第20層「予想外は突然に......」
ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ。
俺の予定外の登場における衝撃を"え"の一文字で表せばそれくらいのサプライズであった。
今作戦における『魔王と勇者のヒーローショー』の締めくくりが、まさかこんな流れになるとは思っていなかった俺は、仮面をしてて良かったと本当に思ってしまい、あまりの衝撃で棒立ちとなってしまっていた。
それは、周囲にいたジャックスもクリアムもだ。
("..................おい、あ、あの金色......お、おい......")
もはや意味の分からないジャックスの念話は、今の俺にも理解ができる。
まるで狙ったとしか思えない"演出された登場"の仕方もそうだけど、"管理者"ってのは色位から察するにそんな簡単に人族の前に登場してもいいものかという考えもあり、本当に予想外である。
ちなみに、住民全員もあまりの光景に言葉もなく、ただ自分たちの上に浮きながらその神々しく放たれる光ゆえか恍惚といった表情でレティーナ様を見上げていた。
そんな派手な登場をしたレティーナ様は、広場の中央10mの位置に浮かんでいる。その姿は改めて見ると、いつものOL的な格好じゃない。
なんか神聖な衣のような衣装を身に纏い、その素敵すぎて逆に直視し辛い体の線のようなものがはっきりと分かるくらいだ。また、朝焼けの光のためか、自身から発する光か......その輝きは、綺麗な金色の髪を後ろに流してキラキラとしていて、とても神々しいものを感じるものとなっていた。
――その姿はまさに女神だ。
そんなレティーナ様は、俺のほうへと視線を移すとゆっくりと口を開いた。
「我が名は祝福の女神レティーナ。勇み立ち、自らが蔑まれようとも蔑む者たちのためにと戦う――その心に感銘を受け、祝福を与えるために参りました」
("タクト、お久しぶりですね")
そう語る美しいその声の裏では念話によって、呼びかけてきたので俺もジャックスたちにしているようにして答え返してみた。
「......女神だと?!」
("お、お久しぶりです。......ただですね?、今回のような本気でびっくりさせるサプライズはやめてほしいです。あ、お時間が取り辛いというのは重々理解してますよ?......ますが......あの......今、大事なところなんで......")
すると、レティーナ様は俺にしか分からない笑みを浮かべる。
その笑みは、例え俺個人が女神様と崇拝する御方とは言え、どこかレティに似ている意地悪な笑みと感じたこともあって若干イラっとさせていただいた。
「迷宮の魔王なるものよ、私が顕現したからにはあなたの思い通りにはさせません」
("申し訳ありません。......ここ最近はこちらでも作業が立て込んでいたこともあって状況を知ることもできずにいたのですが、何とか時間が取れたので久々にあなたのいる場へと来てみたのです......すると、なんとも楽しそうなことをされているではないですか、どうか混ぜてはいただけませんか?")
た、楽しいことって......。
それに混ぜてくれって......何もこれは鬼ごっこをしているわけじゃない。
それに今はわりとクライマックスに差し掛かっている段階に来ていて、本音を言えば別にレティーナ様がいなくても成立しそうな流れなんですけどと思ってしまうが......レティーナ様の頼みとあっちゃ仕方ない。
少し考えた後で、俺は路線を変更させるべくレティーナ様へ演技をしながら念話で頼んでみた。
「忌々しい奴め......!消えるがいい!」
("りょ、了解です......。それじゃ、失礼ながらも、ちょっとだけ折紙で攻撃させてもらいますんで、対処をしてください")
("分かりました。......分かりやすい方がいいですか?")
("あ、はい。結構派手な方がインパクトもあっていいんじゃないかと。攻撃をこう......一瞬で消すようなもので!")
