第19層「顕現セリ」
すいません、今回は9000文字近いです。
※訂正したら10000字超えました。すいません。
ガラケーの方にはご迷惑をおかけします。
深夜の爆発という切欠によって、難を逃れるために始まった住民による避難は続いていた。
それは、時間経過とともに薄暗さを帯びてきた町の様子からその被害が浮き彫りとなっていく。
爆発に連なる火災によって、燃えた後の煙から見えるのは燃えカスという財産の消失、延焼防止目的で破壊された建物、空き巣狙いだったのかその途中で阻止されたことが伺える強盗の遺体の数々と、未だ薄暗いとも言える暁前の様相は人々の心にも深く影を落とすことになるには充分だった。
しかし、そんな中にあってある住民"っぽい"ものがあらゆるところに現れては、その柔和な表情と振舞い方で励ます姿がちらほらと見えていた。
それらを見ているだけで心に響き、やがて落ち着いていくという現象。
そこには、混乱の最中に逃げ出して疲弊の顔を浮かべるものたちに一切の疑問も不安もなかった。
ただ今よりも安寧を得たいがために、人という意思あるものたちはそれが和らぐようにと楽な方へ逃れる傾向にあるということかもしれない。
しかしながらそれらをあざ笑うかのように、また失敗した者たちを踏み越えるように蔓延る略奪者もそんな楽を得たいがための行動を行なうものだと言うのは、ある種の弱肉強食的な皮肉が聞いているかのようだった。
そんな略奪者の中にも、ある程度は知恵の回る者もいたようで、労働者層という小さいところではなく、ここは最初から狙いの場所を中央付近という富裕層に絞って行動するが、結局はその程度の知恵を働かせただけだ。
その思考はすでに、そういう行動を読んでいたかのように先回りさせて潜ませるといった対処により金で雇われた傭兵や、予めその付近にいた牛人族の女らしい少女、また薄暗い中であっても目立つほどの美しい銀毛の熊の獣族による行動のおかげでそれぞれの区画と言える富裕層への強盗目的の侵入も叶うことはない。
哀れにもそれらは、各所で討ち取られてる様子を住民達の目に晒すだけとなってしまうのだった。
さて、そんな逃亡中の住民は1つ思うことがあった。
それは助けてくれる者たちがみな一様に畜生共として引き連れて、手伝いをさせたりというように活動させていることだった。
そんな下賎なものを使わなくても、警備兵と連携すればいいだけなのにとは思いながらも決して前に立てない自分に恥じてかそういった提案はされずにいるのが、現状と言える。
また原点に戻って考えてもまず自分たちを救済する者は何者かという思いから疑問に思うのだが同様に声を上げて聞ける勇気を持つ者は居なかった。
そんな道中の中を走る一人の女は、畜生どもと行動をする救出者に疑問的な人物の1人で、彼女は1人の赤ん坊を抱えての逃亡をしていた。
疑問に思い当たった理由というのも先ほど、自らが抱いている赤ん坊が危うく建物に押し潰されそうになったところでギリギリとなったわけだが、間一髪で畜生どもに救われたという経緯があったからに他ならない。
例え助けられたからといって、下賎なものとは言葉も交わしたくない。
大丈夫ですという言葉とともに救った赤ん坊を差し出してきた時は本当に汚らわしいと何度もその触れた部分を拭ってその場を去って今に至るのだが......。
なぜ、そんな家畜にも劣るものたちが傭兵らしき者たちと行動をして、なぜ下賎と罵る自分のしかも我が子を助けたのか、女はそれが頭を過ぎり避難中にも関わらずに考えていた。
しかし、ついついそういったことを考えることに比重を傾け過ぎたためか、いつの間にか彼女は避難をする道を外れていて、100mまで迫った噴水近くの脇道へ入り込んでしまっていたことにようやく気付くこととなる。
しかしそんな彼女に試練が訪れる。
それはすでに周囲を取り囲まれた上で下劣で野蛮で嫌らしく口を歪めては舌なめずりをして体を値踏みをしてくる男たちからどう脱出するか、といったものだった。
だが、それは現実的に試練などというものなんかじゃなく無謀そのものだ。
女が自ら打開できるほどの力もなく、実力もありそうな雰囲気を持つ男どもに囲まれてしまっている現状においては、囲まれてグズグズとしていたこともあって気がつけば、もうすでに完全な逃げ場を失う始末。
