかな?」
俺も決死の覚悟を決めた行動だったのだが、それは賭けの上のなんとやらと聞いて憤慨する思いだったのだがどうやらレティは、俺の予想をさらに上に行くようなキレ方をしたようだ。
嬉しいことは嬉しいのだが......4日もよくドラゴンとガチンコができるもんだと考えたけど、そういえばレティは迷宮内限定でチートだしプラティはリアルチートだからできることかと納得した。それに、2人で『ねぇ~♪』とか言ってたし......女同士でもそういう殴り合いの末の友情とかできるんだろうかと変なことを考えていた時にサラリーが声をかけてくる。
「父さん、こう考えればいいよ。レベル30辺りまで上がって転生してレベル1に戻った代わりにその横にプラスが付与された......ってね」
「レベル1に戻ってその隣にプラスか。なんか、錬金術式練成で初めて質を知った時を思い出すな」
水の包丁を作った時だっけ。
迷宮魔法でじゃなく、人材精霊の珠から作った水精石の時に初めてプラスが2つ並んでこれが質かと理解した。
つまり俺の体も、代償として2つの要素が減少した代わりにそういう質が新たに付与された形になると考えればなるほどと思った。
「ありがと、サラリー。それで今はどこらへんだっけ?」
「今回父さんが事件に巻き込まれた経緯だよ。まぁ、元々の狙いである支配をしたって件のところを話してたからいいとして、続きを話すよ?」
あの長たちの狙いは、北の国と南の国の再興だったよな。
俺がそれを伝えると納得したので、続きを促した。
それから聞いた話では、1週間の間に起こったことの説明だ。
サラリーたち知能組が北西の町へ向かって、商業会長が行なった罪を告発した上での資料提出の要請。
断わった場合は、こちらで掴んでいる南西の町の元・商国長で商業会長とのやり取りを記した書類などを他の町へと提出するという脅しのようなものでわが身可愛さゆえかあっさりと開示してきたそうだ。
その上で新たに分かったこと、それが今回の全容だった。
北西、南西の長たちがしたことは主にこういう順だったそうだ。
その1、プラチィを黙らせる道具と支配する道具を手配すること。
これは、オークの因子を入手した経緯も含まれるがそういったものを取引される裏の売買ルートがあるということだった。そこへ宝玉『胡蝶』という夢見の玉を入手を事前に依頼した上で手に入れたということらしい。その書類を元にそいつらとの取引場所へと踏み込んだそうだが、何やら人的に滅ぼされたような後があったことから、おそらくはレティーナ様によって滅ぼされたらしい。
確か、直接手を出せないんじゃなかったっけ? 管理者って。
と、疑問に思うが今はいいかと次に進む。
後は、相手を支配するというある組織が開発したとされる過去の錬金術における魔道具『隷属輪』のコピー品――劣化版とするものを入手。
こんな感じで宝玉『胡蝶』、『隷属輪劣化版』を手に入れたそうだ。
過去の錬金術の奴ってあの魔剣とかだよな。
それの模造品を作る組織か。
その2、プラチィの住まう湖の小湖へと宝玉『胡蝶』を落とす。
まぁ、これはそのままだ。
あとここで、前々から調査していたロブスタン族の特性というか役割である湖上へ上がっての哨戒活動が1週間という予定を逆算して、その2を実行したらしい。
その3、ある程度時間を置いて、呪い発動不可の確認のため人形族を拉致する。
そうしてまずは北西の長が人形族へと標的を定めて確認の意味で、兵士を伴い拉致を実行したのだが、人形族の非力ゆえに身についた知識"危機察知"によって、南西、北西の側からは逃げ切れたらしい。だが結果的に、中央大陸からやってきた傭兵連中に捕まるが、結局は俺たちが救って身を寄せることになる。
その4、効果を確認した上でシーアを操ったロブタフを使って拉致。
前回の失敗の報を聞いた南西の長が手に入れた隷属輪で、北西側から仕入れた哨戒ルートの情報を元にその時、任に当たっていたロブタフを拘束して、隷属輪で支配した。