("わかりました")
と、表では物騒なやり取りをしているはずの裏側で、レティーナ様との打ち合わせを終えると、俺は分かりやすくも派手な炎折鶴×10をレティーナ様に向けて放った。
辺り一面を火の海にするどころか、規模としてはこの町でさえとも言えるほどの熱量に......すぐ近くにいる2人は、そんな熱気をジャックスもクリアムも手で避けて後方へと移動して様子を伺う。
2人がそれほどの反応を見せる熱を伴う炎折鶴10羽は、俺の指示によってまるでスクランブル発進をする戦闘機のように、レティーナ様へ突っ込んでいく。
普通の人であれば、もはや影も形もないであろうその熱量を伴って攻撃するそれはしかし、レティーナ様の手前に差し掛かるといつの間にか黄金の光に包まれた手で触れるように止めると、輝きとともに、一瞬で分解をさせ消し去ってしまう。
それを見て、わかってはいたが、さすがレティーナ様だと言う感心を仮面の中で浮かべるのが自分でも分かる。
そしてそれは住民達にも効果的だったためか、おおー!という歓声に包まれ、そんな住民の中には跪いて祈る姿もあったのが俺の目に入った。
住民達の注目がレティーナ様に移っている間に、俺は仮面の下からおいっと呼びかけて2人にわざと攻撃を仕掛けてこいと指示しながら今後のことを話した。
「ジャックス、クリアム。あの空中に浮いている人(?)は俺の知り合いだ。だから、多少路線変更ではあるが、予定通りに続けて俺へと攻め立てろ」
「......後で訳は聞くからな」
「へぇ~、あんなすごそうな人と知り合いなんだね!さすがはあんちゃんだ!」
いや、へぇ~って。
レティーナ様を見てそれだけで済ますクリアムって実は相当アレなんだろうかと俺は思ってしまった。
そんな会話の中でも双方は了承を示す形で、俺への攻撃が再開されていった。
先ほどまでは、まるで国葬でも営まれているかのような空気に包まれた広場はレティーナ様登場以後、俺の攻撃を一瞬で消し去るというその力のためかまさに、国の王の御懐妊を祝う式典の場にいるかのような空気に包まれていた。
本当に人というのは都合が良く、現金なもんだと考えた。
てか......。
まだかな?
この広場の目に見えるこの町一番と言える大きな屋敷からなんの音沙汰もないことに疑問を持つと同時にそういえば、そもそもここに来たことを今更ながらなんだっけ?と2人と適当に戦いながらも考えていた。
確か、ここに来たのは航行中のときに船から引き揚げたロブスタン族の遺体とリリィ、そしてこの町の査察部隊の長から聞いた話が元だった。
えと......たしか......。
......。
............。
......................................................。
............................................................あ。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ここに至りようやく思い出した。
そして、何しているんだ俺はという後悔もであり、演技をしていたはずの俺は実際に声をあげて仮面に包まれた顔を思わず抱えてしまうこととなった。
("お、おい!一体なんだいきなり?")
予定にない行動ゆえのジャックスから念話は、そういえばと思いなおして俺はあることを叫んだ。
「お、おのれぇぇぇぇぇぇ!!女神レティーナとやらの力による攻撃で我の魔力をなくすというその試みに危うく消されそうになったわ!!......ここは引き下がっておく!だがな!」
("レティーナ様、すんません!俺、ここに来た目的を実行するためにここで消える演出をしますんで、あとは民衆にそれっぽいことを説いて適当に消えてください!")
("え......え!? あ、あの、タクト?")
と、唐突な撤退を伝える俺にえ?そんなんだっけ?というような視線を仕掛け人全員から向けられ、念話でレティーナ様に頼んで初めて戸惑うレティーナ様という貴重な姿に癒されながらも、構わずに続ける。
「我はこやつらから受けた傷を癒すために、しばしの眠りにつく!だが、覚えておけ!我はいつでもお前達のあらゆる悪意という美酒を喰らうため、再びこの地に訪れんことをな!......今度こそ、今度こそは貴様らの絶望と苦渋に満ちた顔によって育まれた死を貰い受けようぞ!フハハ......フハハハハハハハハ!!!!」