不穏な空気を感じたためか泣き声をあげだした赤ん坊を震える手で抱きながらも、あやす余裕などまるでない現状は、この後自らを襲う死に様を想像してしまうと動かせる体も心も動かすことはできずに、ただ固まるだけとなっていた。
そんな時だった。
「水操――水魚之交!」
その声は、方角的には噴水のほうから"伝わって"聞こえてきた。
不思議なほどに通るそんな声とともに、女の回り―ーいや、男達も含めてある異変が起こった。
その異変は自分の周囲が、まるで雨が降った後のような湿り気を帯びるかのようなじめじめとした肌触りを感じたからだ。雨など降ってはいないのになんだこれはと疑問に思うのも無理はないだろう。
違和感を感じる女の耳や男達の耳に再び、今度は話かけるかのような通る声が伝わってきた。
「水気のある場所は、あたしの縄張り《テリトリー》なのだ!そんなテリトリー内で女に暴力なんてやるやつは死ね......なのだ!」
その瞬間――
男達の周りにだけ、小魚くらいの大きさを持つ水滴が何十個も浮き上がっていた。女はその光景に驚愕していたが、女を取り囲んだ男達はもっと驚愕した表情をしていた。
そして、唐突にそれは発動された。
「水槍――青輝突!」
再び少女の声が聞こえると、小魚サイズの水滴が次々と側線部位に綺麗な青色の模様を浮かべた見慣れぬ小魚形態へと変化していった。それらは全て強姦をしようとしていた男達へと向きが変わると同時に、その胴体に浮かぶ青い模様の軌跡を残しながら男達へと次々と真っ直ぐに襲い掛かっていった。
装備があるからと楽観視していた男達は、自らに不思議なほどに空いていく穴とそこから漏れる自らの血に驚愕の顔と恐怖の顔を浮かべながら絶命をしていくこととなった。
そんな貫通力を示した水でできた小魚たちが全てなくなった時には、男達だけの死体がその場で転がるのみとなっているのに今更ながら女は気付いた。過去に一度だけ見たことのある魔法にも等しいそんな力を行使できる存在に、ある意味で戦慄を感じる女はあることに気付いた。
それは先ほど感じていたほどのじめじめさは感じず、どちらかと言えば空気が乾いたかのようなそんな印象だった。
しかし、また再びじめじめとしたものを感じた女の耳には、先ほど殺す発言をした少女の声が聞こえてくる。
「もう悪漢たちは殺したのだ!そこで、赤ちゃん抱えてぼけーっと突っ立っている女の人!......早く、噴水目指してこちらに避難するのだー!」
そんな女の耳に噴水方向からまた不自然にはっきりと聞こえた声に、女は自分のことかと気付いて。一体どういうことだと急いで噴水方面の道へと戻った。
そして噴水のほうを見ると、100m先にある噴水の中で槍のような長物を持ちながら、その姿は人魚かともいえる綺麗な鱗のヒレを持ってぴちぴちと跳ねている少女の姿で、ヤッホーとか言いながらもこちらへと手を振っている光景が見えた時、女はこう思った。
何がどうなっているのか分からない。だけど、とにかく助かったんだ。
逃避にも近いそんな考えの下、今はただ我が子のためにと女は噴水のほうへと歩き出すのだった。
そんな女性を助け出した人魚――シーアは、噴水でヒレを器用に動かしながら時には南側、時には東側へと移動してはその大量に生み出される噴水の水の力を利用して自分がフォローできる範囲でわりと危機的状況下にある場所を援護する形で手助けしていた。
これらの力は、主に人魚族の特性で"自由なる水の操作"だ。
さらに、彼女はその中でも鱗が光によって七色に見えるという稀有な種族である希少族。
希少族というのは何も数だけで決められるものではなく、いかに希少な力か、そして有用な力を振るえるかという部分も含まれているものである。
本来の人魚族では、水の操作を利用した攻撃しかできない。
しかし、シーアという希少族の人魚はそれ以外にも自身が水場に居たり、近い場所に居さえすれば、空気中に含まれる水分の気体――水気を操作させては、先ほどのように指定した部分へと流していっては、湿気をあげるといった使い方ができるのである。
そればかりか、その湿気を通じて遠くにいるものへはっきりと言葉を伝えることができたり、認識したり、認識した周囲に先ほど男達へと振るわれた水槍という技によって自由に攻撃ができたりもする......いうなれば水場のスペシャリストに位置するほどの稀有な種族特性を持っていた。
