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第25層「最大級の後始末」

 『我々は、困難を乗り越えました。しかし、これで終わったわけではありません。......魔王なるものが現れた理由、光の女神なる御方が光臨されて我々が畜生ブルットなどと言い捨てていたこの少年へ祝福を与えると共に、かの魔王を追い返した奇跡に感謝を』


 大仰に手を広げると、演説場から広場へと高らかに声をあげるエメリケさん。


『そして......その後に起こりし"禁忌種オークの大襲来"さえも赤き雨を降らせて凌ぐという奇跡もまた感謝すべきことです......しかし決してその奇跡に驕らず、また、かの御言葉"ありのままに享受することなく、自らの意思で行動をなさい"と言い残して去られた祝福の女神様のその御言葉を今一度深く考え、現在のような過去から続く悪しき呪縛を、子供のような意思と行動から脱却をするのです。立ち上がりましょう!......自らが大人となって歩むために!』


 と言った内容の演説が、俺達の後方に位置する広場から聞こえてくる。


 自分は教会の地下に囚われていたために、全くそういう危機に直面してないこと、そして、しれっと大人の文言を入れている辺り、あのエメリケさんってのは食えない男だと思った。


 そんな俺は、意識を噴水の前に戻すとシーアへ話しかける。


「しかし......この馬車とか、俺たちまとめていけるなんてさすがだ!」


「う、う、うん......まぁ、まぁな!......なのだ!」


 何をドモっている?と思ったのだが、俺は御者台へ乗ると仲間達が全員乗り込んだ馬車を噴水へ近づけた。


「それよりも、クリアムやあのばあちゃんに何も言わなくていいのだ?」


「ああ。今はこの町の復興のために頑張ってもらわないとな」


「そっか......なのだ。それじゃあ、そろそろ転移させるのだ!」


 俺は頼むと一言伝え、シーアは頷くとすぐに噴水の水を膨れ上がらせて俺へと水をかけて水技を発動させた。


「――なのだ。......水送――《アクエリア・ルート》!」


 発動前に何か言った気がしたが、俺は気にする間もなくその技を受けた。




 その結果――




「な、なんだ......貴様は!」


「お前たちがなぜここへ!......それに、貴様は......誰だ!?」


 ............あれ?


「なぜだと?それに貴様......今のわしを誰と心得るか! 忌々しくも報告改ざんしおって!......前からおかしいとは思っておった......だが、その軍はやはり、そういうことだったか!」


「バカな! オークどもを倒したとでも――」


 ......シ、シーアよ。


 何で俺だけいきなり敵陣ど真ん中に転移されているんだ?


 俺は御者台に座り、シーアからその力を受けて転移したはずだ。

 だが、今見る限り俺は両軍が真っ向から事を構える位置の中央ドンピシャなタイミングで1人きりで転移させられていた。


 周囲を伺っても、仲間も馬車も影も形も見えないのがその証拠に。


 俺は両方から何やら言い合っているのを無視する形で、後ろを振り返った。

 そこにはでかい――写真で見た琵琶湖よりも、さらに広大なる湖が広がっているのが見えた。


 少なくとも、琵琶湖では見渡せばすぐに島のようなものが見えていたはずなのに、この大湖には、ただひたすらに水平線が広がっていてまるで海に来ているかのような錯覚を覚えるくらいに広大なのだ。


 海外といい、別世界といいスケールが違うな、色々と。


 そして、周囲は湖があるのにも関わらず何かカラっとした空気が乾いているようなものを感じたことによって......まぁ、両軍が傍にいるんだから当たり前だろうが転移は失敗していないようだ。


 なぜかは分からないが、気を取り直すか。


 折角、昨夜企画した内容はご破算になってしまったが、まぁいいやと俺は今回のことにおけるあらゆる総仕上げの『復讐』を実行させてもらうことにした。


 とりあえず、自己紹介はさせてもらうかと俺は咳払いをして両軍へと話しかけた。


「こんにちは~。北西の町の商業会長さんに、南西の現マーチャン商国長でもある商業会長さん。......俺は迷宮創造主のタクト。......ま、覚えていられるほどにこれからお前達"2人"が耐えられるのか疑問だけど!」


 改めてみると、俺のトラウマを誘発する規模の人族がいるという認識が今頃になってやってきたこともあり、いつものように震えが襲い掛かってくる。また、不自然な発汗をしてきたが今は耐えることに努めて、両方へと不自然とならないように気合を入れて凌ぐことにする。