俺はそうしていつの間にか傍に寄ってきたオーリエ、アラーネ、ティニを抱き寄せると消える演出を行なうために折紙で煙多量化させた魔紙に火をつけて、煙が充分広がったことを確認すると、脱出用にこっそり壇上の下に道を掘って開通させた穴へと飛び込んでいった。
待て!とかそんな言葉が聞こえる中で脱出をした俺たちは、通路に出た。
念話越しに俺たちが去った後にレティーナ様のアドリブによるありがたい説法と何やらそれらを恐縮そうに拝聴する民衆達というのを聞きながらも、俺はあることが元によって生み出される猛烈なる不快感を通路用の穴の横河で全て吐き出すことにした。
「タクト、だいじょうブ?」
人の嘔吐する姿なんて気持ち悪いだろうなんてことを感じさせずに近寄っては、優しく背中をさすってくれるオーリエに一言礼を言いながら、しばらく座らせてもらうことにした。
「......迷宮主様、これを。精神安定効果のある牛乳ですので、"とらうま"と呼ばれるものによる不快感も落ち着くはずですの」
そうしていつの間にやら用意したのか、手に持ったおちょこサイズのコップに注がれている何やら気分が落ち着く匂いのする牛乳を渡してきた。
俺は礼を言って、それを一息で飲むと深く息を吐いた。
「............そこだけが心配だった。やり遂げられて良かった」
という言葉通りに、俺もこういうところだけは心配の種でもあったが、やり遂げられて良かったと思う。
「ま、まぁな......。あと、アクター......もういいぞ。力もほとんど残ってなかったのに悪かった。もう後は大丈夫だから、迷宮"馬車"で休んでてくれ」
そうして頬から分離したアクターが、俺へ気遣いの言葉をかけてくる。
「マイサンよ、話には聞いていたが......厄介なモノに悩まされているようだ。それにマイサンも昨日から寝ていないだろう、始末をつけたら休むことだ。では、お先に失礼するよ」
そうして優雅に去っていくロマンスグレーな息子を見送り、息をついた。
ちなみにアクトレスのほうは主に叫び声を上げる演技力やら、誘導中の住民を落ち着かせる役となって行動した後に報告をして、今は南門側にあったとされる馬車置き場に置かれた迷宮"馬車"で休ませている。
アクターによる演技の力で、本来なら起こるはずの大人数前でのトラウマからくる様々な症状は抑えられていたが、そのリバウンドというのは相当なものだ。
水竜に頼むことができたら、これもできれば治してもらいたいものだ。
やがて落ち着きを取り戻した俺は、まだふらつく体をオーリエに支えてもらいながら急ぎ足でこの穴の脱出口へと足を進めるのだった。
脱出口から外に出て、広場から50m南の噴水近くに作られた出口から広場のほうを見ると、説法が終わったのかレティーナ様はとっくに消えていて今は何やら勇者クリアムー!とか、歓声に沸いていた。
今までのことがまるで嘘のような掌返しとなった広場の雰囲気に俺は思わずボソっと本当に調子がいいよなと呟いてしまう。
「あんなに神々しく現れた美しい女性が女神を自称して、祝福を与えたなんて言葉を伝えたら分かる気がするヨ?タクト」
オーリエの言葉にまぁ、そうかもなと返事をしながら屋敷へ到着すると、人がいないかを確認しながらこっそりと入っていく。
とても広大と言える屋敷の中は、しーんと静まり返っていて誰かがいるという気配は感じなかった。
「............逃げた?」
ポソっと呟いたアラーネの言葉に、俺はまさかと答える。
「この町の長だぞ?さすがにそれは......」
そうしてしばらく探索するが、この広い屋敷内のどこにも兵士どころか人っ子1人いないという結果に終わった。
そんな俺の元へと、先ほどの場を納めたレティーナ様が突然現れた。
「タクト、いきなり私にあんなことを言い出して逃げ出すとは......少々やりすぎだと思いませんか?」
そこにいた素敵すぎる金色の存在は、眉毛をハの字にまげて少々子供っぽいような感じに映った。
「す、すいません......。ちょっと俺も唐突に自分がやるべきことを思い出してしまったもんで、つい!」
言い訳をしながらぺこぺこと謝った俺に、レティーナ様は仕方ありませんねと伝えてきた。
「その3人は、あなたの迷宮を支える仲間の方々ですか?」
「あ、はい。オーリエ、アラーネ、ティニ......は取引上って感じですけど」
と、説明をする俺にティニは何やら私も仲間ですのと言った目を向けてくる。
「......あなたが、ここ――この世界にタクトをつれてきてくれた――神サマ?」
紹介した後に、オーリエは前に出るとレティーナ様にそう問いかけた。