ちなみに水気、水場とつくように全く逆の場所――例えば、砂漠や空気が乾いた場所では彼女は全くその力を振るえなくなるというデメリットを抱えているのは言うまでもない。
そんな希少なる人魚のシーアの下へ、ひっきりなしに救われた者たちで感謝をと近づくのだが、周囲に広がる光景に青い顔をしながら引き下がっては広場へと駆け出す光景が繰り返される。ちなみにそこには、シーアを守るようにして噴水の前にいる牛の獣人――デニアがいた。
青い顔をするそもそもの理由は、別にデニアに恐れたからじゃない。デニアの周囲――そこに散らばる襲撃者と思われる者たちの物言わぬそれらが積みあがっているからだ。
主に富裕層の暮らす建物へと空き巣に入ろうとしていた者たちがいて、それらは主のいない建物へと侵入しようと計画をしていた。
しかし、先ほど救われた女のように噴水に近いという場所柄、それらの建物もシーアの守備範囲だったために処理をした結果、煩わしく感じた生き残りの襲撃者たちはまずは彼女たちをどうにかするべきだと判断し、彼女らへと徒党組んで襲いかかった結果がデニアの周囲というものである。
水場限定のチートなシーアと、そんなシーアの痒い所に手が届くようにフォローを入れる役のデニアの2人組のスペックに徒党を組んだくらいの襲撃者たちが叶うはずもない。
「シーア、結構力使ってるみたいだけど大丈夫?」
「ふっふーん、なのだ!噴水みたいに永遠と水気が生まれる場所は、あたしにとって無敵となる場所なのだ!」
そんな胸を張って自慢することかなという思いと、すごい小柄ながらもその張れる豊かな胸があって羨ましいという羨望的な視線を向けながらもデニアは、返事をして再び話しかけた。
「あ、そう......。それよりも、もうそろそろ日が完全に上がる時間ね」
「なのだ!......そろそろなのだ!」
「......ホント、うまくいくんでしょうね。不安だわ」
「大丈夫......なのだ!」
そうして見上げた空は、もう薄暗いといったものではなくすでに日が地平線に太陽がその顔を覗かせているかのような明るさとなっていた。
そんな噴水を南に見る位置となる演説用の広場には、続々と人が押し寄せていきこういったことに慣れていないことによる疲労か、はたまた抑圧からの鬱憤晴らしか、所々では小競り合いのようなものが起きていた。
これらは伝聞するかのように外側から新たにやってくるものたちにも波及していくかに見えた。しかし、ある声とともに5mはあろうかという演説場から突如として聞こえてきた声とその存在に、それらは自然となくなっていく。
「はーーーーっはっはっはっは!......我、顕現せり、だ!」
まるで四方八方から包まれるかのように聞こえる声は、聞く人に嫌悪感をもたらすには充分と言える尊大で傲慢ともいえる声色で、場の静寂を生み出した。
現れた人影、それは漆黒ともいえるローブに見たことがない額から生える2本の角を持った仮面らしきもの、声とその長身から察する男だと判断される者が腕を組んでは、広場に集まった住民たちを睥睨しているように見渡していた。
その傍には、ある区画で見た一部の住民達も見た鬼のような大女と悪魔のような牛女が付き従う形で、凶悪な武器を抱えてはそこに控えている。
しばし呆然とした住民を無視する形で話始めた男は、ローブを翻しながら言い放った。
「我は魔王。悪意を好みし魔王なり!......貴様達、人族の邪悪なる意思と行いに誘われ、貴様達のその命を貰い受けるために我は顕現した!......貴様らに問おう......いかがだったかな?我の"業火の贈り物"は......?」
業火の贈り物――その言葉を聞き、一連のきっかけとなったあの爆発はこいつらの仕業かと考えるもの、そして、建物を壊していた鬼の大女、そして悪魔の牛女を逃げる際に見ていたものたちが、周囲にそのことを伝えていくことで広場に集まった者たち全員がかの魔王なるものへと敵愾心を持っていった。
それは声となり、広場を駆け巡るほどに膨らんでいく。
ふざけるなとか、我が家が壊された代償を渡せとか、邪教めとか色々な罵声が住民たちから響いていた。
しかしそれらの罵声も、鬼の大女が放つ鞘に収まった大剣の一撃で地を揺るがす攻撃と、悪魔の牛女の槌の振るう轟音轟く一撃によって、自然と罵声なども鳴りを潜める結果となっていく。