「な、何を......? それよりも貴様! もしや南西の――」


「妙な格好なるそこの者など我らは知らん! 貴様が――」


 折角の自己紹介に水を差された形で、再び言い合いをする2人の長に咳払いで対抗して黙らせることにした。


 そして――


「ああ、北西さん......言いにくいからそう呼ぶけど、そのオークとやらは俺らが駆逐しといた。......どういう手段で生み出してきたかは知らないが、あんたも酷いことをするよな? ......それに、その後に自らがそれらを駆逐した上で他の町へ我らは力を持っているぞアピールとか......はっきり言って、オークを舐めすぎだぞ」


「な......!貴様ぁぁぁ!オークを、禁忌種を使いおっただと!?」


 憤慨する南西さんを無視する形で俺は、ため息をついて逆に問いかける。


「お前さんはお前さんで、ここに住まう水竜を眠らせるための――胡蝶の玉だっけ?......それで動きを止めて、共謀しながらもシーアやリリィたち人形族という希少族を"独り占め"して他の町を支配しようとは、人のことが言えたクチかよ」


「ぐっ......」


 図星を指される形となった南西さんも黙り込む。


「まぁ、後のことはそれぞれきちんと聞くことにする。まずは、お前らが構えているその武器を持っての話し合いってことで」


 その言葉に反応をしたのは、南西さんのほうだった。


「武器を持って話し合うだと!? ふ、ふははは!! 何の武器も持たぬ貴様1人で何ができると言うのだ? それに、この軍の規模では北西の軍をも飲み込み食らおうぞ!」


 何を自分に酔っているんだと俺は、その自慢の軍勢を見るとだいたい20000人ほどくらいだと推測する。あの町でこの数が多いのか少ないのか分からないが、まぁいいだろうと俺はため息を吐いて頭を掻くと静かに伝える。


「ま、"50%"で全滅をさせることは充分できる......かな」


「ご、50? な、なんだそれは!?」


 パーセンテージの意味が分からないことで、舐められたとばかりに殺気だった南西さんに比べ、北西さんはどこか余裕を感じさせている印象を受けた。


「くっくっく、戯言に踊らされるな......それに、どの道我ら以外は皆殺しだ!」


 そして、北西さんは手のひらほどの何かの玉を握りつぶすと周囲に光がはじけていくと、やがて北西さんの前には体長3mほどの牛の魔物が現れた。


 初めて見るその魔物に、俺は豚に牛のそれに......迷宮を作った頃が懐かしいなと望郷の念を感じるのみだった。


 さて、調子付かせるのも面倒だしそろそろいいか。


 俺はとっととこの茶番を終わらせるべく手元から束となった折紙を取り出す。

 そして右手には指揮棒を用意すると、言葉を告げた。


「......南西の町じゃ、魔王になったり、変態の烙印を押される結果になった分............終幕くらいは豪勢に、俺自身が最大といえる技をお見舞いしても......バチは当たらないだろ!」


 それと同時に俺は指揮棒を折紙に当てると、大よそ半分ほどの魔力を込めるとともに最大の技を発動させた。


「大折紙――八百万ノ紙蛇ヤオロズノオロチ!」


 すると、光に包まれながら折り紙の束は、空に駆け上がりながらまるで天井に設置する雨よけのように広がると、それぞれが混ざっていく。

 それらはやがて、1匹1匹の蛇へと姿を変えては、脱皮する蛇の如く分裂してはまた増えていく。1匹が2匹、2匹が4匹――といった、そんな規模じゃない。


 100匹が、1000匹、1000匹が10000匹という規模で増加をしていった後の周囲一帯は、まるで厚い雲に覆われた昼間なのに不気味なほどにくらい空間を作り出していた。その不気味ともいえる空間に、二の句もあげる事ができない両軍は空をただ見るのみで呆然としていた。


 そして――


 そんな彼らに、まるで獲物を見つけたというような紙蛇たちがヒューっという軽い音と燃えるような赤い光に包まれながら、降り注ぎ襲い掛かっていく。


 防ぐものや切り捨てるもの、様々な行動で対応をするのだが、如何せん数が違いすぎる上に落下時の熱によって辺りはまるで真夏とも言えるほどの気温となって、次々とその紙蛇の牙の餌食となっていった。


 辺りに響くのは怒号に悲鳴、絶叫といった音と残酷に彩られた地獄絵図。


 多分俺がこっちに来たばかりの頃にこれらの光景を見たならば、情けなく吐いていたであろうその光景は蛇たちが全て落ちきった時、改めて威力の高さを物語るような光景が広がっていた。