これには成功をしたそうだが、北西の長がこの時点で横槍を入れており諜報のようなものを使って南西の査察部隊の任務に北西の町へと届けるようにという内容に書き換えたという。なんというか、この時点でもう欲を出してたんだな北西の長よと俺は思った。
で、査察部隊がその道程の最中に、海岸側となる街道を移動していたのだが、支配していた魔道具が劣化版ゆえの脆さだったためか壊れたことで、支配が切れてロブタフは支配から開放された。
そして、査察部隊の記録では突然反乱を起こしたと記述されているようにおそらくじっくりと機を伺って行動をしていたが、隙を見て樽に入るシーアを連れて海へと脱出を試みをしたようだ。査察部隊の追っ手によって、俺たちが引き揚げた時に確認された箇所を刺されたらしいが、命懸けで逃げることができたおかげで、結果的にはジャックスが釣り上げたことでこれも俺たちの側で救い出される結果に繋がった。
その5、南西側指令書の書き換えに気付き、計画していた独り占めが脅かされそうという理由により進軍。北西側も計画通りに湖へ進軍。
南西側は、そのまま湖側から攻めて奇襲戦法を取ろうしたために俺たちとは、ぶつからずにいた。北西側は、情報が錯綜して南西の査察部隊に気付かれた上で希少族を2つとも手に入れたのではと疑心暗鬼に陥り独占を画策していたこともあるので、こうなったら......!という理由で、オークの因子を使って襲撃させ、疲弊したところで宗教バカが好きそうな救い主を演じた上で自らが率いる軍と、牛の魔物を出現させる時に握りつぶした召喚玉?でまずは時間を置くために湖にて待機をするためにそこまで駒を進めたという。
そして結果的に、両軍対峙、俺が真ん中に突然出現で後は結果両方の長死亡。
という流れが全容らしい。
色々結託とか推測を立てていた俺の予想に結果は、潰し合いの自業自得だ。
茶番以外の何者でもないだろうと思った。
オークの因子というのは、宝石みたいになっているらしくその話を聞く限りじゃあの蛾とか、ラーレンの息子から取り出した石に関連するのかもとそちらの進展もあったようで何よりだ。
なんせ、それらを扱う組織という存在がこれで浮き彫りとなったのだから。
ちなみに因子というのは服用させるタイプだということが分かったそもそもの理由なんだが、あの襲撃の際に倒した巨大オークの遺体を検死解剖したからだった。
今後の対策という理由で解析するために取っておいたあの遺体をジョイの見診とエロナの魔道具的分析による検死をした結果、俺も相当憤慨したんだが、奴らは畜生と呼びやがっていた少年少女たちを拉致した上でそれらの子供たちに服用をさせて、そこからオークを複数生み出したという。
本当に......この世界の穢れた人族ってのは、腹が煮えくり返りそうな奴ばかりだと改めて思う。
解剖後、きちんと処理をした彼らの遺体は、例の亜空間にある施設で丁寧に弔われているということだった。
結局のところ、一連の北西、南西の町における北の国、南の国というバカな再興のために犠牲となったロブスタン族のロブタフ、巨大オークの元になった少年少女という4人を筆頭に、南西の町でオークに襲撃をされたことが切欠で亡くなった住民達という死者の数は、俺が直接の原因ではないとはいえ、初となる犠牲数は結構心に深く影を落とすことになった。
俺が全容を聞いた上で、暗い顔をしていたことに心配げにサラリーが声をかけてきた。
「......父さん、大丈夫かい?」
「なぁ、サラリー」
「......うん、なんだい?」
「俺は、ちゃんとやれているか?......ちゃんとさ、救えていると思うか?」
「......」
俺の言葉にサラリーは黙る。
しかし、メガネをクイっと上げて破顔するとこう伝えてきた。
「父さんたちがこちらに来ている間にね、亜空間でシミュレーションをしている元・奴隷の人たちがこう言っていたよ」
それは――
『我らの力はとても小さい。ゆえに、行き場を失くし奴隷に身をやつした者たちです。本来であれば、我らは早々に生を終える者。......だが、そんな我らを救ってくださった迷宮主様により、今のような生活を送ることができたばかりか、再出発の機会をも頂けたのです、そんな迷宮主様に、我らはどんな恩返しができるのかと考えた時、こう思いました。"立ち上げる村を立派にして、あなたのおかげでここまでできるようになりましたよ"、と......そういった結果をお見せすることで我らは、感謝を示したい』