一気に静まる広場へ、さらに魔王の言葉が続けて言い放たれる。
「ふっふっふっ......。いい......いいぞ!そのあらゆる邪悪なる思い!......我はその邪悪が絶望に変わる様、そしてその絶望のままに潰える命が何よりも好ましい美酒だ!............――こいつらのようにな!」
人を舐めきっているかと思える態度と傲慢な言葉に、住人達の中から壇上へ上がる為に動こうとしたものが数人ほどいた。しかし、それは次の瞬間に見えたある光景によって足をすくめる形で止めざるを得ない状態となる。
不自然な動きをしてさながら人形と形容できそうな住民にとっても見覚えのある人族たちを操るようにして現れたのは、これまた妙な真っ白で顔のない仮面をつけて、魔王ともども漆黒のローブに身を包み、体つきから女だと思える者。
操られた人形と化した人族の正体――それらは、この町で一番の権力を持ち、現在では6つの町からなるマーチャン商国の主にして商業会長たちに連なるものであり悪名高いものたちだった。
町の住人ならば誰でも知る理由とは、『宗教の教義』という理由に託けて、気に入らぬ住民への暴力、殺人、見目麗しい者を強引ともいえる手段で攫っては、ボロきれになるまで扱い、最終的に死に至らしめた結果死んだから返す、などと伝えて遺族へつき返すといったそんなやりたい放題を行なっていたことから来る悪名高き大司教、そしてそれに従う高官、不正をしているという噂の聖職者たち――その全てと思われる者どもだったからである。
見やすいようにしてやろうとでもいうかのように次の瞬間――
白い仮面の女は、その両手を何かから引くような手つきをした後、それらの人形と化したものたちは同時に力なく崩れ落ちて仰向けに倒れていく。そこに映る男達の表情は、どれも絶望を浮かべる死に顔を浮かべていた。
近くにいたものは、その絶望的な表情で死んだ顔をはっきり見てしまう。
充分に戦慄を極めるその光景は、耐性がない住民たちは倒れて、倒れたことで見えるようになったものからその衝撃に愕然とし、それを後方へ伝聞で伝えられると想像からかあまりの恐怖に気を失うもの、失禁するもの、その死に涙を浮かべて感謝するものなどと様々な反応を見せていった。
しばらくすると、そこに数多くの人たちが本当にいるのかと言われるほどの静寂が広場を包む結果となった。
そして、こんなことをあっさりとできるという彼等の力に集まった住民にはいつしか絶望的な空気が流れていった。
先の地を揺るがせる力の一撃も原因の一旦にあるのは言うまでもない。
しかし――
「まて!!」
そんな中にあって、人族たちが決して逆らえないとする魔王へと直接言葉を投げかけるものの声が広場後方から全体に響き渡った。
その突然現れた一行は、最後の避難民たちだとする住民たちを引き連れているのが近くにいた者たちの目に映っていた。声に気付いたものから順番にそちらへと視線を送っていく。
現れた一行の先頭に立つ少年が何やら一緒に現れた避難住民に声をかけた時、丁度、暁の日が全身を照らすようになったためにその一団の姿が、はっきりと分かった瞬間――
住民達は、驚きを隠せずにいた。
薄紫色の毛皮の狼男に、美しい銀毛の獣族、噴水前と噴水の中にいた牛人の少女と人魚の少女を引き連れたみすぼらしくも堂々とした姿の見慣れぬ武器を手にするそれらの姿。
そして先頭にいる少年らしき男が、家畜と揶揄される首輪付の畜生だったからだ。
なぜこんなところに、卑しきこいつらがと周囲がざわついた。
だが、そんな住民たちを意に介さず、歩き出したそれらの一団はただ真っ直ぐと魔王のいる演説台の壇上へ向けて歩き出した。
畜生と獣族の一団へ余計なことをと野次を飛ばそうとした住民も中にはいたのだが、彼等の発する迫力がそれを止めさせた。さらに、その確固たる意思のようなものに気圧された形で自然と住民達は、まるでモーゼの海割りのように左右へと分かれていく。
首輪をし、不潔で、みすぼらしい畜生然とした姿であるはずのこれまで感じていたものを払拭するかのようなものを住民達に与えているのもまた別にあった。
やがて演説前へとやってきた畜生の中心とした一団は立ち止まっては、一番先頭にいた畜生が1歩前に出て自身の持つ刀を向けるとこの広場に響き渡るような声で言い放った。