 イメージしたのは、何を隠そうあの隕石魔法だ。

 質量が全然違うが、それを数で補うことで同様の効果を示した形となるそこには色々な"残骸"と2人を残すのみとなった。


「な......な、なん......」


「こ、こんなことが......こんな力が......!」


 俺は、半分の魔力を使った弊害からか、急激な虚脱感に襲われていた。

 しかし、トラウマの条件が失せたこともあって四肢に力を入れ直すと体勢を整えて2人に伝えることにした。


「お前らが相手にした奴は、こういう力が振るえる奴だってことだ。殺すつもりはないから大人しく――」


 と言ったところで、突然大地が揺れるのを感じた。


 地震か? と思ったのだが、そういった揺れではないと思い直してじゃあ何がと思ったところへ今度は一箇所だけ、大きく揺れているところを見つけた。


 それは、大湖の中心に広がる水面だった。


 段々とその揺れは激しくなっていき、やがてザバーっといった震動を伴う大きな水音とともに太陽すらも覆い隠すかのようなほどの巨大なものが現れた。


 太陽を背にしていたために、最初はよく見えなかった。


 そのため、よく見てみるとそこには白銀の鱗らしきものが太陽の光を取り込むようにしてキラキラと光る何かがいたのだ。


 カメラのズームを引くようにして全体像を見ると超巨大と言える頭は、300mほどの高さまで伸びている。


 頭だけで100mはありそうなその竜というよりも龍というほうが正しいと思った俺は、その姿に驚愕よりもまず先に美しいと思ってしまっていた。


 未だ開いていなかったその目は、やがてゆっくりと開いていく。


 すると――


 ――ドクンッ


 ただ開き、見つめてきただけの目に俺へと襲ってきた衝撃のようなものは、ドクンとした心臓の鼓動音とともにあまりのことゆえか自然と座り込んでしまうことになる。全身から血が抜けるかのような冷たい恐怖――いや、恐怖などというのもおこがましいほどの何かを俺のあらゆる五感は感じ取っていた。


 すでに手の先からつま先に至るまで全身震わせ目からは涙、鼻からはだらしなく鼻水を垂れ流す状態の俺は、それでも耐えて覚悟を決めると様子を伺うことにした。


 俺の状態など興味がないように睥睨している白銀の龍口が開いた。


われ――プラティニアが保護し育むものを愚弄したるは"お前"か?」


 お前?


 ......いや、お前達の聞き間違いだなと周りを見ようとするのだが、俺は抗えないモノに蹲るばかりで周りを見ることができなかった。


 そんな俺へとまるで呆れるような口調で、プラティニアは衝撃的な言葉を投げかけてきた。


「蹲る人族の子。......今は、貴様しか生きておらん」


 俺はその言葉に、驚愕をする。


 え? 俺しか生きていない? という言葉に。


 つまり、奴らはとっとと楽になる道を選んだということだ。

 思わず俺は心の中で唇を噛み切るほどの悪態をつくこととなった。


 責任さえもとらずにさっさとリタイアとかどこぞの国の偉い人かよ、と。

 それよりもあいつらが死んだことで全容がこれで語られることはなくなった。


 ......というか、今はそれどころじゃない。


 って、あれ? 口が......言葉がでない。


 それに気付くと俺は、いつの間にか歯がカタカタ揺れているのに気付いた。 一度噛み締めるが、どうしても震えるそれを抑えられそうにはなかった。


「......我の言葉は無視か。......人族にしては良い度胸」


 そして俺は、何かをされたのか唐突な衝撃を体全体に食らうと、それに抗えることもなく吹き飛ばされた。ぐっ! と思わず出た言葉しか発せない自分を情けなく思うが、言葉が出ないのならばと俺はせめて体勢を取ることで示そうとして、先ほどの一撃で相当なダメージを受けたにも関わらず、あらゆる体の箇所を無理やり動かしてはその体勢を取ることにした。


「......なんのつもりだ?」


「こ......こぇ......カタカタカタ」


 くそ、だめだ。

 話そうとするも、やっぱり歯がなってしまい満足に話すこともできない。


 なので俺は、心で思うことにする。


 (せめて......せめてもの俺なりの謝罪だ)


 と、そしてこれは俺なりの誠意を込めた最大の謝意・土下座だと心の中で伝えた。


「土下座......だと? 貴様は、そんなもので我のこの怒りを抑えられると思っておるのか? ..............................ふざけるな!」


 心の中で思っただけで伝わったのはよかったが、どうやら土下座という行為が白銀の龍の逆鱗に触れたように大声で一喝されるとその声がまるで俺の体を通り抜けるかのように襲ってきた。


 そして次の瞬間、内臓が収縮していくのを感じた。

 後にそれらが無理だろうというほどに膨張をするとあっけなく破裂していくのを感じた時、口から耳から鼻からといたる穴という穴から、血を噴出して猛烈な激痛が襲いかかってきたこともあり俺はそれらに耐えることができずに、もんどりを打ちながら体を転がした。