「私は女神などという立場にはありません。ただこの世界を管理する立場にあるだけです。そして、先ほどの質問の答えは、はいですが......それが何か?」
その答えに、オーリエはいきなり頭を下げて言い放った。
「あなたがタクトを連れてきてくれたおかげで、チャビンたち一族と私が救われたヨ。だから、ありがとウ」
「オーリエ......」
本当にこの子はと俺は改めて思った。
優しくも、穏やかでありながらこうして純粋に相手へと感謝ができるいい子だ、俺は改めて彼女を救うことが出来てよかったと思った。
そしてそれは、アラーネも続くようにして頭を下げていた。
「............私も、あなたがタクト連れてきてくれたからあの蛾のような男の鱗分から救い出されなくて今は奴隷も同然の生活してた所だった......だから、ありがとう」
続くようにしてティニもまた頭を下げている。
「私は、迷宮主様のおかげで声を取り戻したましたの。......もう2度と話すことはできないと思っていましたのに、あなた様が連れてきていただいたことがそもそものことと理解しておりますので、感謝いたしますの」
3人の心の篭ったその言葉に俺も胸が暖かくなるような思いとなった。
それは、レティーナ様に至ってもそういうことだったらしい。
何か感慨深いような表情を浮かべながら3人に返礼をしたうえでこちらを見て、とても暖かい顔で笑みを浮かべていた。
「......タクト。私は、あなたをこの世界に連れてきて本当によかったと改めて思います。迷宮のためと言いながらも、こうして全く関係のない境遇の人族たちでさえ救ってしまうあなたの内にあるその心に賭けた私の気持ちが、叶って本当に嬉しいとそう感じます」
そしてなぜか唐突に俺を抱き寄せると、その豊かな胸元の中にある俺の耳に向けて呟いた。
「決して、無理はしないでくださいね。あなたのやり方、あなたの考えた方法、あなたが感じたものをあなたなりの示し方で迷宮を創造していってください」
俺は沸きあがりそうになった熱いものがふっと和らいでいくのを感じた後に、その女神の抱擁とでもいうべき報酬をくれたレティーナ様、それから自分のためにも今後も頑張ろうと改めて思った。
しばらくそうしていたが、レティーナ様は俺を離して残念ながら時間がありませんと言って空中に浮き上がった。
「みなさん、今後もどうかタクトを支えてあげてください。ここにはいない、タクトの仲間の方々にもどうかよろしくとそうお伝えください」
その言葉に3人はそれぞれの返事をしていった。
「ただし、自らを犠牲にとは考えないでください。......タクトは、仲間の死を軽んじる人ではありません。なので、無理はせずに自分のできる範囲にて支えてあげてくださいね」
その言葉を受けた3人は、それぞれに再度返事をするとレティーナ様はゆっくりと頷き最後に俺へ向けて笑みを浮かべてそれではまた時間の取れたときにという言葉を残して手を振りながら去っていった。
俺は、見えなくなるまで頭を下げて見送ることにした。
しばらく余韻に包まれるかのようだったが、今はやるべきことをと俺たちはさらに奥へと向かうことにする。順番に部屋の扉を開け放っていき、一番豪華な作りと思われる扉を開け放ったそこには、執務室だろうかあのラーレンの部屋よりもさらにゴテゴテーっとしたもの――つまり、貧乏性な俺の感性には全く合わないような装いの部屋だった。
うえ~といった気持ちになるが、情報が欲しい今は執務室というからには何か情報があるのではとしてそれらを捜索していく。羊皮紙を広げてはチェックしていき、何やら誰かとのやり取りをしていることという情報からそれが誰かとか、そんな感じで情報を繋げて調査していった。
こういう調査ってのは、先ほどつるし上げた大司教やら高官の不正暴きを頼んだジャックスの助けによって行なわれていたので、本来の仕事が迷宮創造と錬金術による物作りの俺としては、不得意な分野だったこともあって、こうなれば今頃ちやほやされているジャックスも連れてこればよかったと後悔している。
またそれに付随して、そういえばそもそも初日のあの念話の内容はもしかしたらどうやってこの部屋の主を討つかという問いかけだったのかもという思いもして二重の意味で、俺は自分の悪癖を呪ってしまうものだった。
だが、ここに至って俺は、その悪癖もたまには良い方向......かどうかは別としても、最悪には至らずに済むといった流れに向かうこともあるんだなと実感することをまだこのときは知る由もない。
それは、ある書類を見つけたときに起こったこの町全体を揺るがすかのような衝撃が起こった時に感じたことだったのだから。