「魔王なるものよ!貴様の行いは神の教義に反するものだ!我らは、徹底的に戦い抗って貴様達、邪悪なるものを討ち果たすことを宣言する!!」
それは、事実上の宣戦布告であった。
住民の中には今まで見下すどころか、まるで獣としか扱っていなかった者たちが掲げるそれらの言葉が理解できなかった。
それゆえに――住民のあるものたちは横槍を入れるようにして言い放つ。
「ま、魔王様!!そやつらの妄言、平にご容赦を!......そいつらの命――いえ、畜生全員の命をお納めいたしますので、どうか我らの命ばかりはお助けを!」
この期に及んで自らの命を縋って、平然と他者の命を差し出す行為に同調する声が響く。それらは波となり、畜生に死を!我らに生を!という大合唱になって住民の大多数は叫ぶかのようにしてあらん限りの声を上げた。
中には、そんな畜生どもに救われた住民もいたし、畜生がいたおかげで命拾いをしたものもいるくせにと思った住民たちもいた。しかし、それらの少数の住民たちは大多数という数の暴力に勝てるものではなく、反論をあげることもできずにいたのは仕方がないといえるだろう。
――バキィ!
しかしそんな住民における大合唱は、唐突に収まることとなった。
狼男が始めに嘆願した男をその逞しき腕で殴りつけて吹き飛ばしたからに他ならない。
何をするんだという野次を掻き消すかのようにその男の声は広場に轟いた。
「何をするんだ、だとぉ!?......てめぇらが誰のおかげで命を拾い、ここまで逃げてこれたのか本気で理解できねぇのか!!?」
その言葉に叫んだものたちの一部、思い当たる者たちは静かになっていった。
しかしだからなんだと騒ぐ者も中にはいて、全員が黙るということには至らない。
狼男は、一区切りとしてため息をついた後さらに息を吸うと叫んだ。
「そうかよ!......んじゃあ、てめぇらはあの魔王の望む通り、魔王の血肉となって自ら進んでそのまま町ごと滅ぶってことだな!?......そんななすがままになる覚悟があって、野次ってるんだろうな!!! すげーな!自ら死に急ぐのか!?......てめぇらの信仰する教義ってのはよ、俺たちが今に至るまでやった活動には......あまりにも、救い甲斐がなさすぎんぜ!! 一体、誰のために過去に起こった畜生と呼ぶお前らの負の信仰を許してまで、命ぃ張ってここまで導いたと思ってるんだ!!! それが人族の所業か!! ふざけろよ!」
そうして、先ほど魔王へと宣戦布告ともとれる言葉を言い放った畜生を指して狼男は言い放った。
「......俺は、聞いた!こいつの"みんなを救いたい"という思いを。だからそんな熱いこいつの心に答えるために、てめぇらのクソみてぇな命をここまで、繋いだきたし、てめぇらの大事な財産を奪おうとするクソ野郎どもを狩ってはそれらを守ってきた!!......だが、てめぇらはそんな俺らの思いまで平気で裏切ることができる冷酷なる奴らだと救って後悔と失望した思いだ!!そもそも――!」
ジャックスはまた再び息を吸い込むと、言い放った。
「魔王はそんなお前達の悪意がお好みで、お前らの悪意に惹かれてやってきたっていうさっきの言葉を聞いていなかったのか!?原因は......てめぇらだ!」
魔王はたしかこう言った。
人族の邪悪なる意思と行いに誘われて顕現――つまりは現れたと。
今もまるで人族同士の争いが美味であるように優越な態度で、こちらのやりとりを余裕綽々といった感じで見守っているのだ。
いつの間にか住民達は、声を上げることもなく辺りは静寂に包まれた。
それは1人1人が俯いてはその心のうちに襲う意味不明な痛みと自らのこれまでの行いに疑問という葛藤が生まれていたから。
しかし、そんなやり取りも魔王なるものの失笑と、無粋な発言で梯子を外された形となる。
「くっくっくっくっ!......友情ごっこはもう終わりか?......人族とやらは、実に面白い......人の心などが、そんな戯言で簡単に変わるものでもなかろうが......? どれだけ言葉を尽くそうが、なんだろうが本質が変わることはない!それにな......結局のところ、物を言うのは――力だ!」
そういい終わった魔王は、視線を鬼の大女へ見やる。
その瞬間――
――ガキッ!!