 生存本能ゆえか闇が訪れそうなのを感じて、命がと思った俺は、生命に関わる火事場のバカ力とでもいうように激痛に襲われる手を動かし、ポーチから内服薬の最高級であるポーションを強引に口へ押し込んで、必死で飲み込むことで内臓の回復をさせていった。


 プラティニアの怒りに対して、こういうこともあるだろうと念のために用意しておいた薬の存在に自分を褒める気持ちとともに、回復させる時間を惜しむかのようにして俺は体勢を戻して土下座を続ける。


「謝る気持ちがあるならば......今与えた激痛を伴う死を受け入ればよいものを......貴様は、それを否定するのか?」


 俺はそれに反論をする。


 (死んだら、謝ることができない。 俺は、ここへ断罪と謝罪をするために来たんだから)


 地べたに這いずりながらも、未だ襲ってくる激痛と回復の板ばさみのままで白銀の龍へ意思を伝えた。


「......随分と都合のいいことを言う。我の怒りはこれほどのものではないと知れ!」


 そして襲ってくるのは、数々の死を伴うかのような攻撃の数々。


 血液が沸騰するかのように血管から血管へ循環すると、耐えられないところから破裂しては俺へさらに激痛を与えてきたり、骨と言う骨の全てを折られて崩されるが、全てを崩される前に牛乳と薬とを混ぜ合わせたものを飲み込んで対処するといった俺にとっては初めてとなる生と死の狭間における忍耐の戦いが始まった。



 (人族が申し訳ないことをした)


 (ごめんなさい)


 (すいませんでした)


 そんな言葉を心の中で伝えながらも攻撃はいつ果てるとも知れないほどに続いていく。


 自分の体がよく分からなくなるほどに、あらゆる攻撃がひっきりなしに襲い掛かってくる。俺は構うことなく、ひたすら同じ体勢を整え続けて謝罪を繰り返す。


 土下座が出来なくなる状態になった時は迷うことなく薬を飲み、それ以外はひたすら土下座をしながら謝罪するという――その連続だった。


「忌々しい......貴様はいつになったら挫折して死を受け入れる? また、いつ我へ敵意を向けて......あっさりとその命を諦める?」


 俺は、その言葉に働かない頭を総動員して心の中で叫ぶ。


 (いつまでも)


「......」


 俺の言葉を待つようにしているのか黙るプラティニアに俺は続けた。


(あんたが許してくれるまでだ)


 まずい――

 さすがに無理が慣れている俺でも、意識が......とそんなことを感じたこともあって、さらに俺は早口となり伝えたいことのために集中をした。


(あ、あんたの怒り......それを俺が理解することはできない。......だが、昔と同じ愚かしいことを反省せずに繰り返すといった行いである今回の人族の計画については同じ人族である俺ですら怒りが沸く思いだ。リリィもシーアも、本当にいい子たちだし......あのロブスタン族――たしかロブタフだったか。あの水棲族もシーアのために自らの身を犠牲にして守ったというその誇りは素晴らしいと感じた)


「ゴホッ!......ゴボ......ゴボゴボッ......オエッ!」


 肺だろうか、回復仕切れなかったために溜まった血が大量に口から出てしまう。

 だが俺はそれに構うことなく話を続けた。


(こ、今回ここに来るまでに俺もこちらの人族も同様に愚かしい奴らだと思っていた。だが......中には俺が気に入った光となる存在もいたんだ......他の奴はどうでもいいけど、俺はそいつらを失いたくない。......こ、こうして......土下座しか......できな......いのが心苦しいけど......俺が、全て引き......受けるから......だ、だから、今は......どうかその怒りを......)


 そして――もうすでに意識が限界まで訪れたせいか、もうこれが最後の力だとでもいうように俺はプラティニアの告げたあることに文句を言うため、心外だという多少の怒りを持って思いを強くして語りかけた。


 (あ、あとな......俺......はドラゴン......のことが好きだし、憧れだ......し、敬意を......持っているから、ぜ、絶対に......敵意を向けたりはしない! 敵意......なんて向けたら、好きとは言えない......だろ?......敬意を持っているとはいえないだろ......!? ......ふ、ふざけんなよ、クソ野......――)


 と、もう自分でも何を考えているのか分からないままに、俺はやがて意識を閉ざそうとしていることに気付いた。


 まだまだ伝えたいことはあると思った俺は、急いで薬を取り出そうとした。


 その時――


 たった一言だけ......はっきりと聞こえた言葉に俺はただ純粋に良かったこれでけじめはつけられたと安心して、そのまま闇に沈んでいくのだった。


 なぜさっさと殺さなかったのかを気にする余裕もなく。







「見事」




 と、言うその一言で。

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