「......」
俺はその言葉に少しホロっとなりそうになるが、上を向いてあぁ~とか意味不明な声を発して、頭を掻くことでごまかすとそっかと、短く返した。
「......今回のことは父さんの悪癖のおかげで救われた部分も多いんだから、あまり自分を責めずに、父さんは自分を褒めてあげていいと思うよ」
「......すまんな」
「ううん。父さんは弱音を全然吐かない人だったからそれが聞けて、息子としてとても嬉しく思うよ」
「そっか............今後も、嫌というほど聞かせてやるから覚悟しろよ?」
「はは、お手柔らかに頼むよ......それじゃ、話を続けるよ」
そうして俺が1週間眠っていた間の続きを聞くことにした。
北西の町は、暫定的にナンバー2が会長職に就くこととなったようだ。
それらの承認などは本来、商国長と他の商業会長の合意の上で決定される決まりがあるらしい。しかし、先の事件で商国長は不正と水竜のあれ《竜圧》であっさり死亡。
事態が紛糾するかに見えたのだが、そこはサラリー、モジョ、それから今後はこちらの大陸を巡るというシスターによる"お話"によって混乱が起こることもなくまた俺の望み通りに北西、南西の町の長が起こした一連の事件という弱みを握ったがために、商業会長全員が寝込むほどの取引で決着をつけたそうだ。
「水竜の"巫女"に謁見し、認められた者しか会長職に就けない......か」
この大陸における水竜とはある意味触れちゃいけない禁忌である。
その巫女というものに認められなければということは、つまり......後ろで水竜から睨まれながらも町を切り盛りしなければならないという一種の脅し的認識もできるのだ。
また我に迷惑をかけたら、そのときはお前達毎町を押し流すぞ、と。
そんな中でのその職というのは、どれほどの心労をようするのだろうかと不憫に思えなくもない。
それに、水竜の巫女なんて言ってはいるが......それはあの魔法少女化したプラティで彼女(?)の水を司る力で濁っているかどうかなどを調べられて、ある意味で真実の審判にかけられることで決められるそうだ。
それはプラチィなりに前進したこの大陸における最恐最大の力を持つ竜という大陸の女王とでも形容できる歩み寄りを意識したものとなっていると思った。
「南西の町は?」
「ああ、クリアム君だっけ? 彼には神輿役となってもらい共存宗派のエメリケさんが商業会長職と大司教を兼任するそうだ」
「神輿、ね」
「ああ......神輿さ。まぁ彼も、今後父さんが進めなかった道――みんなの希望になるような道を歩いていけるだろうし、バックには油断ならない糸目の御婆さんがいるから、少しずつだけど変わっていくと僕は思うよ」
そうしてサラリーはメガネをクイっと上げると話を続けた。
「......そうそう。僕達が父さんの代理としてあの町へ訪れた時に、クリアム君が会いたがっていたから暇を見て会いにいってあげてはどうだい?」
「......しばらくごめんこうむるよ。知っているか? 俺はあの町じゃ表の顔は変態で、裏の顔は魔王なんだぜ? 表の顔だけで余計なトラウマが増えそうだよ......」
話をジャックスらに聞いていたらしいサラリーは、ああ......うんっと言ったなんともいえない表情でメガネをクイっと上げる姿にため息で返す俺。
「ま、変装とか簡単にできるんだし......折を見ては会いに行ってあげなよ」
「......気が向いたらな」
と言った感じで、この大陸におけるその後のマーチャン商国についてを聞くことができた。にしても、1週間寝ている間に色々なことが起こったもんだなと俺は、さて今度は俺の本業をするかと気合を入れて早速湖の迷宮創造計画に入ることとなった。
次回から、本章のタイトルである大湖迷宮創造編です。