いつの間にか大剣を抜き放っては手前で項垂れていた住民へと攻撃をしかけてきた鬼の大女に、それを防ぐ形で銀毛の熊がその攻撃を防いだ。
「......ほう?この攻撃を防ぐとはな」
魔王は感心するかのように伝え、救われた住民は、今までのやり取りがあったにも関わらず自分への攻撃を止めたその行動に驚きを隠せずにいた。
そんな中で、じっと黙って成り行きを見守って先頭にいた畜生のは、自らの鞘から刀を抜き放つと魔王へ差し向けて言い放つ。
「......なんと言われ様とも、なんと蔑まれようとも俺はお前を倒して、みんなを救う!同じ血、同じ体、同じ人種......そこに壁なんてない!......俺はただ、みんなが笑い合えればそれだけでいい!だから、お前がこれ以上の戦いを望むのならば、俺たちは立ち上がって戦う!覚悟しろ!魔王よ!」
そんな言葉を投げかけると、同時に魔王へ向けて攻撃をしかけたことがきっかけで、周囲にいた狼男、銀毛の獣族、人魚と牛人少女と駆けていき、戦闘が始まりを告げた。
鬼の大女には、銀毛の熊が、槌を取り出してきた悪魔の牛女は同じ種族かと思えるような牛女の少女が"息のあった"戦いを始めていく。
糸を生み出して構えた白い仮面には、槍を持った人魚があたり......そして。
魔王には、先頭で意思の篭った言葉を言い放った畜生の少年と、恫喝し憤慨していた狼男2人が相対し、攻防が始められた。
広場の演説台前で始まった激しい戦いは、誰もが考えるレベルじゃない――そんな戦いを繰り広げていた。
彼等の護衛として広場にいた傭兵達からしてそうである。
戦闘においては素人がほとんどの住民達へ与えるその戦いぶりは相当なものであったのは、間違いなかった。
大剣と熊爪の交じり合う剣戟の音は響き渡り、戦斧と槌が衝突する衝撃はそこを揺らすかのような激しいものを感じた。
水を伴う槍から繰り出す人魚の攻撃を、素早く手元でまるで何かを編んだかのように糸の盾て防ぐという特殊な戦い方は視覚でインパクトを与えていた。
そんな双方の戦いにおける頭同士であろうものたち、魔王と畜生、狼男の戦いはそれら音、衝撃、視覚的なインパクトを全て網羅させるかのような――まさに次元の違う戦いを繰り広げるにいたった。
魔王の持った不思議な棒は、その逆手にいつの間にか持った平たいものを変化させるとそれはまるで20年前に見たことがあるような魔法を連想させるものだった。
それらの攻撃を畜生は切り裂いて、狼男はタイミングを見てはその隙を突いて攻め立てるといったワンパターンともいえるような戦いで戦況を維持していた。
住民たちは驚くだろう。
これが、作戦の下に仕組まれた上で今は魔王と名乗る――タクトによってあの日に立案した作戦『魔王と勇者のヒーローショー』だと知れたら。
ある程度戦いを続けた後のこの後の展開は、『うむ、お前達の力はわかった』→『2年後に迷宮を作る。見事我らを打ち倒してみよ』→『では、さらば』という流れに沿ってタクトは、いいタイミングだなとしてまず最初の言葉を言おうとしたその瞬間――
戦いを続ける彼等の前に、唐突に金色の光を放ちながらもある存在が現れた。
タクトが様付けで丁寧に接する唯一無二の女神崇拝を行なう存在。
そう――そこに顕現した存在は『生と死を司る"管理者"』のレティーナ。
顕現セリ、であった。




